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ドイツでエンジニアに転職した私が思う、知ってほしい客室乗務員の現実と裏事情

※ 2021年5月10日より、この記事は無料開放することにしました。

こんにちは、もしかすると初めましての方もいらっしゃると思います。

ドイツでフリーランスのフロントエンド エンジニアをしています、Arisaです。エンジニアに転職する直前の約1年半前まで、ドバイで客室乗務員をしていました。

今は完全リモートワークで、オンラインプログラミングスクールでフロントエンドコースのメンターをしたり、運営に関わったりしています。そのほかではブロガー/ディレクター/翻訳家でベルリン在住のwasabiさん(@wasabi_nomadik)と一緒に、彼女のオンラインサロンやコミュニティを通して、web開発案件や、アプリ開発、フリーランス x IT講座の運営など、様々なプロジェクトをしています。

よく、初対面の人でも、私のブログを読んだ人からも言われることがあるのが、「客室乗務員からエンジニアに転職って、極端ですね...!」の一言。

私も他の人でそんな人がいれば全く同じ反応をしたと思います 笑

でも、私がエンジニア、しかも海外フリーランスのエンジニアに転職しようと決めたのには、ある意外な理由があります。

客室乗務員のほぼ知られていない現実と裏事情が、私のエンジニア転職に大きく関連しているのも知ってもらえる機会があれば、上記の反応が納得の反応に変わるだろうな、とも思う節があるのです。

今まで客室乗務員を辞めてからエンジニアになって約1年半、個人的に話す機会が増えるうちに、「客室乗務員の現実と裏事情を初めて知って衝撃と驚き」という声とともに、「もっとたくさんの人に知ってもらった方が良い」という意見も同じくらい多くいただくようになったのです。

いつもブログでは技術系のことをメインに、ドイツ、ベルリン以外のフリーランス エンジニア事情、ビザなどの情報を発信していますが、私が転職を決める決定的な決め手になった理由の客室乗務員の現実と裏事情を書くには、本当に興味のある方にのみ届けたかったので、有料のnoteにしました。

購読してくださった方、また興味を持ってくださった方、ありがとうございます。

これから書くことは、個人的な体験に基づくものも含まれるので、一概に全てに当てはまるとは限らないこともありますし、もちろん労働環境を疑問視する内容も含まれます。そのことをご理解いただいてご購読いただけると幸いです。


客室乗務員の現実 & 裏事情 1:イメージと現実


まずは客室乗務員のイメージと現実からご紹介します。突然ですが、皆さんのイメージする客室乗務員はどんなイメージですか?

華やか、美人が多い、ユニフォームのデザイン性、憧れ

これらは実際に私が知人やその他の方に直接聞いた答えです。そしてこれらは、私も実際に働く前に少なからずともほんの少しはどれもイメージしたことのあるものです。

当然のことですが、これはエアラインが利用してくれる乗客に描いて欲しい理想です。それだけ客室乗務員は、エアラインのイメージを左右するほどのプロモーション力を持つということでもあり、エアラインもまた、客室乗務員を使った企業のブランディング化に成功しているということでもあるのです。

ひねりがないようですが、ここでなぜ世の中でこういった典型的な客室乗務員のイメージが浸透しているかの種明かしを先にお伝えします。

私の所属していたエアラインに特化して種明かしをすると、乗務前のトレーニング期間で、こういった客室乗務員の一般的な理想イメージを壊さないよう、振る舞うように叩き込まれるから、というのが答えです。

どういうことかというイメージが湧きにくいと思うので、具体的な実際の例を挙げて説明しますね。

例えばですが、口紅をつけているときにペットボトルの飲み物は口をつけて飲んでは上司に怒られます。後れ毛が出ていれば、運が悪い人は報告され、マネージャーと1対1の面談をする羽目になります。女性のユニフォームに怪我を除き、スカートとハイヒール以外の選択肢はないのです。携帯はパイロットに関してはOKにも関わらず、客室乗務員はユニフォームを着ている限り、勤務時間中は何があっても使用できません。機内wifiを利用したことが運悪く告発された客室乗務員はクビです。

