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(後編)オリジナリティは、いつも後からついてくる。「当たり前」を続けるミラティブCHROの採用戦略

この数年で、数多くのスタートアップが生まれ、資金調達や事業開発に関するノウハウの流通が盛んになりました。その一方で、創業期・成長期における仲間集めのリアルなストーリーは共有されていません。

「founders」は、スタートアップのファウンダーの言葉によって、数多くのファウンダーの力になりたいと考えています。スタートアップの競争力に直結する「人」に焦点を当て、ファウンダーたちのインタビューをお届けしていきます。

前編に続き今回も、株式会社ミラティブのCHRO(最高人事責任者)鈴木修さんに、採用担当のあり方についてお話を伺いました。

ーー前回のインタビューでは、「採用だから」ではなく、普段から会社のリアルを発信することで、自然と認知されていくことが理想とお話されていました。一方で、採用を独立したコンテンツとして捉え、斬新な制度で話題を生む会社も見受けられます。このことについて、どのようにお考えですか。

スタートアップのような会社の土台作りのフェーズにおいては、経営者の想いが特に色濃く表出されるため、採用活動や人事制度にも独創性を持たせる発想はよくわかります。それが成功するかどうかはやってみなければわかりませんし、仮に失敗に終わったとしても、会社として今後に活かせる学びとして「ナイストライ」となる場合もあります。

一方で採用活動や人事制度における「トライ」は、一度スタートすると後になってから止めるに止められない。ですので、まずはトライしてみようというスタンスではじめてOKな取り組みなのか、それとも長期的な視点で見る必要がある取り組みなのかを見極めることが必要です。そうでないと、一瞬沸点が上がるだけの取り組みが乱発され、結果的には制度疲労を起こしてしまいます。

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ミラティブCHRO 鈴木修さん。インテリジェンス、サイバーエージェント、グリーにて組織・人材開発や採用などを担う。その後SHIFTでの取締役を経て、2019年10月よりミラティブに参画。最高人事責任者としてHR本部を立ち上げ、採用強化や人事制度構築などを統括している。

ミラティブでは、何らかの制度をスタートした時に重点的に発信するのではなく、制度が実際に運用されているありのままのチームや会社の日常を継続して発信することが大切だと考えています。noteでもTwitterでもいいので、とにかく日常的に発信していく。そのなかに何らかの制度などが溶け込んでいて、自然と認知してもらうことが理想的だと感じています。

「そんなのどこの会社でも当たり前にやってるのでは?」と思うかも知れませんが、その「当たり前」は意外と見落としがちで、この「当たり前」をやり続けることが、採用の本質だと思っています。採用の”基の基”ともいえる手法を続けることが、実は成功への一番の近道なんです。

問われているのは、”一瞬”ではなく”毎日”

――HRとしての基本をやりきる。その場合、採用担当はどのように、他社との差別化を図ればいいのでしょうか。

元も子もない話ですけど、尋常じゃないレベルでそれをやりきることだと思います。我々だったら、テックブログをこまめに書いていくとか、求人サイトに社員のリアルな日常を載せていくとか、そういうHRとして当たり前のことを、圧倒的な量で積み上げていく。

ただ、それが意外と難しいんですよね。なぜなら「もう出せるネタはない」、「もう伝えることはない」といった話になってくるので。
このことから、現代の採用PR合戦において重要なのは、日々のリアルを外に発信できる水準で保有しているかどうかだと思います。”一瞬”ではなく、”毎日”の積み重ねが問われます。

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ミラティブのテックブログ。コードなども含め、曜日ごとに細かく業務が綴られている。ときにフローチャートなども差し込まれ、業務の流れが読み手にわかりやすく伝わるように工夫されている。

たとえば会社の思想や考え、文化といったものを、よりリアルに文字に乗せていくとか、面接に来てくれた方に、温度感や雰囲気なども含め、肌感覚で知ってもらうとか。言わば王道の勝負です。その王道を続けた先に、テクニカルな施策が活きてきます。
けれども、それをないがしろにして、テクニカルな施策に意識がいってしまう会社が多いのが現実です。採用に課題がある会社、行き詰まっている会社は、まずはこの王道とも言える当たり前を積み重ねていくことで活路を見出すことができるのでは、というのが僕の実体験からの考えです。

――HRとしてのキャリアが長い鈴木さんですが、最初から「王道を行く」というスタンスだったのでしょうか。

全くそんなことはありません。過去には僕も、奇抜さを狙っている時期がありましたよ。たとえば、新卒採用の一律年収を撤廃した制度や、新しいフィールドワークを取り入れた人材育成プログラムなど、テレビやネットなどのメディアでも話題になりました。

