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ジョブスの哲学よりもっと大切なこと|遊びと学び研究所 岸本好弘 第3回

前回は5Gをはじめとする、テクノロジーの進化が今後のVRにどう影響を与えるかについて語っていただきました。

最終回となる今回は、「過去から未来を見る」というテーマで、VR業界について語っていただきたいと思います。

岸本好弘(きしもと・よしひろ)
アーケードゲームの時代からナムコ(現在のバンダイナムコエンターテインメント)に入社。ゲームクリエイターとして名作野球ゲーム『ファミリースタジアム』をはじめとする数々のテレビゲームを開発。2012年から2017年まで東京工科大学メディア学部准教授に就任。現在は「遊びと学び研究所」を設立し、ゲーミフィケーションデザイナーとして活躍中。往年のテレビゲーム資料の保存活動「ナムコ開発資料・アーカイブプロジェクト」も推進している。

ポケモンGOの裏側にあるもの

——前回の最後に少しお話くださった、ARゲームの『ポケモンGO』について、詳しく教えてください。

岸本好弘(以下、岸本):
「これは『位置ゲー』と呼ばれるジャンルのゲームです。GPSを利用して、自分がいる位置がゲームに反映される仕組みのゲームですね。

昔から存在していて、『イングレス』などが有名なゲームもありました。

そこにARのテクノロジーを足し、『現実世界の中で、可愛いポケモンと出会える』というアイディアを組み込み、全世界の人たちの心を掴んだのが『ポケモンGO』です。

このゲームを作った方は中国残留孤児3世で、幼少期に日本に移り住んできた人物なんですよ」

——日本で育った方なんですね。

岸本:
「幼少期に『ポケモン』に出会って大好きになって、日本の大学を出た後にアメリカに渡り、そこで『位置ゲー』と『ポケモン』を組み合わせるゲームを生み出したんですね。

『ポケモンGO』はアメリカ産のゲームだけど、幼少期に日本の文化の中で育った人が作ったゲームでもあるんです。

キリスト教文化圏の人が作ったゲームではなくて、『そのあたりに、何かがいる』という日本的な感覚を知っている人が作ったゲームともいえます」

——「そのあたりに、何かがいる?」という感覚について、もう少し説明してください。

岸本:
「日本の文化って、元をたどれば八百万(やおよろず)の神がいる文化ですよね?

わたしたちは、世界のいたるところに神様がいる、という考え方をします。

わかりやすい例が『妖怪』です。実際にはいないんだけど、でも『そこにいる』ことを受け入れるという感覚ですね。

大人から子どもまで、日本人はみんなこの感覚を持っている」

——たしかに、子どもたちは『妖怪ウォッチ』を自然に受け入れています。

岸本:
「この感覚は、欧米の人は理解できない。
『ポケモンは、アニメとかゲームの世界にいるもんでしょ?どうして現実世界にいるの?』
と考えちゃう。

乱暴な言い方をしてしまうと、彼らは、現実と非現実は別のものだと考えているんです。

だから『ポケモン』も『妖怪ウォッチ』もアメリカでは生まれない。

もしアメリカで『妖怪ウォッチ』を作ったとしても、妖怪と友達にならずに、すべての妖怪は敵だ!と戦うゲームになると思いますよ」

——たしかに、そうかもしれません。

岸本:
「日本の文化を知り、日本のゲーム文化に触れてきた若者が世界に飛び出して、世界最先端の技術と接したからこそ『ポケモンGO』のようなゲームは生まれたんです。

日本の文化はガラパゴスと呼ばれたりもしますが、同時にオンリーワンのヒット作を生み出す土台でもあるんですよ」

VRでのヒット作のヒントは、過去のゲーム遺産の中にある!


——岸本さんは、そういった日本のゲーム文化を残すためのプロジェクトをやっていますよね。

岸本:
「わたしが昔勤めていたナムコの、往年の名作ゲームの資料を保存する『ナムコアーカイブプロジェクト』という活動を始めています。

『パックマン』『マッピー』『ゼビウス』といった、日本のゲームが世界中を驚かせていた時代のゲームの開発資料が、いま倉庫に眠ったままになっています。

保管のために莫大な予算が必要なので、いまにも廃棄されそうな段階でもあります。それを保存し、データベース化して後世に残すための活動です。

これらの紙資料を残しておかないと、当時、どうやってゲームを作っていたのか、わからなくなってしまう」

——日本が、日本ならではの傑作を次々と生み出していた時代の貴重な資料です。

岸本:
「よく『日本人もジョブスみたいに〜』『ジョブスの発想を参考に〜』などと語られたりしますけど、じゃあ日本人はジョブスになれるのか?無理ですよ。

能力が足りないんじゃなくて、文化や宗教観が違うからです。

わたしたちが先人たちの知恵を借りるなら、世界で勝負できるゲームが、日本でどのように発想され、作られたかの歴史を知る方が絶対にいい。

その時点での最先端テクノロジーでエンタテインメントを作ったときの試行錯誤は、いまVRやARのゲームを作っている人たちの試行錯誤と、おそらく同じようなものなんです。

