見出し画像

スタートアップ企業におけるTシャツの役割を考えてみる

自分のキャリアはファッション業界から始まり、キュレーションメディアの共同創業、急成長したフィンテックスタートアップの初期メンバー、デザインファーム、そしてスタートアップを支援する側と変遷を辿ってきた。
そういったバックグラウンドからクリエイティブと企業の関係について考えることがあり、今回は「スタートアップ企業ではなぜ自社ロゴやメッセージを載せたTシャツを着るのか」について考えていきたいと思う。

そもそもTシャツとは

Tシャツの起源は必ずしも明確ではないが、アメリカ軍の兵士が着用した下着といわれている。
安価に大量に売られている。アパレル店の販売推進のためのネタとしてタダ同然の極端な安価もしくは無料プレゼントなどとして広告チラシなどに掲載されることもある。その一方で、1970年代当時の素材で作られたTシャツはマニアの間ではプレミア価格で取引されることもある。」

Wikipedia

もともとアメリカでも肌着で外出することは「恥ずかしいこと」とされていたが、1960年代後半あたりから自由を重んじるアメリカの若者が、大人たちが押しつける既成概念を打破して自由に着用するようになった。

Wikipedia

元々は下着という機能的なもので安価であるものの、アイコンの登場によりその意味は変わり、ファッションアイテムになっていった。
またファッションアイテムに変遷する中で「既成概念の打破」という「思想」を纏ったことで着る人個人のアイデンティティを反映することが可能となったのだ。
このことからファッションは外見的な意味だけではなく内面(思想)の延長線上にあるものだと捉えることができる。

Tシャツが持つ特徴

1. メッセージ性

Tシャツはその出自から「反骨」「既存の価値観への挑戦」「自由」といった思想を元来から有していることから、メッセージ性を盛り込むのに最適なアイテムと言える。賛否は置いておいて、様々なメッセージが書き込まれたTシャツは世界中でみることができるが、奇抜なメッセージが書かれたポロシャツを見ることはあまりない。

2. 機能性

洗濯後もシワになりにくく、耐久性があるため扱いやすい。
それに加えてユニクロを筆頭とする高機能なものもあることから機能的なインナーとしても年代、性別問わず日常的に利用されている。

3. 価格

数百円から数万、数十万まで価格の幅が広い。自分が元々いたファッション業界では1枚数万のTシャツが普通に売れていた。
また希少なもので高価格なものがあるが、それらが「Tシャツ」の洋服としての機能性が著しく劣化していたとしても価値があるものとされている。つまりそのTシャツが持つ「意味」が機能を凌駕しているわけだ。

こうして挙げた要素以外にも特徴はあるかと思うが、とてもユニークなアイテムだと思うし、多くの人にとって馴染みのあるものだろう。

なぜスタートアップ企業はTシャツを作るのか

少しずつ本題に入っていくのだが、ベーシックなアイテムであるTシャツがスタートアップにとってどういった意味と効果を持っているのだろうか。
まず、どうして多くのスタートアップが自社ロゴの入ったTシャツを作るのだろうか?

その理由を推察すると以下のようなことが思い当たる。(もちろん他の意図を持っている企業もいるので全てそうだとは言えないが)

  1. みんな作っているから自分たちも作ろう

  2. PRツール

作るモチベーションには良し悪しがないが、スタートアップでは当たり前に作る文化があるし、着る機会もあるだろうからひとまず作ろうというテンションなのではないだろうか。

ちなみに過去に在籍したOrigamiではTシャツに限らず様々なアイテムを作成し、「販売」もしていた。もちろん自分自身購入したこともあるし、それらのアイテムはいまだに日常的に使っている。

