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「地元農家の課題」を何とかしようと思った公務員が、副業するために法人をつくった話

副業を解禁する企業が増えてきている一方で、公務員はまだまだ「副業が難しい」というイメージがあるのではないでしょうか。

今回紹介する「一般社団法人KAKEHASHI」は、横須賀市職員の副業により設立された法人です。法人設立に至るまでや現在の活動、そして今後についてを、代表理事の一人である高橋正和さんにお聞きしました。

高橋正和さん
横須賀市経営企画部企画調整課 主任
一般社団法人KAKEHASHI 共同代表理事
1983年横須賀市生まれ、桐蔭学園高校、帝京大学卒(硬式野球部)。民間企業を経て、2009年横須賀市役所へ転職。選挙管理課、秘書課、総務課、政策推進課を経て、現在は企画調整課。

100日間の自主活動で、「街の声」を聞き続けた

——まずは高橋さんが代表理事を務める「一般社団法人KAKEHASHI」について教えてください。

「KAKEHASHI」は2020年5月に私を含む3人で立ち上げた法人です。共同代表である3人は皆、横須賀市の職員、つまり公務員です。事業内容は、地域の特産物を利用した加工食品の開発や販売、それから、地元企業の人財不足解消の支援を行っています。具体的には、地元の農家の作物を使った「野菜ピュレ」の開発・販売や、地元の花屋と連携して企画した「自宅でできる生け花セット」の定期販売、専門技術者の雇用を通じた地元企業支援などですね。

——高橋さんは単に「副業」ではなく、法人を設立して事業を行っているそうですね。法人設立までのいきさつを教えてください。

最初から副業をしたいとか、ましてや法人をつくろうとか思っていたわけではないんです。きっかけは、2018年に市役所内で行われた研修でした。様々な業界で活躍する方々などによる講義や、グループワークが中心で、とても刺激的な研修でした。その中で講師の方に、「とにかく街に出て、声を聞いてきなさい」と言われたんです。

民間で働く方には想像しづらいかもしれませんが、公務員は、課題や企画のヒントを探るために、役所の外に出歩くことはほとんどありません。それが、研修をきっかけに街に出て、実際にそこで暮らし、働く方々の声を聞いていると、「横須賀市をもっとよくしたい」「こんなことをすればもっと良い街になるのではないか」という思いやアイデアを持っている方がたくさんいるということに気づいたのです。
そういった方々の多くはその思いをどこに伝えれば良いかわからなかったし、私たち公務員も役所の外に出るまでは、その存在にすら気づけてなかった。この経験を経て、公務員はもっと街の外に出て、街の声を聞いて行かなくてはならない、そう思ったんです。

それで半年間の研修が終わった後も、有志のメンバーで自主的に活動を続けることにしました。現場を知るために、農業や漁業の視察や収穫の手伝い、百貨店のバイヤーさんへのヒアリング、加工工場の見学を行いました。それから飲食店経営者や農家さんといった地元の事業者を集めての勉強会など、仕事後や土日を使って、のべ100日間の活動を行ってきました。

収穫手伝い

※実際に農家へ足を運び、収穫の手伝いも行った

——最初は自主活動から始められたと。その後、なぜ法人化しようと思ったのでしょうか。

理由は2つあります。ひとつは、自主活動のままでは、サステナブルではないと思ったからです。自主活動はいわば「ボランティア」なのですが、ボランティアって、その人の体力や気持ち、お金に依存している部分が大きいんです。僕たちが視察や勉強会を行うための交通費や会場費も、回数を重ねれば結構な金額になりました。個人のやる気やお金だけに依存してしまうと、それらがすり減ったときに活動自体がストップしてしまう。そうならないためにはどうすればいいかと悩んでいたときに、「法人化したらどうか」とアドバイスを受けたんです。法人化して「仕事」にすれば、自分が続けられなくなっても違う人に渡すことができる。交通費など経費精算もできるようになる。持続可能性がぐっと上がると思ったのです。

もう一つは、本気度の証明ですね。主催した勉強会には、地元の企業や農家の方などが忙しい時間をつかって集まってくれていました。けれどもあるとき、参加者の一人に、「君たちは本当に、本気でやろうとしているの?」と言われたんです。ハッとしました。いくら勉強会を重ねたところで、何も形にならなかったら、僕たちにとっては「勉強になったね」でいいかもしれないけれど、参加してくれた方の時間を無駄にしたことになってしまう。そうならないため、きちんと結果を出すために、覚悟を示す意味でも法人化という手段を取りました。

「公務員の自主活動」をサステナブルなものに

——公務員といえば「副業NG」というイメージがあります。法人設立をどう可能にしたのでしょうか。

公務員は副業できないと考えられているようですが、決してそんなことはないんです。ただし、「勤務先の許可」が必要になります。

地方公務員法には、「営利企業に従事する」ことを禁止する条文があります。ただし任命権者、つまり市長の許可さえあれば、いくつかの条件はありますが、副業も法人をつくることも可能になるんです。そこで、ボランティアをしていたメンバーのうち、法人設立を決意した3名で、市長の元へ承認をもらいにいくことにしました。役所という場所は基本的に、前例がないことに対しハードルが高い場所です。市長に認めてもらうために、自主活動の勉強会で開発した野菜ピュレを市長にお見せし、1年間の実績を伝えました。市長は理解を示してくれ、法人設立することの許可を与えてくれたんです。

——無許可でどんな副業でもしていいわけではなく、市長の理解と許可が必要なのですね。「KAKEHASHI」は、「公務員が副業で設立した法人」として、事業を展開する上でどのようなことを大切にしているのでしょうか?

