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フリーランスの更年期問題、すこやかに乗り切るポイントは?|産婦人科医・高尾美穂先生インタビュー

更年期に起こる不調は、女性にとって深刻な問題です。
体調不良で仕事の能率が落ちたり、今までしなかったようなミスを頻発したり、気分の落ち込みから仕事が手につかなくなってしまうといった悩みも、実は更年期によるものかもしれません。
経済産業省の調査によれば、更年期症状による経済的損失は、年間で約1.9兆円にも上るそう。更年期によって仕事にマイナスを受けた状態を指す、「更年期ロス」という言葉も誕生するほど、社会の問題意識も高まっています。
とくにフリーランス女性にとっては、更年期の悩みを気軽に話せる同僚がいないことや、体調が悪くても業務を代替する人がいないといった環境的要因が、心身の不調に拍車をかけてしまうことも……。
更年期の向き合い方、乗り切り方を、産婦人科医の高尾美穂先生に伺いました!

高尾美穂先生 
医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ教協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者。イーク表参道副院長。女性の心と体の健康をサポートし、前向きな選択を後押しすることをライフワークに、テレビ番組や雑誌、SNSなど、幅広いメディアで発信中『いちばん親切な更年期の教科書』(世界文化社)『更年期に効く美女ヂカラ』(リベラル社)など著書多数。https://www.mihotakao.jp

更年期は「誰もが通る道」だけど…

更年期とは、閉経の前後5年間ずつをさす言葉です。日本人の平均である50歳で閉経した場合、45歳から55歳が更年期、ということになります。
更年期には、女性ホルモン(エストロゲン)は乱高下しながら急激に分泌量が減少していきます。そして、ついに卵巣が働かなくなり、月経がこなくなって1年が経ったとき、その最後の月経がきた年齢を「閉経年齢」と呼びます。
更年期、及び閉経は、女性なら誰もが通るライフステージですが、更年期に経験する不調の程度は人それぞれです。治療が必要なほどつらい「更年期障害」に悩まされる人もいれば、まったく不調を感じずに過ごす人も。
また、更年期の不調は200種以上にも及ぶとも言われ、よく知られるほてりや発汗(ホットフラッシュ)のほかにも、肩こりや頭痛、倦怠感や疲れやすさ、イライラ、無気力など、人によって悩まされる症状もさまざまです。

更年期症状の原因はホルモンの乱高下

女性ホルモンの1つ、エストロゲンには、女性らしい体つきやハリのある肌などを作り出し、美と若さを保つ働きがあります。また、骨を丈夫にし、血管をしなやかに保ち、内臓脂肪がつきにくくするなど、女性健康維持にも大きな役割を果たしています。
このエストロゲンの分泌量が急激に減ることが、更年期の不調の主な原因です。
エストロゲンは、30代後半から徐々に減り始め、40代半ばになると分泌量がジェットコースターのように乱高下。ホルモンの大嵐によって、さまざまな症状が引き起こされます。
閉経後、エストロゲンが分泌されない状態で安定すると、多くの不調は治まります。
更年期は、心身を「エストロゲンがある状態」から「エストロゲンがない状態」に慣らしていくための期間ともいえるでしょう。

更年期症状がつらいのは、なぜ?

更年期症状がなぜつらいかといえば、検査をすれば「陽性」「陰性」とはっきり診断がつくものではない、ということも理由のひとつではないか、と思います。
もしインフルエンザにかかったなら、本人も周囲も「しっかり休んで治さなければならない」と考えますね。
けれど、更年期の症状は程度も現れ方もさまざまで、女性同士でも共通理解が成り立たないことも少なくありません。
さらに言えば、更年期はその時期が過ぎればいずれは終わるもので、更年期の不調が原因で死に至ることはありません。
心身ともにしんどくても、「死なない」。だから後回しにされる。

当事者はもちろん、社会的にも、更年期の問題に対する対策は後回しにされてきたという歴史的な背景もあります。
近年、「更年期ロス」に目を向け、対策をしていこうという動きも見られるようになっていますが、フリーランスで働く女性にとっては、なかなか実感がないかもしれません。更年期を理由に、クライアントに仕事のスケジュールやボリューム調整を願い出るのは、なかなかハードルが高いのが現実でしょう。
また、会社員のように同年代の女性と話す機会が少ないために、そもそも自分の不調が更年期の不調なのか、わからないまま頑張っている人もいるかもしれません。

更年期障害には、「ホルモン補充療法」一択!

