RUN

Amazon Prime Videoで配信中(2023年1月現在)の”RUN”。

クロエは、両足の麻痺、糖尿病、ぜんそくを患いホームスクール形式で学びながら大学進学を目指している17歳で、母親ダイアンと二人暮らし。ふとしたきっかけで毎日母親から渡される薬のパッケージを見たことで一体自分が何を飲まされているのか?!という疑念が湧き、調べてみたらかなりやばい事実が発覚し、意を決してダイアンからの逃亡を図るが色々と大変という映画。

この映画は、ジャンルとして”サイコサスペンス”として括られるだろうが、もはや”ホラー”とカテゴライズしもいいだろう。霊的な力も大量の流血も死も描かれはしないが、この映画の恐怖は、”ホラー”にとって最も重要な要素となる「不自由さ」だ。

これまでも「出られない」、「意思疎通が出来ない」といった不自由さの恐怖を解説したが、”RUN”も「出られない」、「コミュニケーションの遮断」といった強烈な不自由さを母・ダイアンがビンビンに投げかけてくる。もちろんこの「不自由さ」の先にあるのは「絶望」だ。観る側は、この主人公・クロエに突きつけられる「絶望」に共感し、ダイアンの狂気と恐怖を体験するのだ。

このタイプの映画を面白くするのは、この「不自由さ」からいかにして解放されるかという点だ。”悪魔のいけにえ”は、まさにRUN=逃走によって解放を試み、”ミッドサマー”においては、解放という選択肢を放棄するという面白さを見せてくれた。”RUN”においては、前述の通りクロエには、両足の麻痺、糖尿病、ぜんそくというこれでもかというほどのハンデを負わせている(まさに三重苦)。しかし、このハンデを最大限に活用し、不自由さからの解放をより困難なものにし、映画をより面白くさせていることは、言うまでもない。走れない(歩けない)、呼吸困難など健常者であれば描かれないハードルは、観る側の心拍数を上げてくるのだ。

そして、クロエは非常にクレバーな人物として描かれており、様々な方法で不自由さからの解放を試みるという点も映画を面白くさせている。特に終盤の体を張った方法は、その一歩先を行くアイデアに感服させられる。それも負わされたハンデゆえに絞り出されるアイデアであり、そのクレバーさについ感情移入してしまう。

これまで「不自由さ」という恐怖について述べてきたが、ラストシーンにおいて「不自由さ」を負わされているのはいったい誰なのか、本当に恐ろしいのはいったい誰なのかというサスペンス的展開も見せてくれる。”RUN”は、もはや絶品ホラー映画と言うべき良作だ。観るべし。

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