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ディスレクシア、って、なん?

日本でディスレクシアへの活動を展開しているNPO団体EDGEでは、文の中では端的に「読み書き困難」と表現しています。
ディスレクシアの定義については、WHOが出しているICD-11(国際疾病分類第11回改訂版 2021.5ver.)や、国際ディスレクシア協会の定義や、発達性ディスレクシア研究会(日本)の定義などいろいろあるようなのですが(*1*2)、定義の文章が長いです。
主に、以下のような内容が表現されています。
1。神経生物学的原因に起因する。
2。文字の音韻化・音韻に対応する文字の想起における正確性や流暢性に困難がある。
3。年齢や全般的知能の水準からは予測できない。
音韻と文字の結びつきの問題なので、文字が音を表す系の言語(英語とか)と、文字が意味を表す系の言語(中国語とか)とでは、現れ方(主に年齢)が違ってたりします。(*3)

なぜ、こんなややこしいこと表現なのかというと、それはディスレクシアが起こる原因がだいぶ解明されてきているからであり(1番)、
かつ、単純に「文字が読めない書けない状態」なのではなく、2番の「困難性」を様々な方法でカバーする努力をすると、一定程度読んだり書いたりできるので、こんな複雑な表現になるのだと思います。
でも、ある程度読んだり書けたりしても、文字の音韻化や、音韻に対応する文字の想起に困難を感じることに違いはなく、知的職業についている人でも、苦しんでいることがあります(3番)。
例えば、医者になったディスレクシアの人や、通訳のディスレクシアの人もいます
医者や通訳になれるなら、困難じゃないんじゃないの? と単純には考えてしまうんですが、困難なのです。その具体的なことの内容は、別の記事で書きたいと思います。
そうして、1にある「神経生物学的原因」が、私が「自分に合った学習法」について「科学的に主張しても良いのだ」と思った理由となる内容なので、それも、別記事に書きます。たぶん、長い。これも、長い。注が、長い。

*1
ここで問題にしているディスレクシアは「発達性ディスレクシア Devlopmental dyslexia」で神経生物学的な症状のものです。ほかに「後天性ディスレクシア Acquired dyslexia」と呼ばれるものもあって、こちらは事故などの脳損傷が原因で読み書きの能力が失われてしまう症状のことを言います。
*2
今回の定義は、ロンドン大学教育研究所とディスレクシア・インターナショナルが共同で開発したSupporting children with difficulties in reading and writingというコース授業の内容を主に参考にしています。このコースはMOOC(Massive  Open Online Courses)の一つであるCourseraで提供されています。修了証書(Certification)が不要だったら、無料で受けられます。日本語字幕もついていますし、確か最後に日本語の翻訳が全部載ってます。この日本語訳は書籍化もされましたが(EDGEによる)、2022年1月現在は販売していないようです。私は2018年に受講しました。
*3
文字が音を表現している時、文字と音の結びつきの強さを「透明性 transparency」と表現することがあります。「透明な言語 transparent language」と呼ばれたりするわけです。比較的新しい文語のフィンランド語は透明性が高い。一方、英語は長い歴史的経緯の中で、透明性や規則性が低くなってきました。bookはboookのように長母音で発音されていたのが、短母音に変化した、といったふうにです。
透明な言語に対し、文字が(一定の音の要素も含むものの、主に)意味を表現するものを「表現言語 logographic language」と呼んだりします。日本語も漢字はこれに近いですよね。図書、図書館の二つの単語に使われている文字は意味の共通性がありますが、book とlibraryは文字の中に意味の共通性はありません。
日本でディスレクシアの研究が遅れているのは、幼児期に用いるひらがなは透明性が高いこと、そして漢字は表現言語なので、音と文字の結びつきが問題となるディスレクシアの発現が、英語等に比べて遅い(年齢が高くなる)ため、と考えられています。


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