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2022年11月11日の新型コロナウイルス感染症対策分科会での発言

意見書の内容

第8波対策について
       大竹文雄・小林慶一郎

1.オミクロン株は行動制限を必要とする感染症か

 新型コロナウイルス感染症の第8波の発生で、季節性インフルエンザと同時流行した場合に行動制限を課することが本分科会で検討されている。しかし、行動制限という私権制限をする前提が第8波で想定されているオミクロン株では満たされていない可能性が高い。
新型コロナウイルス感染症が、新型インフルエンザ等特措法で、様々な行動制限をする根拠は、新型コロナウイルス感染症が「当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」(感染症法第6条7項)だと判断されているからである。
ここで「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある」という程度については、「新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度が、季節性インフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度」を超える場合だと定義されている(特措法第15条第1項)。この場合に、政府対策本部を設置され、特措法の対象になる。そして、「政府対策本部が設置される条件のいずれかが満たされなくなった場合は、政府対策本部は廃止される」(特措法第21条第1項)と明記されている。
したがって、季節性インフルエンザとの重症化率、致死率との比較が行動制限を行うかどうかで非常に重要である。新型コロナウイルス分科会、東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議、厚生労働省アドバイザリーボードのデータをもとに作成された財政制度等審議会財政制度分科会の資料で、新型コロナ感染症の第7波と季節性インフルエンザの重症化率と致死率の比較がされている。季節性インフルエンザの重症化率は、60歳未満で0.03%、60歳以上で0.79%である。BA4,5が主体であった第7波の重症化率は、60歳未満で0.01%(大阪)、60歳以上で0.14%(大阪)である。また、季節性インフルエンザの致死率は、60歳未満で0.01%、60歳以上で0.55%である。BA4,5が主体であった第7波の致死率は、60歳未満で0.004%(大阪)、0.01%(東京)、60歳以上で0.475%(大阪)、0.64%(東京)である。つまり、第7波の新型コロナウイルス感染症は、重症化率でも致死率でも季節性インフルエンザよりも低いか同程度になっている。
同様のデータは、東京大学の仲田泰祐准教授のグループの推定結果でも、全国保健所長会のデータでも得られている。仲田氏の推定では、東京都の第7波の全年齢の致死率は0.086%、重症化率は0.02%であり、第6波よりも低下している。全国保健所長会の推定では、第7波の28日以内の致命率は、第6波と比べて半減している。
したがって、データからは、政府対策本部が廃止されるという条件を満たしていることになる。つまり、特別の医療的対応、行動制限をはじめ様々な財政的援助の根拠となっている特措法上の扱いをする条件を第7波の新型コロナウイルス感染症は満たしていないと判断できる。

2.第8波における行動制限

仮に、新型コロナウイルスのBA5が、特措法の対象となる変異株であったとしても、行動制限を必要とするタイミングは慎重に検討する必要がある。どの程度の感染拡大によって保険医療の負荷が大きくなるかどうかは、感染者の診療や入院の水準をどのようにするかで大きく変わる。
第7波では、重症者は少なく、重症病床が逼迫することはなかった。しかし、発熱外来に患者が殺到し、重症化リスクの高い方がすぐに受診できないという事象が発生した。また、救急搬送困難事例が急増した。さらに、重点医療機関における医療従事者の欠勤が急増した。
こうした第7波での外来診療での逼迫は、検査を医療機関で確定し、報告する必要があったこと、民間医療保険の保険金の給付に医療機関での証明が必要だったという制度から発生していた可能性が高い。9月26日以降、リスクが低い陽性者は外来診療を受ける必要がなくなり、民間医療保険の保険金の給付対象でなくなってからは、コロナの外来診療は大きく減り、保健所業務も軽減されたと考えられる。新型コロナをどの程度危険な感染症と定義するかによって、医療機関、保健所の負荷は大きく異なる。
第7波ピーク時と比べて、医療機関や保健所の負担軽減と業務効率化が進んでいることなどをかんがみると、今夏並みかそれを上回る数の感染者が発生をもって医療逼迫が発生すると判断し、そのタイミングで、国民に対し感染拡大を防ぐための協力を呼びかけるという提案は、過剰な感染対策となり、社会経済に大きな負の影響を与える可能性がある。重症化リスクが低い感染症で、全ての検査陽性者が外来診療受診の必要がないという状況のもとで、外来診療の逼迫がどの程度の感染状況になれば生じるのかについて、どのようなシミュレーションをもとになされているのか、政府は明確にする必要がある。新型コロナ感染症そのもので重症化する確率は低いが、他の疾患の重症度が高い場合に、一般の医療機関で受け入れることが可能になれば、医療逼迫の可能性が低くなると考えられる。また、医療逼迫を起こさないためには、行動制限をする前に、インフルエンザとコロナを同時に検査できるコンボ検査キット(現在、医療機関でのみ利用可能)を薬局で購入可能にするOTC化を即刻実施すべきである。少なくともコンボを介護施設・職場等で利用可能とするべきである。
「高齢者や基礎疾患のある方等だけでなく、若者も含めて、混雑した場所や感染リスクの高い場所への外出など、感染リスクの高い行動を控える。特に、大人数の会食 や大規模イベントへの参加は見合わせることも含めて慎重に検討判断。児童・生徒においても、感染リスクの高い行動を控え、学校・部活動、習い事・学習塾、友人との集まり等での感染に気をつける。どうしても必要でなければ、出勤はなるべく控え、テレワー ク(在宅勤務)に切り替える。」といった呼びかけは、重症化リスクが極めて低い人々に対して、大きな負担となる。オミクロン株に対して、ワクチン接種の感染予防効果は小さいため、ワクチン接種によって感染者数が大きく低下することは期待できない。重症化リスクが低くなった変異株においては、感染者数を行動規制開始の目安とすることはすべきではない。

