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日本のアグリテックをアジアへ|農業ジャーナリスト 窪田新之助 後編

様々なテクノロジーの恩恵を受け、種々雑多な新しい取り組みが生まれているアグリテックの世界ですが、これからはどうなっていくのでしょうか?

最終回の今日は、「農業の未来」について、窪田新之助さんにお話をお聞きします。

窪田新之助(くぼた・しんのすけ)
農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。

日本の農業の未来は「たいへんである」

――斜陽の話から始まった日本の農業の現状ですが、お話を聞いていると、テクノロジーの支援を受ければ、未来は有望に見えます。今後、どのような展開が待っていると思われますか?

窪田:
「率直な気持ちとしては、なかなか楽観視はできません。

スマート農業が話題になっていますが、これも浮かれすぎではないかと思います。

たとえば、2018年に大人気ドラマ『下町ロケット』(TBS系)で農業法人が取り上げられました。ご覧になった方も多いと思います。

日本の農業は有望だと考えた人も多いでしょう。しかし、あのドラマに登場するトラクターが使えるような広い農地というのは、北海道以外、日本にはほとんどないんです」

――そうなんですか?

窪田:
「日本の農業には3つの避けて通れない特性があります。それは以下です。

・1つは環境要因を受けやすいこと。
・2つめは地域特殊性。気候や風土、土壌、適した品種が異なること。
・3つめは農地が狭いこと。

中でも私は、根本的な問題は『農地』だと考えています。

ところが現在、日本では農地1枚の平均面積が20アール(1アール=10メートル×10メートル)強です(北海道を除く)。しかも、あちこちに点在し、形も整えられていません。

こんな状況では、いくらテクノロジーを使っても、効率的な農業などできるわけがありません。たとえば、私の知っている生産者で200ヘクタールの農地を経営されている方がいらっしゃいます。

彼はさまざまな努力をして農地を集約し、畦を取り払って1枚の農地を1ヘクタールにしようとしています。つまり平均の4倍ほどの広さです。彼はここで、日本でも有数の効率的な農業をやろうとしています。

ところが、農業ロボットを使わないと断言しています。1枚当たり2ヘクタールくらいにならないと採算が合わないというのが理由です」

――具体的にどういうことが起きるのでしょう?

窪田:
「たとえば、ロボットで農地を耕す際、最初は農地の形をおぼえさせるために人が運転して農地の外周を回ります。

その後をロボットに任せるのですが、農地が狭いのですぐに作業が終わってしまいます。

次に農地を移動しなければなりません。移動の際は農道を走ります。

ところが農道は人が乗らなければならないと法律で決まっている。これを繰り返すのですから、作業はまったく効率化しないんです。

自分で最初から最後までトラクターを運転したほうが、よほど早いというわけです」

――農地を整備するしかないんですね。でも、高齢の農業従事者が離農するケースが増えていると聞きました。その土地を集めていけばいいのでは?

窪田:
「たしかに離農や耕作放棄地は増えています。しかし農業の盛んな場所は古い土地が多く、人間関係が複雑に入り組んでいます。

農業を止めるから隣の農家に農地を譲ろう、ということにはなかなかなりません。また集落外からアプローチしてもむずかしい。

たとえ譲ってもらうことができても、前にも述べたように農地が一か所に集まっているわけではないので、効率化がむずかしい。

こうした問題は、日本各地で起きています」

これからやるべきこと


――現状を打開するには、どうすればいいとお考えですか?

窪田:
「農地の集積や区画の拡大を進めるのと合わせて、違法な転用を防ぐべきでしょう。農地に関しては、転用で発生する利益の誘導や政治との癒着といった話を多く聞きます。

ついでに言うと、ほとんどの農家は、テクノロジーに関心がありません。

個人経営の農家の平均所得は約410万円、そのうち農業所得は27万円と6~7%にすぎないからです。そのような人たちが1本数万円のセンサーを買うわけがない。

また現状、農作物は農家から農協、農協から市場へと全量委託販売されています。

委託ですから、どんなに品質の悪いものでも引き受けてくれるのです。このしくみでは、生産物に誰も責任を負いません。

付加価値を高めるインセンティブがない。だからテクノロジーを使う必要が全くないというわけです」

――何かさまざまな問題が複雑に絡み合っている気がします。

窪田:
「社会としての課題と、産業としての課題が、ごちゃごちゃに語られているのが、今の日本の農業の問題点ではないでしょうか」

――何かお先真っ暗な気分です。どこに希望を見出せば?

窪田:
「ひとつは過渡期だという点です。少しずつですが、世代交代が進んでいます。

古い農政の考え方や組織が弱体化をはじめていることや、新しい農業を築こうと意欲に燃える人が増えているのは、まちがいありません。農業法人なども育っています。

また、日本の農業は、世界有数のスピードで高齢化や過疎化に直面しましたが、これを逆に考えると、その状況に合ったアグリテックを開発できるということでもあるんです。

特にアジア各国は気候や風土、小規模農家が多く、耕地面積が狭いといった点が日本と似ています。

今後、現在の日本と同じような局面に遭遇することでしょう。

その時、今の日本が開発したノウハウを伝えていく。こんなふうに視線を国内だけでなく世界へ向けていくべきだと思います」

――中国で日本のコメが人気だとか、ロボットやITを用いた最先端の農業といった断片的な情報だけではない、日本の農業の本当の姿を垣間見た気がします。

本日はありがとうございました。
(おわり)

農業の未来は、「作って売る」のその先へ|農業ジャーナリスト 窪田新之助 前編
バリューチェーンが日本の農業を変える|農業ジャーナリスト 窪田新之助 中編
日本のアグリテックをアジアへ|農業ジャーナリスト 窪田新之助 後編

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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