僕たちは、その事業によってどう社会課題が解決できるのか、どのような地域貢献に繋がるのかという点を大切にしています。例えば、「特産物の開発・販売」として実施している野菜のピュレも、野菜のピュレの商品開発と販路拡大をすることで、農家さんたちの課題解決と、この商品を使っていただく方の課題を解決をしたいと考え、開発しました。

——実際の仕事の様子を具体的に教えてください。

一つは前述した「野菜ピュレ」づくりです。これはもともと地元の農家さんが抱いていた「規格外野菜」に対する課題をきっかけとして開発しました。傷ついていたり小さかったりする規格外の野菜は、味や品質は変わらないのに、適正な価格で卸せないんです。本来は1kgあたり500円で卸せるはずが、規格外というだけで100円になってしまう。それを解決するためには、加工して価値を上げるしかない。そんなところから話が始まりました。

試作中

※試作品づくりも自分たちで行う

パートナーである農家さんは、土づくりからこだわっていて、なるべく農薬を使わなくてすむように日光で殺菌するなど安心安全な野菜をつくっている。その思いを一番どこに届けたいかを考えたときに、赤ちゃんが初めて口にする野菜にしたいと思ったんです。ただ、「離乳食」として出してしまうと、どうしても大手企業の商品に比べて、価格面で大きく見劣りしてしまう。そこで離乳食としても使えるし、アレンジ次第で大人もおいしく食べられる「野菜のピュレ」として開発することにしました。実際、離乳食を毎食つくるのは本当に大変。この商品を使ってできた1時間で、パパやママが赤ちゃんと遊んだり、休息する時間にしてもらえれえばいいなと思っています。

ピュレ

※KAKEHASHIが開発した添加物不使用の野菜ピュレ「SUCOYAKA Puree」

——ピュレの開発の際、工夫したことはありますか。

ここでもやはり、「声を聞くこと」を大事にしました。どんなものだったら買いたくなるか、どんな野菜だったらいいか、ベビー服売り場、駅前などでアンケートをしたり、小児科医や百貨店のバイヤーさんの意見を聞いたり、フランス人シェフに監修をいただいたりですね。

そうして、食品添加物不使用・無着色の野菜ピュレができあがりました。2020年11月から売り出して、当初製造した200箱は現時点(2020年12月)で残り6箱と、順調に販売できています。製品が完成してからも声は聞き続け、レシピ集の製作にとりかかるなどの展開をしています。

——市役所には市役所のルールややり方があってなかなかできないことも、副業でつくった法人なら可能になる。アイデアを形にしたり、PDCAを回したり、お話を聞いていると本当に楽しそうにお仕事されていますね。

そうですね、本当に楽しいです。だからこそ、ほかの公務員もやった方がいいと思ってるんです。市役所の仕事って、辛い仕事が多いんです。そうした現場で少し後ろ向きになってしまっている若い職員にこそ、自分たちの活動に参加してほしいと思っています。市民ニーズを理解できるようになるのはもちろんですが、それ以上に、市役所に期待したり、感謝したりしてくれる市民の声をダイレクトに聞いてほしいんです。みんな、街を良くしたいという思いを持って公務員になったのに、辛い現場で傷つき疲弊してしまい、仕事が嫌になってしまう若手職員が本当に多い。今もそんな職員を誘って、月に1回くらい勉強会を開いています。そこで市民の方に触れあうことで、リフレッシュできるし、本業へのモチベーションを上げることもできる。

——街の課題解決をするという目的と同じくらい、職員のモチベーションを上げるという効果は大きそうですね。

私が言うのも何なのですが、公務員の能力やモチベーション次第で、街が良くも悪くもなる。働き方を含めて、公務員の仕事が魅力的なものになることで、熱い思いを持つ職員が増え、そしてそんな職員が良い意味で目立つような世界になれば、自ずと街もそして日本も良くなっていくと思っています。公務員という立場のまま、副業で法人化しているのも、ここに理由があります。公務員の仕事の枠組みではできないけれど、街の課題解決につながることを、個人の力だけに依らずに仕組み化することで実現する。そしてその活動で得たことを、本業でもまた還元していければいいなと思っています。

表敬訪問

※一般社団法人KAKEHASHI設立挨拶のため、小泉環境大臣に表敬訪問。

——最後に、今後の展望について教えてください。

私たちが大事にしていることは「声を聞くこと」にあります。そのため、今後も、街の声を聞いて、課題を見つけて、解決するということをやり続けていこうと思っています。他の自治体でもこういう動きが生まれてほしいとも思います。

全国には、ボランティアで自主的に活動し地域に貢献している公務員がたくさんいます。皆、自分たちの時間・気力・体力を使いながら、地域のためにがんばっている。そんな方たちの活動がサステナブルなものになるよう、僕たちの動きが一つのスタンダードになればいいと思っています。

◆ ◆ ◆

「副業」「複業」というと、どうしても自分自身のキャリアにどう影響するか、収入はどれくらいアップするか…そんなことばかりに目が行きがち。今回お話をお伺いした高橋さんは、もっと広い視野で遠くを見据えながら、自分の住む横須賀、そして日本を良くするために、それを支える公務員の働き方をグレードアップさせるために、副業の道を選んでいます。副業・複業が身近なものになりつつある今だからこそ、持っておきたい視点だと思いました。

※記事内画像:高橋正和さん提供

【執筆】豊田里美
早稲田大学第一文学部卒。ITベンチャー、住宅系の雑誌・Web編集などを経て、2018年家族5人で福岡県糸島市へIターン移住。現在はフリーランスのエディター・ライターとして、暮らし・働き方・移住等をテーマに活動中。Twitter @plumo_s
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