第2章 金利とは何か?
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第2章 金利とは何か?

桜内文城

2-1. 金融資産の収益率としての金利

一言で言えば、金利とは、金融資産が一会計期間中に生み出すキャッシュ・フローをいう。ちなみに、会計上、上場企業は財務諸表等規則(金融商品取引法の関連政令)等で財務諸表の一つとしてキャッシュ・フロー計算書の作成・開示が義務付けられている。そして、ここでいう「キャッシュ」とは、現金及び現金同等物を意味する。会計実務上、現金及び現金同等物は、以下のように定義されている。

現金(cash): 手許現金(日銀券+硬貨)+要求払預金(預金通貨)

現金同等物(cash equivalents): 期間3ヶ月以内の定期預金、CD(譲渡性預金:certificate deposit)、CP(commercial paper)等

上記の定義を見てすぐにおわかりの通り、「現金」はマネーストックのM1と全く同じであり、「現金同等物」はM3の準通貨(定期預金等)とCD(譲渡性預金)が重なり合っている。従って、現金及び現金同等物から構成される会計実務上の「キャッシュ」という概念は、ほぼマネーストック(M3)と一致するものといえる。

金利は資金需給の均衡「価格」ではない

従来の経済学において、金利は、商品の場合と同様、匿名の市場参加者の間での資金需要と資金供給の均衡価格として位置付けられてきた。しかし、恒等式「銀行の金融資産(投融資)の変動≡マネーストック変動(ΔM)」が意味する数学的に純粋なロジックの上では、マネーストックは「銀行の債務」という単なる「情報」であるから、銀行はその「(借方)貸出」を通じて無コストかつ無制限に「(貸方)マネーストック」を供給できる。

もちろん現実には、銀行によるマネーストック供給に事実上の制約が課されているが、それは銀行が個別のdebtorの信用リスク(破綻の確率とコスト)を評価する「審査及び監視」において回収不能な埋没コスト(sunk cost)が発生するからである。

具体的には、複式簿記のロジックに基づく社会会計(SNA)上、金利は、資金需要と資金供給の均衡価格ではなく、個別の債務者の信用リスク(破綻の確率とコスト)の評価に応じた、債務者から債権者である銀行に対する資本(または所得)の移転、すなわち「所得支出勘定(第1次所得の配分勘定)」における「財産所得」として位置付けられている。従って、利子とは、債務者の信用リスク評価に応じた固定的な「資本の移転」の一種といえる。

金利とは、損益取引ではなく、資本取引である

銀行業の損益計算書の構造は、事業会社等、他の業種とは全く異なっている。まず、銀行業以外の通常の事業会社の損益計算書では、トップラインに「売上高」が記載される。それ以降は次のような計算構造となる。

①「売上高(収益)」
②「売上原価(仕入等の費用)」
③「粗利(売上総利益)」(①-②)
④「販売費及び一般管理費(人件費、物件費、経費等の費用)」
⑤「営業利益」(③-④)

かかる収益(revenue)及び費用(cost)から構成される取引を損益取引と呼ぶ。損益取引から生み出されるのが、利益(profit)であり、所得(income)である。会計基準としても、日本基準では損益計算書と呼ばれるものが、米国基準では所得計算書(Income statement)と呼ばれている。

これに対して、銀行業の損益計算書においては、以下の計算構造となる。

①「資金運用収支(預金、貸出金、有価証券等の利息収支)」=「資金運用収益」-「資金調達費用」
②「役務取引等収支(各種手数料等の収支)」=「役務取引等収益」-「役務取引等費用」
③「特定取引収支(金利等の短期的な変動等を利用して得た収支)」=「特定取引収益」-「特定取引費用」
④「その他業務収支(債券や外国為替等の売買損益)」=「その他業務収益」-「その他業務費用」
⑤業務粗利益(①+②+③+④)
⑥一般貸倒引当金繰入額
⑦経費(人件費、物件費、税金等)
⑧業務純益(⑤-⑥-⑦)

ここからも理解できるように、銀行業における最大の収益源は、①「資金運用収支(預金、貸出金、有価証券等の利息収支)」=「資金運用収益」-「資金調達費用」である。なお、右辺にある「資金運用収益」とは、主に稼働債権からもたらされる利息収入を意味する一方、「資金調達費用」とは、主に預金者に対する支払利息を意味する。特に「資金調達費用」は、稼働債権、不稼働債権(不良債権)のいずれかを問わず発生することから、資産(この場合は債権)の「保有コスト」と呼ばれることもある。

要は、銀行の「income statement」は、収益(revenue)及び費用(cost)から構成される損益取引ではなく、金利という形態での資本(または所得)の移転、すなわち資本取引を中心に記録・表示しているのである。

2-2. 金利の影響

GDP、国民所得(Y)

