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7.4 レンナー —FUTURAのたどりし道。レンナーのたどりし道—


みなさまおつかれさまです。テキスト係・伊藤です。
長らくの間、本業(校閲)や姉妹チャンネル(校閲ダヨリ)の運営にかまけて座談会企画のテキスト起こしができていませんでした。すみません。
レンナー回、最終回となります今回なのですが、ざっとこれまでのあらすじを振り返ってみたいと思います。


7.1 レンナー —覚醒に至る道—

→レンナーの生い立ちを紹介


7.2 レンナー —ドイツの背負いしもの—

→FUTURAが生まれた時代背景


7.3 レンナー —FUTURAの誕生—

→FUTURA書体の特徴

こんな感じで、回を重ねて参りました。
さて、最終回ですが、テーマは「FUTURAのたどりし道。レンナーのたどりし道」でいきたいと思います。
それでは、時間を4か月前に戻しましょう……。


渡邊「FUTURAは、『とにかく人気があった』書体だということはわかるんですが、どのように広がっていったんでしょう?」

山田「1927年末に正式にリリースされたFUTURAだけど、その非常に整った組版表情は写真との相性が良いとレンナー自身は感じていたようで、『フォト・モンタージュのため』の活字書体として売り込まれたんだ」

伊藤「1920年代後期というと、ドイツでは工業・機械化が発展の兆しを見せていますよね。そのあたりは関係あるんでしょうか?」

山田「うん、幾何学の考えをもとに生まれたFUTURAは、当時の経済的発展ともマッチした。まさに『時代のスタイル』というキャッチフレーズで印刷・活字業界に支持されたんだ」

大野「FUTURAは、ドイツでそれまで主流であったブラックレター体に別れを告げる書体としても大きく売り出されたんですよね」

渡邊「ああ、ブラックレター体……」

タイプフェイス一覧18

伊藤「かっこいいとは思いますが、圧倒的に読みづらいですよね(笑)」

山田「うん。そんなこんなで、ドイツ国内で順調に売上を伸ばしたんだけど、その勢いは海外にも到達する。フランスではドベルニ・アンド・ペイニョ活字鋳造所が販売権を購入、『ヨーロッパ』という名前で売り出したよ」

渡邊「アメリカの動きも気になりますね」

山田「アメリカでは1934年に、インタータイプ社の行別自動活字鋳造植字機(ライノタイプ機)にFUTURAが適合させられた。また、ライノタイプ社モノタイプ社はそれぞれ、自社のためにFUTURAの模倣活字を作ったんだ」

大野「1937年モノタイプ社が『20世紀』、1939年ライノタイプ社が『スパルタン』として発売したものですよね。スパルタンは正式にはアメリカ活字鋳造会社(ATF社)との共同製作ですが」

渡邊「そうなんですね!」

山田「スパルタンは新聞で使われたことで人気が出たんだよね。そして、戦後1950年代に公式にライノタイプ機での使用にFUTURAが適合したというわけ」

伊藤「なるほど。インタータイプ社に入ってきてはいたけど、おそらく大人の事情でインタータイプ社のライノタイプ機を使用する印刷所が少なかった→レプリカを大手タイプメーカーが製作・使用→スマッシュヒット→大手が権利購入 という流れが見えてきますね」

渡邊「レプリカ使用が成り立ってしまうのがなんとも活字業界らしいというか、時代らしいというか、複雑ですね(笑)」

山田「ちなみに、日本においてはモノタイプ社の『20世紀』が戦後晃文堂(現リョービイマジクス)によって導入されているよ」

大野「その後はデジタル化の流れに乗って今に至るまで使われ続けている、という感じですかね」

山田「うん。ところで、FUTURAは政治的な問題にも関わりのある書体だということはみんな知ってる?」

大野「詳しくはないですが、なんとなく想像はつきますね」

渡邊「! そうなんですか?! まさか伊藤さんが知っているとは思えないですけど」

伊藤「知らないけど(笑)、さっきヒントのような、フラグのようなものが立ってたよね」

渡邊「そ、そんな! さかのぼれ私の記憶……!」

山田「(笑)。ブラックレター体のところだね。ブラックレター体は、ドイツの伝統的な書体、すなわちドイツの誇り、すなわちドイツの思想やドイツ自体といった、ナショナリズムを体現するような書体になっていたんだ。それに争うFUTURAと言ったらわかるかな?」

渡邊「1930年代は、ナチが力をつけた時代ですよね……ということは!」

伊藤「非常に危険だよね」

渡邊「そういうことか!」

山田「1933年、ミラノ・トリエンナーレ国際展覧会の展示スライドを担当したレンナーは、その内容が反ドイツ的という理由で当局に目をつけられてしまう」

大野「どういう内容だったんでしょう?」

山田「『ローマン体が、ブラックレター体よりも優れている』というスライドや、『フォト・モンタージュの手法がロシアのプロパガンダで使用されるものに似ている』とかかな」

渡邊「ひどい」

山田「うん。その上に、FUTURAのブラックレター体に対するポジションだったし、この書体がナチが政権を獲得する前の対抗勢力・共産党のポスターに使用されていたことから、ついにレンナーは拘留されてしまう」

渡邊「ひどすぎる」

山田「翌日には釈放されたんだけど、職を失った」

伊藤「クリエイティブなものに、本人が表明してもいない政治性を絡めるのはナシにしてほしいですね」

山田「まったくその通りだよ。でも、素晴らしいものを生み出し続ければ、絶対に残るし、評価されるというよい例なんじゃないかとも思う」

大野「そうですね。私たちも、ひたむきに頑張りたいですね」

渡邊「上手くまとまりました!」



類は友を呼び、皆それぞれ好きなデザイン・書体の話になると何時間でも議論を交わす。大都市・東京の片隅で、今日も書体談義は続いている。



参考
『普及版 欧文書体百花事典』(組版工学研究会)


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