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ふと目に留まった1冊から、その企画は始まった

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。

私事で恐縮ですが、90年代から2000年代は、雑誌を読み漁っていました。高校時代の「Hot-Dog PRESS」はもとより、大学時代からは4大週刊誌(ポスト、現代、文春、新潮)をはじめ、「噂の真相」「新潮45」「rockin'on」「月刊カドカワ」「CREA」「サライ」「ダカーポ」「鳩よ!」「BRUTUS」「東京人」「月刊創」「サイゾー」など、男性誌からサブカル誌、一部女性誌まで、ジャンルは比較的幅広かったような気がします。

ネットがあまり普及していない時代、特に大学時代の最先端のコミュニケーションツールが「ポケベル」世代の私にとって、雑誌は貴重な情報源でした。

雑誌の魅力は、毎号の特集テーマに加え、その雑誌で展開されている連載にもあるものです。あの連載が読みたいから、結局毎号買ってしまう……。連載だけを読みたいなら立ち読みで済ませばいいのですが、そうもいかないのがツラいところ。お目当ての連載以外のページにも目を向けて、いつの間にか読みふけっていることがしばしばあったので、買って読むのが基本。財布の中身が厳しいときには図書館を利用していました。

個人的にハマった雑誌連載は多くありますが、今すぐに思い浮かぶものを挙げると、

◎ダカーポの「言葉ノート」(ドリアン助川)
◎噂の真相の「東京ペログリ日記」(田中康夫)、「顔面至上主義」(ナンシー関)
◎CREAの「勝手にシネマ」(石川三千花)
◎SAPIOの「新・ゴーマニズム宣言」(小林よしのり)

といったところでしょうか。

書き出して気づいたことがあります。
ここに挙げたのは学生時代に読んでいたものばかり。しかも、「CREA」以外は、今は廃刊・休刊・不定期刊……(泣)。ただ、当時はそれだけ雑誌界が元気だったと言えるのかもしれません。そういえば、連載でハマったものは特にありませんでしたが、講談社が出していた「Views」(ヴューズ)もおもしろかったなー。同誌も残念ながら今はもう存在しませんが……。


話を戻します。
先に挙げた連載以外に、私がハマった、1つの伝説の連載があります。月刊誌「サイゾー」2008年12月号からスタートした「合コン四季報」(水谷舞)です。

サイゾー2008.12月号

この写真は、私の手元にある「サイゾー」2008年12月号の連載「合コン四季報」の記念すべき第1回です。

同連載は、元JALのCAで、それまでに150社以上のビジネスパーソンと合コンしてきた「合コン総研アナリスト」の水谷舞さんが、一流企業の男性陣たちとリアルに合コン(同連載では「実地調査」と呼んでいた)を実施。水谷さんが合コン中の男性陣の生態を観察しながら、ターゲットの会社を辛口ジャッジしていきます。

第1回の“ターゲット”は「ゴールドマン・サックス」でしたが、第2回以降も電通、住友商事、住友信託銀行、TBSなど、具体的な企業名を出していく点も、単なる合コンレポートにとどまらないリアル感があり、強烈なインパクトがありました。

タイトル横にあるリード(導入)文も秀逸。一般的な会社紹介ではなくオリジナリティがあふれた筆致で、本文にいざなう絶妙なフリになっています。第1回のゴールドマン・サックスについてのリード文は次のとおり。

外資系投資銀行ゴールドマン・サックスといえば、1000万円以上の基本給に、成績に応じて賞与が1億円以上出ることもざらという、マンガのような会社。そんな会社に勤める、合コンのお相手A氏(40歳過ぎ)は、オフィスも住居も六本木ヒルズで、石田純一レベルの正統派のビジュアルの持ち主という、これまたマンガのような男だった。
――「サイゾー」2008年12月号「合コン四季報」より

