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第11話 世帯のキャッシュフロー表の有効な使い方は?


【登場人物】

〇藤堂さおり(32歳)・・主人公 
大学職員として勤務している。夫の啓補は警視庁勤務。
気が強く、はっきりと言うタイプ。地図が好き。初めての住宅購入に向けて、不動産業者だけの話では納得いかず、FP事務所に相談へ行くが・・。

〇神崎勘太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所所長 
CFP認定者、1級FP技能士、宅建士。「脱カモ」サポートをモットーに、龍太と二人でFP事務所を切り盛りしている。

〇藤堂啓補(34歳)・・さおりの夫。
警視庁勤務。素直で人を信じやすく、そのせいで営業マンのトークに乗せられやすい。基本的におっとりした性格。


〇神崎龍太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所 勤務 宅建士。 
不動産業界での経験を活かしながら、勘太のサポートをしている。無口で勘太とは体型含めて正反対。


前回までのあらすじ。


主人公の藤堂さおりと、夫の啓補。夫の啓補が「住宅を購入したい!」と言い出し、1件目のショールームで急に決めようとする啓補に対して、不安なさおりは自身のクレジットカードの特典でFP(ファイナンシャルプランナー)の無料相談を申し込んだのをきっかけに、その物件の調査依頼をしたところ、依頼を受けたFP事務所の神崎勘太は、災害に弱い危険な立地であることを理由に購入をやめるように勧めた。案の定、その建設予定地は後日台風で冠水してしまった。それがきっかけで、2人はここのFP事務所の住宅購入サポートプランのトライアル契約を申し込むことに。そこで、勘太は賃貸と購入の場合の考え方や、購入にあたり「利用価値」と「資産価値」を意識した立地。そして「安全性」の重要性を説いた。さて、それは分かったけれど、お金のこと。住宅費用は収入から何割とかは関係あるの?


第11話 世帯のキャッシュフロー表の有効な使い方は?


