僕は有原航平が嫌いです。

いやいやいや、皆さんこんにちは、Foxtrotです。
この記事自体は、本当はもっと早くアップするはずだったのです。
契約更改が終わって、さて来年の有原航平へ注文つけてやろうと。
が、なんですか。蓋を開けたら来年メジャー行きたいなんて言ってるじゃないですか、航平くん。
おかげで全部書き直しましたよ。んもー。

有原航平という選手は、日本球界を背負って立てるだけのポテンシャルがあります。学生時代からメジャーのスカウトに目をつけられていて、そういう選手をファイターズは大谷翔平との二本柱でエースへの期待を込めて、2014年にドラフト1位で獲得したわけです。
2015年、有原航平は8勝6敗で新人王となり、翌年には早くも二桁勝利、日本一まで経験しますが、2017には10勝するも13敗、苦しむチームの波に呑まれて負け越し、防御率も4.74と、故障に苦しみ打者専念した大谷翔平の穴を埋める活躍は出来ず。2018にはその大谷翔平もエンゼルスへ。名実ともにファイターズを背負って立つ立場になったものの、開幕から不用意なフォアボールで塁を埋め、ムキになってゾーン内で勝負して痛打を浴びるという悪循環を止められずに配置転換の憂き目にあい、プロ初セーブ、初ホールドも記録して8勝5敗4.55に終わり、エースの座は11勝を挙げた上沢のものに。ここまでだと明らかに初年度以降伸び悩んでいる大卒投手…なんですが、2019年は生まれ変わったかのような安定感で白星を積み重ね、15勝8敗2.46と突如覚醒。まんまと最多勝、完投さえ多ければ沢村賞もあり得るというところまできた。


そもそも有原航平という野球選手はカタログスペックからして超一流なのである。189㎝101㎏、右投げ右打ち。デカい。直球のスピードは156。速い。チェンジアップ、カットボール、フォーク、シュート、カーブなど多彩な球種を操る。七色の変化球。おまけにスタミナも抜群。これ勝てない方がおかしいよ。
…でもつい最近までは思うように勝てなかった。正確には持っているポテンシャルから期待されるほどの投球をすることは稀だった。

高校の時から度々右肘の炎症と闘ってきた。普通この手の大型投手というと、剛腕、力で相手をねじ伏せる投球を知らずのうちに身につけるものだが、その右肘との付き合いのせいか、有原は割と技巧派だ。2017までは右打者のインコースへ投げることがほとんどなく、カットボール主体の打たせて取るピッチングがメインだった。直球とカットをアウトコースへ丁寧に配球することで打者の芯をずらし、凡打の山を築く。僕は見ていて歯痒かったのを覚えている。有原航平ってもっと凄い投球ができるんじゃないのか?と。2017の有原は、まるで有原自身が「自分は打たせてとるピッチャーだ」と頑なに思いこみたがっているようにさえ映った。自分で自分の投球の幅を狭めて、自縄自縛で苦しんで、八方塞がってマイナスの開き直りのど真ん中直球を打ってみろとばかりに投げ込み、待ってましたとばかりに打ち込まれるのを何度も見た。2018に栗山監督が有原の不調を見かねて配置転換をしたが、その真意はおそらく「1イニングを全力で抑える」経験ではなくて、有原に「マウンドが自分だけのものではない」ということを知ってもらうということがあったのではないか、といまでも思っている。

よく、マウンドに立てば投手は孤独、などというが、実際には背後を守っている野手がちゃんとしないと投手はいくら投げたところで三振以外でアウトを取れない。マウンドに王様なんていないのだ。いたとしてもそれは裸の王様だ。自分が愚か者であることに一向に気付かないでいる。バックの野手と一体となって、相手の攻撃を牛耳った時、初めて投手は王様になれる。
2018までの有原ははっきり言って裸の王様だった。自分の思うようにアウトが取れないと露骨に機嫌を悪くしたし、気に入らない配球には頑として首を縦に振らず、受ける捕手が立ち上がることもしばしば。挙句投げる球が無くなれば首を振って直球を要求して痛打。そして降板。めちゃくちゃだった。でも年に数度か、とてつもないピッチングを披露して周囲を黙らせ、唸らせる。いい意味でも悪い意味でもスケールの大きなやつだというのは間違いなかった。
そんな有原航平には「理想の投球」があったのだと思う。常にそれが実現できるかどうかと闘っていた。よく打たれては首を捻っていたのは、「こんなはずじゃないんだけどな」ってとこだろうか?理想の投球ができても打たれたのかもしれないし、理想の投球に至らずに打たれたのかもしれない。いずれにせよ有原航平は自分自身との戦いの中で間違いなく疲弊していたし、出口を見つけられずにいた。
苦しいのは有原も当然だが、その双肩に期待と信頼を寄せていたファン、チームメイト、監督もそうだった。有原が独り相撲で炎上するたびに火消しに出ていく投手がいる。離れた点差を少しでも埋めようと頑張る野手がいる。壊れかけた試合をどう立て直そうかと苦悩する監督がいる、そして何より、諦めずに声援を送り続けるファンが、いつだっていた。
苦悩にピリオドを打たせるべく、6月13日に命からがら取らせた初セーブ(3点リードを危うく吐き出しかけた)の後、栗山監督は「いろんな景色が見えてくれれば、それでいい」「航平のために必要なことは全てやる」と言った。そして有原は、「みんなが繋いで、上沢の勝ちがかかっていて、勝ってよかった」とコメントを残した。ここまで4勝2敗6.38だった右腕は前述の通りに8勝5敗でシーズンを終える。そろそろお気づきの方も多いと思うけれど、僕はこんなにたくさんの人から目をかけてもらっているのにいつまでも1人で野球をする、裸の王様の有原航平は大っ嫌いだった。

