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【#私はこんな仕事がしたい展】トークセッションレポートvol.6:「初心者向け!美術館・展覧会の歩き方」

2019年11月29日(金)より3日間に渡って開催された「#私はこんな仕事がしたい展」。その中で行われた8つのトークセッションの模様をひとつずつお届けする不定期連載、今回はその第6弾です。

■榎本順彦さん×板橋令子さん「初心者向け!美術館・展覧会の歩き方」

トークセッション第6弾は、今までの「作り手側」の皆さんのセッションから視点を変えて「観る側」を謳歌しているお二人のセッション。その「観る」行為の中に、アートの未来へかける熱量がこもった熱いセッションとなりました。

■登壇者のご紹介

榎本順彦さん
1989年生まれ、北海道札幌市出身。 リクルートにて中途採用領域の新規サービス開発や法人営業を経験。その後スタートアップを経て、2016年に株式会社3Sunny(スリーサニー)を共同創業。COOとして医療介護領域の課題解決を目指している。

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板橋令子さん
1992年東京生まれ、慶應義塾大学経済学部卒。武山政直研究会にてデザイン思考を用いたサービスデザインに取り組みながら、文学部にてアートマネジメントやアートプロデュースを学ぶ。東京で文化・交流を生み出す場づくりをしたいと考え森ビル株式会社に入社。 現在は、虎ノ門エリアの新規プロジェクトにおいて、新たな文化施設やビジネス発信拠点の立上げに携わる。

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■展覧会に足を運ぶようになったきっかけ

「アートホッピング」という言葉も飛び出した本セッション。アートって、“美術鑑賞”って、なんか堅苦しいし、お高いし、難しい…といった先入観を払拭してもっと身近に楽しんでほしいと願う「観る」側のお二人が、それぞれアートに興味を持ったきっかけとはなんだったのでしょうか?

榎本順彦さん(以下、榎本)学生時代にイギリスとカナダに留学していたのですが、様々な国の人がいる中で美術や美術史の話が出てくる度に全然ついていけなくて、「お前やばいよ」と言われたのがきっかけです。それで少しづつ興味を持ち始めて、社会人になって気軽にアートについて話してくれる友人ができたり、実家が本屋さんでその本から入って画家に興味を持ったり、趣味だった映画から興味を持ったりという流れで徐々にはまっていきました。コンテンツそのものよりその人のことを知りたいと思うタイプで、例えば「ピカソってなんであの絵を描いたんだろう?」「じゃあ時代背景はどうだったんだっけ?」などと調べていくうちに面白くなっていったんです。そのうちに、もっと色々なアーティストと作品を知りたいと思うようになり、展覧会に行くようになりました。勉強して「この表現にはこういう意味があって…」ということよりも、例えば駆け出しのアーティストの作品を数千円~数万円で購入して、本人と話してみて背景を聞いたりするうちに知識がついて…ということが面白いなと思っています。

板橋令子さん(以下、板橋):私は物心ついた頃から映画や音楽には興味があったのですが、高校を卒業した頃に初めて森美術館に行って衝撃を受けたのがきっかけだったと思います。それから次第にハマっていく中で、現代アートを「思考を促してくれる美しくて楽しい装置」として観るようになっていきました。例えばマルセル・デュシャンという、男性用の便器に架空人物のサインをした「泉」という作品で有名なアーティストがいます。なんでこんなものを作品にしたんだろう??と。社会的背景を調べたり、アーティスト自身に当時何があったのかを深掘りしてみて、自分と照らし合わせて想像してみたり、家族や友人と話し合ってみたり…そうやって自由に楽しめるのがアートの一つの魅力だと思います。アートは社会や自分への問いを投げかけてくれますよね。

■ハードルは高くない!様々なアートの楽しみ方

「どういう視点で作品を観たら良いのかがわからない」など、作品の“観方”にハードルを感じている人も多いはず。お二人の楽しみ方、作品の観点はどんなところにあるのでしょうか?