ついでに言うと、採用試験で身長が足りない人や、明らかに体重がオーバーしている人、生まれつきのアザが見えるところにある人は全て弾かれます。使用期間終了のテストでは、半年間での体重の増減をチェックされ、指導も入ります。

これらはほんの一部ですが、一般的に広まっている客室乗務員のイメージをキープするよう、エアラインは客室乗務員にこういったことも平気で強制します。

エアラインのイメージを保つための一般的な身なりや振る舞いに関してであれば、まだ不服に思いながらでも従えばいいか、とそこまで気にしないようにできる人もいるとは思いますが、エアラインのブランディングのために強制されることで、時々権利を害しているとも思う節もありました。

例えばですが、ユニフォームを着ている間は、勝手に写真を誰かに撮られても、ネット上に上がっても、それは全てエアラインに権利があるので、撮られた客室乗務員がそのことに関して何かを言う権利はないと、会社から断言されています。

言い方を悪くすれば、盗撮をされているわけです。そしてそれをSNSやネット上に勝手に挙げられているわけです。

一緒に撮ってと頼まれるならまだしも、どこに自分の知らない写真が載っているのか、退職後もわからないのです。

まるで自由に撮ってくださいとでも言わんばかりに、私のいたエアラインは、わざと客室乗務員を空港の入り口から隅々まで歩かせて、たくさんの人の目に触れるよう、どの就航地でも搭乗ゲートを一番空港の奥にしていたほどです。エアライン自体は、このことをとても誇らしくフライト前のミーティングで他の客室乗務員にも伝達するよう、パーサーに共有しているようで、パーサーからもブランドを着ている自覚を持って歩くこと、と念を押されたことも何回かあります。

客室乗務員は、ロボットではないし、個人の生活だってあります。家族がいる人もいるし、恋人がいる人だっています。その人たちにとって、私たちが知らないところで勝手に肖像権を訴えることのできない、勝手に撮られた写真がネットの海に散乱していると思うとどうでしょうか?

とてつもなく嫌です。最悪、そういった写真が、空港や機内で撮られたなんの変哲も無い写真のみにも関わらず、客室乗務員の写真というだけで、誰かが変な理由で持っていることだってありますし、変なサイトに上がっていることだってありえます。

ユニフォームを着ている限り、肖像権はいかなる時も会社のために放棄する

これは人権の問題に関わると私はずっと思ってきました。そんなこと、入社前に何も言われないわけです。例えエアラインのブランディングのためとは言え、個人の肖像権までを剥奪する権利は会社にないと私は思ったのです。

なので、皆さんに知ってほしいことの1つ目は、一般的な客室乗務員のイメージは、客室乗務員個人の権利剥奪の上で成り立っていることもあるということ。客室乗務員も1人の人間なのです。


客室乗務員の現実 & 裏事情 2:重度の肉体労働と損失の自己責任


2つ目に皆さんに知ってほしい客室乗務員の裏事情と現実は、業務内容がかなりの肉体労働であること

これ、実はあまり知られていない、と個人的に話してきた経験をもとにいつも思います。なにせそういうブルーカラーの内容は、見えないところでしないといけないからです。

私たちが機内でどこで食事を用意しているのか、その場所すらわからない人もいます。私もその1人でした。これは本当によく飛行機を利用する人か、働いたことのある人にしかわからないという場合が多いです。

その食事を用意する場所、ギャリーと呼びますが、このギャリーこそが客室乗務員の業務がいかに肉体労働かということがよくわかる場所です。

食事を乗せているカートの中には、約40人分の食事がカートの中に入っていて、カートの上にはさらに金属製の熱いオーブンが普通に乗っています。カートは金属でできていて、ある程度の乱気流でも倒れにくいように重さがあります。これを何回も押したり引いたりをするので、腰はボロボロです。まだ低い高度にいるときなんかは、このカートを引っ張ると、かなり急な坂道を登りながら金属でこれだけの食事とオーブン、それから飲み物もジュース、水、ワイン、ビールが山盛り乗った重さ分を引っ張って行かないといけないわけです。

