“宇宙の一部として生きる人間”という視点でものを考える
編集部の稲川です。
すっかり日が落ちるのが早くなりました。
秋の夜空、晴れた日は宵の金星が出て、木星がくっきりと輝きます。
また、秋の星空といえば、ペガスス座とアンドロメダ座を結ぶ“秋の四角形”が有名ですね。
アンドロメ座は、運が良ければ、M31というアンドロメダ星雲が肉眼でも見ることができます(肉眼で見られる最も遠い天体です)。
このアンドロメダ星雲は、地球からはるか230万~250万光年先にあり、私たちがいる天の川銀河よりも大きな銀河です。
アンドロメダ星雲で思い出すのが、何と言っても、アニメの「銀河鉄道999」ではないでしょうか。
メーテルの母・プロメシュームが築き上げた機械帝国は、このアンドロメダ星雲(銀河)の中心にあるという設定です。
あの銀河超特急999は、なんと200万光年以上を走り抜けるということになります。と考えると、999は光よりも早く走る列車ということになり、宇宙を旅し続けるメーテルも年を取らないということになります。
これはアインシュタインの相対性理論になりますが、光に近い速度では時間差は生まれない。したがって、宇宙船(銀河鉄道999も)が光速に近い速度で移動をすると、地球と比較して時間の流れが遅くなるのです。
私は文系なので、相対性理論はさほど詳しくはないですが、こうした物理の世界を文系目線からでもわかりやすく解説してくれる学者がいます。
それが佐治晴夫先生です。
佐治先生のプロフィールです。
1935年生まれ。理論物理学者。理学博士。日本文藝家協会会員。大阪音楽大学大学院客員教授。鈴鹿大学短期大学部名誉学長。丘のまち・美瑛・美宙(MISORA)天文台台長。東京大学物性研究所、玉川大学教授、県立宮城大学教授などを経て、2004年から2013年まで鈴鹿短期大学学長。量子論に基づく宇宙創生理論に関わる「ゆらぎ」研究の第一人者。
『ぼくたちは今日も宇宙を旅している』『14歳のための物理学』『THE ANSWERS すべての答えは宇宙にある!』など、多数の著書があります。
とくに有名なのが、NASA でボイジャー計画や地球外知的生命(ET)探査計画に関わり、地球人からのメッセージとしてバッハの音源を搭載したこと。
そして、もう1つは「1/fゆらぎ」の理論を家電製品等に取り入れ、世界初の「VHS録画用磁気ヘッド」や「ゆらぎ扇風機」などの開発したことです。
しかし、佐治先生のすごいところは、音楽などの芸術分野、文学などに造詣が深く、自然科学と人文科学を結びつけた話は、人生の生き方そのものを啓発させられることです。
ということで、今回はこちらの本を紹介します。
『宇宙が教える人生の方程式』(幻冬舎)
この本は、まさに自然科学の現象が、人間関係や自分自身の存在や、人生におけるものの見方・考え方を教えてくれるというもの。そして、私たち人間も宇宙の一部であるということを教えてくれる、佐治先生の人間愛あふれた語り口で書かれた本です。
たとえば、物理学の「ゆらぎ」に関して、佐治先生はこんなふうに考えます。
(途中~)私たちの身の回りを見渡してみると、どこにも常住不滅のものはありません。すべては移ろい、留まることをしません。ギリシャ時代の「万物流転」から仏教の「諸行無常」に至るまで、人は自然を移ろうものとしてとらえてきました。
例えば、今の気温が20度であるといっても、それは平均値が20度なのであって、実際には、20度の周りで細かく変動しています。(中略)
これを物理学では「ゆらぎ」と呼んでいます。(中略)
その特徴は、変動幅が大きいほどゆっくりで、変動幅が小さいほどせわしくゆれるというものです。
星のまたたきでいえば、大きい光度変化が起こる頻度よりも、小さくまたたく光度変化の頻度が大きいということです。(中略)
私たちの感覚、思考をつかさどる脳も例外ではなく、原子分子の集合体ですから、この性質を持っており、一気にいってしまえば、だからこそ、自然界の風や星のまたたき、小川のせせらぎの音など、「f分の一ゆらぎ」を持った外部刺激を受けると、脳がそれに呼応して心地よさを感じるらしいのです。
一方、この「ゆらぎ」の性質を別の言葉で表現すると「半分、予測ができて、半分、予測できない」ということになります。これは、私たちが日常生活を送るためには、好都合な性質です。つまり、未来に起こることがすべてわかってしまったら、怖くて生きられないでしょうし、逆に未来のことがまったく予測できなかったら、これも安心して生きることはできません。(中略)
他者との付き合いにおいても、適当な間合いを持った緩急の「ゆらぎ」がなければ長続きしないでしょう。「ゆらぐ」ことは、生きていくのに不可欠な条件なのです。私たちの人生でも、目標を定めたら、その周りで試行錯誤を繰り返し、ゆらぎながら、そこに向かっていくことになります。
フランスの作家、サン=デグジュペリがいうように、愛するとは、互いに相手を見つめ合うことではなく、同じ目標に向かって(ゆらぎながら)進んでいく営みだともいえそうです。
「半分、予測できて、半分、予測できないから、心地いい」より
自然界における変動現象の特徴を、私たちの日常の悩みへの回答として教えてくれます。
また、人間関係については相対性理論を引き合いに出して、その本質について語っています。
(途中~)現代の物理学では、引力の正体は、目に見えない空間の「ひずみ」だと考えます。一般相対性理論の基本です。
「ひずみ」といっても手で触ることができるような具体的なものではなく、数学の言葉でしか語ることのできない性質です。とすると、日常の私たちの生活とは無関係だと思いたくなりますが、そうではありません(中略)
さて、目には見えない数学上の空間の「ひずみ」が力を生み出すことがわかりました。この力を及ぼす領域のことを「力の場」といいます。人にも、その人がいることによって醸し出す「場」があり、それらの「場」が作り出す目に見えない力の相互作用が人間関係を作っていると考えることもできます。
具体的には何も教えてくれない師匠であっても、その師匠の近くにいること自体が学びになっている場合もあるでしょう。相対性理論の考え方がとても身近に感じられますね。そんな夢想に浸ってみたくなるのも秋という季節の特質かもしれません。
「落ち葉に学ぶ相対性理論のからくり」より
そのほかにも、物理学からさまざまな生き方を説いています。
・あなたのいる場所が宇宙の中心であり、果てでもある
・微弱な電気信号に敏感な人が、特殊能力を持っている
・見かけに惑わされることなく、ものごとを現象として見通す
・恋の80パーセントはH2O
・喜びも悲しみも他人がいるから生まれてくる
・生きている人間が生み出すエネルギーは太陽の1万倍・・・など
宇宙という摂理の一部として生きる“私”という考え方に、悩みなんてちっぽけなもの感じてしまうくらい、読んでいてスゥーっと心が軽くなります。
秋の夜長にぴったりの1冊でした。