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【連載】#1 プロに必要なのは、プライドか、それとも……|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」

職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、日本全国はもとより、世界中を飛び回る、唯一無二の「出張料理人」小暮剛さんが、勇気と希望が満ちる、競わずに自分らしく生きる方法をお伝えします。コンプレックスを抱えて、自信がない人、人生を変えたいと思っている人、夢をあきらめている若い人などに役立つヒントが満載です。

※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。

ボクは、銀行から相手にしてもらえずに、資金調達できなかったことから、そのままフリーの出張専門の料理人になりました。一度もお店を持ったことはありません。

30歳から出張を始めて、2024年で63歳ですから、もう33年間、出張料理人を続けていることになります。今まで、北海道から沖縄まで、全都道府県を訪れて各地で料理させていただきました。世界も100カ国近く訪れて、さまざまな食文化に触発されながら、言葉の通じない方々や宗教等による食事制限のある方々の懐に飛び込み、誠心誠意、毎回、試行錯誤しながらも、全力で料理させていただきました。

このスタンスは今後も変わらず、身体の続く限り、呼ばれればどこにでも行って、料理させていただくつもりです。

最近、出張するシェフが増えてきました。これは、新型コロナの影響が大きいのですが、お店をいったん辞めていずれお店を再開したいシェフが、再開までのつなぎとして出張料理人を始めたり、お店を持ちながらも、お店だけでは経営が厳しいからと、出張も兼任するシェフなどが増えています。

このようなシェフの皆さんは、お店で出すような料理を出張先でも出そうとする傾向が強いのですが、私の経験から言わせていただくと、それでは長続きしないでしょう。

なぜか?

お店の料理というのは、ある程度、「どういうお客様に来てほしい」という客層などのターゲットを絞り込み、「ウチのお店には、こういうお客様に来てほしい」という主張がお店の入口の造りに出ているものです。例えば、銀座、青山辺りの高級店には、短パンTシャツ姿のラフな格好の若者や、ナイフ、フォークを使ったことのないお年寄り、小さなお子さんは入れません。

一方で、私が実践している出張料理は、ご家族、ご親戚の集まり等で、ごく普通のお宅にお伺いさせていただくことが多いため、それこそ、赤ちゃんから、100歳を超えるご高齢の方々まで、実に年齢層も幅広く、老若男女、あらゆる方々に「おいしい」と言って、食べていただかなければいけません。おまけに、出張先の台所が狭かったり、火力が弱かったりで、キッチン設備の整ったお店と同じことをやるには、無理が多すぎるのです。

場合によっては、キッチンのない貸し会議室みたいなところで、セミナー後の懇親会の大皿料理をつくらせていただくこともあります。そんなときは、カセットコンロを使ったり、IHヒーターを使って、仮設キッチンをつくって料理をするため、お店を持っているシェフから見たら、ある意味、常識はずれ、料理界の異端児に見えるでしょう。出張料理をサッカーでたとえると、毎回、条件の厳しいアウェイで戦っているようなものです。

私も当初、フランスで修行したというプライドもあり、フレンチの神様、ポールボキューズさんから直々に習ったように、クリーム、バターをたっぷり使った、リッチな味わいの濃厚な本格フレンチをつくっていました。津々浦々全国を回らせていただき、それこそ、フレンチを食べたことのない、ナイフ、フォークを使ったことがない方々に料理をお出しした際は、レストランとは違い、目の前で、お客様の反応がストレートにわかります。せっかく出したものの、料理のほとんど残されたりすると、気まずい空気が漂い、穴があったら入りたい気持ちになったことは、過去に何度もありました。クリーム、バターを使った料理に慣れていない方にとっては、本格フレンチのコース料理は、うまい、まずい以前に、喉元あたりで、つっかえてしまう感じなのでしょう。

そんな状況が続くと、なんとかしなければと思うのですが、クリーム、バターを使わないと、それは、フレンチではないですし、和食とも違います。
いったい、どうしたらいいのか――。私も3年以上、悩み続けました。

そこで、ひらめいたのが「オリーブオイル」でした。上質なエキストラバージン(EXV)オリーブオイルを使うと、クリーム、バターを使った以上の、コク、旨味が出て、おまけに、植物性なので、さっぱりとしています。何よりも、醤油や味噌、和風出汁との相性も抜群であることに気づき、工夫に工夫を重ね、日本人の口に合う「小暮流創作料理」が誕生することになります。

私が奇跡的に出会った、素晴らしい南イタリア、シシリア産のEXVオリーブオイル、ラヴィダクラシックレーベルは、あらゆる食材との相性が良く、全国どこに行くにも、手放せません。海外では、宗教による食材制限もありますが、上質なEXVオリーブオイルは、ハラル、ヴィーガン、ベジタリアン等、どんな制限食にも使うことができるので、海外に行くときにも必ず持参致します。

皆さんにお伝えしたいことは、どんな仕事をするにしても、お客様からお金をいただくプロである以上、自分のプライドよりもお客様の満足度を優先させるべきということです。お客様が満足してお金を払ってくださるからこそ、次の仕事につながります。

もし、あなたが仕事の壁にぶつかっているのなら、お客様が本当に満足しているのか、自分がお客様の立場に立って考えてみると、きっと解決の糸口が見つかるはずです。それが結果的に、唯一無二の存在につながっていくはずです。

【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。
1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。

▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。


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