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【けあサポ】露木先生の社会福祉士国家試験受験対策講座

 中央法規運営「介護・福祉の応援サイト けあサポ」で露木先生の受験対策講座を公開中!(この記事はnote出張版となります。)

第34回社会福祉士国家試験の振り返り

 今回は、3月15日に合格発表があった第34回社会福祉士国家試験の共通科目の解説をお送りいたします。そして、次回は、専門科目の解説をお送りする予定です。いよいよ、今年度の講義が本格的にはじまりますよ。

第34回社会福祉士国家試験 ―チェックしておいてください!

 まだ、試験問題を見ていない人は、この機会に一読しておいてください(問題【共通科目】【専門科目】正答)。

 今回は合格者数 10,742人(受験者数34,563人)で、合格率は、31.1%でした。合格の基準は、1問1点・満点を取ると150点で、今回は得点105点以上の人が合格でした。この得点は、近年の合格ラインの平均値となる点数をやや超えるものです。近年の動向としては6割90点を超える年(回)が増えてきています。合格ラインが高得点になってくると、1点、2点の不足に泣く人もふえてくると思います。なお、試験科目の一部免除を受けた受験者は総得点67点に対し得点47点以上の人が合格でした。詳細は、公益財団法人社会福祉振興・試験センターの情報をご参照ください。

 次に、第34回試験の出題傾向についてですが、これまでの試験同様に「正しいもの(適切なもの)を1つ、ないし2つ選ぶ形式」の問題のみでした。このような動向は今後も想定されるため、試験という過度の緊張のなかで問題文を的確に読み、柔軟に対応できる適応力が重要となってきます。

 試験を受けた人たちから感想をいただいたのですが、「しっかりと暗記しておけば、意外と解けた問題が多かった」という冷静な感想でした。私も同感です。しっかりと統計や法律、用語などについて整理していた人は、あとはじっくりと、まちがえなく問題を読解さえすれば解答できた問題が多かったと思います。ただ、そうは言っても、やはり、実際の試験となると冷静さを欠いてしまうものです。ここで大切なのが、日頃からの学習になります。繰り返し覚えた知識は、強いプレッシャーの下でも揺るぎない知識としてあなたを支えてくれます。そのため、国家試験勉強では、「うろ覚え」では対応できず、各項目についてはしっかりと暗記、理解しておく必要があります。曖昧な知識では正確な解答まで辿り着けず、解答に迷った人が多かったように思います。このような場合、試験が終わった後、不安な気持ちで合格発表を待つことになります。皆さんも、今から、着実な基礎固めをしていきましょうね。

 また、法律や制度についても多く出題されていました。事前に法律や制度にあたっていた人は、確実に得点できたと思います。この統計や制度に関しては、毎年必ず問われますし、非常に重要な学習ポイントであることがわかります。さらに、このような問題は図表での出題がありませんので、過去問解説集模擬問題集で繰り返し問題を解き、文章や問題に慣れておくことが重要です。

 さらに、合格基準として全19科目(18科目群)の各科目群で点数があることが条件なので、この18科目群の中で1科目群でも0点があると不合格になってしまいます。実際、0点科目があって、不合格だったという人もたくさんいます。このことからも、全科目を万遍なく学習する必要があります。また、得意、不得意は主観的なところも多く、確実に必要・重要項目を暗記、整理していくことが重要となります。実際、社会福祉士として実践するうえでも、幅広い知識と技術の習得は必須条件となりますので、国家試験合格のためだけでなく、取得後の知識としても、必ず整理、暗記しておきましょう。

人体の構造と機能及び疾病(7問)

 本科目の出題傾向は、昨年とほとんど変わりませんでした。つまり、出題基準からバランスよく、広範囲の事項について出題されていました。各問題をみてみると、定番ですが、問題1で「人の成長と老化(加齢に伴う身体の変化)」について問われました。ただ、こちらの問題については、試験センターより「正誤」が出され、選択肢1(肺の残機量の増加)、選択肢2(拡張期血圧が低下する)の2つが正答となっています。これに加え、ICFに関する事例問題や感染症、骨・関節疾患及び骨折に関する疾病に関する問題などが問われていました。また、予想していた内容としては、このほか、「DSM-5」や「リハビリテーション」についても出題されました。

心理学理論と心理的支援(7問)

