御洒落

知らない人から街中で声をかけられるとき。それは道を聞かれるとき。それは落とし物に気づいてくださったとき。それはTシャツを裏表逆に着ているとき。

イヤフォンで音楽を聴きながら目的地に向かっていると、後ろから何やら声が。ふと振り向くと自分が呼び止められていたことにようやく気づく。素敵なおばあちゃまがかなり神妙な面持ちでこちらを見ている。

”お兄さん、Tシャツ裏返ってはる…？”

そこまで仲良く無い隣の席のクラスメイトに消しゴムを借りるときのテンション。赤の他人、それも188cmの若者、おばあちゃまからすれば未知の存在。そんな生物がTシャツを裏返しに着ていることに気づいてしまったのだ。言うべきか、見て見ぬ振りをするべきか、おばあちゃまの葛藤は計り知れない。でも勇気を持って声をかけてくれたのだ。万が一この大男が今後恥をかくリスクを案じて。確かにシャツのタグは外側に、でもこのTシャツ、リバーシブルなんです。決して苦し紛れの言い訳ではなくて。半信半疑なそこの貴方、リバーシブルT着てこいと約束があればお問い合わせください、着ていきますので。

”あら、そうなのね、そーゆーデザインか解らず聞いてしまってごめんね”

素敵な笑顔と共に掛けてくださった第二声、謝らないでください、紛らわしいタグをチラつかせた江上が悪いんです。そして誰も悪い気がしない迅速なアフターフォロー。見習わさせてください。僕もそんな大人になりたい。

おばあちゃまと進行方向が同じことに気づいた江上。大きな信号に差し掛かる。ありがとうの気持ちを込めてそっと隣を同じペースで歩きましたとさ。