更年期の不調は、QOL(生活の質)を著しく低下させます。当然、仕事のパフォーマンスだって下がります。
また、「更年期のせい」と我慢していた不調が、実は別の病気の症状だったということも少なくありません。
「死なないから」「そのうち終わるから」と1人で抱え込んでいては、更年期ロスにまっしぐら!
つらい症状があるならば、迷わず専門医を受診し、必要なら治療を受けましょう。
更年期症状のほとんどは、エストロゲンを補充するホルモン補充療法(HRT)によってやわらぎます。
HRTに使用するエストロゲンの量は、女性の健康維持に必要なわずかな量です。不正性器出血や乳房の張りなどのマイナートラブルは、続けるうちに次第におさまることがほとんどです。
さらに、エストロゲンを補充することで、骨粗鬆症や動脈硬化の予防、脂質異常症の改善にもつながります。

HRTを始めるなら、閉経前から閉経後の早期がベストタイミング。乳がんの既往がある方などHRTを選択できないこともありますので、まずは婦人科医に相談してみてください。

受診の目安は?

不調の感じ方は人それぞれで、「日常生活に支障がでる」と感じるラインも人によって異なります。とくにフリーランスで働く人は、仕事に穴をあけまいと頑張りすぎてしまう傾向があるでしょう。

受診をするか迷ったときは、不調の程度を目安にするのではなく、客観的な事実を目安にしてみましょう。
いちばんの指標となるのは、月経周期です。
更年期に入ると、月経周期にばらつきが見られるようになります。極端に周期が短くなり、1ヶ月に2回月経がきた、ということもあるかもしれません。こんなときは、一度、専門医を受診してみることをおすすめします。
更年期による月経不順の可能性だけでなく、別の病気による不正出血の可能性もあるからです。
更年期障害が疑われるときには、子宮・卵巣の検査やホルモンの血液検査、骨密度の検査などもして、HRTや漢方での治療を検討することになります。

更年期を、自分に目を向けるきっかけに

更年期の症状は、環境にも大きく影響されます。
ちょうど40〜50代は、子どもの受験、親の介護なども重なりやすい年代ですね。とくにフリーランスで働く女性は、「時間の融通がきく人」と思われて、いろいろなことを背負い込みがち。
更年期をうまく乗り切るには、周囲から頼られるさまざまなことを少し整理していくことも大事だと思います。
子どもも親も夫も、無茶振りしてくるクライアントも、全部自分以外の誰かでしょう? ガミガミ言っても、ジタバタあがいても、どうにもならない部分もあって当然で、そこに責任を感じすぎる必要はないと思うんです。

反対に、自分の健康課題は、自分で変えていける部分です。

「子どもは受験生なのにちっとも勉強しないし、夫は言わないと皿洗いひとつしないし、クライアントは言うことがコロコロ変わるし!」
……わかります。
そんな大変な状況になったら、まずやることはひとつ。

寝ましょう。

睡眠をしっかりとらずして、強大なストレスに耐えることなんてできません。睡眠不足は、脳の視床下部にダメージを与え、全身に影響を及ぼします。それが発端となって、ホルモン分泌も自律神経もさらに乱れ、更年期の症状もますます重くなってしまう。更年期症状がつらくなれば、仕事にもプライベートにもマイナス。
逆に調子がよければ、いろいろなことがうまく回りやすいものです。更年期をうまく乗り切ることは、自分のためだけでなく、周囲のためにもなるわけです。

自分以外の誰かのために使ってきた時間を、自分に振り分けてみる。
24時間の使い方を見直してみることも、更年期をすこやかに過ごす秘訣です。
負担になっていることがあるなら、家族や取引先と話し合うことも大切です。
更年期をきっかけに、生活習慣や時間の使い方を見直し、自分をもっと労わる生活へ。そしてホルモンに左右されないアフター・更年期を、自分らしく心地よく過ごせる女性が増えることを願っています。

取材・文/浦上藍子
出版社勤務を経て、2014年にフリーランスの編集・ライターとして独立。雑誌、ウェブでの記事制作、書籍のライティングなどを中心に活動しています。趣味はフラメンコと韓国ドラマ鑑賞。

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