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デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

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ぼくが僕になるまでの物語です。ありったけの魂を込めましたので、ぜひお読み下さい。
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2019年4月の記事一覧

デリカシーのないぼくが僕になるまで

デリカシーのないぼくが僕になるまで

★ギュルルルルル。キュルル。

 父さんの頬は赤い。テーブルには飲み干したビールの缶と、ふたを開けたもう一つの缶。テレビからの音。高い音。チカチカと瞬くカラフルな色。笑い声。
 ぼくはひっそりと席を離れた。ふとももの下に手を差し込む。イスの後ろ足を空中に浮かす。少しづつ後ろへ━━。
「ちょっと待て」父さんはテレビを消す。顔がこっちに向く。赤い。首が傾き斜めに伸びている。「食器はいいからそこに座れ。

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デリカシーのないぼくが僕になるまで

デリカシーのないぼくが僕になるまで

★少しの間、これでしのいでおいてくれ

 ミユが目を醒ましたようだったので、僕は椅子の背凭れから胸を剥がしキッチンへと向かった。ツマミに手をやり、テフロン製のフライパンと小ぶりの鍋を火にかける。火が付くと、僕は背中越しに、役割を果たし終えた弾道ミサイルのようにソファに身体を横たえているミユに向かって、「よく眠れたかい?」と声をかけた。両雄の調理器具に熱が行き渡るまでには、まだまだ時間がかかりそうだ

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デリカシーのないぼくが僕になるまで

★協定その九:人を連れてきてはいけない。

「前から聞こう聞こうと思ってたけど、何でこんな大量に本を読むことになったんだ?うちの父親と母親なんてこれっぽっちも読みゃしないぜ」
 今でさえ読書の真っ最中だ。暇な時間さえあれば小説、教科書と読書に励んでいる。これほど読みこなしていれば一日少なくとも百個の熟語を新たに習得しているはずだ。毎日が新しい発見。世界は驚きで満ち溢れている。甲野さんは本から目を

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★ギュルルルルル。キュルル。

 父さんの頬は赤い。テーブルには飲み干したビールの缶と、ふたを開けたもう一つの缶。テレビからの音。高い音。チカチカと瞬くカラフルな色。笑い声。
 ぼくはひっそりと席を離れた。ふとももの下に手を差し込む。イスの後ろ足を空中に浮かす。少しづつ後ろへ━━。

「ちょっと待て」父さんはテレビを消す。顔がこっちに向く。赤い。首が傾き斜めに伸びている。「食器はいいからそこに座れ

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