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『ザ・トレーディング』イントロダクション全文公開!【試し読み】

全世界で500万部超の大ベストセラー!個人投資家、機関投資家を問わず、世界中のトレーダー・投資家にバイブルとして読み親しまれてきた『ザ・トレーディング』(アレキサンダー・エルダー著)、本書冒頭の「イントロダクション」を全文公開させて頂きます。

本ページにて本書を知った皆さま、トレーダーにとって唯一無二ともいえる実践的トレードの教科書『ザ・トレーディング』を、この機会にぜひご一読ください。


イントロダクション

01 トレーディング──最後のフロンティア

あなたは、自由に暮らすことができます。あなたは、世界中のどこにでも住むことができ、働くことができます。あなたは、日々の雑用から解放され、誰にも返答する必要がありません。まさに、これこそが成功したトレーダーの生活なのです。

多くの人がこのような生活を夢見てトレーディングをしますが、成功できるのは少数です。アマチュアのトレーダーは、眼前のモニターで株価が表示され、数百万ドルがピカピカと光り輝くのを目にします。彼は、そのお金を摑もうとするのですが、うまくいかずに損をしてしまいます。そこで、もう一度トライしますが、また失敗して、もっと多くの損をしてしまいます。

トレーダーが損をする理由は、トレーディングが困難なゲームだからなのか、彼が無知だからなのか、あるいは、規律を欠いたトレードをしているからなのか、のいずれかです。これらの問題であなたがお困りなら、本書はまさに、あなたのために書かれたのです。

●私はいかにしてトレーディングを始めたのか

1976 年の夏、私はニューヨークからカリフォルニアに向かって車を走らせていました。数冊の精神分析の本(当時は精神科の研修医1年目でした)と歴史の本、それにルイス・エンゲルの『ウォールストリート流株式投資必勝法』というペーパーバックを中古のダッジのトランクに投げ込んで出発したのでした。

友人の弁護士から借りた、ページの角に折り目がついたその本が、その後の自分の人生を大きく変えることになるとは、当時の私には知る由もありませんでした。ちなみに本題から逸れますが、弁護士の友人はどうしたことか、完璧な相場の曲がり屋(訳注:安値を叩き、高値を摑むトレーダーのこと)であり、彼が関わった投資はことごとく水面下に沈んでしまうのでした。

私は、米国を横断中にキャンプをしながらエンゲルの本を斜め読みし、カリフォルニア州ラホヤの太平洋に面したビーチで一気に読み終えました。株式市場のことはまったくの門外漢でしたが、頭を使ってお金を儲けるというアイデアが、私の心を摑みました。

かつての米国大統領の言葉を借りれば、私は「悪魔の帝国」と呼ばれたソビエト連邦で育ちました。私はソビエトの政治体制を憎み、国外に逃げ出したかったのですが、移住は禁じられていました。私は、16 歳で大学に入学して22 歳で医学部を卒業し、研修医を修了すると船医の職に就きました。そして、ついに自由になる、その時が来たのです。

アフリカのコートジボワールの首都アビジャンに停泊中のソビエト船から逃走したのです。私は同僚の船乗りたちの追跡を振り切って、アフリカの港町の混み合った埃っぽい路地を走り抜け、米国大使館に逃げ込みました。大使館は私を「安全な隠れ家」にかくまってくれた後、飛行機に乗せてニューヨークまで送り届けてくれました。

こうして私は、1974 年2月、わずか25 ドルの所持金とともに、ケネディー国際空港に降り立ったのです。英語は少しだけ話せましたが、この国の資本主義の精神については何も知りませんでした。

株式、債券、先物、オプションが何なのかもさっぱり分かりませんでしたし、財布の中のドル紙幣を見るだけで不安な気持ちになることもありました。かつて暮らしたソビエトでは、一握りのドル紙幣を持っているだけで、3年間はシベリアでの強制労働の刑を科されたからです。

このようなバックグラウンドの私にとって、それまでにまるで見たことのなかった世界を示してくれたのが『ウォールストリート流株式投資必勝法』だったのです。ニューヨークに戻ると、生まれて初めて株を買いました。キンダーケアという会社の株です。それから、非常にまずいことが起こりました。最初のトレードで儲かり、その次のトレードでも儲かりました。そのことで、金融市場で金儲けをすることは簡単だという幻想を抱いてしまったのです。この誤った考えを払拭するのに数年を要しました。