 本科目に関しては、昨年度も広範囲な事項が満遍なく出題されていました。ただし、テキストワークブック過去問解説集模擬問題集などをしっかりと学習していた人は比較的簡単に解けたのではないでしょうか。問題8、9では心理学概論の基礎的な知識が問われました。具体的には、問題8で「レスポンデント(古典的)条件付け」について問われました。また、問題9では「記憶」について問われ、具体的には「展望的記憶」の具体例を選ぶものでした。発達については、基礎的な内容が2問(問題10と11)、具体的には、「ピアジェ」と「エリクソン」が出題されました。このほか、出題が予想されていた「ストレス」「心理検査」「心理療法」についても問われていましたが、こちらも基礎的な内容でした。本科目は、過去問題をベースに学習すると得点につながります。まずは、過去の問題から整理してみましょう。

社会理論と社会システム(7問)

 本科目から続く社会学系の科目が苦手の人は多いですが、社会学系の科目は、現代社会を学問的に捉える力を試すものです。つまり、現代社会の問題と、それを科学的に整理する力(理論:人名や功績など)が必要になります。今回は、やや人名や理論などが多く出た印象でしょうか。実際の問題を見てみると、問題15は社会階層と社会移動の概念、問題17はリスク社会や、問題19は社会的行為などを問う問題でした。このほか、統計資料を元にした問題は、国勢調査から2問出題されていました(国民基礎調査含む)。貧困に関する用語や人名とその理論については出題されていませんでしたが、これから社会福祉士として活躍するためには重要な知識なので、「ジニ係数」「相対的貧困率」などの用語はチェックしておきましょう。

現代社会と福祉(10問)


本科目は、まず、現代社会の問題をきちんと理解していることが重要となります。そして、それを社会福祉学的に理解するために必要な項目が出題されていました。内容底には、やや難しかったでしょうか。苦戦した方もいらしたかもしれません。具体的な内容を見ておくと、「ノーマライゼーション(問題23)」や「福祉レジーム論(問題24)」、「イギリスにおける貧困(問題26)」など基礎的な内容を問う問題とともに、「人権と国際条約(問題28)」や「福祉政策と市場の関係(問題29)」「教育政策における経済的支援(問題31)」など、現代社会の問題と福祉を示すような問題も多く出題されていました。このことからも、日頃から「いかに現代社会の動向に関心を向けているか」が重要となり、新聞などを通して時事に精通しておくことが、受験対策につながります。ワイドショーやニュースだけでなく、新聞や書籍(新書)などに目を通しておくとよいでしょう。

地域福祉の理論と方法(10問)

 本科目の問題は、幅広い分野から問題が出題されていました。そして、じっくりと読み込ませる問題が多かったです。地域福祉の主体や推進に関する問題から始まり、地域福祉の推進する国民または地域住民(問題37)、民生委員(問題36)などについて問われました。また、地域福祉の調査方法(問題39)やプログラム評価(問題41)などについても問われていました。こちらは、地域福祉を推進する上でも重要な知識・技術であるため、必ず学習しておきましょう。まずは、過去の問題を一読しておくことです。このほか、地域福祉を基盤としたソーシャルワークにおいては、アウトリーチやアドボカシーなども重要になります。さらに、地域福祉を推進する社会福祉法人の役割やその詳細内容についても整理してきましょう。

福祉行財政と福祉計画(7問)

 本科目の内容は、大別すると、(1)福祉行財政、(2)福祉計画の二つに分けることができます。内容的にも、出題を予想していた地方財政に関する統計的な内容は、例年出題される「地方財政白書」からの出題でした(問題45)。こちらについては、地方の財政を理解するためにも社会福祉士に必須の知識となります。基礎的な用語を押さえた上で、各項目の統計を整理する学習をきちんとしていれば解けた問題でした。このほか、問題42、43、44については、国(厚生労働省)、都道府県、市町村の役割や機能(法定受託事務)を問う問題でした。合わせて、問題46では、福祉行政における専門職等の法令上の位置付けについても問われました。どの問題も、低所得者、高齢者、障害者、児童、地域などの横断的な知識を問うものなのでやや難しく感じるかもしれませんが、どれも各教科で基本的な知識・内容となっている暗記項目ですので、じっくり取り組めば正答にたどり着けると思います。そして、(2)福祉計画は、地方財政を基盤として策定されるものです。全部で2問出題されましたが、やや詳細を問う内容となっていました。福祉計画については、社会福祉士として活躍される皆さんは、地域で策定される福祉計画をもとに、我々の地域福祉が実施されますので、一読しておきましょう。