これをマクロ経済学における一国経済全体で見れば、SNA上、事業会社や個人事業主の銀行等金融機関への支払金利は、銀行等金融機関の「所得支出勘定(第1次所得の配分勘定)」の「財産所得」の内訳である「利子」として記録・表示される。経済的実態としては、一国経済全体における国民所得(Y)→貯蓄(S)→資本蓄積(ΔK)を財源として、借入(Debt finance)をしたdebtor(事業会社または家計)から銀行に対する資本(または所得)の移転を意味する。

従って、SNA上、金利とは、「所得支出勘定(第1次所得の配分勘定)」における財産所得として記録・表示される資本(または所得)の移転としての資本取引として位置付けられる。SNA上の勘定科目、すなわち総需要やGDPと財産所得(金利)との間に直接の勘定連絡は存在しない。従って、金利は、借手の信用リスク評価に応じた資本(または所得)の移転である以上、次のマネーの第三定理が導かれる。

マネーの第三定理「金利の存在によって、GDPや国民所得(Y)に直接的な影響を与えることはできない。」

このマネーの第三定理の論理的帰結は、総需要から中間投入を控除して得られる国内総生産(GDP)、そして国内総生産(GDP)から固定資本減耗を控除して得られる国民所得(Y)に対して、中央銀行による政策金利の操作という金融政策は、直接的な影響も効果も持たないことを意味している。

但し、例外として、金利上昇により不動産市場における住宅価格等の資産価格が下落した結果、家計による住宅投資や不動産産業による開発投資が減少し、それに伴い、これらを担保とする銀行融資が減少することにより、金利上昇から一定の時間的ラグの後、国内総生産勘定における総需要やGDP、更に所得支出勘定における国民所得(Y)が減少すること、あるいはその逆もあり得る。

資産価格

これに対して、資産価格とは、地価や株価等、当該会計期間以前から存在する資産(土地/生産資産/株式等)について、買手と売手との間で成立すると想定される取引価格をいう。

資産の売買取引の場合、SNA上、売買取引の対象となる資産の所有権が売手から買手に移転するのみである。従って、当該資産に関する売手の(過去の)取得原価と(当期中の)売却価格との差額である譲渡損益が発生したとしても、調整勘定における「非金融資産の再評価差額」または「金融資産の再評価差額」として譲渡損益が記録・表示されるのみであって、国内総生産勘定における総需要やGDP、更に所得支出勘定における国民所得(Y)に対する直接的な影響は生じない。

端的に言えば、金利は、リスク資産の生み出す将来キャッシュ・インフローから当該通貨建の資産価格(現在価値)を計算するための割引率である。ここでリスク資産とは、一定以上の利回り(リターン)が見込める代わり、元本割れや支払利息の遅延のリスクを伴う資産全般を意味する。また割引率とは、将来受け取るキャッシュを現在価値に割り引く(換算する)ときの割合を、1年あたりの割合で示したものをいう。

一般物価

「物価」というのは読んで字の如く「モノの価格」を意味するが、経済学上は「一般物価」と「資産価格」とを区別する。そしてこの区別は極めて重要である。

一般物価とは、一般の財・サービスの価格水準を意味する。具体的には、SNA上、1会計期間中に生産される一般の財・サービスの売買取引、すなわち2.国内総生産勘定で記録・表示される買手による総需要と売手による総供給が一致する均衡価格の水準をいう。

所得支出勘定における金利(財産所得)との関係で、国内総生産勘定における総需要やGDPとの間に直接的な勘定連絡は存在しない。従って、国内総生産勘定における総需要と総供給の均衡価格である一般物価に対して、政策金利の操作による金融政策が直接的な影響を与えることは論理的に不可能である。

しかし、年率10%を超えるようなインフレが亢進する非常事態においては、政策金利、すなわち金融資産保有の収益率を一般物価(商品価格)のインフレ率と同等の水準に引上げなければ、マネーの実質的購買力が低下してしまう。そうなれば、人々は、実質的購買力が低下するマネーを保有するよりも、価格が高騰する商品(財・サービス)を我先に需要するので、一般物価(商品価格)のインフレ率は更に上昇する。従って、そのような非常事態に対処するためには、政策金利をインフレ率と同等水準にまで引上げて、トービンのいう「asset-allocation model」に従い、すなわちマネーという金融資産保有の収益率を引上げることにより、商品(財・サービス)に対する需要を抑制し、かつマネーの実質的購買力の低下を防がなければならない。

一般物価が安定的な平常時であれば、フロー取引(収益・費用)を記録・表示するGDP勘定で決定される一般物価(商品価格)と、ストック(資産・負債)の変動を記録・表示する調整勘定で決定される資産価格とは、価格決定の仕組みが明確に異なっている。しかし、年率10%を超えるようなインフレが亢進する非常事態においては、一般物価(商品価格)のインフレ率とマネーという金融資産保有の収益率が競合し、直接的に貨幣価値、すなわちマネーの実質的購買力に影響する。従って、そのような非常事態においては、マネーとその他の資産価格を決定するトービンの「asset-allocation model」が有効となり、政策金利の操作による金融政策が一般物価のインフレ率の抑制に効果を発揮するものと考えられる。

