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たったひとりで観ていた美しい宇宙のこと。


暗闇の中に居たとしても、美しいものに出会った時、心は震え、その瞬間、本来の自分を思い出すことができると思うのです。そしてその瞬間の魂の記憶はずっと残るのかもしれません。

誰にも言えなかった自分の闇。

私は高校生の頃、学校から家に帰り着く前に、一人でよく家から5分ほどの、さびれたゲームセンターに寄って1回100円のパックマンとかギャラガなんかのゲームを何分かやってから帰宅する。という日々を過ごしていた時期がありました。この時代はちょうどインベーダーゲームからはじまったテーブルゲームが流行っていた時代でした。(年齢がバレますね(笑)
今のゲームセンターとは様子が違って、だだっ広い店内にはテーブル型のゲームがただずらっと並んでるという風景。

よく考えたら、このことは誰にも話していなかったです。当時はそんな自分の部分は闇だと思っていたので、誰にも言えなかったのです。

高校生といえば多感な年頃ですから、無意識に鬱積されていく日々が整理されないまま在って、たとえば学校の友達にもなんとなく馴染めない感じがあって心から笑えない。うまく心を開けない。って思っている。でもこの世界で生きていくには、みんなについていかなければならない。と感じていた自分。多分私は、ゲームをすることで、というより、そのさびれた場所で、そこに居る人は自分とゲーム以外には無関心で、ただひたすらゲームに向かいあっているという空間に一旦、身を置くことで自分に戻ることができたのです。それに、なんだか自分と同じように、闇を抱えている人ばかりだったような気がしたのかもしれません。

自分像のギャップ

ある日、いつものようにそのさびれたゲームセンターでゲームをしていたら、そこにいた真面目そうだけど、ちょっと冴えない感じの年上の男の子に「お茶をしませんか」と声をかけられました。いわゆるナンパですね。
当時の私は焦ってしまって断る勇気さえもなくて、お茶をしました。何を話したのかさっぱり覚えていませんが、相手の話に作り笑いをしながら、早くこの時間が過ぎるといいな。と思っていたと思います。当時の私は、こんな闇の場所で闇の中にいる状態の自分に声をかけるってありえない。きっと危ない人だ。と思いました。自分は闇を抱えているけれど、闇を抱えた人とは友達になりたくなかったのです。だって本当の自分はキラキラしているなんの闇もない高校生のはず。でしたから。
ゲームセンターは家が近くだったので、別れた後も家がバレないようにわざと遠回りをして帰った記憶があります。そんなことがあって、また翌日もその子が居たら嫌だな。と思って、そのゲームセンターにはその日以来行けなくなってしまいました。

場末のゲームセンターで見た景色

なので、しばらくはゲームセンターに行くのは諦めていたのですが、そのうちに我慢ができなくなって、ほかの場所を探すことにしました。とにかく、当時の私には「誰にもいえない闇の時間」が必要だったのです。
そして、やっと見つけたのは家のある駅から2駅離れた場所のパチンコ屋さんの二階にあった、かなり場末感のあるヤバそうなゲームセンターでした。高校生の女の子が夕方にひとりで入るのにはさすがに勇気がいる場所でしたが、当時はゲームセンター自体も少なくて、とにかく「あの時間を取り戻したい」と思っていた私は、危険をかえりみず思い切って入ってみることにしました。

店に入ってみると、予想以上に暗くて狭い空間で、結構人が入っていたと思います。若干ヤバそうな感じもしましたが、ここも同じようにみんな自分とゲーム以外には無関心そうだったので少しホッとしました。そしていつもやっていたゲームを探しましたが他の人がやっていて、仕方がないので他に面白そうなゲームで待ち時間を潰せないか狭い店内を見て周り、そこで誰も座っていなくて、人気がないのか1台しか置かれていないゲームに目がとまりました。

それは、それまでもそのあとも見たことのないゲームでした。

画面はとてもシンプルで、宇宙のような暗闇の背景の中に、銀河のように星があって、今はどんなものだったか詳細までは思い出せませんが、星と星を当てていくようなゲームだった気がします。そして一つの星がぶつかりあった時になんとも言えない美しい音が響いて、星の波紋が画面に広がります...。その音と画面の美しさに、私の胸の奥にある弧線が震えました。

それからは、そのゲームを見たくて、学校帰りに途中下車して、ちょっと危ない感じのするその店に何度か通いました。

窓の外にはパチンコ屋さんのネオンがギラギラしていて、女の子なんて一人も来てないような暗くて狭い場末の空間の中で、あの時、私がひとり観ていた世界はココロが震えるほど美しい世界でした。

いつのまにかそのゲームセンターに行かなくなったのですが、多分ゲーム機の入れ替えで、そのゲームがなくなってしまったんだったと思います。しばらくはそのゲームを探していましたから...。

記憶される魂の震え

それにしても、この頃のことなど思い出すことはほとんどなくて、今日、なぜかふと思い出しました。私の中の記憶には普通の高校生活だけだったように思っていたので、ゲームセンターに通っていたこと自体、ほんの短い間だったと思うのですが、記憶の片隅に残っていたことに自分でもびっくりです。そしてきっと今そのゲームを見つけたとしても、そんなに大したゲームではなかったのだろうと思います。子供の頃や若い頃の感動が忘れられなくて大人になって探し出したものは大抵、期待外れなもので終わりますから(笑)でも、その時の感動、胸のたかぶりって意外と忘れていないのです。

今日、当時を思い出しながら、あの時と同じように胸の奥にある弧線が震えて、じんわりとしたなんともいえない気持ちが胸いっぱいに広がってきて、改めて思いました。美しいものに触れた時のその感触と魂の震えみたいなものは、ちゃんと私の中に当時のまま残っているのだと。




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