ペン
Tシャツ
PVCバッグ

Origamiでこうしたアイテムが作成された真意はわからないが「自分たちの存在を認識し、認知してもらう」ためという理由が個人的にがしっくりくる。

  • 存在の認識

存在の認識とは「企業をそこに属する当事者が意識すること」ということだ。つまり帰属意識を持つためのアイテムだと言える。
帰属意識は例えば立派なオフィスに通勤して同じ空間を共有することで育むこともできるが、こうしたアイテムは立派なオフィスの代替えになることが期待できるし、昨今ではオフィスを持たない、もしくは遠隔でメンバーがバラバラという会社も多いのでこれまで以上に意味のあるものになっているのではないかと思う。

  • 存在の認知

対外的に自分たちをアピールするもの。ロゴを見せることはわかりやすいPRになるはずだし、自分たちが愛着を持って会社にコミットしている表明にもなる。

会社で作るアイテムをそこまで気にしないのが普通かもしれない(もしくは迷惑なものとして捉える方もいるだろう)が、Origamiにおいてはコンセプトメイクからアイテムの選定、制作まで強いこだわりを感じることができたため特別なものとして愛着を持つことができた。

カスタムTシャツの市場規模

やや話は脱線するが、国内外にはカスタムTシャツを作れるサービスは多くあり、1枚500円前後から製作ができ、小ロット、短納期を強みとしている企業が多く存在する。
2022年時点でアメリカのカスタムTシャツ市場規模は約5000億円、今後10年で1兆2000億円市場程度にまで成長すると見込まれている。日本に限ったデータは存在しないがおおよそ10分の1程度(2022年で500億円)の規模感ではないかとのことでカスタムTシャツサービスを利用したことがない自分としては想像よりも大きなマーケットだなと感じた。

既存のカスタムTシャツサービスの課題

ただ、既存のカスタムTシャツサービスを通じて製作されたTシャツは「手軽に誰でもコスト安く作れる」という一見大きなメリットに見えるが、実際はデメリットである要素が含まれていると考えている。
先述の通り企業が作るTシャツの価値を「自分たちの存在を認識し、認知してもらう」ものと考えた場合に「手軽さ」「低コスト」という要素が必ずしも良いことではないように思えるのだ。

  • 手軽さ

ここでは各カスタムTシャツサービスは人を介すことなく入稿画面から好きな文字やロゴ、画像を入力すればTシャツに印字でき、数営業日待てば手元に届くということを指している。

  • 低コスト

大量に生産されたボディ(印字前の無地のTシャツ)に指定の画像を印刷するという手法は低コストにサービスを提供するには素晴らしい仕組みである。

ではこの2つの要素がなぜ問題になるなるのか。
まず「手軽さ」であるが、手軽であるということはプロセスが簡略化されており、そこに遊びやこだわりの余地が少ないということを意味している。選択肢が増えれば悩むし、こだわれば時間がかかる。あまりに多くの選択肢の前ではそもそも選ぶことにストレスが発生するので、それは避けたいと思うものだ。
だとすればある程度形式に沿って選択肢を絞っていくことが決断を早め、思考のストレスを低減するわけだからみんな喜ぶはずだ。
では、少し視点を変えてそのTシャツに印字するロゴや社名は同じように手軽に作っているのだろうか。色味や形、意味など様々な想いを持って生み出されているはずだし、そこには相応の時間をかけているのではないかと思う。
だとすればそれを身に纏うTシャツ制作が手軽さだけ進むべきなのだろうか。PR効果を期待して作っているとすれば、他者との差別化もない同質なものになるし、帰属意識(チームのつながり)を醸成したいのであればあまりにも思考停止なもの作りになっているのではないだろうか。
無駄だと思うことにこそこだわりを持つことで意味が生まれるというのはファッション業界にいたときに感じていたことだが、まさにそうした工数をかけてこだわるという姿勢が必要ではないかと思う。
次に「低コスト」だが、価格が安いことが問題の根本ではなく、低コストで作れてしまうが故にこだわりを持つ必要性が弱くなってしまうという状況を生み出していることが問題だと感じている。こだわりがないものは破棄されやすいし、魅了的でもない。ファッション業界では大量の余剰在庫の発生が問題になっているが、こうした問題の大半は低コストでものが作れてしまう構造にあると考えている。またそうしたカスタムTシャツのボディに採用されるメーカーは大量生産、大量消費を前提としてビジネスが回っているはずだから、それらを採用することはサスティナブルではない可能性が高い。
また低コストを実現するためには人を介さないという選択が最善ではあるが、それでは画一的なものしか生み出されないし、各社の個性などそこに出てくるはずもない。

