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新法、ジョブケーション、クリエイターエコノミー…2022年、フリーランスが注目しておきたい3大トピック

2021年は、コロナ禍の影響でリモートワークが定着し、浮いた時間で新しく副業を始めた人も増えました。

一方、企業では人手不足が再び顕著になった年でした。

企業活動が少しずつ再開し始め、これまでは向き合わなくてもよかった課題にもいよいよ対処しなければならない事態に。そこでその分野に長けた人を、即戦力としてチームに入れたいと採用市場は活性化したことから、フリーランス活躍の余地も広がりました。

そんな年が明け、2022年はフリーランスにとってどんな1年になるでしょうか

フリーランス協会代表理事の平田麻莉に、2022年のフリーランスを巡るあれこれをインタビュー。その中から、今年注目すべき3つのトピックを挙げてみました。一つずつ解説していきましょう。

【トピック① フリーランス保護の強化】

まずは政府の動きを見てみましょう。2022年は、フリーランスが安心して働ける世の中に向けて、大きく一歩前進できそうです。

2020年4月、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、緊急事態宣言が初めて発令されました。その結果、フリーランスの不遇や不安定さに注目が集まったこともあり、フリーランスの環境整備が少しずつ進んでいます。フリーランス協会でも、国会や政府検討委員会でのプレゼンテーション、自主調査のデータ提供、政府調査の周知広報、個別ヒアリング等を通じて、多方面から政府に対する提言や協力を行ってきています。

そうした動きが実を結び、2021年11月に岸田政権が発表した「新しい資本主義実現会議」の緊急提言で、「フリーランス保護のための新法」「勤労者皆保険制度」について明記されました。

フリーランス保護のための新法とは?

前述の緊急提言では、企業との取引における契約トラブルからフリーランスを保護することを主眼として新しい法律を作ることが発表されました。

具体的には、緊急提言の「非正規雇用労働者等への分配強化」の項目において、「新たなフリーランス保護法制の立法」として以下の通り明記されています。

コロナ禍では、フリーランスの方々に大きな影響が生じている。フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の、契約の明確化や禁止行為の明定など、フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する。あわせて、公正取引委員会の執行体制を整備する。また、フリーランスの方々が労災保険に加入できるよう、労災保険の特別加入の対象拡大を図る。

出所:新しい資本主義実現会議「緊急提言」

フリーランス新法とは、端的に言うとフリーランスと企業との対等なパートナーシップのために整えられる法律で、2021年3月に公開された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が一歩前進する形となります。

特に注目すべきは、発注者がフリーランスに対し、取引に先立って業務範囲や報酬額、納期などの契約内容を明確化することを義務付けることを想定している点です。言い換えれば、口約束ではなく、メールや書面でエビデンスを必ず残しましょう、ということです。これは、下請法による保護には限界があるとして、フリーランス協会が提言を続けてきたものです。

普通の企業同士であれば、当たり前のように行っていることかもしれません。しかし相手がフリーランスの場合、意図的に契約書締結を拒むケースだけでなく、担当者の「うっかり」で契約条件を伝え忘れていた、事前に伝えていた条件が間違っていた、など契約内容が曖昧なことでトラブルに発展してしまうケースは後を立ちません。

実際、2019年に開設された「フリーランストラブル110番」には1日に10件以上も相談が寄せられているのだそう。(相談事例は以下記事に詳細)

「あまりガチガチのルールになってしまってはフリーランスの負担が増えたり、企業から『フリーランスは付き合いづらい存在』になったりしてしまいます。みんなが過度な負担なく、企業もフリーランスもお互いに安心して取引できるギリギリのラインを今、政府で検討しています」(平田)

今まで曖昧な契約条件でも持ちつ持たれつでやってきた企業にとっては「面倒くさい」と思われるかもしれません。しかし、そもそも「本来やるべきことができていなかった企業に対する是正のための法律」です。

フリーランスにとっては、自分を守ってくれる法律になるでしょう。今後の動きは要チェックです。

勤労者皆保険制度の議論始まる

フリーランスを守る法案に関連してもう一つ注目したいのが「勤労者皆保険制度」です。

勤労者皆保険制度も、先の緊急提言の「労働移動の円滑化と人的資本への投資の強化」の項目で明示されました。

多様で柔軟な働き方が拡大する中で、どんな働き方をしてもセーフティーネットが確保されるよう、働き方に中立的な社会保障や税制の整備を進め、勤労者皆保険の実現に向けて取り組む。

