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(前編)heyに至るまでの苦悩。「30人の壁」を経て生まれたカルチャーマッチを重視するコイニーの採用手法とは

この数年で、数多くのスタートアップが生まれ、資金調達や事業開発に関するノウハウの流通が盛んになりました。その一方で、創業期・成長期における仲間集めのリアルなストーリーは共有されていません。

「founders」は、スタートアップのファウンダーの言葉によって、数多くのファウンダーの力になりたいと考えています。スタートアップの競争力に直結する「人」に焦点を当て、ファウンダーたちのインタビューをお届けしていきます。

初回は、ヘイ株式会社 代表取締役副社長兼コイニー株式会社 代表取締役の佐俣奈緒子さんにお話を伺いました。前編は、コイニー創業時の仲間集めのストーリーに迫ります。

ビジョンを語り、助けてもらう

ーーコイニーを創業したばかりの頃はどのように仲間を集めていったのでしょうか。

コイニーは2012年に決済事業をやろうとスタートしました。事業ありきだったので、事業に必要な仲間を集めました。ハードウェアとソフトウェアのデザイナーが必要不可欠だったので、友人知人に「良いデザイナーはいない?」と聞いていって。今も働いている久下や松本に出会いました。

久下は、国内外の大企業やスタートアップをクライアントに多数の製品開発に関わってきたデザイナー。松本もUX/UIデザインからグラフィック、Web、コーディングまで幅広く手掛ける腕利きで、今ではheyのクリエイティブディレクションも担当しています。

久下は、友達の友達の友達くらいの距離で知り合うことができ、松本は当時書いていたブログが良かったので連絡してお茶したのが最初です。

ーーみなさん、最初からフルコミットだったんでしょうか?

当時、久下は自分の会社を経営していたし、松本も前職で仕事をしていたので、サイドワーク的に始めました。みんな徐々にコミットが増えていったんです。私も社員になってほしいと伝えたことはなかったと思いますし、メンバーへの報酬の金額も曖昧な状態だったにも関わらず、スタートしてましたね。ただ、ある日、松本が会社を辞めて「コイニーにコミットします」と言ってきて。タイミングの良いところで会社化しようと考えていたのですが、このままじゃまずいと急いで会社化しました。

ーー曖昧なままスタートしてそれだけコミットしてもらえていたのはすごいですね。

不思議ですよね。みんな、面白いからやっているという感じでした。私がやっていたのは、ビジョンを語ること。最近、2011年9月頃に自分が作ったピッチ資料を見ていて、言っていることは変わっていないなって思ったんです。

スモールビジネスオーナーの決済手段をいかに簡単にするか。彼らの商売をもっと楽にしたい。当時から、今と同じビジョンを語っていました。

ただ、創業当時は今よりも環境が厳しくて、チャレンジングに見えたと思います。決済事業は大手企業がやるものだという認識でしたし、スタートアップが決済をすることはレアケースでした。

ーーみなさん、ビジョンに共感してくれていたんですね。

あとは、私があまりにもハードウェアに関して無知だったのもあるかもしれません。「すぐ10万台くらい作れるかな」と思っていたんですよね。久下からしたらあまりにも無謀で「これは助けてあげないとやばい」と思われたんだと思います(笑)

ーービジョンを語って、あとは助けてもらって。

そうですね。自分は仕事スキルをチャート化したときに、優れているところはなくて。だいたいチームのメンバーのほうが優れている。だから、創業期から優秀な人たちに助けてもらうのが自分のスタンスです。「自分は何もできないからとにかく助けてくれ」って。それは一貫しているかもしれないですね。

「強さ」を重視した結果起きた採用の失敗

ーー組織化していくフェーズではどう人を集めていったんですか?

主な方法はリファラルとエージェントの2つでした。リファラルでは社員が周囲の友人に声をかけていって人を採用していきました。また、当時ではかなり高額の13億円を資金調達していたので、正しく投資をして優秀な人材を集めるためにエージェントとパートナーシップを組んでいました。

ーー当時の採用で意識していたことはありますか?

リファラルでは特に対象者がスタートアップ慣れしているかを見てましたね。今はもう違いますが、当時は体力の限界まで働いていて帰宅するという働き方でした。そもそも、大手企業ばかりの決済事業にスタートアップが挑戦するのだから、物量でいかないとPDCAが回りません。だから、働くのが好きで、好きだから長く働ける人を探していました。

エージェントでは、とにかく優秀な人を探していました。当時はハードウェアもソフトウェアも作るものが多かったので、優秀な人たちでチームを作りたかったんです。強いメンバーを探していったら、NASAをはじめとした外国人のエンジニアが全体の3割ほどになってました。

ーーそれはすごいですね。

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今は、みんな次のチャレンジをしています。当時は、そのやり方が正解だと思っていましたが、チームワークが成り立たなくて、離れていく人たちも大勢いました。離れていったメンバーが悪いという話ではなく、優秀な人材のスキルセットを活かせる環境とステージが必要だったんです。当時の採用は学びが詰まってます。

「30人の壁」への衝突後、拡大ペースをゆるやかに

ーーということは最初の組織拡大は失敗に?