社会保障(7問)

 社会保障については、例年、基本的な項目が出題されています。これらは、わが国の社会保障の仕組みを理解するための基礎的な知識です。社会保障とは、「働く人が支える仕組み」ですので、現代の「働く人」の状況を的確に理解する力が必要です。ですから、現代の「働く人」の実情については重要ポイントです。労働人口や人口の動向や推計については、必ず整理しておかなければなりません。同時に、問題50で出題されたように「社会保障費用統計」などの統計資料に目を通し、社会保障費用の収入と支出について理解しておくことが重要です。また、社会保障とは、一言で言うと「私(個人)の“困った”を社会全体で支える仕組み」と言えます。その「私(個人)の“困った”」とは、「働けなくなって生活費で“困った”」であり、「医療や介護で“困った”」であり、「失業や働き、仕事中の病気や怪我で“困った”」ということです(社会保険)。このほかに、「生活に困窮して“困った”」「子育ての費用で“困った”」などもありますね(公的・社会扶助)。このような「私(個人)の“困った”」を「社会全体」で支えることを社会保障と言います。問題51では、社会保険と公的扶助(社会扶助)について問われ、問題52では社会保険の費用負担について問われ、問題53では雇用保険、問題55は公的年金について問われていました。このように、本科目は、学習に取り掛かる際に、専門的な用語やその仕組みの理解から始めなければならないので、「苦手意識」を持つ方も多いですが、実際の問題では、基礎をきちんと理解していれば解答できる問題もたくさんあります。現時点では、社会保険と社会扶助の違いについて整理しておくことと、社会保険の「年金」「労働」「医療」「介護」については概要を整理しておくとよいでしょう。

障害者に対する支援と障害者自立支援法(7問)

 本科目の問題は、昨年同様に、基礎的な内容を問うものが多く出題され、そういった意味では、標準レベルの難易度でした。むしろ、やや易しかったかもしれません。例えば、「障害者の実態調査(出典:生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」といった例年問われる問題から始まり(問題56)、「障害者総合支援法」の基本的内容を問う問題が出題されました(問題57、58)。この他、「障害者基本法(問題61)」「障害者雇用促進法及び障害者優先調達推進法(問題62)」「知的障害者福祉法(問題60)」については、必ず各自で復習しておきましょう。また問題57では、障害者総合支援法における相談支援の詳細について問われました。障害者の権利に関する法律、例えば「虐待防止法」や「差別解消法」などの出題はありませんでしたが、障害者支援を行う上で基礎となる知識、態度ですので一読しておきましょう。試験に出題される可能性が高い項目です。

低所得者に対する支援と生活保護制度(7問)

 本科目は、出題基準から万遍なく出題されており、例年通りの内容、例年通りの難易度でした。例年出題される低所得者/生活保護の状況を問う問題は出題されませんでしたが、生活保護の原理原則(問題63)やその応用となる事例問題(問題64)、被保護者の権利及び義務(問題65)などが問われました。今年度は出題されませんでしたが、生活保護法に定める不服申し立てについては整理しておきましょう。不服申し立ては、「権利擁護と成年後見制度」の科目でも取り扱われる知識ですが、国民は行政の判断(行政処分)に不服がある場合は、(1)不服申し立て(行政不服審査法)と、(2)直ちに出訴(行政事件訴訟法)することができます。ちなみに、2014年に不服申し立ての手続きは「審査請求」に一元化され、「異議申し立て」は廃止となっています。それに伴い、不服申し立ては、処分庁以外の行政庁に3か月以内に行うこととなりました。また、(2)の直ちに出訴(行政事件訴訟法)ですが、全てのものではなく、(1)の不服申し立ての決済を得た後でなければ出訴できないものもあり、これを「不服申立て前置」といいます。生活保護の決定はこの「前置」の対象となります。これを前提に、生活保護の不服申し立てに話を戻すと、不服申し立て(審査請求)を行った後(決済後)でなければ、(2)の出訴をすることができません。審査請求は、都道府県知事に3か月以内に行うこと、再審査請求は厚生労働大臣に(都道府県知事の)裁決があったことを知った日の翌日から1ヶ月以内に行うことになっています(第33回試験参照)。このほか、生活保護法上の保護施設(問題66)や実施機関(問題68)などの基礎的な知識が問われました。また、「生活福祉資金貸付制度」についても出題されていました(問題69)。本科目は、聞きなれない用語、制度の理解についての取り掛かりに困難を抱えるかもしれませんが、一度用語を押さえ、制度を概観できると、得点につながっていきます。