いくらサービス開始用のヒールなしの靴に履き替えたといっても、食事を配るときに、かがんだり立ち上がったりを何度も繰り返すのも含まれるので、慣れていないとカート1つもやっとです。これを乗務し始めて3回目からは1人で2、3つのカートを1回の食事でこなすよう要求されるわけです。つまりドバイ-日本間の片道9時間であれば、食事は2回なので、倍ということになります。ドバイ-シカゴ間の片道14時間であれば、食事は3回、つまり3倍です。

それに客室乗務員の仕事は食事の配膳だけではありません。片付けもあるので、食事の回数分片付けも行うのでさらに倍上記の内容をこなす必要があります。

しかもこれだけではなく、食事前の準備までもが肉体労働です。飲み物をそれぞれのカートに乗せるため、1つのカートの上に1〜2リットルの水やジュースを8本最低でも確保し、それにプラス、空いているだけのスペースに赤ワインと白ワイン、そしてビールを詰めます。ワインはもちろんガラスのボトル。飲み物だけでも相当の重さということがイメージできたでしょうか。

これだけの飲み物が1つのカートに乗っているので、それ以上の飲み物を下ろしたり、上げたりという作業が1つのフライトで何度あるのかわからないほどです。しかも機内のギャリー収納ボックスは全て金属製。水用の収納ボックスであれば、2リットルの水のボトルが8〜9本入っているわけです。これを頭上よりも高く1つのフライトで何度も上げることを想像してみてください。ダンベルの比ではないです。

肉体労働についてはいくらでもそのほかの例もありますが、一番わかりやすいのが食事に関することだと思うので、一例として挙げました。

もう1つ、見出しにありましたが、損失の自己責任についてです。

これは免税品の機内販売のことです。私のいたエアラインでは、レジのようなマシーンがあり、そこにマニュアルで入力なり、カードを読み込むなりをしていたのですが、当然入力する金額や商品の個数、クレジットのサイン控えなんかは機械ではなく、人間が担うべき仕事になります。

そうなると当然ですが誤って損失が出ることも十分あります。私も1度だけ少額でしたが損失を出したことがあります。ただ、免税品販売の損失は、客室乗務員だけのミスだけではないのです。無効なクレジットを知らずに差し出して、レジマシンが壊れているときにマニュアルでクレジットを控える方法しかない場合なんかには、こちらではどうしようもありません。

ひどい場合、意図的にそういった偽のクレジットでタダ購入しようとする乗客も、稀ですが、悲しいことに中にはいます。

では免税品販売の損失は、一体どこで補われていると思いますか?

答えは簡単。免税品販売を担当した客室乗務員の給料が犠牲になります。

これがロレックスの腕時計だとしたら?メルセデスだったら?(大昔ですが、車を売っていたことがあったそうです)客室乗務員の給料なんて、6年勤めてまだビジネスクラスでくすぶっていて月30~40万円なので、そういう悲劇が起これば、塵も積もって巨額の借金になることだってあるのです。

なので一部の業務内容と、損失の自己責任を紹介しましたが、こういったことは一般にはあまり浸透していない情報かもしれません。まずエアライン自体はそういうことはマイナスになるので、絶対に公表しないでしょう。

エアラインも入れ替わりが激しい人材の確保に奔走するのに必死なので、なおさら公表しないのだと思います。



まとめ


いかがでしたか?

実はこれでもこの記事にある事実や裏事情は、まだほんの一部です。

もっとひどいものもありますが、一部は私のいたドバイが中東であることから、国自体が文化背景に大きく左右されていて、女性の権利が無視されているようなこともありますが、エアラインとくくって言うには語弊があると思ったので、だいたいどのエアラインでも問題視されているであろう裏事情や現実を紹介しました。

私の願いは、もしみなさんが今後客室乗務員として働いている人に遭遇する機会があれば、客室乗務員という職業の背景にある事実を知って欲しいのです。

客室乗務員は、サービスだけでなく、毎回のフライトで最悪のシチュエーションが起こってもいいように、ハイジャックや重度の乱気流、機内出産や機内での乗客の急死、墜落など、ありとあらゆる全ての事態にも日頃から備えている必要があるにも関わらず、その見返りが上記のような労働環境なのです。