カスタムTシャツのポテンシャル

では企業がTシャツを作るにはどうすべきなのか。
単純なことではあるが、時間とコストをかけてこだわったものを作るべきなのだ。そういうと「自分たちにそんなお金の余裕はない」「投資対効果がわからない」という意見は当然出てくるだろう。
それらの意見の背景にあるのは「ただのTシャツ」としてそれらをみているからだと思う。例えばそれはマーケティングツールかもしれない。その場合CPA(自社サービスのユーザーを一人獲得する際のコスト)で考えるのが妥当ではないだろうか。Tシャツは四六時中着ることができるので、CPAは相当低いのではないだろうか。他にも社員同士の結束を高める目的であるなら、それは採用や人材育成コストと比較できるかもしれない。
そうした視点を持つと必然的にコストをかけて真剣に検討する必要性を感じていただけるのではないかと思う。

特に起業直後のスタートアップの場合、自分たちの味方が少ない状況だと思う。そんな中自社のTシャツを着てくれる人が増えることは「応援しているよ」という声がけ以上に精神的な支えになるのではないだろうか。そんなアイテムに工数とコストをかけることは無駄なのだろうか。

Tシャツに限らずであるが企業ノベルティの約60%が新品の状態で破棄されるという調査を見たことがあるが、これらはまさに意思のないモノづくりの当然の結果であると言える。こうした状況は変えていくべきなのだ。

じゃぁどうするのか?

今回の記事の本題といえば本題になるわけだが、現状を嘆いていても仕方ないわけで自分にできることは何なのかを考えてみた。
実は今回、Origami時代の同僚であるYuichiさんのプロジェクトをお手伝いすることになった。
彼はOrigamiで作った様々なアイテム(上記の写真全て)をディレクションした人物で現在は自身のショップZOO.の運営と企業のスワッグ(ノベルティ)やユニフォームのディレクションをしている。

ZOO. x leequra
ZOO. x KAY
レンチキュラーステッカー(ステッカーの発売に合わせたノベルティ)_freee株式会社
キャップ_freee株式会社

ここではごく一部の紹介にはなっているが他にも様々な企業や、業種問わずショップユニフォームの依頼を受けている。
僕自身も会うたびにその知識の深さとセンスの良さに刺激を受けており、彼のクリエイティビティを必要とする企業との橋渡しができたらと考えている。

今回サポートをさせていただくにあたり、Yuichiさんと会話を重ねたが以下が印象的なコメントだった。

「Origamiの時は、配布ではなく物販だったという事もあったので、とにかく他社がやっていないようなアプローチで発案し、人を絡める際も有名ではなく、むしろ無名もしくは、これから必ずという方にアプローチしてました。」
「 値段じゃないんですよね、どれだけオリジナリティが含まれているか(その人らしさ、企業らしさ、お店らしさ) あとは、そのTシャツを見た瞬間にどんなに小さくてもいいので、刺激や感動を与えられるか、この目に見えない隠し味がポイントになると思ってます。社員の方が普段から着たいと思えるTシャツをいかに製作するかにこだわりたいですね。」 


と、長々書いてしまったが興味を持っていただけたら以下にコンタクト、もしくは自分のインスタアカウント宛に連絡をいただければと。
http://zoo-tokyo.jp
依頼するしないは置いておいて、そのクリエイティビティにワクワクしていただければ嬉しい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?