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日本企業でイノベーションが生まれない理由 世界標準の経営理論#5

日本企業からイノベーションが生まれにくい理由は何だと思いますか?
「上司の頭が固いから」「お金がないから」「独創的な発想を持つ人がいないから」など色々考えはあると思います。今回は経営学からみた理由を、入山章栄さんの『世界標準の経営理論』の12、13章に沿って紹介したいと思います。

イノベーションとは

そもそもイノベーションとは何でしょうか。経済学者のジョセフ・シュンペーターは「新結合」と表しています。ざっくりいえば知識Aと知識Bを足して新しい考え方、知識Cを作ることです。よく言われる、アイデアは既存のものと既存のものの組み合わせ、ということですね。

知の探索と知の深化

では「知と知の組み合わせ」がイノベーションなら、その知とは何でしょうか。知とはそのまま、会社が持っているノウハウや個人の経験などです。だったら今の会社が持っている知の中から組み合わせればイノベーションが起こるじゃないかと思うかもしれませんが、そう簡単ではありません。すぐに行動に移せるような、リスクもコストもかからないようなものはほぼやりつくされています。「結合」なわけですから、革新的でないといけないわけです。ではどうすればいいのでしょうか?

そこで、前回の記事の限定合理性を思い出してください。まだ読んでない方はこちらから読んでみてください。限定合理性という前提から、認知には限界があるから、有用な知は認知の外にあるんじゃないのかと考えることができます。

そこで出てくるのが、スタンフォード大学のジェームズ・マーチが提示した「知の探索」及びその対立概念である「知の深化」です。この二つの定義は、

知の探索はこれから来るかもしれない「新しい知の追求」である知の深化は「すでに知っていることの活用」である 。(筆者意訳)

と広く認識されています。簡単に言えば新しく探してくるのが探索今持っているものを磨くのが深化といえるでしょう。

そして、上にも書いた通りぱっと思いつく組み合わせはやりつくされていますから、新しい知を生み出す(イノベーションを起こす)には認知の外にある知を探索し、新しい知を得ることが必要です。例えるなら既存の知識Aと知識Bのほかに、外から知識αや知識βなどを持ってくるイメージです。

しかし、新しい知を得るだけでは商売になりませんから、知の深化、つまり既存知の活用が必要なわけです。ある組み合わせが儲かると思ったら徹底的に深堀り、ブラッシュアップして収益化できるようにすることこそが知の深化です。

コンピテンシートラップ

なるほど、知の探索と知の深化をやればいいんだと早合点してはいけません。理屈ではわかっていても、現実にはある問題があります。それは、

どうしても知の探索が怠りがちになり、知の深化に傾斜する傾向があるのだ。
なぜなら知の探索は、理屈ではわかっても、実際にその行動を持続するのが難しいからだ。

と本書にあります。なぜ知の深化に偏ってしまうのでしょうか。

知の探索には多大なコストとリスクが伴います。個人で想像してもらうと分かりやすいですが、新しいことを始めるとき、精神的にも経済的にもコストがかかりますよね。加えて、必ずそれが結果に結びつくとは限りません。新しく茶道の習い事を始めたからといってそれが実生活にアイデアとして生きてくるかはわかりません。不確実性が高いのです。

一方で知の深化はどうかというと、既存知の活用ですので相対的に見通しは立ちますし、コストも小さいです。よって「短期的に合理的」に考えるならば、知の深化に偏ってしまうのです。その結果、中長期的なイノベーションが枯渇してしまうのです。この現象を経営学ではコンピテンシートラップと呼びます。

これの良い例が日本の大企業の新規事業開発部です。こういった部署は、新しい分野の開拓と意気込んで設立されます。この部署の目的は知の探索です。しかし上に書いた通りコストもリスクもかかりますから、予算に対して結果が伴わないことが多くあります。結果3年目ごろには結果が出てないため予算が回ってこなくなり、予算がないので探索が行えないという負のスパイラルに陥り、機能しなくなります。企業側が儲かっている事業(知の深化)に予算を回すのは短期的には合理的な判断です。

つまり経営学的に最初の問いであるイノベーションが起きない理由に答えるならば、「日本企業の多くはコンピテンシートラップに陥っているから」だといえます。短期的にリスクの少ない行動を合理的に追求した結果イノベーションが起こらないのです。これはあくまで肌感覚ですが、新しいものやリスクを避け、安定しているものだけを見る日本人らしい帰結だと感じます。

本来イノベーションを起こすには知の探索と知の深化の両方を行う、いわゆる両利きの経営が必要です。ではコンピテンシートラップに陥ってしまったらどうやって知の探索を押し上げればいいのでしょうか?

両利き経営を進めるには

両利き経営を進めるために連略レベルで必要なのはオープンイノベーション戦略とCVC戦略です。

オープンイノベーションは、企業が他社やスタートアップと連携して新しい知を生み出す試みの総称です。ニュースでもよく話題になってますね。

CVCというのは、コーポレートベンチャーキャピタルの略で、企業がスタートアップに投資しながら時に連携を図ることです。定型と投資を同時にやるイメージです。

またほかにも新しい企業への出向や、新規事業部の評価体制を変えるなど様々な対策がありますが、読んでいる方に一番有益であろう1人ダイバーシティについて紹介します。

1人ダイバーシティとは

そもそもダイバーシティとは多様性です。よく言われているのは人材の多様性で、様々な経験や価値観から異なった知を持ち寄ることで創造的なアイデアが生まれると考えられています。

しかしダイバーシティは1人でもできます。要は異なった知を持ち寄ればいいわけですから、すごく単純に言えば知見を広げればいいのです。

今日本で革新的なことをやっている人、例えば幻冬舎の箕輪さんやキングコングの西野さんなどは多くの肩書きを持っています。それだけ認知の範囲広く、個人の中でイノベーションが起こりやすいのでしょう。

最後に、個人的に日本人で最も革新的な人だと感じている高城剛さんの言葉を紹介します。

「アイデアは移動距離に比例する」

同じような言葉を様々な人が言っているので高城さんが言い始めたかは定かではありませんが、彼はまさにこの言葉を体現しており、私の尊敬する人の一人です。動くことで認知の範囲が広がり、既存知と混ざって新たなアイデアを生み出すのでしょう。

皆さんも良いアイデアのために今日からいつもと違う道を通るとか、知らない店に入るとか認知の範囲を拡大してみてください。

まとめ

・イノベーションは知の組み合わせ

・イノベーションが起きない理由はコンピテンシートラップ

・個人レベルの対策は認知の範囲を広げること

以上が入山章栄さんの『世界標準の経営理論』の12、13章の要約でした。他にもこれらの章では、知の探索はどの程度やればいいのか、や日本におけるイノベーションの例なども載っていますので是非読んでみてください。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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