本文では、合コン相手の服装や会話、ふるまいなどに触れつつ、いい意味で水谷さんの独断と偏見に基づいた男性分析や考察、毒を織り交ぜた約3000字弱に及ぶレポートが綴られています。

さらに、「合コンメンズ判定」というカコミ記事では、ターゲットになった会社を5段階評価と総評が披露され(ちなみに、第1回のゴールドマン・サックスは星2つ……!)、水谷さん本人が合コン当日に身に着けた「今月の合コン必勝服」の写真とひと言コメントが添えられていました。まさに隅々まで読みたくなってしまう連載で、毎号楽しみにしていました。

なにより私がハマった理由は、水谷さんの合コン総研アナリストならではおもしろい視点と鋭い観察力、そして、毒を交えつつも決してストレートにディスるのではなく、どこかコミカルでやさしい愛で包み込む筆致です。連載だとワンパターンになりがちな文章の組み立て方も毎回バラエティに富んでおり、「いつかこの人に本を書いてもらいたい」と思っていました。

ところが、私が水谷さんに書いてほしい書籍企画を立てる前に、1年半で連載が終了。読者としての楽しみが1つ減ってしまった残念な気持ちと連載中に書籍企画を立てられなかった自分に悔しさを抱きつつ、そのまま2年以上の月日が過ぎていました。

そんな2012年の2月のことでした。
2011年秋に現在の会社に中途入社した私は、とにかく向こう1年は新しい企画を積極的に仕込む時期にありました。その日もリサーチを兼ねて定期的に通っている書店を徘徊しながら、買う本を手にしてレジに向かおうとしたときです。ふと目に留まった1冊の本がありました。ノンフィクション棚の前で平積みされている本の帯に見覚えのある顔写真が入っていたのです。


『マイル』と題された書籍の著者名は「松尾知枝」となっていましたが、帯に入っている顔写真は、あの伝説の連載「合コン四季報」の水谷舞さんそっくりです。帯コピーには、「JALのCA」という文字が見えます。

「もしかして……」

私はすかさずその本も手に取り、レジに向かいました。帰宅してすぐに読み始めた同書には、私が知っている「合コン総研アナリスト」のイメージとは違う姿が描かれていました。松尾さんご自身が幼少期から虐待を受け、小学5年生から高校3年生まで児童養護施設で過ごし、失われた家族の絆を取り戻すため、貧乏女子大生からJALのCAになる――。どんなに挫折しても、逆境から立ち上がっていく、半自伝的な感動の手記でした。

なお、水谷舞という名前は連載当時の芸名で、すでに松尾知枝という本名で活動されていることがわかりました。やはり同一人物だったのです。ちなみに、同書の表紙は松尾さんのお母様がお描きになられたイラストとのこと。

「合コン四季報」時代の巧緻な筆致は、テーマがまったく違う同書でも健在。「合コン総研アナリスト」の彼女しか知らなかった私は、彼女の過去にこのような生い立ちがあったことを知り、ますます松尾知枝さんという人物に興味を抱きました。

同書を購入した夜に一気に読み終えた私は、当時始めたばかりで使い方もままならないFacebookのメッセンジャーで直接アプローチを試みました。目的はもちろん、2年前にできなかった書籍企画の提案です。

メッセージには、私がハマっていた連載「合コン四季報」に対する思い、書店でふと目に留まった『マイル』との偶然の出会いや読んだ感想などを拙い文章でぶつけました。

縁もつながりもないまま一方的に送ったため、スルーされることを覚悟で送ったダイレクトメッセージでしたが、数日後には丁寧なメッセージが返ってきました。一度直接お目にかかって、こちらの話を聞いていただけることになったのです。

私は、さっそく当日のミーティングに持参する企画の準備に入りました。用意した企画テーマは2本。弊社がビジネス書版元ということもあり、いずれも自己啓発ジャンルの企画です。

