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多文化な職場を救うのは「やさしい日本語」かも:日本語教師の私から、外国人と働くあなたへ


外国籍の社員とうまくコミュニケーションがとれない!!

という悩みをお持ちの方は結構多いのではないでしょうか。

私も毎日、外国人の同僚や部下とのコミュニケーションに悩まされている会社員のひとりです。

そんな私が日本語教師の資格をとり、実際に教えてみることで見えてきた「コミュニケーションのストレスを軽減する」ための豆知識をお伝えしていきます。

「やさしい日本語」が必要なわけ

職場に日本語以外を母語とする社員がいる場合、コミュニケーションの悩みは尽きません。そんな状況で数ある悩みの一つに、「コミュニケーション、日本語だけで十分なのか?問題」があると思うのですが、皆さんの職場も同じでしょうか?

私の職場では、基本的なコミュニケーションは日本語で行われていますが、重要なお知らせについては社員の母語に翻訳した資料が用意される場合があります。これ、一見丁寧な対応ではあるのですが、実際には翻訳する手間が結構かかるし、様々な国から入社している場合には翻訳しなくてはいけない言語も複数にわたることになりとにかく大変すぎる……!しかも、翻訳依頼した日本人は翻訳後の言語について知識が乏しい場合が多く、正確に適切に情報をっ耐えられているのかどうかはチェックすることができません。

また、会話中にちょっとした説明がうまく伝わらなかったとき。こちらとしては頑張ってわかりやすく伝えているつもりなのにイマイチ伝わりきらずもやもや……なんてこともあるでしょう。

しかしこれ、「やさしい日本語」についてほんの少し知識があれば解決するかもしれません!

「やさしい日本語」は現在、様々な場面で導入されており、調べると政府や各自治体によって手引き書が多数作成されています。しかし、一般的な企業で働く人たちにはあまり知られていないことも多いようです。

私も日本語教師養成講座で勉強していて初めて知ったのですが、そのときにまず思ったのは「もっと早く知りたかった!!!」ということでした。とても簡単で便利な考え方なのに、知らないのはとてももったいないと思うのです。

職場でのちょっとしたコミュニケーションにもすぐに生かせるヒントが詰まったものなので、気になった方はぜひ最後まで読んでみてください。

そもそも、「やさしい日本語」ってなんだ

そもそも「やさしい日本語」とは、阪神淡路大震災の反省をもとに作られたものです。被災地には当然、日本語を母語としない人もたくさんいましたが、必要な情報が迅速に伝わらなかったことによる被害も一部あったようです。日本語が苦手な人たちにも「はやく」「ただしく」伝えるために生まれたのが「やさしい日本語」です。

例えば今年1月に発生した能登地震。地震発生時にはテレビでも各チャンネルで地震の報道をしていましたが、画面に「つなみ にげて」という言葉が大きく表示されていました。これはやさしい日本語を取り入れた報道といえるでしょう。「大きな津波が発生する可能性があるため直ちに避難してください」と文章にしてしまうと、日本語が苦手な人は理解に時間がかかり、結果避難が遅れる可能性があります。しかし、「つなみ」は一瞬でわかる。「にげて」も一瞬でわかる。自分がとるべき行動を瞬時に理解してもらうための表現です。

「つなみ にげて」というのは非常事態時、どんな日本語レベルの人にも必ず伝わるように、という目的で使われているので「やさしい日本語レベルMAX」ですが、職場でのコミュニケーションを考えると、「一定以上の日本語能力を持っている」「災害発生時ほどの緊急性はない」という条件が当てはまるため、もう少しやさしい日本語レベルは下げても良いでしょう。

具体的な内容をここから見ていきます。

職場で活用するためのルール

やさしい日本語を書いたり話したりするためには基本的なルールがいろいろとありますが、これらすべてを覚えて常に意識することは難しいですし、正直必要ないとも思います。そこで今回は、職場でのコミュニケーション時に特に意識すると良いと思うものだけをピックアップしました。