でも振り返ってみると、わざわざ大きく打ち出す必要もなかったなと。新卒採用だとしても、能力がある各人に相応の給料でオファーを出すことって、考えてみれば当たり前の話なんですよね。でも当時の僕は奇抜さを狙って、これを斬新な制度として打ち出しました。固定概念から飛び出すこと自体を目的化していたんですね。

今考えてみれば、“制度”で尖ろうとせずに、むしろそれが普通にできる“体質”にしていく必要があった。結局「斬新」とされているものも、ふと冷静に見ると、とても当たり前のことだったりします。だから当然のことを、愚直にある意味で淡々とやっていこうと思ったんです。

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「エモい」とは理想や新しさではなく、生々しくてリアルなもの。

――当たり前の「王道」をやり続けるというスタンスは、ミラティブにジョインして約半年経った今も、貫いているのでしょうか。

はい、意識していますね。発信面では、各メンバーが持ち回りでそれぞれの出来事や想いをありのまま記事にしたり、「採用候補者様への手紙」の内容を定期的に更新し続けたり、ということはもう長くやっています。

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2019年2月に公開され注目を集めている「採用候補者様への手紙」。2020年1月現在で、21万PVを超えている。現在も採用HPに掲載され、ダウンロードも可能。およそ50ページにも及ぶ。マネタイズの進捗や昇給額などの内部情報、会社の課題といったリアルなことまで書かれている。

面接にしても、決められた時間の中で基礎的な質問を深掘りして、相手からの質問に対してはオープンにできる限りの事実をわかりやすく伝達すること。この極めてベーシックなことを大切にしています。

ちなみに、選考過程において「わかりあいワーク」という体験入社の機会を設けることもあります。これは入社前に通常業務や社内チャットに参加していただくことで、面接だけではわからなかったお互いのことを”わかりあう”ための期間です。もちろんSlackにも入っていただきますので、普段の社員同士のコミュニケーションがどんなトーンやスピードで行われているかを知ることができ、会社のリアルをより一層感じていただけます。

どの取り組みも、特別なものではありません。「ミラティブがやってることって、新しいよね」と言っていただくよりも、「基本的なことだけど、あのレベルでやりきるってすごい実行力だよね」と言っていただける状態が理想です。

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――地道に積み上げていくという考え方は、ミラティブさんが大きく掲げている「エモい」という、感性的で、どこか新しいイメージとは、少しかけ離れている感じもするのですが。

ミラティブにとっての「エモさ」を言語化してお伝えをするのはなかなか難しいのですが、当たり前のことをやりきるその「当たり前さ」が、ミラティブが推し出している「エモい」という文化なんだと思います。

たとえばミラティブでは、月に一度「プレミアムエモイデー」という全社会を開催しています。そこでは、毎月の事業の予実状況や成果や失敗といったビジネストピックを共有するだけでなく、最近あった各メンバーのエモい話を全員で共有し合います。入社前の採用候補者の方に参加してもらうこともあります。
ただ、エモい話と言っても、なにも特別な話をする場ではないんです。「離れて暮らす親族が、じつはMirrativのユーザーだった」とか、「業務での障害対応のあとに、たくさんのユーザーさんやメンバーから『無理しないで』というメッセージをもらった」とか。

嬉しかったり、驚いたり、面白かったり、あくまでも日常で起こった出来事で、新しくも斬新でもない。でも、それが「エモい」、ということなんだと思います。「面白い日常が当たり前にある」状態のことを、ミラティブでは「エモい」と呼んでいるんです。

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月に一度行われる「プレミアムエモイデー」の様子。社員だけでなく入社前の採用候補者も参加ができる。

――最後に、今後はどのようなところに力を入れていきたいですか。

王道の採用活動を続けていく前提として、ミラティブの成長戦略にいかに組織人事戦略を結び付けていくかを、改めて設計する予定です。

他のスタートアップ企業と比較してもミラティブには、かなり色濃い会社の思想や哲学があります。だからこそ、組織人事戦略がそこに縛られすぎて、会社の成長や変化をタイムリーに捉えた組織の変革や最適化ができなくなるリスクがあります。今まさに、会社の成長戦略にあわせた組織人事戦略を見直す時期にきています。

経営戦略と組織人事戦略をアラインメントするという面でも王道を大切にすること。その先にオリジナリティを取り込むことこそが、ミラティブのチャレンジであり、そこに大きな成果と価値が生み出されると考えています。


取材:清水 翔太
編集:安部 紗乙莉

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