一方で私は、精神科医としてのキャリアを順調に進みました。有名な大学病院で研修医としての期間を修了し、ニューヨーク精神分析学院で研究し、米国の大手精神分析専門誌の編集職に就きました。今でも医師免許を持っていますが、精神分析医として費やす時間はせいぜい月に1、2時間に過ぎません。私はトレードに忙しく、旅行が大好きで、またトレーディングを人に教えることもしばしばです。

私にとってトレーディングを学ぶことは、長い旅のようなものでした。儲かって有頂天になったこともあれば、損をして落ち込んだこともあります。そうしたことを繰り返した挙げ句に、私の資金は底をつくのでした。その度に、本業の医師として病院の仕事に戻って資金を作り、関連する文献を読んだり、考えたり、より多くのバックテストをしたりして、トレードを再開しました。

こうして私は、トレーディングが少しずつ上手くなっていきました。しかし、本当の意味で壁を打ち破ることができたのは、勝利の鍵は、コンピューターの中ではなく、自分の頭の中にあることに気づいたときです。私は精神医学を通してトレーディングの本質を理解しました。それを皆さんと分かち合いたいと思います。

●あなたは、本当に成功したいのですか

私には長い付き合いの友人がいて、彼の奥さんはとても太っていました。彼女は着こなしがエレガントで、知り合ってからはずっとダイエットを試みていました。彼女は体重を減らしたいという理由で、人前ではケーキやポテトを食べませんでした。

しかし、キッチンに足を踏み入れると、大きなフォークで食べ物を口に運んでいる姿をよく目にしたものです。こうして彼女は、やせたいと口では言いながら、太ったままでした。彼女にとっては、すぐに手に入る食べることの喜びが、長い時間をかけなければ手に入れることができない減量の喜びに勝っていたのです。ダイエットに失敗し続ける友人の奥さんと、成功を夢見るものの、マーケットで短期的なギャンブルのスリルを味わうために衝動的なトレードを繰り返している非常に多くのトレーダーには共通点があります。

人は自分を欺いて、自分自身といたちごっこをしているのです。他人に噓をつくのもいけないことですが、自分自身を偽ることは救いようがありません。書店にはダイエット関連の良書があふれていますが、世間には依然として肥満した人が山ほどいます。

本書は、マーケットをどのように分析し、トレードし、リスクを管理し、自分自身の心理にどう対処したらよいのかを解説します。私にできることは、これらの知識を与えることです。一方で、あなたができることは「トレーディングを学ぶのだ」という、やる気を出すことです。

そして、以下のことを肝に銘じてください。危険を伴うスポーツを楽しむプレーヤーは、安全のためのルールに絶対に従わなければなりません。衝動にまかせたトレーディングは、死に至るほどに危険なものです。成功を確かなものにするために、自己防衛的な資金管理を実践してください。スキューバダイビングのプロが酸素ボンベのメーターを注意深くチェックするように、優秀なトレーダーは資金の増減をチェックしています。

02 心理が成功の鍵を握る

あなたが最後に売買注文を出したときに、どのように感じたかを思い出してください。ポジションを持ちたくてウズウズしていましたか、それとも損をするのが怖くて仕方なかったでしょうか。注文を仲介業者に出すときに、電話の受話器を取るべきか、取らぬべきか、ためらいましたか。ポジションを手仕舞ったときに気分は高揚していましたか、それとも損をして屈辱を受けたような気持ちでしたか。数千のトレーダーのこうした感情が、マーケットを動かすほどの巨大な心理の大波を作り出すのです。

●ジェットコースターから飛び降りる

大多数のトレーダーは、勝算のあるトレードを探し求めて時間を費やします。しかし、ひとたびトレードに入ると、ポジションを管理しないまま、苦痛に顔をゆがめたり、喜びから笑みを浮かべたりします。彼らの感情はまるでジェットコースターに乗っているかのように揺さぶられ、トレーディングで勝利するために欠かせない感情の制御ができなくなっているのです。自分を見失えば、リスク管理はお座なりになり、その結果、損をしてしまいます。

あなたの心がマーケットとうまくつながっていないか、あなたが群衆の心理が変化していることを見過ごせば、トレーディングで儲けられるチャンスはありません。成功しているすべてのプロトレーダーは、人間の心理が桁外れに重要であることを熟知しています。損をするアマチュアの大半は、このことに気づいていません。

私が精神分析医であることを知る友人や学生から、トレーディングに精神分析が役立つのか、という質問をよく受けることがあります。答えはイエスです。すなわち、優れた精神分析と優れたトレーディングには、共通する1つの重要な原則があります。

