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「うまいね!」を封印した、アートの時間

この10年あまり、アートワークショップなどの現場で
「私、絵が下手なので」
「才能ないから」
という言葉をたーくさん耳にしてきた。
打ち合わせから現場まで
言われなかったことはないくらい。
ときに子どもに
「うまくないと怒られるから、(作品)いらない」
なんて言われたりして、とても悲しい。

おいおいおいおい!!
みんなめっちゃ「うまい」に縛られてるよ!!

いわゆる「うまい」作品を写実表現としたとき
安井曾太郎のクロッキーロン・ミュエクなど
その表現で人の心を震わせるアーティストはたくさんいる。
そして晩年のピカソをはじめ
ジャクソン・ポロックエミリーウングワレの作品など
写実表現以外にも
世界的にその価値を認められている表現は
たーーーくさんある。

本来、アートの世界は自由な表現の世界であり
多様な方法で人の心を震わせるから
写実性だけじゃない、多様な価値基準がある
はずなのに。

いったいこの
"アート=うまい(写実表現)"
という概念は
どこからきたんだろう?

そもそも芸術はどのように発達していくのか
ということから考えていたら
地層のようなイメージがでてきた。

赤:感性を育み、物事の印象をとらえ
オレンジ:自己表現をして
黄色:表現を介して他者と関わり
黄緑:技法を修練し
青:社会に発信するために、独自性の追求をしていく

最下層の赤い地層が芸術のベースとなるもの
そこから山の頂上にむけて表現が発達していくイメージ。

そして地層の上に形成された様々な山のように

抽象表現、写実表現(絵画や彫刻)
身体表現(ダンスや演劇)
映像表現(映画、デジタル表現)
言語表現(文芸、詩)
空間表現(総合芸術、インスタレーション)
などなど
個人の感性と経験、そして発達が合わさって
多様な表現が現れる。


多くの人が持つ芸術に対するイメージは
どぷん

こんなかんじ。
(高さの順番に深い意味はありません。)
とにかく写実表現が際立ってる。
海面下ではみんな繋がっていて
おーーきな土台があるのに。
まさに、氷山の一角。

なんとなく人の顔だということはわかるけど
正面を向いているのか横顔なのか
緑や黄色で顔が描かれた、ピカソの「泣く女」
この作品の良いところや好きなところを
自分のことばで人に伝えるとしたら。

その素晴らしさを言葉にするのが難しい
抽象表現や空間表現などと比べ
写実表現には、現実にあるものと見比べて
「モチーフがリアリティをもって表現されているか」
という、老若男女わかりやすいひとつの基準がある。
つまり、教えやすいということ。

だから保育教育現場では写実表現が積極的に取り入れられ
褒め言葉として「うまいね」が多用される。
この褒め言葉がたくさん使われれば
その場にいる子どもたちの心の中で自然と
「アートはうまくないと」
という芽がにょきにょき育ち
おとなになる頃には
"アート=うまい(写実表現)"
という大木がしっかりと心に根付いている。

その繰り返しの末、多くの人にとってのアートは
氷山の一角が全てだと思い込み
それができないからまるごと拒否している
だいぶもったない!状態
なのだ。

でも本来芸術がもつ、表現の自由や多様性を
しっかりと子どもたちに伝えるには
どんな山にも通じる
地層のはじまりとなる赤〜黄色の部分を
しーーーーっかり時間をかけて育む必要がある

赤〜黄色のベース地層に厚みが出れば
ズン!

いろんな山が水面からでてきて
自分の好きな表現を選択することができる。
そして、たくさんの表現を自分なりに楽しめる人も
同じように増えていく。
「アートってよくわかんない」という人も減るんじゃないかな。

そんなわけでわたしは今
現場で「うまいね」を封印した。
その代わりに
色の混ざり
くみあわせかた
集中力
素材のあつかいかた
バランス感覚
線の美しさ
などなど
作品だけでなくその人の姿勢やプロセスから
いいところを探し、言葉にして伝えている

でも、これ、めーちゃーくーちゃー難しい。
限られた時間の中で
ときには何十人ものこどもたちの
一人一人のいいところを探し
それぞれに言葉をかけていく。
めーーーーーっちゃ観察するし
しっかり伝わるよう言葉も吟味して
わたしの脳みそと感性はフル回転!!

その一方で、様々な表現やプロセスを
心の目で見るのは、とっても楽しい。
みんな、ほんとにちがう。
おもしろい。
芸術の自由と多様性を実感する。
もっともっとたくさんのモノコトに触れて
自分の感性を磨かなくてはと思う。
こどもに関わるおとなの感性もまた
柔らかくないとな、と実感しています。


子どもたちにとって
保護者や先生のような
濃厚な関係には及ばないけど
こどもの頃の大人の一言って
意外と心の中に残っていたりする。
だから

あ、あのとき
自分のこんなとこほめてくれたおとな、いたな。

くらいになれば
さらに万々歳なのであります。

ーーーー

今回描いたイラストの黄緑色の層
『技術の修練』のフェーズでの発見について
こちらの記事で描いています。
写実性の特訓に、どんなねらいがあるのか。
ぜひ合わせてご覧ください。
美大予備校での3つの特訓、感性とアートの関係性|Ray Tanaka|note(ノート)

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