『パックマン』の開発話は、いまの開発者たちにも共感してもらえるものだろうし、すごいヒントになるはずです」

——その一部を見せていただきましたが、凄い資料ですよね。ゲームセンターでのお客さんの反応のメモまで、ぜんぶ残っている。

岸本:
「ロケテスト(開発中のゲームを店舗に置いて反応を見ること)のときに、スタッフがこっそり観察して反応をチェックしたときの資料ですね。

それ以外にも、企画立案から始まり、上司にボツをくらい、販売のスタッフから『こんなの売れないよ』と言われ、でもユーザーの反応を見ながら試行錯誤を重ね、いかにして世に送り出してヒットしたかまでを記録した資料類が山ほど残っています。

紙資料としてファイリングされたものが、段ボールで350箱ある。貴重な文化遺産ですよ。

ナムコだけでなく、他の大手ゲーム企業とも連携して、保存のためのプロジェクトを進めつつあるところです」

——諸外国では、それらの資料の保存活動には国が予算を出しています。ゲームの博物館も各国にあります。

岸本:
「海外では、ゲームを文化だと思っているし、芸術だと思っているので博物館が作られているんです。

でも日本は違う。映画の博物館はあるのにゲームの博物館はない。

ゲームは映画より下のものだと思われているんでしょう。かつての浮世絵と同じです。

江戸時代の浮世絵は庶民のためのスポーツ新聞みたいなものだったから、みんな保存せずに読み捨てていった。

だから浮世絵のコレクションは、日本に残っているものよりも、海外に残っている者のほうが保存状態がよかったりする」

——浮世絵と同じ道を辿らないよう、自分たちでゲーム資料の保存活動を始めたんですね。

岸本:
「完成したゲームなら、いまでも遊ぶことができます。

でもゲーム創世記の、世界中でヒットした日本製ゲームの開発中にはどんな葛藤があり、どんな紆余曲折があり、どんな挫折があったのかは、紙資料にしか残っていません。

そこには、いまの若い開発者にとってのヒントがものすごく隠されているはずなので、みんながアクセスできるような形でアーカイブ化したいと思っています。

10年後にヒットゲームを生み出した若い開発者がインタビューを受けたとき、
『50年前の先輩たちが残した資料を見て、その試行錯誤をヒントにして、このゲームを作りました』
と答えるような時代が来るといいなぁと思っています」

——その資料をヒントに、素晴らしいVRのゲームが生まれるかもしれません。

岸本:
「VRやARは生まれたばかりのテクノロジーなので、ひとりの天才の手によって凄いゲームが作られ、ゲームの未来が変わるかもしれません。

それが日本から生まれるとするならば、そこで大事になるのは、日本の歴史とか、文化とか、そういうものだと思うんです。

ぜひとも海外市場のマーケティングデータに影響されず、日本ならではのオンリーワンなゲームを生み出してほしい。

わたしは、隣に女子高生がいるかのような気分になれる『サマーレッスン』というVRゲームが大好きで、これは外国人ジャーナリストからは『なんだこれ! クレイジーだ! VRをそういう使い方するのか!』と驚愕されるゲームなんですね(笑)。

でも、それもおそらく5年もすれば、海外の人もなじんでくるはずです。

そういった、海外の人が想像もつかないようなところから生まれた日本のVRゲームの中から、すごいヒット作が誕生することを期待しています」

これからのVRゲームにおけるヒットのヒントは「温故知新」ではないか? ということを知りました。

岸本さんありがとうございました。
(おわり)

日本人が気づいてない「強み」とは?|遊びと学び研究所 岸本好弘 第1回
5GがもたらすVRの明るい未来|遊びと学び研究所 岸本好弘 第2回
ジョブスの哲学よりもっと大切なこと|遊びと学び研究所 岸本好弘 第3回

取材・文/野安ゆきお、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部

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