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板橋:例えば、先日森美術館で展覧会を開催した塩田千春さんの作品。彼女は赤や黒の糸や船などのモチーフを使って、どこかグロテスクや色気を感じさせながら、人生や旅、人間の存在を間接的に描いていました。生と死を思い起こさせられて、サブタイトルの通り、多くの人が魂をふるわせたのではと思います。美術館って、白いハコの中に絵が一点づつ等間隔に並べられて…っていう風景を想像しがちだと思うんですが、これは違います。三日三晩じゃとても足りない圧倒的な時間をかけて、数え切れない職人さんが糸をひとつひとつ繋げていって…人が入った瞬間にハッと感動する空間を手づくりしているんです。難しいことを考えずに、「この糸、どうやって天井から張られているんだろう?」とか、制作方法を想像してみるだけでも面白いと思いますよ。先ほど、アートを買うという話がありましたが、これはある意味ここでしか観られないもの。この作品を購入することも不可能ではないし、海外での巡回予定もありますが、これは他で展示されたとしても、壁や天井、床…もちろん美術館の立地だって違います。全く雰囲気が変わりますよね。2019年のとある日に六本木ヒルズに来て、ここでしか得られない体験を共有した、という事実がとても面白いし大切だなと思いました。

榎本:
狂気を感じますよね。そういう作品やアーティストのエネルギーを受け止めた時、自分の中では言語化出来ない感情が出るのでとても好きです。収益的にはどうなんでしょう?

板橋:
先ほどの塩田千春展は森美術館の自主企画で、130日間で66万人以上の方がご来場くださったようです。六本木ヒルズではエンタメ系で場所貸しの展覧会も人気ですが、最近はそれに匹敵するくらい現代アートの魅力も浸透してきていて、収益的にトントンになるのも夢ではないのでは?!と思っています。もともと日本の美術館って写真NG、触るのはNG…と厳しい部分もあったと思うんですが、いわゆる“(インスタ)映え“の流れもあって、最近は展示空間に自分が入っていって写真を撮れたり、その体験をシェアできるものも増えてきました。そうした事例を作ったパイオニアとして、撮影を解禁した森美術館の活躍は大きかったのではと思います。もちろん”映え“逆算のコンテンツではないので、現地での感動が結果的にSNSでシェアされているんですよね。森美術館のInstagramのアカウントも注目されているようで、先日SNSを活用したマーケティングに関する本も出版しました。

■現代の“アーティスト”と、アーティストを取り巻く環境

西洋絵画にしろ浮世絵にしろ、技法や表現には系譜や流派が存在することが多いですが、昨今ではそうではないアーティストも増えてきています。お二人は、そうしたアーティストの作品や現在の日本のアーティストを取り巻く環境をどう受け止めているのでしょう?

榎本:ベトナムのホーチミンにあるコンテンポラリーアートセンターという所では、週替わりや月替わりで注目のアーティストの作品を展示したりしているんですが、日本や欧州と全然違うんです。「〇〇からインスピレーションを受けています」ではなく、「自分の感性ベースで作りました」という方が結構いて。

板橋:東京でも、最近は正統派キャリアにこだわらず創作活動を始める人が沢山いますよね。例えば、会社で働きながらでも、自分が覚悟をもって名乗ればアーティストになれる、そんな可能性に溢れた時代なのかもしれません。創るためのツールが充実しているし、情報へのアクセシビリティも高くて、発表するためのメディアが沢山ある。モチベーション次第で創り手になれて、自由にアウトプットできるのが現代の一つの特徴なのでしょうか。とはいえ言うは易く行うは難し…だと思いますが。

榎本:
アーティストさん本人が作品についてなかなか話してくれない時もあるし、自分も誰かに作品を説明するときに説明の仕方が難しい時もあります。どうしたらいいですかね?

板橋:
小規模なギャラリーだと、アーティストさんが在廊していらっしゃることも多いので、「こういう想いで創ったんです」とか「これって何に見えますか?」なんて話しかけてくれたり、コミュニケーションをとれることもあって嬉しいですよね。比較的大きな美術館でも、アーティストトークに行くと必ず新しい発見があって面白いです。

榎本:直接コミュニケーションをとったアーティストさんだと応援したいと思えるし、作品を家に飾っておくだけですごいエネルギーをもらえるじゃないですか。なので、僕は最近はとりあえず買っておくようにしています。

板橋:
先日上海に行って驚いたのですが、東京をあっという間に超えそうな勢いですね。美術館の数、マーケットの規模、アートフェアや芸術祭のスタート…政府の戦略的なバックアップが大きいのでしょうか。文化・芸術の成熟度は、その都市の勢いやレベルを表す一つの指標だと思います。(表現規制はまだありますが)上海は新しい美術館がどんどん生まれているし、工場や造船所を隈研吾さんはじめ著名な建築家がリノベーションした文化施設だったり…重点的に力を入れられたのが分かるドラスティックな変化に衝撃を受けました。

