ロックダウンは百害あって一利なし


#STAYHOME至上主義に対する疑問

最近、#STAYHOME(家にいよう)がSNS上でバズワードになっている。COVID-19の世界的な感染拡大を受けて著名人、一般人関係なく、ツイッターやフェイスブックでこのハッシュタグを付け、自分の友人たちやフォローに対して、感染を広げないように家から動かないように促している。

また、それと同時に外出している人に対する当たりが強すぎる人が多いのではないかと感じる時が多々ある。彼らは不用意な外出をしている人々を批判し、アメリカでロックダウンに反対して抗議の声を上げている人々に対してひどいときには犯罪者というレッテルを張るという傾向が見られる。

私はこれらの人々をSTAYHOME至上主義者と評する。確かに自分が外出してコロナウィルスを家に持って帰ることによって家族の誰かに移すかもしれないし、ウィルスが移った人が高齢、又は既存の疾患がある人は最悪の場合それが生死にかかわるかもしれない。その懸念は理解できる。

しかし、これらの人々は心のどこかでロックダウンという政策が全てを解決すると思っているのではないだろうか?国民の全員が政府からの給付金さえ貰うことができたらロックダウンを続けることができると思っているのではないだろうか?

政府が法的な力を利用し、国民を強制的に家にとどまらせ、医療崩壊が起こることを未然に防ぐことは傍から見たら”良い”政策だと思うかもしれないが、STAYHOME至上主義者たちはロックダウンが抱える副作用に気づいていないのではないかと思う。本稿ではその副作用について論じたいと思う。


ロックダウンのトレードオフを政府は補填できない



 上記で述べたように、医療崩壊を防ぐことで、重度の症状のコロナ患者を収容するスペースを病院内に割くことができる、というようなロックダウンの長所は存在する。しかし、同時にこの政策はトレード オフが存在する。経済活動の停止がそれである。大企業ならテレワーク(在宅勤務)の環境が整っているため、例えロックダウンをしても業務にあまり影響がないかもしれないが、大多数の企業は店を閉じざるを得ない。

そして、ロックダウンによって生じるトレードオフは補填するため、各国政府は国民や企業に対し給付金や休業支援という形でロックダウン期間中を凌いでもらうように努めている。しかし、現実問題としてロックダウンによって生じるトレードオフを政府が補填することはとても難しい。

各個人の生活環境の違いにより、国民一人ひとりがロックダウン期間中にどれぐらいの量のお金が必要かを把握できないからである。例え、10万円を国民一律に配ったとしても、家賃、生活費が高い大都市に住む人はお金が家賃にほとんど持っていかれるだろうし、田舎に住んでいる場合は逆に余裕がある。また、企業の規模の大小、業種によっても必要な資金は大きく変わってくる。本当にお金が必要な人々に対しピンポイントで給付することがひとつの手段かもしれないが、これには公平性の面で問題がある。よって各国政府が行っている経済支援によって企業や個人を完全に救済することは困難である。

そして、実際の数字がそれを表している。エヌエヌ生命保険が三月下旬(日本での非常事態宣言出される前)に実施した全国の経営者への調査によると約357.8万社のうちの約157万4000社の中小企業が5月までに感染拡大が終息しなければ経営状態が厳しいとの見方を示した。そして、非常事態宣言が出され、それが5月以降まで続くと決定され、しかも休業支援に関する法案がまだ審議中であるという現実があることから、経営状態が厳しいと答えた約157万4000社社は3月下旬よりさらに厳しい立場におかれていることが予測される。

他国を見ていてもロックダウンが経済に甚大な被害を与えているという現状は変わらない。アメリカではロックダウン政策が実施されてから6週間後には失業者数が政府公式発表で3360万にまで上り、中国では7000万の人々が職を無くすと危惧されている。また、航空会社のほとんどが各国が実施する渡航制限の影響で便の数を大幅に減らしたことで、従業員を大勢解雇したり、倒産に追い込まれている会社が激増している。

仮に、政府が各個人や企業の状況に合わせて柔軟に支援できるだけの財源があったとしても、これだけの数の人々がロックダウンによって職を失ってしまえば、政府機関がパンクするのは目に見えていることである。

よって、ロックダウンの副作用である経済活動の停止を経済支援で補填するのが困難な以上、ある程度のソーシャルデイスタンスを保ちながら経済活動を続けることが現実的な策である。