それは、両者とも現実に焦点を当て、先入観にとらわれないで、世界をありのままに見ようとすることです。健全な生活を送るためには、目を見開いて生きていかなければなりません。同様に、優れたトレーダーであるためには、目を見開いてトレードし、真のトレンドや相場の反転を認識する必要があり、幻想や後悔、希望的観測などのために無駄な時間やエネルギーを使っている暇はないのです。

●トレーディングは男性のためのゲームなのか

証券会社のデータによれば、大半のトレーダーは男性です。私の会社、エルダー・ドットコムのデータからも、およそ85〜90%のトレーダーが男性であることが分かります。しかし、本書の元になったTrading for aLiving(邦題『投資苑』)を出版した21 年前に比べると、私の会社の顧客である女性トレーダーは2倍以上に増えています。しかしながら、「彼または彼女が」あるいは「彼」と「彼女」を併用するよりも「彼が」と書いたほうが文章の流れがスムーズなので、本書では「彼」に統一しています。もちろん、これは、多くの女性トレーダーに対する敬意を欠いているのでは決してありません。

事実、女性のほうが成功するトレーダーの比率が高いことが分かっています。グループとして見ると、彼女たちは男性より規律正しく、あまり傲慢になったりしません。

●本書の構成

トレーディングで成功するための柱は、心理分析、マーケット分析、そしてリスク管理の3本です。そして、トレードの記録をきちんとつけることが、この3本をまとめる役割を果たします。本書は、これらすべての分野の重要な項目を学ぶ助けとなります。

第1章では、トレード中に自分の感情をいかにして管理するのかについて教えます。私は、この方法を精神分析の臨床医をしているときに発見しました。それにより、私自身のトレーディングは大幅に改善しました。あなたのトレーディングにも、その効果があるでしょう。

第2章では、マーケットの群集心理に焦点を当てます。集団の行動は個人のそれに比べ、より原始的です。群衆がどのように振る舞うのかを理解すれば、彼らの感情の大波に飲み込まれることなく、逆にその感情の揺れから利益を得ることが可能となります。

第3章では、チャートのパターンが集団の行動をいかに反映しているのかを教えます。いわゆる古典的なチャート分析は、選挙の世論調査のような社会心理学であるといえます。相場のサポート(下値支持)やレジスタンス(上値抵抗)、ブレイクアウト、その他のチャートのパターンは、背後にある集団の行動を反映しています。

第4章では、コンピューターを駆使した現代のテクニカル分析の手法を教えます。テクニカル指標のほうが古典的なチャートのパターンよりも、群集心理を分析することにより適しています。トレンド系指標はマーケットのトレンドを見いだす助けになり、オシレーター系指標はトレンドが反転するタイミングを教えてくれます。

第5章では、群衆の行動を反映する出来高と取組高に焦点を当て、マーケットにおける時間の推移についても解説します。集団というものは集中力が続かず、価格の変化を時間の枠組みで捉えることができるトレーダーは集団に対して相対的に有利な立場にあります。

第6章は、株式市場全体を分析するための最良のツールに焦点を当てます。それらは、特に株価指数先物やオプションのトレーダーに役立ちます。第7章は、いくつかのトレーディングシステムを紹介します。まず近年、幅広く一般に受け入れられているトリプルスクリーン・トレーディングシステムの説明から始めます。次に、インパルスシステムとチャネル・トレーディングシステムを取り上げます。

第8章では、トレーディングの対象となる商品について論じます。それらは、株式、先物、オプション、外国為替証拠金取引(FX)などで、その利点と欠点について、業者サイドの宣伝を一切取り除き、客観的に論じます。第9章では、リスク管理という、この上なく重要なトピックに導きます。

大半のトレーダーは、トレーディングで成功するための、この不可欠な側面を無視しています。どんなに素晴らしいトレーディングシステムを持っていたとしても、リスク管理が脆弱であれば、数回連続して損をすることによって資金は枯渇しかねません。リスク管理の鉄の三角形や、その他のツールで武装すれば、より安全で、より優秀なトレーダーになることができるでしょう。

第10 章では、実践的なトレーディングについて踏み込んだ議論をします。具体的には、損切り(ストップロス)の水準と利食い目標の設定や、成功する可能性がありそうなトレードの選別などについて述べます。これらの実践的なトレーディングを詳細に見ていくことが、あらゆるシステムの実戦使用に役立ちます。