しっかり、30人の壁にぶつかりました。一気に成長したため、組織構造が歪んでしまい、適切に権限委譲ができてなかったり、責任範囲がファジーになってしまったりしました。毎月人が辞めていくような状態になり、一旦それまでの採用の方針を止めて、7割ほどの人数まで規模を縮小する決断をしました。一度、規模を戻した後は緩やかに採用をしていきました。

ーー拡大ペースを緩やかにしたのは何か理由が?

とにかく成長するよりも、ちゃんと組織を強くしなければと考えました。人数が二倍になれば二倍の仕事量ができるわけではないんですよね。当時の仕事量には人数が減っても大丈夫だなと。

当時描いていたコイニーの事業には人数は30人ほどいれば十分。じわじわ人を増やし、事業を成長させていって、40人強の人数で上場しようかと考えていました。あまり焦って組織を大きくしなくてもいいなってわかったのは大きいですね。

「この人に辞められたら困るな」というミドル層はコイニーに残っていたのも落ち着いて取り組めた理由の一つですね。ミドル層が残っていたので、他が入れ替わってもなんとかなるなと。コイニーは創業期からミドルマネジメントが安定していて、当時のハードシングスを乗り越えた人達は今でも残っています。

ーーミドル層はなぜ残ったんでしょうか。

どうしてだったんでしょう、考えてみてもわからないところもありますが、自分のできないことを明かし、助けてもらう姿勢がよかったのかもしれません。ミドル層の年齢は当時35歳〜40歳くらいで、自分よりも5〜10歳ほど上。コイニーは当時の同規模の会社と比較してもこの層が厚かったんですよね。どのメンバーもビジョンに共感してくれていて、かつ視座が高かったので、ちょっとしたことでは動じなかったのかもしれません。

「カジュアル面談」でカルチャーマッチを見る

ーーいわゆる「30人の壁」にぶつかった後、組織の中に変化はありましたか?

一度、人数を減らしてからは定着率が上がってほとんど人が減らなくなりました。良くも悪くも組織全体的に人を見る力が上がり、採用に妥協できなくなりました。

ーー改めて採用活動をし始めた際に新しく実施したことはありますか?

「カジュアル面談」という機会を作るようになりましたね。創業期のスタートアップなんて人数が少なくてみんな忙しいので、代表が1〜2回会って合否を決めることが多い。ですが、それがうまくいかないケースもありました。

カジュアル面談は採用プロセスの途中で何人かのコイニーのメンバーとざっくばらんに話してもらう場です。そこで、空気感や会話のキャッチボールがテンポよく成立するかを見るようにしました。長く働く一緒に働く仲間として違和感はないかを確認していたんですが、とてもよかったですね。この手法を取り入れてから入社したメンバーの定着率は上がってます。

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ーーカジュアル面談はどのように実施されているんですか?

カジュアル面談は会社が人を見るだけではなく、候補者も会社を見るための場です。なので、カジュアル面談には会社の中から、人を見ることに長けているメンバーであり、候補者から一緒に働きたいと思ってもらえるコミュニケーションに慣れたメンバーに参加してもらうようにしていました。

エンジニアの採用は途中でエンジニア以外のデザイナーやセールスなど、別の職種の人たちとも話してもらうようにしていました。持っているスキルが活かされるかはチームワーク次第。であれば、エンジニアの人たちが活きるかどうかは一緒に働くエンジニア以外の職種の人たち次第でもありますから。

ーーカジュアル面談のタイミングはどこでいれるか?

どのタイミングで実施するかは試行錯誤しました。最初に実施するケースもあれば、最後のケースも。途中で最終面談後にカジュアル面談を設定するのは止めました。そういうときは大抵自分が迷っていたから。迷っているときは大抵良い採用にはならないので。

ーー「迷っている」のはどういったポイントで生まれていたんでしょうか。

よく迷っていたのは、「その人の成長性がどれくらいあるか」です。組織はどんどん変わっていくので、人もどんどん変わっていかなければいけません。その前提に立ったときに、その人の成長余力はどれくらいありそうか。

また、チームにどれくらい馴染めるかも迷うポイントでした。チームに馴染むためには、素直でいられるか、自分をメタに見られるかが重要です。個人の素養だけでなく、タイミングも迷いどころでした。優秀であっても、すでに組織内に似たスキルセットの人がいる場合、ポジション被りをしてしまい、成長の度合いが少なくなってしまいます。

なるべく違うタイプ、違う強みを持った人を採用しようとしていましたが、優秀であってもタイミングが合わないと採用しても良い影響にならないので迷うことがしばしばありました。

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前編では、コイニー時代にどのように仲間集めを行い、カルチャーのズレをなくしていったのかについて話を伺いました。続く後編では、プロダクト開発のように組織づくりを行っているというheyの話を伺います。

取材・編集: モリジュンヤ

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