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ちょっと待った!! 新卒でライターをオススメしない3つの理由

こんにちは。フリーランスライターをしている、たなべやすこと申します。今回ひょんなことから、ライター志望の大学院生に「ちょっと待った!」をかけたときの話を紹介する機会をいただきました。

本稿は私の経験に基づくものであって、真逆の考え方をする人もいるでしょうし、すべてのライターに当てはまる解説でもありません。これが正しいとか間違っているとか、言い合うつもりはまったくないことを、最初に断っておきます。

ライターになりたいと考えている方のほか、若手のビジネスパーソンや学生さんなど、自身のキャリアを考えるきっかけとなれば幸いです。

商業ライターに届いた超エリート学生からのメール

本題に入る前に、私の仕事について説明しておきます。
フリーランス歴は5年、これまで数百本にのぼる取材記事を書いてきました。でも世に出た記事のうち、私の名前が入ったものは2割もないと思います。なぜなら、商業ライティングを主な領域にしているからです。

商業ライティングを定義するのは難しいのですが、端的に言えば「クライアントの代わりに文章を書く仕事」です。媒体は広報誌にオウンドメディア、パンフレットや販促物などで、マスメディアとは一線を画すものです。

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記事の形式もさまざまで、数千字にわたるインタビューもあれば、逆に十数文字のコピーに言葉をギュッと詰めるものも。本をまるごと1冊任される場合もあります。いずれにせよ取材対象の伝えたいことや、内に秘めた思いを読者に伝わる言葉に変換するのが私の役目。書き手の主張は原則含まないという点が、エッセイストやルポライター、著者との違いです。

その私に、あるとき一通のメールが届きました。送り主は、過去にインタビューでご一緒した大学院生(仮にAさんとします)。就職活動を翌年に控えたAさんは、職業研究をする中でライターに関心を持ち、どうすればなれるのかと私に相談してきたのです。ちなみにAさんは学内メディアの記者を務めていて、書くことが好きだからいつか仕事にできればと考えているようでした。

むむむ、これは困ったぞ。
私自身はなりゆきで今の職業に行きついてしまったこともあり、誰かに助言できるほどの経歴を持ち合わせているわけではありません。さらにAさんは、世間的には超エリートの部類に入る学歴の持ち主。めちゃくちゃハイスペックなのですから、その気になればどんな仕事にも就くことができるはずです。

だからどう答えればいいか、私はとても悩みました。正直なことを言うと、今のAさんがライターをめざすことに心の底から応援できなかったのです。

そこでオンラインでお話ししようと提案し、基本はAさんの質問に答えながらも、今の時点でライターという仕事は勧められない理由を説明しました。それを3つのポイントにまとめたのが本稿です。ちなみに記事中に出てくる図は、Aさんに説明するのに作成したスライドの一部です。

理由1:キャリア形成は不可逆性である

ライターになるのに、特別な資格など必要ありません。年齢制限だって特にない。クライアントのニーズに適う文章が書ければ、仕事は成立します。スキルに不安があるならスクールに通えばいいし、早く実績が欲しいのならクラウドソーシングを利用する手もあるでしょう。ライターというキャリアの間口は、どの職業よりも広いと思います。だって「ライターです」って自分で言ってしまえば、その日からプロライターになれるのですから。

パイロットやキャリア官僚だって、なろうと思えばすぐにでもライターに転身できます。実際に知り合いのライターには、元鉄道員や旅館の仲居さんをしていた人がいます。私自身、記事を書く仕事を始めたのは35歳を過ぎてからです。

けれどもその逆、ライターからパイロットやキャリア官僚になったという人は、ゼロではないにしろ相当稀なケースでしょう。ライターから別の職業へのキャリアチェンジとなると、これはかなり難しい。中途で新しい仕事に就くには、その仕事に関係する経験を問われることがほとんどだからです。ライターは専門職ですから、他の職業にスイッチしたくなったとしても、その選択肢は相当限られてしまうのです。

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別な言い方をすれば、“新卒”でなければ就けない仕事があるということ。特にポテンシャルの高いAさんは、方向性次第でかなりのハイキャリアをめざせます。報道記者になりたいのならともかく(聞けば、魅力を感じないらしい)、新卒の段階でライターになるのを前提に進路の方向性を定めるのは、スペックと機会の両方を無駄にしていると言わざるを得ません。

理由2:いろんな経験が豊かな問いの源泉となる

どの分野のライターであっても、記事を書くには情報収集が欠かせません。音楽ライターならアーティストの新譜やライブ、小説家なら物語の舞台となる場所や仕事について調べることは容易に想像がつくでしょう。
では商業ライターはどうするのか? 同じです。記事のテーマに合わせて必要な情報を集めます。その方法として一般的なのが、インタビューです。