第11 章では、トレードの記録をきちんとつけるための原則と模範例を披露します。その内容を見れば、トレードがうまくいっているのか、いないのかを、一目で読み取ることができます。私が好んで使用している模範例を、インターネットから無料でダウンロードすることもできます。

最後に、といっても、決して軽んじてほしくないのですが、本書のためのワークブックを別に用意しています。その中では、本書の各章に関連した100 以上の設問を用意しました。すべての設問は、本書の理解度を測れるようになっており、理解の程度が不明瞭な部分が分かるようになっています。本書の各章を読了した後にワークブックを開き、その章に関連した設問に答えてください。テストの結果が芳しくなかったときは先に進まずに、本書の該当する部分を読み直してから、もう一度、テストしてください。

あなたは本書とともに、これから多くの時間を過ごそうとしています。あなたにとって大事だと思えるアイデアや手法が見つかったら、過去の株価や為替レートのデータでシミュレーションするか、実際のトレードを通して試してください。それ以外のやり方でテストする方法はありません。試行錯誤によってのみ、本書で学んだ知識を自分のものにすることができるのです。

03 あなたに不利な勝ち目

大半のトレーダーは、なぜ損をして、マーケットからの撤退を余儀なくされるのでしょうか。感情に任せ、思慮を欠いたトレードが主な理由としてあげられますが、他にも理由があります。実は、マーケットは大半のトレーダーが損をするような仕組みになっているのです。証券業界は、売買手数料とスリッページによって、トレーダーの命をじわじわと削り取っていきます。

トレーダーは、仕掛けと手仕舞いのたびに売買手数料を支払います。スリッページとは、売買注文を出したときの価格と約定したときの価格の差のことです。指値注文を出したときは、その指値のとおりに約定するか、運が良ければ、指値よりも有利な価格で執行されるか、その水準に達しないで注文が執行されないか、のいずれかになります。一方、是が非でも仕掛けたかったり、手仕舞いしたかったりするときは、成行注文を出すことになります。この場合は、注文を出したときの価格より不利な価格で執行されてしまうことがあります。

大半のアマチュアは、売買手数料よりもスリッページがもたらす損害に気づいていません。それは、中世の農民が死をもたらす病原菌について無知であったことと似ています。スリッページを無視し、高い手数料を要求する業者を使うことは、コレラが蔓延している最中に共同の貯水池から水を汲んで飲む無知な農民と同じようなものなのです。

こうして証券業界は、マーケットを通じて巨額のお金を巻き上げ続けています。証券取引所や業界団体、仲介業者や投資アドバイサーがマーケットから糧を得ている一方で、トレーダーはこれまでずっと彼らに身ぐるみはがれ続けてきたのです。マーケットは新たなカモの供給を常に必要としており、それはまるで、古代エジプトのピラミッド建設のために新たな奴隷の供給が常に必要だったことに似ています。証券業界が繁栄するためには、マーケットにせっせとお金を運び込んでくるカモが不可欠なのです。

●マイナスサムゲーム

ゼロサムゲームでは、勝者の利益は敗者の損失に等しくなります。あなたと私が、ダウ平均株価が次に100 ポイント上がるのか下がるのかに対し20 ドルを賭けたとすると、2人のうちのいずれかが20 ドルを儲け、他方が20 ドルの損になります。1回の賭けでは、運が結果を左右するでしょうが、長期間にわたって賭けを続ければ、株式市場に精通した人の勝つ回数が、負ける回数を上回るでしょう。

人々は、トレーディングはゼロサムゲームであるという業界のプロパガンダを真に受け、そのエサに引っかかり、トレーディング口座を開設します。彼らはトレーディングがマイナスサムゲームであることに気づいていません。勝者は、敗者が失った以下の金額しか受け取れないのです。業界がマーケットからお金を吸い取っているからです。

たとえば、カジノのルーレットは典型的なマイナスサムゲームで、カジノは1回の賭けで3〜6%を吸い取ってしまいます。このため、長期的にはルーレットで勝つことはできません。先ほどのダウ平均株価に対する賭けを業者が仲介すると、マイナスサムゲームに変わります。賭けの精算をすると、たとえば、敗者が23 ドルを支払い、勝者が17 ドルしか受け取れない一方、業者はニンマリして両者から受け取った仲介手数料を銀行に預けにいくことでしょう。