外国為替相場

かつて金本位制の下では、中央銀行の最終的な支払準備としての金地金の海外からの流入を促すために金利を引き上げる必要があった。中央銀行の政策金利を引き上げることによって海外からの金地金の流入を増やすという形で最終的な銀行支払準備(Banking Reserve)を増やし、またそれによってマネタリーベースとマネーストックを増やすためである。

管理通貨制度に移行した現在では、海外との金利の高低差の発生によって、即時に海外からの金地金の流入または海外への金地金の流出が発生する訳ではない。

しかし、外国為替市場において、金利の高い国の通貨が買われる一方、金利の低い国の通貨が売られる傾向があるので、通常、金利の高い国は通貨高となる一方、金利の低い国は通貨安となる。その結果、金利の高い国の通貨高は、輸出競争力の低下による輸出減少、輸入品価格の下落による輸入増加と一般物価の下落をもたらす一方、金利の低い国の通貨安は、輸出競争力の向上による輸出増加、輸入品価格の高騰による一般物価の上昇をもたらすこととなる。

但し、外国為替市場自体は、本来、他国通貨と自国通貨とのスワップ(交換)のための市場であるから、いずれの国のマネーストック残高にも直接の影響は及ばない。唯一、外国為替市場で政府・中央銀行が為替介入を実施し、他国通貨を政府・中央銀行の「外貨準備」に組み込んだ場合のみ、例えば、我が国の例でいえば、外国為替資金特別会計の発行する政府短期証券または日銀の発行するマネタリーベース(銀行券及び日銀当座預金)の増加を通じて、銀行の預金通貨としてのマネーストックが増加することとなる。

2-3. 金利が生み出す資本主義のダイナミズム

事業会社が銀行借入によって投資を行い、付加価値生産サイクル上の活動を行う場合、当該事業会社の獲得する粗利(売上総利益)の水準がどうであれ、銀行との約定に基づく金利(支払利息)を銀行に支払わなければならない。仮に金利(支払利息)100を支払う場合、これを複式仕訳で示すと、以下の通りである。

【事業会社】
(借方)利益剰余金(支払利息)100
   (貸方)預金通貨(現金及び預金)100

【銀行】
(借方)預金通貨(現金及び預金)100
   (貸方)利益剰余金(受取利息)100

このとき上記の仕訳例では、【事業会社】の仕訳により事業会社の資本(利益剰余金)が100減少する一方、【銀行】の仕訳により銀行の資本(利益剰余金)が100増加する。従って、一国経済全体で見れば、これは事業会社から銀行への資本の移転を意味する。それと同時に、下段の【銀行】の複式仕訳では、預金通貨が100減少することも示している。従って、これはマネーストック変動(ΔM)がマイナス100であることを意味する。

逆に言えば、上記の仕訳例において事業会社が当該期間中に付加価値生産サイクルを通じて100以上の利益剰余金、言い換えれば実物的(リアル)な実体的資本蓄積(ΔKs)を獲得できなければ、当該事業会社の資本(K)ストックは減少を免れない。同時に、銀行の側においても、別途、貸付金(金融資産)を増やすことにより、100以上のマネーストック変動額(ΔM)の増加額がなければ、一国経済全体のマネーストック(M)も減少を免れないことになる。

このように、毎会計期間、金利を閾値としてそれ以上の金額の「実体的資本蓄積(ΔKs)」と「マネーストック変動額(ΔM)」の双方が常に求められる。逆に言えば、アニマル・スピリットを持ち、閾値として金利を乗り越えなければ、資本主義社会で生き残ることはできない。これこそが資本主義のダイナミズムである。

他方、資本(K)ストックはソフトウェア等の無体財産権といった「情報」を含み、またマネーストック(M)も金融システムの負債(債務の記録)としての「情報」である。その意味では、資本主義における「実体的資本蓄積(ΔKs)」にしても「マネーストック変動額(ΔM)」にしても、今や物理的な上限すら存在しない。資本主義が無限の欲望のシステムとも称される所以である。

資本主義は人類が生み出した偉大な社会システムである。資本主義を全ての人類の幸福のために発展させるためにも、我々はまずマネーストック(M)、資本(K)ストックの変動のメカニズムを正確に理解しなければならない。そしてそれは、会計恒等式という複式簿記の持つ数学的なロジックによってのみ可能となるのである。

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桜内文城
1965年10月生まれ 愛媛県立宇和島東高校卒 東京大学法学部卒 米・ハーバード大学大学院卒(修士) マレーシア・マラヤ大学大学院卒(博士) 1988年 大蔵省(現財務省) 2002年 新潟大学准教授 2010年 参議院議員 2012年 衆議院議員 2014年 公認会計士・税理士