ロックダウンはウィルスの感染拡大を遅らせるものであり、治癒するものではない

STAYHOME至上主義者たちロックダウンを解除し、経済活動を再開させることを問題とする。そして、感染者が一気に増加し、死者もそれに応じて増えることが予測される(実際にそうなる)と批判する。それゆえ、ロックダウンを長引かせる必要があると彼らは主張する。

彼らがロックダウンを長引かせる必要があると思っているのは恐怖心があることに加え、ワクチンができるまで待てば、ロックダウンの解除によって生じる死者を未然に防ぐことができると考えているからであろう。

しかしながら、多くの人にとっては経済がそのまま停止した状態にあるということは生活にかかわる問題である。倒産する企業が増えれば、政府機関の仕事が増え、給付金を配ることがますます遅くなる。また、最短で見積もると1年半でワクチンができると言われているが、大多数の人はワクチンができるまで仕事がない状態では待てないし、仮にワクチンが出来たとしても、治癒薬ではないため、死者は引き続き増えていく。

そのため、希望的観測でいたずらにロックダウン期間を引き延ばすことは無責任であることをSTAYHOME至上主義者は認識しなければいけない。


ロックダウンは人を殺す

最後にSTAYHOME至上主義者たちは自分たちが主張する政策によってコロナに感染して死んでしまう人を助ける一方で、自殺者を増加させることを理解しなければいけない。

この記事でたびたび述べたように、ロックダウンは経済を完全に停止することを意味し、経済苦に陥る人が増加する。それによって、生活がままならない状況が続き、将来に希望が見いだせない状況に陥ってしまえば自殺を考える人が出てくると考えるのは当然である。

実際に日本は不況により自殺者が激増する経験をしている。バブル崩壊を受けて、1997年から1998年にかけて日本の自殺者数は約8000人増加した。また、その影響は2000年代初頭まで続き、2004年には自殺者が観測史上最大の数である3万4427人に到達した。

そして、一部のメディアでは1930年代の世界恐慌を超えるものになると言われている。コロナ不況という状況下で経済を止めるということは深刻な経済苦に陥ることになる人の数を増やすことにつながり、下手すれば2021年までに自殺者の数が大幅に増えることを危惧しなければならない。

コロナウィルスが人を殺すように、ロックダウンによってもたらされる経済苦も人を殺すのである。それゆえ、STAYHOME至上主義者たちは自分の主張が誰かの命を奪うことに繋がるかもしれないことを考えながら、自分の主張を行ってもらいたいし、それが分かれば安易にロックダウンの継続など口にすることはないであろう。

長期的なロックダウンは選択肢としては考えられない

断っておくが、自分はロックダウンには完全に反対ではない。短期的なものであれば社会に与える利益は大きいと思っている。国民の移動を制限することにより、コロナの感染者の増加に対応しながら医療関係者が病院のベッドや医療器具を調達する余裕を与えられることができる。

問題なのは社会全体に甚大な被害を与える長期的なロックダウンであり、その被害を看過するSTAYHOME至上主義者たちの存在である。

我々が直面しているウィルスはまだまだ謎が多く、恐怖心があるのは当然であるが、コロナウィルスの全容はある程度分かってきている。死者が増加しているニューヨーク州の状況を見てみると、感染者の三分の二が70歳以上の高齢者であり、死者の99.2%は何らかの持病があった。このことから、コロナウィルスは、高齢者と基礎疾患がある人を除いては、ほとんどの人にとっては死に至る病ではないのである。そして、ロックダウンで苦労しなければならないのは、その「ほとんど」の人々なのである。

最大多数の最大幸福という視点から人の命の重さを図ることは苦しいものではあることは疑いようがない。しかし、このまま恐怖心に負けて、長期的なロックダウンを続けてしまえば、コロナ以外の理由で死ぬ人が増えることを覚悟しなければいけない。だからこそ、コロナウィルスを正しく怖がり、正しく対処する必要がある。

日本、フランスを含め、少なくない数の国が事実上のロックダウン近い状態を続けることを決定したが、今一度この政策を遂行することが、しないことに比べて本当に意義があることなのかということを政府関係者には考え直してもらいたい。



参考文献

https://thehill.com/opinion/healthcare/494034-the-data-are-in-stop-the-panic-and-end-the-total-isolation?amp

https://europe.nna.jp/news/show/2035253

http://agora-web.jp/archives/2045741.html?fbclid=IwAR0WVkDW2i8gMFf6MeI6eGd6Pl81coUQ-vuQYcNJF27tDVhQZXg3BMhx9Mo

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