出所:新しい資本主義実現会議「緊急提言」

  フリーランス協会に寄せられる声で一番多いのは、社会保障に関する要望です。

「フリーランス白書2019」では、「フリーランスや副業をするといった新しい働き方を日本で選択しやすくするためには、何が必要だと思いますか?」という問いに対して、「出産・育児・介護などのセーフティネット(休暇や所得補償)」「健康保険組合」「厚生年金」といった回答が上位を占めています。また、「フリーランス白書2021」でも、「働き方の違いに関わらず社会保障が提供される必要性を感じている」と95.7%のフリーランスが回答しています。

実はフリーランス協会では、当時自民党の部会で本部長を務めていた岸田首相に対し、過去に2回ほど、これらの課題についてプレゼンテーションをしています。

現政権が掲げる勤労者皆保険は、フリーランスも含めた多様な働き方に中立な制度を念頭に置いていると推察できます。

とはいえ、具体的な議論はまだこれからです。「フリーランスが真に安心できる勤労者皆保険制度として設計されるように、協会で引き続きしっかり働きかけていきたい」と平田は言います。

ちなみに、フリーランスを保護する動きは、日本だけのものではありません。

2021年12月、EU(欧州連合)でギグワーカーの保護を柱とする法案が公表されました。この法案は、オンラインで仕事を仲介するプラットフォーム企業が、ギグワーカーの雇用主としての責務を負うかの判断基準が5つ挙げられており、そのうち2つ以上を満たしていると「雇用認定」されるというもの。

「EUがこの法を成立させると、少なからず日本でも、フリーランスの労働者性に関する議論が盛り上がってくる可能性があります」(平田)

【トピック②:「ジョブケーション」が拡大】

視点を国内に戻して、日本の地方の動きに目を向けてみると、今年注目のトピックの一つに「ジョブケーション」が挙げられそうです。これは「ジョブ」と「バケーション」から作られた造語です。

フリーランス協会では2017年から「ワーケーション」を提唱してきましたが、これはコロナ禍で一躍バズワードになったので聞いたことがある人が多いと思います。

これまでのワーケーションは、「いつもの仕事を、場所を変えて地方で行う」という話でした。しかし、コロナ禍で、差し迫った課題に対して首都圏のハイスキル人材を助っ人として求める地方企業が増えたこともあり、「地方の仕事を、地方で行う」スタイルが出現しています。これをワーケーションと区別して「ジョブケーション」と呼ぶことがあります。

「単なる観光客としての接点を超えて、より深く地方の産業に関わっていくようになり、地方の関係人口創出が加速していく兆しを感じています」と平田は指摘します。

地方の企業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、オンライン会議やリモートワークの定着によって働くインフラが整ってきていることから、フリーランスを「受け入れる力」は上がっているようです。

フリーランス協会でも、以下の通り、徳島県、兵庫県と関係人口創出に向けた取り組みを進めています。

さらに平田は、「地方には『この仕事をしてほしい』と顕在化した求人は少ないが、『課題』は山ほどある。その課題を解決しようとすると、そこに『仕事』は生まれる」と言います。自分の育った故郷や何度も訪れているお気に入りの地域で仕事ができる機会は、すでに想像よりも多く存在しているのかもしれません。

「単発で旅行に行って完結するというわけではなくて、地方にクライアントができたから数カ月に一度打合せに出張し、ついでに旅行も楽しむようなスタイルも、ジョブケーションやワーケーションと捉えて良いと思います。その地にいない間はリモートワークでしっかりコミットする。そして地域のためには、口だけ出して終わりではなく、自分の手足を動かして結果にコミットするようなサポートの形が望ましい。個人的には、そうした『ジョブケーション』を広めたいと思っています」(平田)

【トピック③:クリエイターエコノミー】

フリーランスにとっては「自己実現とマネタイズのバランス」を考えていくこと、そのために「どんなプラットフォームやサービスを使うか」を調べて動いていくことは必要不可欠です。

そこで注目したいのが「クリエイターエコノミー」です。「2022年はテクノロジーの発達により、よりクリエイター主権で物事が回っていく、良い流れになるのでは」と平田は言います。

これまでは、タレントやアーティストであれば事務所に所属し、画家であれば画廊の目利きに適うなど、どんなにクリエイターの才能や努力があっても、取引を仲介する実力者との出会いや運に左右されてしまうところがありました。

