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第29回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

出版の世界では、本にまつわるいろいろな話が飛び交います。
とくに、「なぜあの本はベストセラーになったのか?」という話は業界でも当然、関心が高い話題です。

ちなみに2020年、現在で売れている本を見てみましょう。
以下は、2020年1月から10月まで、取次の日販で取引が多かった本のデータからの本です。実売部数での換算ではありませんが、比較的正確な売れ行きと思います。

【単行本】
(実用書)『あつまれどうぶつの森完全攻略本+超カタログ』ニンテンドードリーム編集部著、徳間書店
(実用書)『世界一美味しい手抜きごはん』はらぺこグリズリー著、KADOKAWA
(ビジネス書)『人は話し方が9割』永松茂久著、すばる舎
【新書】
『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治著、新潮社
【文庫】
『AX(アックス)』伊坂幸太郎著、KADOKAWA
【コミック】『鬼滅の刃』吾峠呼世晴著、集英社

あなたも書店やネットで、これらのタイトルを目にしたことがあるのではないでしょうか。
ベストセラーの要素は、口コミに載せるマーケティング手法であったり、テレビなどのメディアに取り上げられる戦略だったり、営業マンが仕掛けた展開がはまり全国に広がったり、著名な方が勧めてくれた本が話題になったり……と要素はさまざま。

とにかく、“何か”がはまったときに一気にベストセラー街道を突っ走ることが多いのです。

さて、上記の売れている本のなかで、1冊だけ「おやっ?」と思った方は、かなりの出版通です。
注目してほしいのは、ビジネス書。
実は『人は話し方が9割』が発売されたのは2019年9月。
もう1年以上も前に発売された本なのに、今も売れ続けている本なのです。

これは出版社の営業が仕掛けた展開がはまったケースです。

2020年9月24日の業界紙『新文化』の1面、「コロナ禍、書店営業はどう対処したか」という特集で、版元のすばる舎さんが行った取り組みが掲載されていました。

記事には、コロナの影響により訪店営業がかなわなくなった今年の4月から、在宅勤務のなか、売れている本を1点集中で重点的に販促をかけたと書かれていました。そして、30万部という“倍”の売上げを上げています。

新刊ではなく、売れている既刊本をさらに売り伸ばしていくというのは、まさに営業努力でベストセラーに走らせた例です(すでに売れている本ではありますが)。

しかし、ベストセラーになるための鉄板法則はありません。
なぜならば、こうした成功事例はマネをしたからといって成功する確率は低いからです。
これは、あなたの経験則からも、仕事全般からも言えることでしょう。

しかし、ベストセラーになる要素で、1つだけ確実に言えることがあるのです。


◆ベストセラーになる絶対条件とは?

私が考えているベストセラーの絶対条件は・・・

「社会現象になる(もしくは、乗っている)」

ということです。もちろん『鬼滅の刃』に関しては、日本列島大ブームとなり、どのメーカーもコラボ商品をつくって、この現象に乗っかっています。
なぜ社会現象になったのかは、ここでは議論しませんが、こうなると100万部を軽く突破してしまう社会現象です。

とにかく、2020年はコロナという社会現象が一番。
そう考えると、いま売れている『あつまれどうぶつの森完全攻略本+超カタログ』や『世界一美味しい手抜きごはん』は、容易に説明がつくでしょう。

キーワードは「在宅」「自粛」「巣ごもり」「家族時間」が挙げられます。

『あつまれどうぶつの森完全攻略本+超カタログ』は、コロナ禍で外出できなくなった時間を、流行りのゲームをして過ごす人が増えたことによります。
もともと人気のゲームですが、おそらくコロナを機に「あつ森」を始めたという人も多いでしょう。
当然、「巣ごもり」人口の増加が攻略本の売れに直結しています。

また、『世界一美味しい手抜きごはん』は、在宅勤務する人が増えて、家族のご飯をつくらなければならない状況で、「手抜き」で、しかも「(世界一)美味しい」ご飯がつくれるなら、本を買う方が続出します。