●売買手数料

売買手数料は過去20 年の間に、かなり引き下げられてきました。20年前には、片道の取引で0.5〜1%の売買手数料を取る業者が依然として存在していました。ゼネラル・エレクトリック株を1株20 ドルで1000株買うと、総額は2万ドルになり、片道で100〜200 ドルの手数料がかかります。往復の場合は、その2倍です。トレーダーにとって幸運にも、近年、売買手数料が急激に低下しています。

とはいっても、ぼったくり手数料が完全に消滅したわけではありません。本書の出版準備中に、ギリシャにいる顧客からe メールを受け取りました。その人は、欧州のある大手銀行に少額のトレーディング口座を開設したところ、1トレードにつき最低でも40 ドルの売買手数料を請求されたそうです。彼には、100 株ならたった1ドルの最低手数料で済む、私が使っている業者を紹介しました。

適切な配慮を欠くと、ぱっと見は少額でも、成功を阻む高い壁になり得るのです。

2万ドルの資金を口座に持つ、かなり頻繁に取引するトレーダーを例にとってみましょう。彼は、1日に1往復、1週間のうち4日はトレードするとします。片道で1回10 ドルの手数料なら、1週間で80 ドルの手数料を支払うことになります。つまり、仕掛けに40 ドル、手仕舞いに40ドルがかかります。1年で50 週間トレードしたとすると(それだけ資金が長続きできたと仮定して)、年末までに4000 ドルの手数料を支払ったことになります。これは、彼の資金の20%に相当します!

トップクラスのヘッジファンド・マネージャーとして有名なジョージ・ソロスは、年平均29%のリターンをたたき出してきましたが、彼が年に20%の売買手数料を支払ってきたら、今日の地位を築くことは不可能だったでしょう! 「少額」の手数料が、塵も積もれば山となるで、成功への大きな障壁になり得るのです! どんなに知恵を振り絞って頑張っても収支トントンにしかならない顧客の噂話を、業者が笑いながらしているのを、私はかつて耳にしたことがあります。

とにかく可能な限り、売買手数料が最も安い業者を探すことです。手数料を負けてもらえるように、恥ずかしがらずに交渉してください。多くの業者が、お客の数が足りないとよく不満を漏らすのを耳にしますが、お客が業者の数が少なくて困るという不満を聞いたことがありません。業者には、低い手数料を取ることで、あなたが生き残れば、長期間にわたりお客でいられることになり、業者にとっても最善の結果をもたらすのだと説得すべきです。そして、あまり頻繁に取引しないトレーディングシステムを構築するように心がけてください。

私自身のトレードは、取引のサイズに関係なく片道で7.99 ドルの手数料を取る業者と、1株につき1セント、ただし最低でも1ドルの手数料がかかる別の業者の2社を使っています。値嵩株を手掛けるときは800 株以下にサイズを抑え、1株あたり1セントの業者に注文を出します。それ以外は、1トレードあたりの手数料が7.99 ドルの業者を使います。ビギナーは1株1セントの業者を探すべきです。そうすれば、100 株の取引なら1ドルの手数料で済みます。先物をトレードするときは通常、往復の取引を数ドルの手数料で済ませることができるはずです。

●スリッページ

スリッページとは、注文を出したときにモニターで目視した価格と実際に執行された価格との差のことです。たとえていえば、八百屋でリンゴ1個が49 セントと表示されているのに、実際には50 セントを支払わなければならない状況に似ています。1セントは皆無に等しいですが、リンゴ1000 個やボロ株1000 株を1セントのスリッページで買うと、1回の注文でスリッページは10 ドルになり、これは恐らく、手数料よりも多くなるはずです。

注文の出し方には、大きく2種類あります。それは、成行注文と指値注文です。スリッページの有無は、どちらの注文方法を使うかによります。指値注文であれば、「リンゴを1個49 セントで買いたい」といいます。価格は保証されますが、実際に買える保証はありません。49 セント以上を支払うことはないのですが、欲しかったリンゴが手に入らずに終わるかもしれません。

成行注文であれば、「そのリンゴをください」といいます。注文の執行は保証されますが、価格は定かではありません。注文を出したときにリンゴの相場が上昇中であれば、買いのボタンを押したときにモニターで見た価格よりも高く買うことになるかもしれません。つまり、スリッページを被るかもしれないということです。成行注文のスリッページは、相場の変動性(ボラティリティー)の増大とともに大きくなります。スリッページは、相場が動き出すときに拡大します。