特に私のような「取り立てて強い分野はないけど、人の話を聞くことならできます」という場合、取材対象は実にさまざまです。下は小学生から上は100歳まで、同じ経営者でも老舗の二代目とITベンチャーのファウンダーでは、見えている景色も大切にしていることも違ってきます。インタビューで核心に迫るには、取材対象の生きる環境や心情への共感、そして仮説を立てる想像力が欠かせません。

そして共感や想像を助けるのは、いろんな経験です。私自身のキャリアは紆余曲折があり過ぎて、とても人様に自慢できるものではありません。でも決してスマートとはいえない人生が、インタビューの守備範囲を広げていると感じています。
なぜなら、取材対象の言葉をリアルな体験をもって消化し、相手が思いもしなかった視点を投げかけたり、深い問いへと導いたりできるから。そうして得られた言葉が、唯一無二の記事に仕立ててくれるのです。
“ライターとして生きてこなかった時間”が自分の糧になるなんて、少し不思議ではありますが。

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Aさんの大学は国内最高峰の教育研究機関ですし、学びも人との関わりも、普通の学生以上に濃密な経験をしてきたはずです(これはこれで非常に羨ましい)。とはいえ過ごしてきた世界は、大きな社会の枠組みのほんの一部分に過ぎません。将来ライターとして活躍の幅を広げていきたいなら、その前にいろんな世界を経験しておくことです。

理由3:ライターである前に社会人である

もうひとつ押さえておきたいのは、クライアントに信頼されるライターになるには、コミュニケーションが重要だということです。どんなに尖った記事が書けたとしても、やり取りが噛み合わなかったり、気難しくてものすごく気を遣ったりというのでは、依頼するのを躊躇してしまいます。特に取材先は、クライアントにとって大切なお客様。安心して紹介できるライターにお仕事を頼みたくなるのは、当然の流れといえます。

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そして仕事のコミュニケーションは、プライベートのそれとは多少毛色が違います。だから企業は新卒社員に研修やOJTを施して、社会人のフォーマットに慣れさせるのです。

それにフリーランスになって思うのは、やはり会社は学びと成長の機会に溢れているということ。組織には年齢もキャリアも異なる人たちが集まっているし、なにより携われる仕事の領域や規模感が、フリーランスライターとはまったく違ってくる。加えて未経験のことにも積極的にチャレンジしやすい環境にあるのも、会社の魅力のひとつです。

確かに組織には、関係者との調整やコスト管理、人間関係といった、煩わしい側面もあります。でも実際に働いて体得した仕事の進め方やコミュニケーション術は、企画や記事の位置づけを把握したり、クライアントが喜ぶツボを押さえたりするのに必ず役に立つはず。すなわち、ライターとしての自身の市場価値を高めることにもつながってくるのです。

自分の労力と引き換えに、お給料に加えて経験というリターンが得られるのですから、特に仕事歴の浅いうちは組織に属して損はないと思います。

まとめ:ライティングは「もなか」の皮のようなもの

Aさんと話した時はここまで考えを整理できていませんでしたが、何となく趣旨は伝わったかなと感じています。そしてAさん自身、私と似たようなモヤモヤを抱えていたようで、私にメールを送って間もなく「書くことが好き→ライター」という職選びは安直すぎるかもと思い直したそうです。もう少し幅広く仕事を捉えて、就活に臨みたいと話していました。

ライティングは表現手段のひとつに過ぎず、和菓子の「もなか」で例えるなら“皮”みたいなものです。「もなか」の美味しさは、皮と餡の質とバランスで決まります。つまりいい記事を書けるようになるには、餡である中身を的確に吟味できるようになる必要があるのです。豊かな社会経験が、餡を知り尽くす支えになることは先に述べたとおりです。

それにしても、自分の考えを書くことがこんなに大変なものとは。自身の餡の乏しさを、しみじみ反省した次第です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

寄稿者プロフィール
たなべやすこ

学習塾講師、学習教材編集、広報誌編集などを経て2016年に独立。年間およそ100本のペースで取材をこなすインタビューライター。得意とする領域は人材開発、健康経営、学び、教育など。HRビジョン『日本の人事部』、日本能率協会マネジメントセンター『Learning Design』のほか、ITベンチャー、大学などのオウンドメディアに、企業ホームページのコピーライティングなどを手がける。編集協力に『きみを強くする50のことば』(工藤勇一著、かんき出版刊)、『リモート営業入門』(水嶋玲以仁著、日経文庫)など。
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