つまり、社会の現象にうまくはまった本がベストセラーになるのです。

しかし、半歩先の時代を見据えて本をつくるのは至難の業です。
しかも、“半歩先”というのがミソで、本が編集されるのは、企画が進んでから半年から1年かかるので、本が出る頃にそれが社会現象になっているテーマなのか読めないのです。

ですから、たまたま当たった(売れた)か、あと付けの理由にならざるを得ません。

むろん、編集者は本を出す頃に「世の中はこう変わっているだろう」という仮説は立てます。ただ、それが本当にそうであったかは、そのときになってみないとわからないのです。

まあ、ここが本の面白さであり、恐さでもあるのですが・・・。

とはいえ、大きな社会現象ではなくても、小さな社会の変化があれば、そこにフォーカスして読者に納得してもらうことはできます。

そのための努力は、編集者だけでは力が充分に発揮できません。
そこで、著者と協同して本を売っていくことになるのです。


◆本が出版される前、出版されてから著者にできること

編集者同様、著者もベストセラーと呼ばれる本にしたいことは変わりありません。そのためには最大限の努力をします。

では、著者にとって何ができるのか?

その前に、ベストセラーにいたった有名な話があります。

2011年5月に徳間書店より出版された
『美木良介のロングブレスダイエット』は、
当初、企画段階では「こんな本が売れるのか?」という評だったそうです。
(タレント本が売れるとは限りません)

しかし、著者の美木さんはいろいろな場所で、
ロングブレスを実演して、本を手売りしていたそうです。

それがいつしか火がついてブレイクし、
その後、続編が何冊も出るほど、ロングブレスは有名になりました。

この話を聞いたとき、これはすごい著者努力の賜物だと感じました。

もちろん営業の力でここまで引き上げたことは事実ですが、
売り出し当初の反応は、こんなものです。

では、著者に何ができるのか?
できれば、本が社会現象になるイメージを持ちつつ、本がどういったストーリーで売れていくのかを考え、そのなかで著者ができることをするだけです。

いまは読者に認知していただくチャネルはたくさんあります。
数あるチャネルから、どこから火をつけていくのかを編集者と一緒に考えるのも、かなり楽しい作業です。

どんなことが考えられるか。
私にもすべてはわかりませんが、これまで著者が行ってきたことを挙げてみます。

【出版前にできること】
・影響力のあるインフルエンサーからの応援を事前に頼む
・著名人に知り合いがいれば、推薦などをお願いする
・ブログやフェイスブック、ツイッターなど友達を増やしておく
・セミナーなどで本のチラシを事前に配る
・本の内容(内容の一部)の小冊子などをつくって事前に配る
・メディアに知り合いがいたら、本の宣伝をしておく
【出版後にできること】
・著者からの大々的な告知や応援者にも告知を協力してもらう
・顧客リスト(メルマガなどの)があれば、そこに告知する
・セミナーやイベントなどで本を売る
・出版記念講演や動画などで著者自身が表に出る
・ブログやツイッターなどで、本のテーマに沿った方に相互依頼する
・書店を回って、担当者に挨拶する(これには注意が必要です。書店を訪ねるときは、忙しい品出しの午前中やお客さんが多いお昼、通勤帰りの時間などを避け、挨拶とともに1、2冊は自身で購入してください。担当者との人間関係ですので、そこは売上げに貢献する意味でも重要です。あとは、営業をかけるのはご法度。逆に嫌われて本を置いてくれなくなる可能性もあります)

著者の方にもできること、できないことがあると思います。
しかし、何もやらなければ、それは神頼みでしかありません。

本を売るということは、著者1人では並大抵のことではありませんが、
以前も述べたように、本の命は2週間で決まります。

ここで何ができるかを、編集者とともに頭をひねっていただければ、いや、ひねらなければベストセラーへの道は開かれないのです。

本日のまとめ
・2020年のベストセラーを見ると、コロナによる社会現象が根底にある
・ベストセラーは社会現象とともに生まれる
・本は編集者・営業の努力だけでなく、著者努力も必要
・著者が出版前にできること、出版後にできることを考える
・編集者とどう売っていくか考えるのも、本を書くうえでの大事な仕事



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