保健医療サービス(7問)

 本科目は、出題基準からやや偏りがありますが、基本的な内容が問われました。例年出題されてきたものの昨年は出題されなかった「国民医療費の概況」についても復活していました。国民医療費については、「現在の医療」を把握するために重要な指標・統計ですので、必ず整理しておいてください(問題71)。このほか、例年出題されている「医療保険制度(問題70)」「医療提供施設(問題72)」「医療法(問題73)」などが出題されました。加えて、他職種の理解として、理学療法士などのリハビリテーションスタッフの業務ついても問われました(問題75)。事例問題は、経済的問題に対する医療給付の具体的内容について問われています(問題76)。難易度としては、例年通りだったでしょうか。診療報酬制度や、多職種連携・協働、チームケア(医療)や、「医療」と「介護」の連携などの出題はありませんでした。特に、チームケアや多職種の連携・協働については、事例問題などを想定して学習をしておくとよいでしょう。

権利擁護と成年後見制度(7問)

 本科目は、(1)憲法・民法・行政法、(2)成年後見制度、(3)権利擁護といった構成で出題されました。まず、(1)憲法・民法・行政法では、問題77で行政行為の効力(行政法)について問われ、問題81はで親権(民法)について問われていました。今年度は、成年後見制度について多く出題されていました。具体的には、成年後見制度(任意後見制度含む)に関する幅広い知識や「成年後見関係事件の概況」について問われました。そして、より実例や現場で必要となる知識について問われていました。このほか、出題が「日常生活自立支援事業」に関する事例問題も出題されていました。昨年同様、(3)の権利擁護に関する問題は出題されませんでした。権利擁護=虐待や暴力・搾取については、ソーシャルワーク定義(グローバル定義)や社会福祉士の倫理綱領等でも、「人権」の理念を重視していますので、それを根拠とする各種の虐待防止法については、必ず整理しておきましょう。私のバランス感覚として、今年度の試験でも、「人権」や「権利擁護」に関する問題がそれほど多くはなかった印象を受けています。こちらは、近年益々注目されている項目ですので、ソーシャルワーカーにとって必須の知識となります。また、成年後見制度もソーシャルワーカーにとって必須の知識です。例えば、「法定・任意後見制度」や「後見・保佐・補助」など、基礎的な内容は各自で整理しておきましょう。必ず必要となる知識ですし、ソーシャルワーカーとして実践をしていけば必ず出会う事柄です。

今年は”社会福祉士国家試験の1年”に!

 以上、第34回社会福祉士国家試験の共通科目の振り返りでした。すごいボリュームになってしまいましたが、今日一気に覚えるわけではなく、一年間かけてやっていく内容なので、今は、用語や試験の概要など、基本的なことを理解しておいてください。

 また、国家試験は、大学などの入学試験と違い、「落とす試験」ではなく「理解度を確認する試験」といえます。そういった意味では、じっくりと学習し、内容をよく理解した人が合格するようにできています。

 第34回試験をまとめてみて気がついたことは、統計や法律、制度、用語や概念などを地道に学習した人が得点できる問題が多いということです。この基礎学習ともいえる用語や概念の整理は、早い段階で行っておくとよいでしょう。後半戦で絶対に力になります。

 新年度に入り、半月近くになります。環境が変わったり、出会いや別れがあったりと、変化の大きな時期ですが、自分のペースで、一歩一歩歩んでいきましょう。あと、周りの変化に戸惑い、自分も「もっとやらなければ」と焦っている人もいるかもしれません。しかし、今年は”社会福祉国家試験の1年”です。試験合格、国家資格所得は、次のための準備なので、今年一年は、地味な一年になるかもしれませんが、この一年間で蓄えたことが、これからの皆さんの仕事や生活、人生に必ず役に立っていくと思います。

 それでは、最後まで一緒に頑張りましょう。次回は、専門科目の解説です。


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