榎本:日本はそのあたり非常に保守的ですもんね。例えばルーブル美術館。絵画は貴族たちの間でだけ楽しむのではなく皆にみてもらうべき、として数百年前に一般に開放したんです。凄く新しい取り組みだったけれど、それで一般市民の人たちが絵を観るようになって皆のリテラシーがあがり、また良いアーティストが生まれる…という循環が出来たと思っています。他方、日本では国宝はお寺の中にあって基本立ち入り禁止、といった事が多くて非常にもったいない。まずは、皆が作品に触れ合える機会を増やしていく必要があるのかなと思います。

■アートが促進する、人と人とのコミュニケーション

ハードルが高いと思われがちなアートも、最近では体験すること、共有することなどによって多くの人々の興味関心を掻き立てています。お二人が実感したアートだからこその広がり、生活や仕事で役立つシーンにはどのようなものがあるのでしょうか?

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板橋:最近は、アートに興味があるか分からない人にも「この間この美術館に行ってきて~」といった話をする機会が増えてきました。写真や動画を見せながら直接話すこともあるし、意外な人がInstagramの投稿に興味を持って声をかけてくれたり。それで、やっぱり現地で同じ感覚を共有して話せるのが一番楽しいので、「じゃあ今度何か観に行かない?」と話が進むこともあります。自分が一回行った展示に友人を連れて再度行くこともありますし、人との距離を縮める上でも役に立っているのかもしれません。仕事では、新しい文化施設の立上げに携わっているので、一つ一つ視察と思って勉強しています。

榎本:
僕も仕事で役立っている部分があります。医療系のベンチャーなので、相対する人が院長先生や理事長など60-70代の方が多く、結構部屋に絵が飾ってあったりするんですよね。そこで絵についての話を出来るので、世代を超えた人とのコミュニケーションをとるのにアートってすごく良いんです。さらに、病院で治療を受けているような人たちにとって、こういったアートを観ることには結構な効果があるんだとか。そうした取り組みも今後増えていくと思うので、もっと勉強して行かなくちゃいけないとも思いますし、やはり海外、特に欧州に行くときにはアートに関する知識を持っていないと「何もわかってないヤツ」と思われてしまうので、もっともっと色々知りたいですね。

■お二人の「#私はこんな仕事がしたい」

観る側としての様々な視点を披露してくださったお二人。そんな二人の考える、アートに絡んだ「#私はこんな仕事がしたい」とは?

榎本:
起業した身として、自分がお金を稼ぎたいという考えは一切なくて、どちらかというと世の中にある課題をどんどん解決してきたいなと思っています。その中で、やっぱり理論やロジック、理屈だけじゃ正解を出せないものが凄く増えてきたと思うんです。AIが普及しつつある中、計算したら誰でもわかる答えではなく、言語化できない物事をちゃんと捉えて意思決定していかなくちゃいけないという事が言われていますが、そこでまさに今アートが注目されています。僕もそういうものをちゃんと捉えて貢献していきたいなと思っています。

板橋:
私は学生時代、初心者で映画制作と上映に挑戦してみて本当に大変だったので、今活動されている全ての創り手の方々にリスペクトがあります。持続可能な創作活動には、きれいごとじゃなく場やお金が必要だと思います。どうやったらアート&カルチャーをマネタイズしてビジネスと両輪で回せるのか、できるだけ関わる人全員が気持ちいいスキームを考えて、社会に実装できたらいいなと思います。そのためには、ちゃんとクリエイターやアーティストと同じ目線で考えながら、1企業としてワクワクするエコシステムを生み出したい。「私たちはこの企画展を応援しています/森ビルのロゴ」といった単なるスポンサーではなくて、どんな場があったら創作しやすいかとか、どうしたらインスピレーションを与え合えるのかを一緒に考えてみたい。それはラボかもしれないし、ギャラリーかもしれないし、スタジオかもしれませんが…ただ展示するだけではない新しい仕組みや場づくり、そういうものを開拓できたら楽しいですよね。

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※当日は東郷りんさんがモデレートを担当してくださいました。ありがとうございました!
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「#私はこんな仕事がしたい展」で行った8つのトークセッションについては、順次不定期にレポートを更新していきます。残りの2つのセッションもお楽しみに!

Text:Shiho Nagashima

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