機械翻訳DeepLの翻訳プロセスについての一考察
上記記事の最後に触れましたが、たまたま、以下の文をDeepLという翻訳ツールに入れてみたところ、興味深い結果が出ました。
英語原文及び私訳
(元記事全体は、《誤訳事例研究03 ~日本語訳文の主語省略が不適切となる場合~「新型コロナ、“無症状”でも無害とは限らない」より》内のリンク先でご確認ください。)
If confirmed, this finding suggests that the absence of symptoms might not necessarily mean the absence of harm.
この所見が正しいとすると、症状が一見みとめられなくても、それをもって異常がないとは言いきれないかもしれないのです。
DeepL翻訳結果
If confirmed, this finding suggests that the absence of symptoms might not necessarily mean the absence of harm.
この結果が確認されれば、症状がないことが必ずしも害がないことを意味すると考えられます。
(2021年9月4日18時07分時点の結果)
DeepLの翻訳結果の分析
結果を見れば、真逆の意味になっているんですが、間違いをあげつらいたいわけではありません。DeepLが何をどう考えたのかが見えてきそうで面白いなと感じた次第です。
それでは、本題に入りましょう。
まず、"If confirmed," を「この結果が確認されれば、」として、文のメイン部分と切り離しています。これは問題ないと思います。
次に "suggests" を「~と考えられます」としています。なるほど、自然な表現にするべく、工夫されているなと感じます。
“that the absence of symptoms might not necessarily mean the absence of harm.” をいったん、Xという箱の中に入れて、「Xと考えられます」としている感じですね。
少し飛ばして、"mean" に注目しましょう。「意味する」と訳されています。"suggests" のときと同じように、"the absence of harm" をいったん、Yという箱の中に入れて、「Yを意味する」としている感じでしょうか。
”the absence of symptoms" ⇒「症状がないこと」。
"the absence of harm" ⇒「害がないこと」。
どちらもまぁ、いいでしょう。
”might not necessarily" ⇒「必ずしも~でないかもしれない」。
"mean" ⇒「意味する」。
ここですね、問題は。
「必ずしも意味しない」としてほしいところですが、
「必ずしも(害がないことを)意味する」となってしまいました。
ここからは完全に想像なのですが、「『ない』が無意味に重複しているので一つにまとめても良い」と考えてしまったのではないでしょうか。
少し話が変わりますが、中高生向けの熟語集には大抵 "take A out" という表現が出てきます。また、"out of B"と言う表現も出てきます。
これらは一緒に使われることもあるのですが、その際に、"take A out out of B" とはならずに "take A out of B" となります。
DeepLが「自然な日本語表現」を実現しようとして、これと同じような手法をとった結果、二つ必要な「ない」が一つになってしまったのかもしれません。
原文を少し変えてみると…
上述の通り、"not necessarily" がつまずきの原因になっていそうなので、necessarily を省いてみました。すると、こうなりました。
If confirmed, this finding suggests that the absence of symptoms might not mean the absence of harm.
この結果が確認されれば、症状がないことが害がないことを意味するとは限らないことになります。
(2021年9月4日18時07分時点の結果)
いいですね。
機械翻訳でパパっと出力する分には申し分ない訳だと思います。
"not necessarily" があると常におかしくなるわけでもないのでしょうが、これがあると、「必ずしもうまく訳せるとは限らない」ようですね。
おまけ:Google翻訳
Google翻訳ではこうなりました。
今回はGoogle翻訳の方が質が高いですね。
If confirmed, this finding suggests that the absence of symptoms might not necessarily mean the absence of harm.
確認された場合、この発見は、症状がないことは必ずしも害がないことを意味しないかもしれないことを示唆しています。
(2021年9月4日18時07分時点の結果)
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