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出し惜しみという魅力を作る

僕が「本当にすごいなー」と思う店舗に京都のKEWがある。

オーナーの方は写真家を経験されて3年間イギリスのペストリーに勤めて現店を開業された。

kewのすごいところは店頭販売している商品の種類も少なく、決して立地も一等地とは言えないところにあるのに、

予約販売でそのすべてが売り切れるところだ。

多くのパティシエは「自分のほうが上手く作れる」と思うであろうオーソドックスな商品ラインナップだし、飲食業界の人間からすると特別なお菓子は正直言ってない

しかし、イートインではドーナッツとコーヒーで900円という普通からしたら高い値段設定だけども、営業予定時間以前に売り切れて早々に店じまいする。

この商売の方法や思考のメカニズムは何も料理技術のみの話ではなく、付加価値や人柄、提供時のアイディアや写真撮影の技術からくる、言わばビジネス力だと言える。

実際に食べたことはあるが、ドーナッツは美味しいことはここで付け加えておく。

現在kewはワンオペで回しているが、提供している焼き菓子は4種類でどれもその日のうちに必ず売り切れる

必ず売り切れるなら翌日の仕込み数と提供数を増やせばいいのではないかと思ってしまうが、それをしないことに私は付加価値が生まれていると思う

商売はよく前年同月比を比べたがるが、極論で言ったら損益分岐点のぎりぎりのラインで低空飛行しても続けれてさえいれば問題はない。

そこを実践して毎日の提供数をぎりぎりに抑え売り切れ御免で商売し「売り切れたので閉店」ということをインスタグラムにて早々に発表することで消費者はそこの店に行くことを前々から計画する

店側にはわからないけれども、その行動は予約の一種になっているし早い者勝ちを活かした良い方法だと思う。

商品数が店舗運営において無理のない範囲で少なく、かつ顧客からしたら「かなり少ない」と思える状態は、気持ちを惹かれる人同士の争奪戦を起こし、購入者同士が自身のインスタグラム上で店舗の付加価値を高めている構図だと思う。

料理人は料理で勝負をしている人がほとんどで、できることの多さ、作れるものの多さが顧客を魅了すると思い、修業期間中に学んだ多くのことを店のメニューに書き連ねる


しかしそれは日本の高度成長期の大量生産大量消費に生まれ、数あるメニューから選ぶことが豊かさであったときに生まれたものであって、

現在の世の中は、商売以外に環境問題やフードロスに取り組む人が多くなったなか、少なく用意されるものにも「希少さ」が付加価値として加わる時代になった。


食パン専門店から始まったであろう「〇〇専門店ブーム」はきっと今の「希少さ」と「しっかりと作りこんでいる信頼」にお金を払う世の中を上手く表現していると思う。

フランス料理人として働いていた僕が提供する「料理人らしいお菓子」も、

お菓子以外にも伝統的なフランス料理の技術を応用した取り寄せ品を作れるという直線的な発想を残しながら、あえて焼き菓子を販売するところに

もっとこの人は色んな引き出しを持っているのではないか?

という「遊び」を残している。

料理人が自分の持っているすべてを見せずに販売している商品に、今までの生き方の理念や高い技術の片麟が垣間見えるのに僕は何とも言えないかっこよさとわくわく感が止まらない。

Mrcheesecakeの田村シェフをはじめとした有名シェフの方々のアプローチや、冒頭で紹介した京都kewの方には

料理人として生きてきたが今まで考え付かなかったアイディアや視点をいつももらう。

自分の付加価値を自分が創出せずに、来店されたお客様がSNSを通じて創出してくれる現代。

私たち料理人も考え方を変えてみるのも本当に面白いと思う。


2020/5/23




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