「あなたが見たいもの」を映し出してくれる世界の中で、どう戦うべきか(夜の世界と社会をつなぐNPO理事長の月報:2023年12月号)
こんにちは。NPO法人風テラス理事長の坂爪です。
今年もあっという間に残りわずか、カウントダウンですね。
今年は相談件数も過去最高の4,000件を超えて、非常に忙しい一年間でした。2023年の振り返りは、後ほど別記事でまとめたいと思います。
以前から著書や講演等の場で言い続けている私の持論ですが、風俗の世界は、「その人が見たいもの」をそのまま映し出してくれる「鏡」でできた多面体の世界だと考えています。
「日給3万5千円以上の高収入を稼ぎたい」と願っている人にとっては、そのような光景を映し出してくれる。
「学歴なし・資格なし・職歴なしでも、一発逆転を狙うことができるローコスト・ハイリターンのビジネスをやりたい」という夢を見ている人にとっては、そのようなビジョンを映し出してくれる。
「女性の性的搾取や人権侵害の行われている、許しがたい空間」として見たい人に対しては、そのような現場を映し出してくれる。
「セックスワーカーへの差別やスティグマが許せない」と思っている人には、そのような景色を映し出してくれる。
しかし、それらはすべて、風俗という多面体の一つの面に過ぎない。さらに、「その人が見たいもの」が投影されている鏡面であり、唯一の真実ではない。
風俗の世界に映し出された「現場」「夢」「当事者」「被害者」を、唯一の真実と信じ込んでアクションを起こしても、それは、人間の夢・幻想・欲望を養分にして育つ風俗というモンスターをさらに肥大化させるだけの結果に終わってしまう。
風俗の世界は、あたかも、その人が抱えている問題を一瞬で解決してくれる「魔法の杖」や「特効薬」があるかのように思わせてくれる世界、どこかに「悪の親玉」「ラスボス」がいるかのように思わせてくれる世界ですが、それ自体が風俗によって映し出された影絵であり、実際には、そのようなものはどこにもない。答えは風の中・・・にあるわけではない。
だとすれば、この世界で戦う個人や団体に求められる作法は、風俗の世界やそこで働く人たちに投影されている有象無象のイメージや偏見に囚われず、「今、目の前の相談者が語っている言葉」に耳を傾け、「今、目の前の相談者が困っていること」の解決に注力することだと思います。
ごく当たり前の話であり、ソーシャルワークの基本のキですが、これは簡単そうで非常に難しい。
支援者側が偏った価値観や固定観念、思想信条を持っていると、風俗のマジックによって、それが目の前の風景や人間に投影されてしまう。
目の前の相談者が語る言葉の中で、「自分の見たいもの」しか見えなくなってしまうし、「自分の聞きたいこと」しか聞こえなくなってしまう。
そして支援者が「自分が話したいこと」だけを話すようになってしまったら、対人援助としては、完全に失敗ですよね。
「今、目の前にいる人が語っている言葉」に耳を傾け、本人を悩ませている課題が生み出される背景に焦点を当てて、本人と一緒にその背景の問題を解決する試みを行いながら、これからの社会的に必要な制度や施策の提言を行うこと。
遠回りに見えますが、即効性のある「特効薬」が存在しない中で、こうした「遅効性」の試みだけが、風俗という得体の知れないモンスターが持っている膨大なHPを削り取る武器、風俗に関わることによってもたらされる負の影響力を抑えることができる薬になるはず、と思います。
風テラスがこれまでの8年間、活動を継続することができたのも、このスタンスを崩さなかったからだと考えています。
一言で言えば、「主人公は相談者」ということですね。
相談者の不安を解消し、問題を解決すること、「相談してよかった」「また相談したい」と思って頂けるような窓口をつくること。
極めてシンプルなミッションですが、この軸さえ曲げなければ、風俗の世界でNPOとして戦い続けること=風俗によって映し出された幻想や虚像に踊らされたり、それらにつられて戦わなくていい相手と戦い続けて消耗する、といった落とし穴に陥ることなく、現場で孤立・困窮している人たちに、適切な支援を提供し続けること、そして社会に対して的確なメッセージを発信し続けることができる、と考えています。
来年も、「主人公は相談者」という原点を忘れずに、「相談してよかった」「また相談したい」という窓口であり続けられるよう、頑張っていきたいです。
⇒12月31日(日)までに、マンスリーサポーター220名を目標にしております!皆様の温かいご支援、お待ちしております。