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ラオ・ハイ ークム・ワインの誕生ー(FaY | ラオスの民話)


ラオ・ハイ ークム・ワインの誕生ー

2021年11月からスタートした、Wisa(日本)&CAF(ラオス・ルアンパバーン県)の協働プロジェクト、「民話と若者」FaY(Folklore and Youth | フォークロア・アンド・ユース)。

本プロジェクト は、Wisa(Wakamono International Support Association)が2021年から開始したラオスの若者とのデジタルユースワークプロジェクトです。ラオス人の子ども・若者たちがお年寄りから聞き取った昔話を文字起こしし、その英語の翻訳をオンラインでつながった日本人の中学・高校・大学生の学生たちがお手伝いします。その後、日本語に翻訳して、イラストをつけていきます。

プロジェクトについての詳細は、こちらのActivo

今回は民話「ラオ・ハイ ークム・ワインの誕生ー」をご紹介します。

下訳:ななこ、シーザー、たに、あみ、ラノーイ、つばさ、めい
上訳:たいぞう
イラスト:ピット

イラストを描いているピットさん

物語

昔々、狩猟がとってもうまい男がいました。その狩人は人生のほとんどを森のなかで、うさぎや野ネズミなどの動物を狩って過ごしていました。
そして時々、彼は森の中で一週間をも過ごすのでした。

旅への出発前には、お米、唐辛子と塩、さらには罠にかけるための道具を準備する必要がありました。彼はいつも同じ山で狩りを行っていました。

ある日、彼はいつもより奥深くへと森の中を進んでいきました。
そこには大きな木が何本も立っていました。彼は特に大きくて背の高いマークハイの木とトンポーという名前の木を見つけました。

彼は、それをちょうど日が沈む時間に見つけたので、その木の下で一晩泊まることにしました。

次の日の朝、太陽が昇りだし、空が明るくなりました。狩人は木の真ん中に、長さが2メートルも縦にある不思議な穴(カンマイ)があることに気づきました。そこには何かの液体が溜まっていました。たくさんの鳥、ネズミ、リス、シマリスなどがそこに集まり、カンマイのなかの液体を飲み、水浴びをして笑っていました。

その幸せな笑いと大きなおしゃべりは束の間、何匹かの動物がお互いにケンカを始めました。
狩人は動物たちのそんな不思議な様子に気がつき、なぜ彼らがその場所に集まっているのか、いったいその水は何だろうかと疑問に思いました。

お昼になって太陽が昇ると、狩人がもってきた水筒の水も無くなってしまいました。そこで狩人は、木の穴ーカンマイにたまっている液体を思い切って飲むことにしました。

「ん? んっん?」

「んー思った以上に甘いぞ!」

それはとっても白い、濃い樹液のような甘い飲み物でした。彼はその液体をすぐにたくさん飲んでしまいました。

飲み終わると、彼は気が遠くなり、頭がふらふらしてぼーっとしてしまいました。

「何が起きているんだ? 」と彼は思いました。すぐに、彼は他の奇妙な感覚を覚えました。 

気分が悪くなったり、怒りがこみ上げてきたり、かと思えば遠く離れた友達たちがなぜか集まってきて、一緒に歌でも歌いたくなるほど幸せな気分になったり、いろいろな感情が押し寄せます。

1時間後、彼はその液体を村に持ちかえり、みんなと一緒に飲んでしまおうと思いつきました。

村に帰り、狩人が不思議な樹液を持って帰ってきたと話すと村人はみんな興味津々です。

彼の友達がその液体を飲むと、にやにや笑い始めてどんどん止まらなくなりました。 

「なぁに? そんなにおもしろい気持ちになるのか?」

「動物たちが楽しく歌ったり、踊ったりしている、子どもが生まれてお祝いをしていたり、そんな夢のような光景が見えるんだ」

村人たちはどんどん、その液体を飲んでいきました。そして、みんな楽しい気持ちになっていったのです。

「これはどこから来た、なんという名前の飲み物なのだろう。」
ある人が言いました、「これは霧から生まれたのかな。」
別の人はこう言いました。「木の実が熟しきって流れ出た果汁じゃないか?」

その液体は甘くおいしいのに、飲んでいるとすぐにバタバタと眠ってしまいます。そうして、行ったことがない場所や昔にあったはずの場所で、たくさんの動物たちと出会うことができたのです。

その飲み物は、村中で有名になっていきました。次の日、狩人は再び森に入り、木の穴から液体をもってきました。

今回は、チャオ・パヤという名前の力持ちで有名な村人に液体を渡してみました。 
彼はそれを飲むと、亡くなったお父さんが目の前に現れて驚きました。驚いて声をかけてみると、自分はいつのまにか子どもの頃の姿に戻っていました。 お父さんと子どもの頃のように野原で、バッタを追いかけることができました。
しかし、今度は亡くなったお母さんが現れると、チャオ・パヤに奥さんがまだいないことを叱り始めました。チャオ・パヤは悲しい気持ちになって泣いてしまいました。

どうやら、チャオ・パヤは眠って夢を見てしまっていたようです。
村人が起こすと、チャオ・パヤを正気を取り戻して尋ねました。

「こいつはいったい何なんだい? いったい、どこからもってきたんだ?」

狩人は答えました。

「私はいつものように狩りに出かけ、ジャングルの山の頂上で巨大な マークハイの木とトンポの木を見つけたんだ。木の中にはお椀型の穴があった。その穴には液体が貯まっていたんだ。そして驚くほど多くの動物が集まっていたのを見たんだ。彼らはその液体を飲んで木の周りではしゃいでいた。私はそれが何なのかを考えて、ついに自分自身で試してみることにしたんだ」。

彼らはその液体を集めて、その近くにあったたくさんの稲と果実と一緒に村に持って帰りました。

そうして、村人たちと液体の中に何が入っているか、調べてみました。そうして、ついにカンマイの中の材料がわかりました。

その中には、狩人がいつも持っていったお米が入っていました。
どうやら食べた残り米や、落としてしまった米粒をアリたちが運んで木の穴に落としていたようです。

そこで、彼らは米を粉砕し、それを籾殻と一緒に蓋をして一週間置いてみることにしました。
一週間後に蓋を開けてみると、中身はとても味の濃い、森で見つけたのと同じ香りになっていました。

それ以来、彼らはそれを「ラオハイ」と名付け、現在はクム族の間で「Booc Ca Dong」と呼ばれるようになりました。

人々はそれからお祝いのたびにラオハイを飲み、酔っぱらって眠ると、夢の中で再会できるたくさんの過去の人々や生き物たちともに祝杯を交わすのです……

まるで昔、それを最初に見つけた動物たちと同じように。

おしまい

作品紹介

ラオハイープッカドンは、現在では首都のビエンチャンでもなかなか見つけられませんが、ルアンパバーンを初めとする地方へ移動するとクム族たちを中心に飲んでいる人がたくさんいます。
イラストを描いてくれた、ピットさんの実家でも祖母伝来の製法でお母さんが作って、お祭りの日には村人にふるまうそうです。

ラオハイの作り方

ラオハイの作る様子を、ルアンパバーン県で撮影し映像にしました。関心のある方、ぜひご視聴ください。

寄付のお願い

FaY-Folklore & Youth では、ラオス現地で民話の調査にあたっている孤児・ひとり親家庭の子ども達の雇用創造に取り組んでいます。 子ども達の学費、生活費、医療費などに使用される謝金は、皆様のあたたかい寄付で成り立っています。
寄付を通じてご協力いただける方は、こちらのWisaの特設ページからお願いします。

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