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【#私はこんな仕事がしたい展】トークセッションレポートvol.5:「循環システムデザインについて考える」

2019年11月29日(金)より3日間に渡って開催された「#私はこんな仕事がしたい展」。その中で行われた8つのトークセッションの模様をひとつずつお届けする不定期連載、今回はその第5弾です。

■高倉葉太さん×邦高柚樹さん「循環システムデザインについて考える」

トークセッション第5弾はこれまでとは少し趣向を変え、「循環」をキーワードに、その仕組みへの興味を喚起するクリエイティブ・コンテンツを制作しながら、その先に「“考える”を喚起する」ことへと繋げる活動を行っているお二人の異色のセッションとなりました。

■登壇者のご紹介

高倉葉太さん
株式会社イノカ代表。1994年生まれ。落合陽一を輩出した東京大学院の暦本研究室所で人工知能などの研究に携わる一方で友人と起業。大手企業からスタートアップまで数多くのシステム開発受託に従事。その後2019年4月に株式会社イノカを起業。「環境移送」水槽の活用によるソリューション提供や、海洋の生態系に関する教育コンテンツの企画・運営を行っている。

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邦高柚樹さん
モンドワークス株式会社代表。オランダ滞在時に出合ったアクアポニックスとよばれる循環型農業に魅せられ、日本での普及や認知を高めるためにプロダクト制作を開始。クリエイターとして個人の制作を進める一方で、農業界の閉鎖的な環境を変えるべく農家向けのサービスも開発中。
将来の夢は宇宙飛行士で、異なる惑星の生命体と食卓を囲み地球産の美味しいご飯を振る舞うこと。

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■それぞれの「循環システムデザイン」

まずはお二人の事業について。「イノカの箱舟を作る」というプロジェクトや「アクアポニックス」がどういうものなのかお聞きしました。

邦高柚樹さん(以下、邦高)「アクアポニックス」:
「アクアポニックス」は、Aquaculture(水産養殖)とHydroponics(水耕栽培)を組み合わせた「循環型の食料生産システム」
。どういうことかというと、まず、魚の糞やエラから出る有機物を含んだ水を微生物に分解させることによって、非常にナチュラルな栄養水ができます。その養液を活用して、野菜、花、ハーブなどの植物を育てる。植物は根をフィルターとして栄養分を吸収するので、残った綺麗な水がもう一度魚のところに戻ってきます。こうした、一つの水がぐるぐる循環しながら、余すことなく生態系が絡み合って食料生産を生み出す仕組みをアクアポニックスといいます。

モンド

育てるものにもよりますが、小松菜、レタスなどの葉物野菜であれば30日くらいで生産できるため年間十二毛作が可能になるし、室内であれば季節関係なく育てることが出来ます。メリットは既存の農法と比べて水の消費量を9割も削減できることや、野菜と魚どちらもがタンパクを取ることができることなどでしょうか。世界の干ばつ地域や水資源が極端に少ない地域で、様々なNGO主導で活用されています。アフリカなど流通インフラがないような場所でアクアポニックスを自分の村で生産して自分の村で消費し、余ったものは売りに出すなど、あらたな雇用を作ったり、気候の変化に左右されないこともポイントになってきています。
もともと取り組んでいたのはアメリカ。自給自足を求める中でアクアポニックスの考えが登場し、それが最近は気候変動の影響であらためてフィーチャーされているんです。それを日本に持ち込んだのは僕ですね(笑)。当時はWikipediaのページすらありませんでした。オランダでみたアクアポニックスのファームは、ビルの中でやっていました。実はオランダは、二酸化炭素量をコントロールしたり、室内でどう効率よく農業をやるのか考えるなど最先端の国。そういった中で、魚も野菜も収穫出来ていいとこ取りということで、アクアポニックスにも先端的に取り組んでいました。僕が見た場所は昔IBMの部品の組み立て工場だったらしいのですが、屋上とひとつ下の2フロアでやっていました。面白かったのが、下のフロアにレストランがどんどん集まってくるんですよ。ビル産ビル消ですね(笑)。ビル内で作ってビル内で消費するという本当の循環構造が出来ていて、消費者も「屋上で作ってるんだよね」と納得して食べるという環境が出来ていました。ただこのビルは行政から委託されてやっているのでサポートもあったようで、安全面や賃料の面などを考えると、日本でやるにはハードルが高いのかもしれません。
アクアポニックスについて初めて知った時から「概念として面白いな」と思っていたんですが、日本でリサーチしてみると認知度がとにかく低い。なぜなら、アクアポニックスが使われれる必要性がなかったんです。そうした中で、無理に僕がファームを作る所から始めて、皆さんの意識と差がある中で「え?魚の糞で作った野菜?」と誤解を生むのは避けたい。そこで、まずは作品やリアルなプロダクトなど自分が作れるものを作って、興味をもってもらうところから始めようと思い、アクアポニックスのキットや、少し大きめの生態系のジャングルジムのようなものなどを作りました。