飛行機が緊急着陸をしたら、客室乗務員は乗客を優先して自分は最後に降りなければなりません。自分の命を犠牲にして乗客を守ることが仕事にもなり得ます。ハイジャックがあれば、機長室へのアクセスを許さないために客室乗務員全員が銃殺されても、パイロットの命が最優先なので、それが正しいとトレーニングされています。

私は毎回仕事に行くたびに思っていました。

「今回のフライトも、無事に生きて家族やパートナーに会えますように」

これが客室乗務員の日常の出勤で思うことなのです。こんなことが日常であるのは普通ではないし、誰かが担わなければならないとしても、それに見合った労働環境が約束されるべきです。

もちろん、大げさなと思う人もいると思います。でも、実際そうなのです。私が勤務しているときに、別のフライトで実際にエンジン火災で緊急着陸と脱出がありましたし、フライトを一緒にした人で機内出産を経験した人や、乗客の急死を処理した人はたくさんいました。

お酒が禁止されているサウジアラビアの便で、乗客が私のいたエアラインの客室乗務員を出血するまで殴ったケースも聞きました。まだ勤務していた時に起こった話です。

私は幸いそういった緊急事態は、医療に関すること以外は遭遇していないのですが、そういったことがいつ自分の身に起こってもおかしくないわけです。限度を超えた暴力を振るう大男の乗客がいたら、女性の客室乗務員しかいないフライトであっても、客室乗務員が拘束しなければ他の乗客が危険に晒されるので、客室乗務員が護身術以上のことをして拘束をする義務があります。

そういったこと全てに備えていないといけないのに、そのためのトレーニングや試験内容も睡眠時間を十分確保できないほど強要されるのに、上記の労働環境と、ちらっと触れましたが、収入の低さなのです。

転職をして、全てが私の中でよくなりました。まず精神的、身体的に過度のストレスから解放されたこと。

人間、やはり人から理由もなくなじられるのは好きな人はいないと思いますし、それが日常になってくると、接客業で仕事なのはわかっていても人格がねじれていきます。大切な人を失くしかねない状態の友人が、客室乗務員時代は多かったように思いますし、私自身もそうでした。

トルコで爆発物テロが空港でまさに起こっている時、私はトルコ行きの便での勤務で、普通に飛ばされました。長年付き合っているパートナーに「生きて帰るね」と言って行くしかないわけです。何もなかったのが幸いですが、爆発物を持ったテロリストが機内に入ってきて爆破されたら終わりです。そんな環境でも乗客は文句を言ってくるんです。理由もなくなじるんです。

通路を歩いているだけで呼び止められて、「あんた、本当にブスね」と他の乗客がいる前で指差して笑われる経験、そんなこともありました。(もちろん人権侵害だとその場で警告を兼ねて怒りました。業務妨害の正当な理由と会社で言われていたので)

精神的に接客業でのストレスと、人の命を預かるストレスと、企業からの圧迫によるストレスは、転職を決めるしか脱出できる方法がなかったのが事実です。

客室乗務員は世界的にも、日本でも転職するにはスキルがあるとは見なされません。なので私の場合は取り組んでみて楽しかったプログラミングで転職をしたのですね。きちんとスキルも認められ、人権を侵害されることもなく、誰かの命を預かるプレッシャーもない、労働環境も自分で決めることができる。自律は求められますが、その分世間一般に知られていなかった客室乗務員の現実と裏事情から解放され、私の環境は1年半で劇的に改善しました。

普段はエンジニアとして本業をアウトプットして行くことに専念していますが、いつかは蓋をしていた客室乗務員の現実と労働環境改善を訴えかける記事が書ければと思っていました。

この記事を読んでくださった方が、客室乗務員に対するイメージや労働環境を正しく知っていただく機会になることを願って、批判も承知でこの記事を公開します。

知らなかったことを知る機会にしていただければ嬉しいですし、労働環境について考える機会にしていただけたのなら、それも嬉しいですし、何かしらの参考になれば幸いです。

では。

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