1本目の企画タイトルは、『仕事も恋もうまくいっている女性(ひと)の習慣術』。松尾さんご自身が、女性向けの恋愛アドバイス、出会いサポートなどのコンサルティングを行なっている点を活かした、女性向けのキャリアアップと恋愛を両立させる方法を解説してもらう企画です。

2本目の企画タイトルは、『元CAだけが知っている、ファーストクラスの男になる人の習慣術』。当時、銀座のママや祇園の女性が書いた「一流の男の習慣術」をテーマにした関連書籍が売れていました。その市場を意識して、松尾さんが国際線ビジネス、ファーストクラスのCAを経験がある点を活かした、男性向けの上昇志向系自己啓発企画です。

この企画を立案する際、「ファーストクラスに乗る人」ではなく、「ファーストクラスの人になる」という切り口を強く意識しました。言い換えれば、「成功の見込みがある人」です。銀座のママが論じているのは「今、すでに成功している人」の習慣術。それとの差別化を図るべく「これから成功する人」の習慣術を語ってもらいたいと考えていました。

事前に2本の企画テーマを用意したわけですが、私の中では最初から2本目の企画を推すと決めていました。そもそも2本目のタイトルは、「元CA」ではなく「合コンアナリスト」で提案したいぐらいの気持ちでした。なぜなら、著者の権威性と独自性が明確になるから。

にもかかわらず、あえて「合コンアナリスト」ではなく「元CA」で企画を準備したのは、その時点での松尾さんが「合コンアナリスト」という肩書きに対する考えや心境がわからなかったからです。あくまで、「合コン四季報」連載当時の限定的な肩書きだったのではないか……。合コンアナリストでいけるかどうかは、ミーティング当日に探りを入れてみるつもりでした。

ミーティング当日、その懸念は要らぬ心配だったことが判明します。私が推したかった2本目の企画に興味を示してくださったことに加え、「合コンアナリスト」という肩書きでいくことにも賛同。「成功見込み」という切り口に対しても、とてもおもしろがってくれたのです。

ただ、「ファーストクラスの人になる」だと、意図が伝わりにくいため、2人で意見交換、検討。最終的に『3年以内に成功する男、消える男』というタイトルで企画が決定。著者の権威性と独自性を示す「合コンアナリスト」は、「日本一の合コンアナリストだけが知っている」というサブタイトルで補完することになりました。

企画会議も無事通過し、執筆、編集を経て2012年11月に刊行することができました。

「サイゾー」2008年12月号の連載「合コン四季報」で初めて出会ったから約4年の月日を経て、企画が実現した瞬間でした。同書は、おかげさまで5刷・4万5000部のスマッシュヒット作品となりました。


ここで終わり、としたいところですが、この話にはまだ続きがあります。

同書の販促プロモーションの一環として、松尾さんと相談して一緒に考えた、ある1つのアイデアがありました。それは、伝説の連載「合コン四季報」の1回限りの復活です。

連載元の「サイゾー」の許可をいただき(「サイゾー」のIさん、その折は許可をいただきましてありがとうございました)、当時の連載デザインフォーマットを完全コピーした1回限りの書き下ろし原稿(PDF)を、新刊『3年以内に成功する男、消える男』購入者に無料プレゼントするというキャンペーンです。

しかも、原稿に赤裸々に描かれることになる合コン相手(ターゲット)は、我々フォレスト出版(!)。かつての連載時に「小学館」がターゲットになった以来の出版社になります。

合コン参加メンバーは、弊社の独身男性3名、女性陣は現役CA軍団3名。私は既婚者のため男性側幹事兼オブザーバーとして参加、松尾さんは女性側幹事兼オブザーバーとしての参加となりました。松尾さんと私を含めて4対4の合コンです。

果たして、わが社は合コンアナリストの目からどのように映り、どんな分析がなされ、どのような判定が下ったのか――。

伝説の連載「合コン四季報」1回限りの復活原稿は、近日中にこちらのnoteに公開予定です。お楽しみに。


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