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※100BANCHナナナナ祭での展示

取り組んでいくうちに「アクアポニックス自体を知ってもらいたいのではなく、人に何か気づきを与えるトリガーになるのがこのアクアポニックスであったらいいな」と思うようになりました。概念云々ではなく、例えば「魚と植物を一緒に育てて、なんで水が濁らないんだろう?」などの気づきを見ている人に与えられたらいいなと、制作活動やワークショップを通して考え方がアップデートされてきています。
今は教育にも力を入れていて、学童保育児童や中学生、大学生などを集めて「机の上だけでなく、日常空間のあらゆるものが学ぶこと、気づくことのツールになる」などのテーマでディスカッションをしています。

高倉葉太さん(以下、高倉)「アクアリスト」:

僕達のやっている「イノカの箱舟を作る」取り組みは、本物の海を切り取って、その海を生態系ごと陸上に移動して再現するというもの。その中で僕達が一番力をいれているのがサンゴです。サンゴは生態系の象徴的な場所で、海の中のたった0.2%の面積しか占めていないにも関わらず、25%の海洋生物がサンゴ礁に依存しているんです。サンゴはヤドカリ、貝、エビなど様々な生き物に意味をもたせて、魚に餌をやったら糞からそれを分解する。僕達の場合はそれが野菜ではなく、またサンゴなど海の生き物に循環されていくんです。糞から分解された栄養をサンゴがまた吸収してくれるので、そういうシステムを作ったりしています。
僕達はシステム自体も作っていますが、それをどうやって社会に実装し、環境保全をどう循環させるかを意識してビジネスを行っています。主に取り組んでいるのは「残す・広める・使う(活かす)」の3つ

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「残す」は、絶滅危惧種の保護や、サンゴ以外にも絶滅しそうな水草や真珠貝などの保護をすること。「広める」は、いくら僕達が生き物を守っても、結局根本的に守るには地球温暖化を止めなければいけないので、一人でも多くの人が環境について考えて動けるように、本物の生態系を見せながら子供や大人に教育する活動をしています。
ただ保全や教育は、正直な話、あまり儲からないんです。そこで僕達は「使う(活かす)」をやっています。僕達の持っている水槽を研究者に無料で公開して、その場で研究をしてもらい、そこで出た研究成果を企業に売っていくことで「水生生物を守っていくことがあなた達にとって経済的にも大事なんです」と伝えていくんです。今までの「か弱いものを守らなきゃ」という保全から、ちゃんと「自分たちのため」に循環する環境保全モデルを作るために活動しています。
「残す」としては、「イノカの箱舟に100%色々な生き物を保護する」ことを様々な企業や自治体と協力しながらやっています。色々な企業が環境教育に取り組んでいるので、そのブラッシュアップのサポートをしたりしています。
さらに、実際に研究者にデータを渡して、それを利用してもらうということも行っています。具体的な事例では、マイクロプラスチックの研究の場所として僕達の水槽を使い、マイクロプラスチックの代替品の研究している企業に研究結果を渡したりしています。

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最後にアクアリストについて。こうした循環システムはあまり研究されておらず、一匹一匹の生物学はわかっているものの、「自然がどう回っているのか」はなかなか研究対象としてうまく深められていないんです。ただ、僕達のチームは皆生き物が大好きで趣味でサンゴを飼っている。研究の深くない分野で、それを趣味でやっている“アクアリスト”がいるから、僕達は研究者たちを巻き込んでいけるんですよね。研究者とアクアリストを掛け合わせることで、様々な研究をしています。例えば真珠貝は陸上移植にまだ成功していなくて、それは餌が問題なんです。彼らは植物プランクトンを食べるんですが、植物プランクトンの培養は非常に難しい。なぜなら動物プランクトンを入れると全部食べてしまうから。なので、効率よく植物プランクトンを培養する方法がないんですが、それでも生態系の中では誰も真珠貝に餌をやっているわけではないので、その生態系をつくることで真珠貝を養殖する、と。これはアクアポニックスの考えに近いと思うんですが、魚を育てつつ、そこででた糞などで真珠貝を育てるんです。