発言内容

資料3の政府の提案についてコメントします。「今秋以降の感染拡大で保健医療への負荷が高まった場合に想定される対応」について、「今夏並みかそれを上回る数の感染者が発生」というレベル3の段階で行動制限や行動制限に準ずる呼びかけを行うという部分について私は反対します。その理由は、参考資料8として、私と小林委員で提出した意見書に詳しく書いております。ここでは概要をお話しさせて頂きます。

第一に、第7波、第8波の主体であるオミクロン株のBA4、5の重症化率および致死率は、新型コロナウイルス分科会、東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議、厚生労働省アドバイザリーボードのデータからは、季節性インフルエンザと同等かそれ以下になっています。この数字は、財政制度等審議会財政制度分科会の財務省作成の資料で報告されています。政府対策本部が設置され特措法の対象となる新型コロナウイルス感染症は、特措法第15条第1項によれば「新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度が、季節性インフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度」を超える場合だと定義されています。そして、「政府対策本部が設置される条件のいずれかが満たされなくなった場合は、政府対策本部は廃止される」(特措法第21条第1項)と明記されています。
 つまり、政府が作成したデータによれば、特措法を用いて、行動制限を行なったり、財政的援助を行なったり、無料で医療の対象とすることの根拠が、すでになくなっているのです。呼びかけであっても、事実上私権制限に近い状態になることが、過去の経験でわかっています。人々の権利を規制する法的根拠が失われているのに、行動制限を行うという原案に反対します。

 第二に、仮に、新型コロナウイルスのBA5が、特措法の対象となる変異株であったとしても、行動制限を必要とするタイミングは慎重に検討する必要があります。どの程度の感染拡大によって保険医療の負荷が大きくなるかどうかは、感染者の診療や入院の水準をどのようにするかで大きく変わるからです。
第7波では、重症者は少なく、重症病床が逼迫することはありませんでした。しかし、発熱外来に患者が殺到し、重症化リスクの高い方がすぐに受診できないという事象が発生したのは事実ですし、救急搬送困難事例が急増しましたし、重点医療機関における医療従事者の欠勤が急増しました。
こうした第7波での外来診療での逼迫は、検査を医療機関で確定し、報告する必要があったこと、民間医療保険の保険金の給付に医療機関での証明が必要だったという制度から発生していた可能性が高いと考えられます。もともと新型コロナ感染症で陽性だと判断されると医療費が無料になることも医療需要を過大にしています。
9月26日以降、リスクが低い陽性者は外来診療を受ける必要がなくなり、民間医療保険の保険金の給付対象でなくなってからは、コロナの外来診療は大きく減り、保健所業務も軽減されたと考えられます。新型コロナをどの程度危険な感染症と定義するかによって、医療機関、保健所の負荷は大きく異なります。
第7波ピーク時と比べて、医療機関や保健所の負担軽減と業務効率化が進んでいることなどを考慮すれば、「今夏並みかそれを上回る数の感染者が発生をもって医療逼迫が発生すると判断し、そのタイミングで、国民に対し感染拡大を防ぐための協力を呼びかける」という提案は、過剰な感染対策となり、社会経済に大きな負の影響を与える可能性があります。ここまで重症化率が下がった感染症に対して、感染者数を行動制限開始の目安とすべきではありません。
 呼びかけであっても、学校や企業などは、事実上規制と同じように対応しますから、私権制限に準じた影響があります。感染症の重症度に対応した医療提供体制になっていないことが、医療逼迫を発生させているとすれば、その解決に行動規制を用いるのは、原因を間違えた政策であり、効果は大きくなく、弊害の方が大きいと思います。

2022年11月14日追記

新型コロナウイルス感染症が季節性インフルに比べて致死率が高いという際の数字は、その法的根拠となっている基本的対処方針(2022年9月4日版)に明記されています。

具体的な表現はつぎのとおりです。
「重症化する人の割合や死亡する人の割合は年齢によって異なり、 高齢者は高く、若者は低い傾向にある。令和4年3月から4月ま でに診断された人においては、重症化する人の割合は 50 歳代以下 で 0.03%、60 歳代以上で1.50%、死亡する人の割合は、50 歳代 以下で 0.01%、60 歳代以上で 1.13%となっている。なお、季節性 インフルエンザの国内における致死率は 50 歳代以下で 0.01%、60 歳代以上で 0.55%と報告されており、新型コロナウイルス感染症 は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、60 歳代以上 では致死率が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある。ただし、オミクロン株が流行の主体 であり、重症化する割合や死亡する割合は以前と比べ低下してい る。」

第7波では、意見書に書いたとおり、「第7波の新型コロナの致死率は、60歳未満で0.004%(大阪)、0.01%(東京)、60歳以上で0.475%(大阪)、0.64%(東京)」ですから、9月の基本的対処方針の「新型コロナウイルス感染症 は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、60 歳代以上 では致死率が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある。」という表現は既に当てはまらないと考えるのが自然です。

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