もっと詳しくルールを確認したい方は、出入国在留管理庁などが資料として公開していますので、「やさしい日本語 ガイドライン」等で検索してみてください。

①難しい言葉を避け、簡単な語彙を使う
これはイメージしやすいと思います。先ほどの能登地震の報道の例だと、「避難してください」よりも「逃げてください」の方が簡単ですね。職場で対面のコミュニケーションなら、「この言葉はちょっと難しいかも?」と思ったときに相手に「この言葉の意味は分かりますか?」と聞いてもいいですし、書類なら、正式に確定する前に一度外国籍の同僚に読んでもらってわからない言葉がないかチェックしてもらっても良いと思います。

②一文を短くし、文章の構造を簡単にする
一文にいろいろな要素を詰め込むと、日本人にとってもわかりづらい文章になりがちです。一つの文章で伝えたいことは一つ。長くなってもだいたい30文字までと考えると良いでしょう。
例えば、「転居に伴う住所、連絡先の変更がある場合は転居後
1週間以内に直属の上長に報告のうえ、指定の書面にて人事部に提出してください。」という文章があった場合は少し長いので、いくつかに分けた方がわかりやすいです。「引っ越しをして住所や連絡先が変わるときは、まず上司に報告してください。引っ越しの1週間後までに人事部に書類を提出してください。」と修正すると、すっきりわかりやすくなったと日本人でも感じるのではないでしょうか。

③外来語を使うときには注意する
これ、日本人は良かれと思ってやってしまうことが多いです。例えば何か話していて相手がある言葉を知らなかったとき、カタカナ語に言い換えて説明してしまったりしていませんか?
もちろんそれで伝わることもあるのですが、基本的に、英語の発音とカタカナの発音はかけ離れているので英語圏の人にとってカタカナ語から元の英単語を連想するのは至難の業です。さらに、相手が英語圏の人ではない場合も多いですし、そもそも英語が元の言葉だと思っていたけれど実は英語以外の言語が元になっている場合、元になっている英単語とは全く違うカタカナ語独自の意味で使われている場合、外来語風だけれど実は日本語独自の言葉の場合などがあるので注意が必要です。

④動詞を名詞化した表現はわかりづらいので、できるだけ動詞文を使う
動詞?名詞化?動詞文?急に勉強みたいな言葉がたくさん出てきました。でも例を見ればすぐにわかるのでこのページを閉じるのはあと5秒待ってください。
「頭が痛い」、これが動詞文です。一方、「頭痛がある」、これが動詞を名詞化した文です。動作や状態について、「~がある」のように名詞化して言い換えるとなんとなく固く真面目な印象になったり、大人っぽく見えたりするので特にビジネスの場では使われますが、やはり日本語がまだ苦手な人にとってはちょっとわかりづらいようです。可能な限りシンプルな表現を心がけましょう。

⑤二重否定を避ける
「やっちゃ駄目というわけじゃない」みたいな表現は避けてください。日本人なら、「可愛くなくはない」と言われたら「可愛いってことか」と瞬時に理解できますが、「可愛くなくなくなくなくなくない」と言われてもすぐにどっちかわからないですよね。日本語ネイティブでなかったら、「ない」が2個ある時点でそれと同様に混乱します。できるだけストレートに伝えてあげてください。

「やさしい日本語」は日本人にもやさしい

ここまで、「外国籍の社員とコミュニケーションをとるときに便利」ということでやさしい日本語について説明してきましたが、実はやさしい日本語のエッセンスを取り入れることは、日本人にとってもわかりやすい文章を作れるというメリットがあります。

やさしい日本語を書くためには「何を伝えたいのか」という部分を明確にしてシンプルな文章を作っていく必要があるため、自然と不要な情報が削ぎ落され、核心に迫った伝わりやすい構造になっていくのです。

「やさしい日本語」のルールを覚える必要はありません。「わかりやすい日本語を使うためには気を付けるべきポイントがいくつかある」ということを知っているだけで、意識もしやすくなりますし、困ったときにはすぐにルールを検索して自分の日本語を見直すことができます。

誰にとってもやさしくて、簡単に取り入れられる「やさしい日本語」。ほんの少し意識するだけで、すべての社員に情報が伝わりやすくなります。これ、使わない手はなくないですか?

この記事をきっかけに、皆さんのコミュニケーションが少し楽になったら嬉しいです。

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