そして2019年、裸の王様、有原航平の傍には何故か田中賢介がいた。前年オフに2019シーズン限りで引退する、と宣言して必勝を期した生え抜きの大ベテラン。
それは自分無き後のチームを託すためなのか、それとも有原航平というひよっこの羽化を黙って待っていられなくなったからなのか。真実は分からないが、とにかく田中賢介は有原航平に声をかけ続けた。するとどうだろうか、これまでならカッとなって自棄を起こしていたような場面で、一踏ん張りが効く。苦手にしていた右打者の内角の攻めは、2018の中盤から使い始め、2019では効果的にツーシームを差し込んで、頻度はまだ低いものの、大きく偏った投球マップにも改善が見られるようになった。田中賢介は2019年、いつも有原を気遣い続けた。目に見えて有原は、変わった。
自分の後ろに野手がいること、自分に期待と心配と信頼を寄せる監督のこと、自分の後を受けるかもしれないと固唾を飲んで待つリリーフのこと、そして、ずっと声援を送り続けるファンのこと。急に全部が見えた、全部が味方だって気付いた、自分1人だけのものじゃない、マウンドに、1人じゃない。そんなふうに話しているように見えるほど、見違えた。そう、王様はようやく自分が服を着てないことに気づいたのだ。
気づけばWHIPは1を切り、1イニングに1人ランナーを出すのが珍しいという投手になった。勝ち星は15。2018と2017の合計の勝ち星とほぼ同じだけ勝った。

有原は無事に羽化したのか?僕はその質問にはNOと答えよう。
確かに有原は見違えた。安定感も頼り甲斐も抜群に良くなった。でも、まだシーズンの肝心なところでチームを勝たせられない試合もある。後半は常に先制点を許し、それ以降を抑え切るという形だった。チェンジアップが良くなって奪三振率も上がったが、その総数はまだ千賀には及ばない。ストレートの被打率も2割を切って.197になったが、まだ上には松井裕樹が.161で控えている。有原航平はまだひよっこだ。孵化したばかり。有原航平はまだ20勝していないし、沢村賞も取っていないし、投手4冠も達成していない。2019年に一番勝っただけだ。勝率も防御率もかわされてしまった。200イニングも投げてない。有原は全部できるやつだ。誰がなんと言おうと僕は知っているし、信じている。だからこれからも厳しい目線で重箱の隅をつつくと思う。そして、そんなポテンシャルを持った有原だから、メジャーへ行きたいなんていうデカい夢を突然ぶち上げたんだと思う。
側から見れば、「まだ1年しか活躍してねーし、甘いんじゃね?」だ。
でも逆なんだ。有原は素人目にわかるくらいに問題点があって、でも素人目にわかるくらい劇的にそれを克服してきた。有原航平はひよっこであるが故に、ここからまだまだ伸び代がある。まだ変身を残しているんだ。だから自分に課した。来年、もっともっと大きくなるために、変身してパワーアップするために、メジャーという枷を自分に課した。面倒を見てくれた田中賢介はもういない。彼を律するのは彼自身だ。賢介がいなくなってまた元の裸の王様に戻らないように、自分の戦う相手は自分じゃない、目の前のバッターだということを忘れないために。言ってしまったからには自分はメジャーに行けるほどの成績を残さなきゃならない。そのために必要なのは理想の自分ではない、チームを勝利に導き、ピンチを救う絶対的エースだ。何がなんでも勝つこと。何がなんでも抑えること。そのためにできることは全てやる、それがエースだ。たとえ骨が折れてても、勝つ。たとえ調子が悪くても、勝つ。勝つ、勝つ、勝つ。

有原はそう言ってるんだと僕は思う。だから、来年ファイターズは優勝するよ。だって有原はできるやつだからね。絶対的エースになるんだから。間違いないよ。僕は裸の王様な有原航平が嫌いです。僕の好きな有原航平になってくれるまで、好きだとは言いません。その時はもうすぐくるんじゃないか、そんな予感がすることは否定しません。早く来い、僕の好きな有原航平。

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