心つづれおり〜38 神田松之丞独演会〜

とある朝、父が食い入るように新聞を見ていました。「チケット、取れるだろうか・・・」とポツリ。

我が町にあの神田松之丞さんがやって来る。私はまだピンときていませんでしたが、父の話では、以前ラジオで松之丞さんの講談を聞き、その話芸に感動したとのこと。ぜひ見に行ってみたいということになりました。早速、松之丞さんのことを調べてみると「今最もチケットの取れない講談師」とありました。(これは、田舎であっても油断できない)チケットを取ることに関しては、激戦であるほど燃えるのがミュージカルオタクの性。何とか確保して、初の生講談となりました。

町の文化会館の小ホール。驚いたのは、公演前後の両方で、松之丞さん本人が物販に来てサインしていたこと!ふわぁ〜と現れてお客さんと言葉を交わしながらサインされている様子にちょっとしたカルチャーショックを受けました。(これから舞台に上がる人とは思えないほどナチュラル・・・近い、近すぎる!という驚き)後に、春風亭一之輔さんの落語を聞きに行ったときも同じ様子でした。

講談は、2幕に分かれており、第1幕は宮本武蔵全17話の中から4話目狼退治と、もう1作品博打の話(正式タイトルが分からず)。第2幕は怪談話の1作品。講談に入る前に、話の前説を入れてくれたり、講談にまつわる四方山話をしてくれたり、初めて講談を聞きに来た者にも楽しめる心遣いがたくさんありました。(講談社という出版社は、元々は講談の話を本にして売り出したのがきっかけで付いた社名であるとか、松之丞さんの〜之丞という名前は本来幼名であまり好きじゃなかったとか、師匠の話など面白い話がいろいろ飛び出しました)とにかく、「あぁこの人、講談が好きでたまらないんだ」ということが、舞台上から熱く伝わってきて、見ているこちらも清々しくなるほど。

講談本編は、圧巻の一言。聞くというより、全身で話を感じるという感覚で、松之丞さんの語りから、情景が浮かび上がり、まるで映像を見ているようでした。狼退治の話は、息もつかせぬ展開で大興奮。怪談話では、妖艶な場面やゾクっとする場面、哀しい物語に引き込まれました。講談は、一人の講談師から物語が湧き出てくるところが凄い。本当に「凄い」としか言えない衝撃を受けました。

今年2020年は、神田松之丞さんの襲名があり、神田伯山となられました。襲名後の講談もまたぜひ聞きたいと願っています。



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