スリッページは、どれくらいの金額になるのでしょうか。それを知るためには、たった1つの方法しかありません。注文を出した時点の価格を書き留めておき、約定した価格との差に株数か先物の枚数を掛け算すると、スリッページの金額が求められます。言うまでもないことですが、スリッページを計算するためには、スプレッドシートに上記の2つの価格を記入するような、きちんとした記録を取るシステムが必要になります。私の会社では、このようなスプレッドシートをトレーダーに無料で提供しています(www.elder.com)。

本書では、「あれもこれも記録してください」という指示がいたるところに出てきます。トレードの記録をきちんと残すことが、成功には必須であることを肝に銘じてください。成功したトレードを吟味し、それ以上に失敗に終わったトレードを真剣に振り返ってください。過去の失敗からのほうが、ずっと多くのことを学べるからです。

ここにショッキングな数字があります。それは、記録をきちんと残すことで、あなたも自分で確認することができるはずですが、平均的なトレーダーは手数料の3倍以上のスリッページを支払っているということです。手数料が成功の前に立ちはだかることについては前述しましたが、スリッページによる壁はその3倍の高さに上ります。トレードがどんなに魅力的であったとしても、これが「成行」で買うことを避けなければいけない理由です。

あなたは、主導権を握り、自分の条件にあった価格でのみ取引すべきなのです。数千種類の株式と数十種類の先物が取引可能です。指値注文を出して売買を逃したとしても、他にいくらでもチャンスがあります。決して払い過ぎてはいけません。私は、ほとんど常に指値で注文し、損切り注文を置くときにのみ、成行注文に頼っています。損切りの価格に到達すると、成行注文が発動します。トレードが「炎上」しているときは、スリッページを節約するときではありません。仕掛けは急がない一方で、手仕舞うときは急ぐのです。

スリッページを減らすためには、流動性のある出来高が多いマーケットで取引し、出来高の少ない株はスリッページが大きくなる傾向があるため、取引は避けてください。そして、相場が静かなときに、買いか売りを決めておいた価格の指値注文を出します。スリッページを計算するために、発注時の価格を書き留めておきます。時により必要な場合、より有利に売買を執行するために、業者にフロアートレーダーと交渉するよう要求するべきです。

●買値と売値のスプレッド

マーケットが開いているときは、どのトレーディング対象商品にも常に買値と売値という2つの価格が存在しています。買値とはある時点で買い手が売り手に払ってもいい価格を意味し、売値とは売り手が買い手に売ってもいい価格を意味します。買値は常に、売値より低く設定されます。売値と買値の差をスプレッドといい、それは常に変動しています。

買値と売値のスプレッドは、マーケットによってばらつきがあり、同じマーケットでも時により違ってきます。また薄商いのマーケット(訳注:取引が低調なマーケットのこと)では、スプレッドが大きく開いています。そのマーケットを支配しているプロトレーダーが、参加希望者から高い手数料を要求しているからです。

活発に取引されている現物株式や先物、オプションのマーケットでは、買値と売値のスプレッドはカミソリのように薄く、静かな日であれば、恐らくわずか1ティック(呼び値の最小単位)に過ぎないでしょう。スプレッドは相場が上下に加速するにつれて拡大し、相場が急騰したり急落したりした後には、数十ティックに拡大することさえあります。

成行注文を出すと、買値と売値のスプレッドの、あなたに不利なサイドで執行されてしまいます。すなわち、成行で買うと売値(高いほうの価格)で執行され、成行で売ると買値(低いほうの価格)で執行されてしまうのです。そのため、多くの証券会社のトレーダーが、成行注文を執行することで充分な収入を稼いでいることは驚くに値しません。オオカミにエサを与えてはいけないのです。可能な限り、指値注文を使用してください。

●成功への道を阻む障壁

スリッページと売買手数料を伴うトレードは、ピラニアが棲息する川で泳ぐようなものです。コンピューターの購入費用、マーケットデータの料金、投資アドバイザーに支払う手数料、今こうして、あなたが読んでいる本書を含めた書籍代もすべて、あなたのトレーディング資金から賄われているのです。

手数料が一番安い業者を探し、しかし、決して油断せずに付き合ってください。比較的、あまり頻繁に売買シグナルを出さないトレーディングシステムを設計しましょう。損切り注文のときを除いて、ほぼ例外なく指値注文を使いましょう。どのようなトレーディングツールに出費するのかを、よく考えましょう。お金を儲ける魔法の方法はありません。成功をお金で買うこともできません。成功は、自らの努力で得るものなのです。

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▼ 続きは本書にて ▼

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