■「本物」に触れ人生が変わった。その“気づき”の体験を循環させていくために

日本のみならず世界でもなかなか例の少ない研究に取り組んでいるお二人は、それぞれ最初の出会いで強烈なインパクトを受けたといいます。

邦高:一番最初にアクアポニックスを見た時に、脳の中でスパークしたというか、「これはすごい!」という直感がありました。個人的にも、人生の中でこんなに長く熱を持って取り組めることがなかったので、これが何なのかと考え続けています。僕は、2歳の時に兵庫県神戸市出身で阪神淡路大震災で被災しています。記憶はほとんどないですが、小学校に入るまでずっとプレハブで生活していたので、僕の原点はプレハブ。祖父母の家も半壊以上だったので皆でプレハブに住んで、それが当たり前のようになっていて。毎年被災した1/17には、家族の間で自然とその話題がでてきます。その時におばあちゃんは「被災するのは天の巡り合わせだからしょうがない」と言っていましたが、それでも僕が思うに、そのあとに人間が考えるべきなのは「未曾有の事態が起こったあと、人間はどう立ち振る舞えるのか?生きる術を見出していけるのか?」。落ち込んだ時も、気持ちを切り替えてハッピーになるためにはどうしたらいいのかを考えています。そうした生きる術が重要だと子供の頃から説いてもらっていたので、それがアクアポニックスの概念とリンクしたんです。ポイントは、アクアポニックスは誰であっても簡単に始められること、健康な食事を摂れること、そこに人も集まってくること。「何もないところから誰でも簡単に始められて、人やものが集まってくる」という点が僕には刺さりました。
それを一番確信したのは大きなアクアポニックスを作っていた時で、老若男女、外国の方も、おじいちゃんもおばあちゃんもハーフも家族連れも皆「これは何なの?きれいだね」と声をかけてくれたんです。その時に確信に変りましたね。アクアポニックスを伝える活動が、ある気づきから次のアクションに移るきっかけを与えるものになるといいなと思っています。やはりリアルなプロダクトがあるとテンションが上がりますよね。本物の魚がいると子供が楽しそうに見てくれたり、そこに人が集まってくるのがとても嬉しいです。

触れた「本物」を広めていくことから始まった活動は、それらに触れた時の「気づく」という体験自体を広めていくことへと繋がって行きます。

高倉:僕も邦高さんと一緒で「本物を見たこと」がきっかけになっています。初めてサンゴの水槽を見た時に僕もビビッときたんです。その頃はアクアリウム×IoTという領域で、なんとなく「もっと便利にアクアリウムができるといいな」ぐらいの気持ちで考えていたのですが、本物の循環システムをみて「こんなに素晴らしいものがあるんだ!」と感銘を受けました。やはりいくらこうやって話しても、サンゴの面白さや生態系について伝えきれないのですが、本物を見た瞬間に人の意識が変わる様を見たんです。
最近は消費するコンテンツが増えすぎていると思っています。たとえばYouTubeで手軽に見れて面白いものが増えていくのは良いものの、一方で目の前の自然に目を向けてみると、不思議で面白いことがたくさんある。そこに少しでも気づける人を増やしていきたい、というのが僕の思いです。

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■消費されないコンテンツとは?

このイベントのみならずforiioのクリエイターの皆さんが作り出している「コンテンツ」。高倉さんの言葉にもある通り、昨今増えすぎている「消費するコンテンツ」に対して「消費されないコンテンツ」とは何か、そのために何が出来るのかについて、お二人の考えを聞きました。
ちなみに、foriioスタッフが考えた仮説はこちら。

「消費されないコンテンツ」の定義
〇感覚記憶ではなく短期記憶として残る
〇触れた人にポジティブなアクションを促す
〇触れた人のギャップ心をくすぐる
〇ソーシャルイシューとの関連性が強い

邦高:やはり消費されないために、自分事化してもらうことが重要だと感じています。手に触れてもらって、実際に目で見て、次の何かに繋がる、行動に移せるというところまで行って、持続的・継続的にコミュニケーションを取れる状態になったら、それは瞬間的な消費ではなく「関わり」になるはず。リアルの方が実現しやすいですが、クリエイティブなコンテンツでも表現できるのではないかと思っています。

高倉:同じく「見て終わり」なものが非常に多いと思っています。アートやクリエイティブの文脈だと難しくて、「見た人にこう解釈してほしい」という思いが強すぎてもダメ。ある程度は余白を持たせることを意識するようにしています。例えば「環境問題を今説明しましょう」「プラスティックはダメだから紙ストローにしましょう」と言うのは簡単で、でも紙ストローにすれば問題は解決するのかというとそうではなく、そのことについて考えて動く人が増えてほしいんです。だからこそ、余白を持たせるようにしています。まずは本物に触れてもらう体験を増やし、その中で出来るだけ自分で自然に考えるように促す。消費して終わるのではなく、その人の生き方にちょっと関わるような、そういったものを作っていきたいと思っています。

■お二人の「#私はこんな仕事がしたい」

最後はこちら。このイベントのテーマ「#私はこんな仕事がしたい」についてお聞きしました!

高倉:社会にテンプレートを生んでいく仕事というより、余白を持たせて、色々な人が自分で考えたり動いたり出来るようなものをアウトプットしていきたいです。

邦高:アクアポニックスをリアルなところで作っていく事が、最もインパクトが強いと思っています。都市空間って意外と動くもの、有機的なもの、それこそアクアリウム等が少ないので、その殺風景な空間の中に異世界のような一つの空間キットとしてアクアポニックスを作っていきたいですね。そこからどういう心の変化があり、何が変わったのか、使っている人とコミュニケーションを取りたいので、僕はものを作ってゲリラ的に配りたいと思います(笑)

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「#私はこんな仕事がしたい展」で行った8つのトークセッションについては、順次不定期にレポートを更新していきます。残りの3つのレポートもお楽しみに!

Text:Shiho Nagashima

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