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サメ映画と近代フットボールの奇妙な相関

文:ジェイ( @RMJ_muga

【Topics】
◇どこからが「近代フットボール」なのか?
◇フットボールのルーツと伝搬
◇サメ映画と近代フットボールは同時期に成立していた?!


 フットボールを愛する皆さん今晩は。 ジェイと申します。ひょっとすると下記の記事で覚えてくださっているかたもいらっしゃるでしょうか。

 今回のタイトルを見て「ほうら、またなにか与太話が始まった」とお思いでしょうが、そう、まさに始まったばかりなのです…!!
 ふざけているようで真面目な話もありますので、まあちょっと読んでいってくださいまし。

■近代フットボールとは何か

 近代フットボール、とひと口で言ってみても、人それぞれに思い描くものは微妙に異なるだろう。いつ、誰が、どういった視点で見るかによって、無限の答えが返ってくるのではないか。フットボールという競技が自由で、唯一絶対の正解というものが存在しないように、フットボールについて語ることもまた、地平も目標物も無い大海原を行くかの如く自由なものだ。

 フットボールの原型ともとれる競技・遊戯は、古くから世界各地で行なわれてきた。中国や日本の蹴鞠もそうであるし、もっと遡れば紀元前から、世界中の古代文明で「球を脚で蹴る競技のようなもの」の証拠が発見されている。かように人類は、古来よりボールひとつにきりきり舞いしてきたのだ。

 長い長い年月をかけて、時には死者を出すこともあった「フットボールのようなもの」は、文明の発達とともに次第にスポーツとして体系化されていく。そして最初にそれを成し遂げた大国は都合の良いことに、世界の海を制していた。「日が昇ることはあっても決して沈むことは無い国」大英帝国によって、19世紀後半、フットボールは世界中に伝播していったのだ。

 フットボールは海から来た。まだ航空機の無い時代、あらゆる物は海を渡ってやって来た。変革はすべて海から起こる。海と言えばサメ、そうサメ映画である。万物はサメ映画であり、フットボールでさえも、サメ映画との関係性から逃れることは出来ない。むしろ互いに影響され、高めあってきた存在だと言えるのだ。それはひとつのチームと、1本の映画から始まった。

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■トータルフットボールと『JAWS』

 本題に入る前に、最初の問いについての私の回答を示しておこう。フットボールが「近代フットボール」となった瞬間として私が定義するのは、オランダ代表が1974年ワールドカップで披露した『トータルフットボール』である。

 これ自体は別に、珍しい回答でもないだろう。おそらく大部分のフットボール・ファンが、『74年オランダ代表」、もしくは8アリゴ・サッキ率いるACミランの『ゾーン・プレス』と答えるのではないか。

 しかしながら、この二択のどちらかと問われれば「トータルフットボールこそが近代サッカーの礎である」と答えざるを得ない。なぜなら、アリゴ・サッキから連なるプレッシング戦術の系譜もまた、トータルフットボールに端を発する大きな一つの流れだからだ。

 詳しくは最後に紹介する参考書籍を熟読していただければ幸いだが、トータルフットボールの源流は1931年の『ヴンダーチーム(オーストリア代表)』であると言われている。そこから1950年代の『マジック・マジャール(ハンガリー代表)』を経て、74年のオランダ代表にてひとつの到達点、そして出発点を迎える。

 一方、確認できる最も古いサメ映画(※諸説あり)としては1963年に『チコと鮫』、1969年に『shark!』が公開されている。つまり60年代の時点でサメ映画は制作されているわけだが、ジャンルとして認識はされておらずいわば前奏曲だ。サメ映画を一大ジャンルとして確立させたのはやはり、当時28歳のスティーブン・スピルバーグが制作した『ジョーズ』だろう。

 しかしジョーズの公開は75年、トータルフットボールは74年、惜しくも一年ズレている。もう少し頑張ってみよう。映画『ジョーズ』はピーター・ベンチリーの同題の小説が原作となっているが、出版は1974年である。

 74年。とうとう繋がってしまった…。

■互いに影響を与え合う両者

 これではっきりしたように(?)、1974年は近代フットボールとサメ映画の元年ともいうべき年なのだ。フットボールは新たな時代に突入し、銀幕ではサメが容赦なく人を襲う時代が始まったのである。以降、この2大ジャンルは互いに影響を与えながら発展していくことになるのだが、実は『ジョーズ』の時点で、すでにサメ映画はフットボールの影響を受けている。

 話をいったんトータルフットボールに戻そう。その呼称はオランダ代表の専売特許ではなく70年代の流行であり、実は西ドイツ代表なども『トータルフットボール』と呼ばれていたのだという。単に華麗なパスワークという点であれば、ブラジルや西ドイツ、ユーゴスラビアなどがオランダと同等かそれ以上の技術を発揮していた。オランダが本家本元である理由、それはパスワーク以外の要素があったからだ。

 当時のオランダが他チームと一線を画していたのが、自由なポジショニングと「プレッシング」である。特にプレッシングについては「ボールを失ったらまずはいったん戻って待ち構える」というリトリート守備が全盛の時代に、リヌス・ミケルス監督言うところの「ボール狩り」を行っていた。ボールの即時奪回を目指してラインを高く、全体をコンパクトにして前から奪いに行くという現代のプレッシング戦術の礎がここにあったのだ。

 上記を踏まえてもう一度『ジョーズ』の内容を思い出してほしい。サメの習性としてはあり得ないオルカ号への執拗なプレッシング、浅瀬にも侵入して船体にさえも乗り上げる自由なポジショニング……まさにトータルフットボールである。
 また、スピルバーグはあるインタビューで「ジョーズが成功したのはサメがほとんど出てこないからだ。当時CGがあれば9倍はサメが出てきて駄作になっていただろう」と語っているのだが、実はオランダ代表の「ボール狩り」についても、試合中に常時発動されているのではなく、条件が整った場合に限られている。プレッシングの頻度という点でも一致しているのだ。
 映画化にあたり、実はスピルバーグは原作者の書いた脚本を大きく変更しているのだが、これはもうワールドカップオランダ代表の影響とみて間違いないだろう。間違いないんじゃないかな。

 余談だが、スピルバーグ実質的デビュー作である『激突!』の原題は『DUEL(デュエル)』である。フットボールとの繋がりはもはや疑いようもない……。

 こうして、トータルフットボールに影響を受けた『ジョーズ』から両者の蜜月は始まった。そして今度は、『ジョーズ』に影響を受けた指導者たちによる80年代プレッシング戦術の系譜に繋がっていくのだが、スペースの都合もあるので今回はこのあたりで筆を置かせていただこう。


 それではみなさん、Até breve, obrigado.


■次回予告

【次回予告】※嘘予告です
第2回:ロバノフスキ、サッキ、ラングニック、クロップ…プレッシング戦術の系譜に潜むサメ映画

第3回:フットボール新用語「ストーミング」解読のカギは『シャークネード』シリーズにあり!

第4回:XX年後の君へ①~5レーン理論は『シックスヘッド・ジョーズ』の影響により6レーンに進化する?!

第5回:XX年後の君へ②~異例の大ヒットサメ映画『MEGザ・モンスター』から読み取る近未来のフットボール


■参考書籍

『サッカー戦術クロニクル0(ゼロ)トータルフットボールの未来と源流』(著:西部謙司)

『サッカー戦術の歴史 2-3-5から0-4-6へ』(著:ジョナサン・ウイルソン/訳:野間けい子)

『戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史』(著:ジョナサン・ウイルソンwith田邊雅之)

『かわいいサメ映画図鑑』 (著:東京国際サメ映画祭事務局)

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