「毎月の支払額は、全体の給与からどれくらい以下にとかはあるんですか?」
「色々な住宅ローンの本や、FPの書いた記事を見ると、一般的には『手取りの4割以下で』といわれているね。ボーナス返済はなしで組むことも」
「そのあたりは、どう思われますか」
「同じFPとしては、もちろん基本的に異論はない。ただ、これからも共働きを続けて、お子さんを授かっても共働きを続けて、いざというときは貸せる、購入時から大きく下落していない金額で売れる、物件であれば、多少超えても良いとは思っている。ただ、ボーナス払いは確かにやめておいたほうがいい。例えば35年のローンを組んで、その期間ずっとボーナス払いが前提って普通に考えても無理があるように感じるでしょ?」
「たしかに、でも4割というのは何等かの根拠があってなのかしら?例えば、子供が生まれた場合の教育費や老後の資金のことを考えると手取りの4割以内に抑えておいたほうがいいということかしら?」
「しっかりしとりますね。その通り。まず子供が生まれたら、色々なものを買いそろえる必要があり、支出は増える。さらに奥さんの方が産休・育休の期間、育休明けも時短勤務などが続き、その期間の収入は以前の3割近くは減ると思っておいたほうがいい。さらには保育園に預けることになったら保育料もかかる。そんな中、一般的には企業の給与水準は伸びていない。これからも伸びないといわれている。そんな中で教育費を貯めて、使う。ということも、お子さんの大学時期をピークに起こってくるわけよね。そのタイミングでマンションやったら大規模修繕で費用も上がってくる可能性だってある。」
「そう考えると無理のない返済となると4割以下がやはり目安になるのね」
「もう少しいうと、シミュレーションは固定金利で立てないとダメ。そして、旦那さんで住宅ローン組む場合に、さっきから話している4割を超える場合、奥さんの仕事の状況が何かあったときに、どんな風に対応するのかしっかり対策しておくことは必ず必要。リスク管理がね。」
勘太は啓補の方を向いて言った。
「そ、そうですね。お金の話だからとことん現実的というか、考えたくないけれど、万が一の時のことも想定しておく必要があるってことですね」
啓補は、急に振られてドキッとしたのか、すこし噛みながら答えた。
「まぁ、費用などの話はこれくらいにして、次にお二人の現状をヒアリングさせてもらってもよろしいかな?」
「ええ、もちろん」
以前に記載した二人の情報について、勘太は、確認を始めた。
「えっと 今は共働きで旦那さんが警視庁勤務、そして奥さんが大学職員。二人の収入を合わせると970万円、それで現在の家賃は、旦那さんの社宅にお住まいやから月2万。これは賢い選択ですね。都心でこの住居費は普通では絶対あり得ないですから。貯金するには一番の方法ですね。」
「すごく狭くて満足はしていないけれど、今は我慢してお金貯めていますよ」
「それは素晴らしい!先ほどから話しているように、住宅購入が一番お金かかる。ふむ、それで頭金は500万~800万か。」
「このあたりはどんな風に考えたらいいですか」
「購入しようとしている物件にもよりますね。ここは、もちろん頭金は多いに越したことはない。住宅ローン借りる場合も銀行によっては、物件価格の10%以上頭金あるかどうかで金利も変わってくる。フラット35なんかもそうです」
「そっか、じゃあ やっぱりなるべく頭金準備したほうがいいんですね。」
「もちろんそれはそうだけれども、だからって貯金すべてを使うことは良くないですよ。今後の諸費用や購入後に何かあったときのために残しておく必要もある。」
「ふーむ。先のことも含めてお金を残す。先のことねぇ」
「例えば20年、30年後の具体的な数字についても、シミュレーションしてもみてもいいんじゃないかなと。子供をいつ授かるかとかは、どう想定するかで大きく違うけれども、それも含めて、キャッシュフロー表を一緒に作成してみて、確認してみましょうか。」
「キャッシュフロー表って、FPサービスで検索したとき、よく出てきたわ。でも、もちろん子供を欲しいとは思っているけど、こればっかりは授かりものだし、このご時世、この先どうなるのかわからないのに、20年後、30年後までのライフプラン表作って何か意味あるのかしら?」
「確かに、そう思うこともわかる。企業では終身雇用もいつまで続くか、なんて言われているのに、キャッシュフロー表では毎年1パーセントずつ給与が上がって、ああ、大丈夫、みたいに安心したり、お金かかる費用をただ計画するためだけならおっしゃる通りあまり意味はない。だけど、むしろ、だからこそ、色々なケースを想定しつつ、その都度自分自身で見直していくような使い方なら、キャッシュフロー表の良い部分、客観的に数値を把握できたり、お金を通して、人生の見通しをつけやすくなったりする部分が活きてくる。人ってどうしてもね。頭の中では未来のことをわかっているつもりでも、何とかなるっしょ、と楽観的に考えすぎてしまうところあるからね。購入したいと思う物件が目の前にある時なんかは、余計に前向きになってしまう。具体的に数値で見て、そこから考えることがクセになるようなら、無駄ではないと思うよ。」
「なるほどね。ちょっと時間あれば自分で作成してみたくなったわ。」
「日本FP協会が無料でHPにExcelのフォーマットなど提供しているし、それを参考に作成もできる。もちろん、普段お客さんから依頼されてこちらで完全に作成するときは、もっと細かく毎月の収支やライフイベントなどをヒアリングして作成するものだけれども、今回は住宅購入にあたって、最低限考えておいたほうが良いことをざっくり作ってみるだけでも価値はありますよ。手伝いが必要なら言ってくださいね」
「うん。じゃぁ、まず自分で作成してみてもいいかしら?フォーマットあると楽だからそれを送ってもらって、作成したのを逆に見てもらいたいわ。数字で表されるとより、リアルになるだろうし、家計簿はつけてはいたけれど、先々のお金の推移を実際に見て考えていく、という意味ではありかもしれないと思って。」
「了解!じゃぁ、お二人の基本情報を入れてExcelデータを送るので、2人で相談しながら、もちろんこちらに相談してもらってもいいし、入力して今後も見直してほしい。購入した物件がでてきた時も、月々の支払を算出してここの住居費に入れたりして、見直してほしい。さっきも言った通り、見直しながら常に視覚化することがこのキャッシュフロー表の良いとこやけんね。」
「ありがとうございます。」
「いえ、FPなのに、キャッシュフロー表を最初に作成して提案する、というのが基本なのに、こういうかたちになり申し訳ない。きちんとしたものをこちらに作成してほしいときは、いつでもどうぞ。今回は感じをつかんでもらえたらと思いましてね。じゃあ、次に購入条件のアンケートを確認しますね。」


(第11話終わり) 次回は8月9日(日)に更新予定です。

(参考)日本FP協会のキャッシュフロー表等をダウンロードできるのはこちらです。



※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


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