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新刊まえがき公開 情報が氾濫し、社会の分断が進む時代の必読書

Qアノン、ディープステート、不正選挙、人工地震……。
いわゆる陰謀論と呼ばれるモノが流行っていて、関連するベストセラーも出ています。面白がって読むぶんにはいいんでしょうし、私自身も「ネタ」として消費して楽しんでいます。中には、個人的に「さもありなん」と感じるトピックがあることも正直なところです。
しかし、陰謀論が魔女狩り、戦争、ジェノサイド、エイズの感染拡大などの要因になったという歴史を忘れてはいけません。陰謀論は社会、さらには世界を分断し、時に何人もの死者を出すほどの影響を持っているのです。それはQアノン信奉者がアメリカ議会に襲撃をかけた事例を見ても明らかでしょう。

さて、このように情報が氾濫し、社会の分断が進む時代、私たちはどうすれば正しい情報を選択できるのでしょうか。考えられるのは主に2つ。1つは、統計データなどの数字を科学的に見る視点。そしてもう1つが、自分の心のクセを知ることです。
では、どうすればそうした視点を持つことができるのか?
そこでご紹介したいのが、4月の次の新刊です。

おかげさまで、2週間足らずで3刷が決まりました。

ポップ

私の自作書店用POP

パネル

同じく書店用パネル

人は、自分の認知の歪みに無自覚になりがちです。しかし、心を歪める認知バイアスの存在を知ることができれば、多少なりとも自覚的になれます。

「もしかしたら、自分はとんでもない勘違いをしているかもしれない」
「特定の情報ばかり拾って、それ以外の大切な何かを見失っていたかもしれない」
「何気ない自分の意見が、誰かをものすごく傷つけてきたかもしれない」

本書を読めば、そんな不安が頭をもたげるに違いありません。
以下、本書の監修者である高橋昌一郎先生による「まえがき」を公開します。興味のある方は、ぜひ手にとってみてください。

監修者まえがき ―「認知バイアス」とは何か?

一般に「バイアス(bias)」とは、織り目に対して斜めに切った布の切れ端のことで、そこから「かさ上げ・偏り・歪み」を指すようになった言葉である。
よく耳にする「バイアスが掛かっている」という言い方は、「偏った見方をしている」ときに使う。
「認知バイアス(cognitive bias)」とは、偏見や先入観、固執断定や歪んだデータ、一方的な思い込みや誤解などを幅広く指す言葉として使用されるようになったわけである。

品川駅は品川区?

さて、2017年7月の東京都区議会議員選挙の際、品川駅西口前に立つテレビ局のレポーターが、「品川駅前に広がる品川区の選挙情勢」について語っていた。スタジオのキャスターとゲストも一緒に「品川区民」の話をしていたが、実は「品川駅」の所在地は「港区高輪3丁目」であり、駅前に広がっているのは「品川区」ではなく「港区」なのである!
品川駅西口前には「品川プリンスホテル」があるが、その住所は「港区高輪4丁目」であり、ホテルの北側にある「品川税務署」の住所は「港区高輪3丁目」である。
要するに、「品川駅」「品川プリンスホテル」「品川税務署」といった名称から、それらは「品川区」に存在するに違いないと思い込んでいた人は、「認知バイアス」の罠にかかっていたことになる。
これらの思い込みは事実に反しており、論理的には「真(truth)」ではなく「偽(falsity)」である。

3つの研究分野からのアプローチ

「論理学」の世界では、このようなタイプの思い違いを「誤謬(fallacy)」と呼び、古代ギリシャ時代から、さまざまな種類に分類して、議論を健全なものにするために避けなければならないと諭してきた。
それにしても、私たち人間は、なぜ「誤謬」を犯してしまうのだろうか?
たとえば、「○○税務署」の所在地が「○○区」であることは、多くのケースで「真」であり、そのように推測すること自体は、必ずしも間違いでないことも多い。
問題は、この「帰納法(個別の事実に共通点を見つけ、一般的な結論を導き出す推論)」と呼ばれる論法には、ともすれば例外があることである。
なぜ人間が無意識に「帰納法」を用いて物事を認識し、情報を処理しているのかは、「認知科学」の研究対象である。
また、集団間におけるコミュニケーションや、人間と社会との相互関係は、「社会心理学」で研究されている。
というわけで、『認知バイアス事典』を監修してほしいというプランをフォレスト出版の編集者から頂戴した際、何よりも最初に浮かんだのは、論理学・認知科学・社会心理学の3つの研究分野からアプローチするというアイデアだった。
執筆は、情報文化研究所の研究員であり、各々の専門分野で大活躍している若手研究者の山﨑紗紀子氏(論理学)、宮代こずゑ氏(認知科学)、菊池由希子氏(社会心理学)の3氏に依頼することにした。
いわゆる「認知バイアス」に分類される用語は数百以上存在するが、意味や用法が曖昧であったり、重複した意味内容であったりするものも多い。私たちは、何度もミーティングを重ねて、3つの専門分野で必要不可欠な20項目を厳選し、合計60項目にまとめた。

本書の特徴は、一般の「事典」のようにABC順に項目を並べるのではなく、わかりやすい項目から徐々に理解を深められるように執筆者が各部を構成し、読者が楽しみながら読み進められるように工夫した点にある。
読者は、第Ⅰ部(論理学的アプローチ)、第Ⅱ部(認知科学的アプローチ)、第Ⅲ部(社会心理学的アプローチ)の順に読み進めてくだされば、本書を読み終える頃には、「認知バイアス」の全体像をつかめるような仕組みになっている。
もちろん、必ずしも順番にこだわらず、パラパラとめくって気になる項目から読んでいただいてもかまわない。

情報を正しく選択するために

読者対象としてイメージしたのは、大学に入学したばかりの新入生である。もし本書を大学の「論理的思考法」「認知科学入門」「社会心理学概論」のような講義で教科書・副読本として採用していただければ、前期15回・後期15回の合計30回の講義に各回2項目ずつ進行する60項目となるはずである。
実際には、大学生ばかりでなく、どんな読者にも読みやすくするように、さまざまな工夫を凝らしてある。
「項目」は、できる限り見ただけで内容が浮かび上がるような表現にした。「関連」項目は、幅を広げすぎないように関係の深い項目に絞ってある。「参考文献」は、さらに興味を持った読者のために、引用文献に加えて推薦図書も含めてある。

 本書が、読者の「認知バイアス」理解ばかりでなく、人生を豊かにするためにお役に立つことを願っている。

最後に、読者に、次の3つの質問を考えてみてほしい。

◎膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
◎デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
◎自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?

本書を読み終えた読者は、これらの3つの質問に「イエス」と答えられるはずである!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 石黒)

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