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大丈夫か?日本人の健康リテラシー| 一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic) 理事 宇野 文博 中編

前回は、「そもそも健康商品とは何か?」についてお話を伺いました。

今回は日本における健康食品の問題点について、前回と同様、一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic) 理事・宇野文博さんに、お話をお聞きします。

宇野 文博(うの・ふみひろ)
一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic) 理事
株式会社同文書院代表取締役
慶應義塾大学法学部卒業(1983)。ニューヨーク大学大学院スターンスクールMBA修得(1989)。凸版印刷アメリカ、米国シンクタンク The Progressive Policy Institute勤務を経て、株式会社同文書院グループ入社(1991)、同社代表取締役に就任(2001)。健康食品の安全性に関する正しい理解を広めるために、日本健康食品・サプリメント情報センター理事(2011)として、医師や薬剤師への講演をおこなう。「健康食品・サプリメントの健全な流通を考える会」発起人(2018)。

誤解されている健康食品

――前回お話を聞く前までは、健康食品として店頭で売られているものはみんな、薬みたいなものだと思っていました。

宇野文博氏(以下、宇野):
「全然ちがいます。『健康食品に規定はない』と言ったのはこの意味です。

最近は健康ブームにのり、健康食品の市場が大きく拡大しました。

ところが、それに合わせて国民生活センターなどに寄せられる苦情も増えました。

2007年には約1万6000件だったものが、2016年には2万9000件です」

――そんなに多いのですか?まがい物が多いということなのでしょうか?

宇野:
「それもあるでしょう。しかし、消費者の健康食品に対する認識の低さも一因です。

たとえば、消費者庁は、同ウェブページで次のように警告を発しています。

『健康食品は薬のように症状を軽くしたり、病気を治したりする効果は期待できません』

『天然、自然、ナチュラルなどのうたい文句は、安全を連想させるが、科学的に安全を意味しない』

『健康食品として安全性や有効性が評価されているのはトクホなどの一部の食品のみ』

『健康食品の中には、有害な成分を含み健康被害を起こす例も見られる』

『多くの人に安全でも一部の人に健康被害を起こす場合がある』等です」

――これはいわゆる「食品」の話ですよね。カプセルや錠剤などは信用できる気がします。

宇野:
「まだ勘違いしています。粉末、カプセルや錠剤(いわゆるサプリメント)などの姿形は、一切関係ありません。

医薬品でなければすべて食品です。

そしてトクホの認定を受けていなければ、安全性も有効性も評価されていないんです」

――そうだったのですか。形がクスリに似ているから、安全で効果も高いものだと思い込んでいました。

宇野:
「逆にサプリメントであるがゆえの危険もあります。食品の形ならば摂る量におのずと限界がある。

いくらトマトが体にいいと言っても、一度に100個食べることはできないでしょう。

しかしカプセルや錠剤なら、特定の成分を大量に摂ることができてしまうんですよ」

――効き目成分をたくさん摂れるなら、体にいいのでは?

宇野:
「それも大まちがいです。ビタミンやミネラルは、適度に摂れば健康にいいです。しかし過剰摂取は体に悪影響をもたらします。

実は健康食品による健康被害はまれではありません。それにはさまざまな原因があるんです。

消費者の間で、健康食品に対する理解が浸透していないし、メーカー側も理解を促す努力が足りていない。

健康被害で一番損をするのは消費者ですが、二番目は健康食品業界です。業界全体が不審の目で見られるのですから。

またこの問題は、消費者や業界だけでなく、国全体で考えていかなければなりません。制度の改革が必要だからです」

日本人は健康リテラシーが低い

――具体的にはどんな方法があるのでしょう?

宇野:
「たとえば、米国は1994年にDSHEA法(栄養補助食品健康・教育法:Dietary Supplement, Health and Education Act, 1994)という法律を施行しました。

この法律は、『ダイエタリーサプリメント』(≒健康食品)の有効性をたくさん表示できるようにすることで、消費者の『健康リテラシー』を向上させ、疾病を予防し、医薬品に頼らないようにしようという主旨で設けられたものです。

『有効性をたくさん表示できる』とはつまり、製造・品質管理をきびしくし、第三者機関で検査することです」

――たしか、前回のインタビューで米国の「cGMP」についてお話されていました。

宇野:
「米国cGMPの製造ガイドラインは、815頁に及びます。これに対し日本のGMPは5頁です。

ダイエタリーサプリメントの製造工場は、このガイドラインで規定された行程に基づくことが義務付けられていますが、日本では任意です。

さらに成分含有、成分崩壊性、異物混入の確認が義務付けられている。日本のGMPでは検査しなくていい。

また、FDA(Food and Drug Administration、米国食品医薬品局)による未告知の立入検査がある。日本では行われていない。このように両者には大きなへだたりがあるんですよ」

――こんなに厳しいと、米国で導入した際には業界の反発があったのでは?

宇野:
「そもそもは米国民の健康を守り、病気への支出を抑えることが目的でした。

一方で、消費者の『健康リテラシー』が向上すると、健康食品への購買意欲が高まり、結果として、健康食品の市場が大きくなる。

さらには輸出も拡大する、という目論見もあったのです。

米国では、このDSHEA法が成立してから、市場が拡大しています。現在では3~4兆円近いと言われています」

――日本はどうですか?

宇野:
「日本はそもそも、消費者の健康リテラシーが非常に低いんです。

『ヨーロッパヘルスリテラシー調査質問紙』(European Health Literacy Survey Questionnaire: HLS-EU-Q47)による比較では、ヨーロッパだけでなく、アジア各国よりも低い。

なぜこのような結果になったか。それは、ほとんどの日本人に『かかりつけ医』がいないからです。

かかりつけ医がいれば、病気や医薬品だけでなく、健康に関することについて詳しく話をすることができる。

ところが現状の医療制度では、医師や薬剤師が一般の人々の健康リテラシーを高めるような活動ができません」

日本において、多くの人は「医者や病院」は病気になったら行くところ。健康について相談する場所ではありません。

でも、健康リテラシーを上げるためにも、ヨーロッパのように「かかりつけ医」に通うという習慣をつけて、自分が摂取している健康食品なども相談できる場が必要かもしれません。

次回に続きます。
(つづく)

そもそも、健康食品って?| 一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic) 理事 宇野 文博 前編

大丈夫か?日本人の健康リテラシー| 一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic) 理事 宇野 文博 中編

安全な健康食品とは?| 一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic) 理事 宇野 文博 後編

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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