それが近年では自己表現のステージが広がっています。YouTubeやnoteといったプラットフォームが登場して久しいですが、それに加えて2021年はTikTokやFacebook、Twitterにも投げ銭機能が追加されるなど、クリエイター自らが「直接稼げる」仕組み作りが加速しています。

また、昨年は、ブロックチェーン技術によるNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を利用したデジタルコンテンツが驚くほど高値で売買されたニュースが飛び交いました。

NFTが登場したことで、クリエイターエコノミーは一層拡大し、新たな仕組みやプラットフォームがますます登場していくと平田は予想。「クリエイターエコノミーに関する情報をキャッチアップしておくことは、フリーランスにとってとても重要になります」(平田)

迫り来る制度変更に対して心構えを

そして最後に、今年必ず直面する「インボイス制度」と「電子帳簿保存法改定」について簡単に取り上げておきましょう。この2つの制度を理解した上で、「自分はどうするか」という自身の今後のスタンスを決め、「どんな準備をしておけば良いか」を考えておくとよいかも。

インボイス制度

2023年10月からは、インボイス制度が施行されます。

昨年10月にフリーランス協会で開催した対策セミナーには1000人近い申込みがあったので、参加してくださった方もいらっしゃるかと思います。インボイス制度を一言でまとめると、「フリーランスと取引をする企業が仕入れ税額控除(消費税の二重払いを防ぐための控除)を受けるためには、フリーランスが適格請求書発行事業者(≒課税事業者)としてあらかじめ登録をしている必要がある」という制度です。

登録は強制ではないので、免税事業者のままでいるか、課税事業者になって適格請求書発行事業者の登録をするか、一人ひとりが自身の状況に応じて決めることが大切です。

もともとは、制度開始後に適格請求書発行事業者になるかどうかの判断は年1回の限られたタイミングでしか出来ませんでしたが、12月17日に閣議決定された税制改正大綱には以下のように記載されており、制度開始後も「あ、登録必要かも?!」と思った時に柔軟なタイミングでいつでも登録できるようになる予定です。

① 免税事業者が令和5年 10 月1日から令和 11 年9月 30 日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、その登録日から適格請求書発行事業者となることができることとする。
② 上記①の適用を受けて登録日から課税事業者となる適格請求書発行事業者(その登録日が令和5年 10 月1日の属する課税期間中である者を除く。)のその登録日の属する課税期間の翌課税期間からその登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、事業者免税点制度を適用しない。

出所:令和4年度 税制改正大綱

今すぐ決める必要はないので、取引先の反応や周りの状況、自分が目指していきたいキャリア像なども踏まえて、ゆっくり検討してみてください。

インボイス制度の分かりやすい解説がほしい、どういった基準で検討すれば良いのか知りたい、という方は、こちらのイベントレポートをぜひ参考にしてくださいね。

電子帳簿保存法改正

次に電子帳簿保存法改正です。すでに今年1月1日から施行となっています。

帳簿書類を電子的に保存する際の手続に関することなので、オンラインで何かしら取引を行っている事業者はチェックしておきましょう。

こちらも国税庁の担当者をお招きしたセミナーのイベントレポートに詳しく解説がありますので、ぜひご一読ください。

新年を迎え、今年の抱負を掲げたり、この1年をどう過ごしていくかを考えたりする人も多いはず。このタイミングで、インボイス制度と電子帳簿保存法にどう向き合っていくかも考えてみてはいかがでしょうか。

法の整備、地方における活躍の場の拡がり、クリエイターファーストなサービスの台頭などにより、フリーランス自身がやりたい仕事を、働きたい場所で、理想の形で叶えられるような社会に近づく年になる予感がしますね!

(著者プロフィール)
永瀬もなみ(ながせ・もなみ)
広報PR出身のフリーライター。2015年に串カツ田中の社長秘書として入社。社長のメディア対応が増えていくにつれ広報の面白さを知り、本格的に広報機能を立ち上げる。IPOや危機管理対応なども含め広報業全般に従事後、2019年フリーランスとして独立。プレスリリースをはじめとする記事制作を中心に、PR企画立案やブランド戦略まで幅広く支援。マルチポテンシャライトで、現在の個人研究分野は死生観、脳科学、美意識など。 Facebook:https://www.facebook.com/monami.nagase

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