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日本の媒体社が抑えるべきアドテクの最新トレンド【Programmatic I/O イベントレポート】

こんにちは、コワルスキーです!先月投稿した海外アドテクの考察の記に続いて、今月は数週間前に参加したProgrammatic I/Oのイベントレポートをお届けします。海外のアドテック・マーケテックトレンド、それが日本市場にどう当てはまるかについてまとめているので、ぜひご覧ください。

そもそもProgrammatic I/Oとは、2022年5月23-25日にラスベガスで開催された、世界最大級のアドテック・マーケテックカンファレンスです。毎年2回開催されており、業界の最新トレンドやテクノロジーを紹介するプレゼンやネットワーキングセッションを主なアジェンダとして扱います。今回の参加企業数は250社以上(トップパブリッシャー、テックベンダー、トップブランド、広告代理店など)で参加者数は800名に上りました。(詳しくはこちら)

今回のコンテンツは、以下になります。

業界トレンドと予測について

Programmatic I/Oではたくさんの有識者の方の話を聞く機会がありましたが、全体を通して複数人が触れていたトレンドや予測について最初にまとめてみます。

Cookie代替ソリューションが進むも、廃止はさらに延長か

まずは、欧米中心にコネクテッドテレビジョン(CTV)が成長領域として大注目されていることです。その理由としては、米国でのCTV台数が増えていること、また売れた一台一台の広告収益を上げるべく、SamsungやLGなどのCTVメーカーがより広告事業に力を入れていることが挙げられていました。CTVが今後伸びるとされているのは、インターネットプログラマティック広告とテレビCMのいいとこ取りができるからです。具体的には、CTVユーザーの閲覧履歴や時間帯やアカウント情報をターゲティングのために使えるというプログラマティック広告の強みと、1つの広告で複数人(時間帯や番組によっては家族全員)に広告を見てもらえるテレビの強みを活かせる点が評価されています。
ちなみに、日本においてはまだCTV広告が身近なものとして感じられていない方も多い気がしますが、一応市場としては海外同様に伸びることが予想されています(ExchangeWire)。現在はCTVのアプリケーションの中身が外資のものが多かったり、日本の事業者で積極的にCTV領域を開拓しているところが少なかったりしますが、これから増えていくものかもしれません。

次に、プログラマティック広告業界は今後も市場規模が拡大すると思っている人が想定以上に多かったです。3rd party cookieの廃止などを理由に、プログラマティック市場が縮小する恐れがあるというのが一般認識だと思っていましたが、その反対という主張が多かったです。その背景としては、プログラマティック領域に少しでもWalled Gardensからパワーバランスが移っていく場合、プログラマティック領域の市場規模は現在の数倍になる可能性があるというアイデアから来ています。具体的な数値を使って考えると、Walled Gardensの上位5社(GAFAなど)の市場規模が、プログラマティックの上位20社の市場規模の約20倍であるため、仮にWalled Gardensに投入されている広告予算が5%だけでもプログラマティックに移った場合、単純計算でプログラマティックの市場規模が2倍になります。逆に、今後プログラマティック領域の媒体社やアドネットワークが1st party dataの活用を強めるため魅力度が増すことが予想されており、AppleのPrivacy関連の動きなどを見る限り、GAFAに投下されている広告資金が今後徐々にプログラマティックに移っていく可能性はあるのかもしれません。

三つ目のポイントは、Googleは3rd party cookie廃止を2023年からさらに延ばす可能性があるという予測です。これも複数人が言及している意見であり、その理由としては、cookieを無くした後に代替となるソリューションがまだGoogleの経済圏にないこと、それがないままcookie廃止をした時のGoogleの売り上げへの悪影響が多大であることが挙げられていました。当然、これはGoogleの発表がない限りただの予測にすぎませんが、ご参考になれば幸いです。

四つ目のポイントは、IPアドレスは米国では使えなくなることが予想され、Cookieless IDの活用がさらに加速するというトレンドです。IPアドレスは個人の特定や現在地の推測に使うことができるため、cookieと同じように対策が取られる可能性が高いということです。パソコンやスマホを始め、特にCTVなどの場合はほとんどの人がわざわざVPNなどを入れてIPアドレスを隠さないため、cookieをブロックしてもIPアドレスがターゲティングに使われるケースが多いです。まだはっきりとした情報がありませんが、多くの業界有識者はcookieの次はIPアドレスが使えなくなると予想されています。

プライバシー戦略とポストcookie対策

日本では、3rd party cookieがなくなったらどうする?の明確な回答がまだないように思えますが、欧米では1st party cookieが代替としての最優良候補となっており、その話を少し共有できればと思います。

1st Party Cookieでプライバシー担保し、ポストcookie対策も

そもそもですが、1st party cookieが具体的に何なのかというと、自社で発行するcookieで、自社ウェブサイト上でのユーザーデータを取得して1st party cookieとして保存することです。ここでいうユーザーデータの大きな分類としては以下の4つがあると思います。

  1. Demographic data (デモグラフィックデータ:現在地や年齢、性別、世帯年収など)

  2. Behavioral data (行動データ:ページ上の滞在時間やスクロール深さなど)

  3. Contextual data(コンテキストデータ:どんな内容の記事をどの時間帯で見ているかなど)

  4. Purchase data (購買データ:ECウェブサイトから買ったものや閲覧している商品など)

これらのデータをうまく駆使することにより、3rd party cookiesよりも精度の高いターゲティングができると言われています。

また、1st party cookieは、ユーザーのプライバシーを担保するという点も重要です。3rd party cookiesの場合は巨大なマーケットプレイスでその情報が売買されており、ユーザーの信頼に値しない事業者でもそのデータを取得することが容易です。1st party cookieの場合はユーザー個人を特定できる情報を取得していないため、かつ事業者間で連携する際はコホートでの連携になるため、よりプライバシーが担保されます。

Cookie廃止対策

具体的な3rd party cookie廃止対策として、米国のパブリッシャーはBehavioral targetingに加えて、Contextual targetingに使えるデータの収集・処理・提供を行っています。広告主側からもこの需要が強まっており、サプライとデマンドで善の循環が生まれている状況です。これを裏付けるデータとしては、あるUSの事業者のテスト結果がプレゼンで共有されていましたが、Contextual targetingを使った場合は77%のキャンペーンでBehavioralのみと比べてCPA(Cost Per Acquisition、顧客獲得単価)が下がったため、マーケター目線では魅力的なのは明らかです。つまり、媒体社としてはこの機会を提供することが成長に繋がるという意味になります。

プレゼンで使われた一事例として、以前米国で話題になったテスラ社の車のヒートパンプ問題に関する記事の例がありました。僕自身が該当記事にアクセスした時、通常のプログラマティック広告が出てきています。

通常の3rd party cookieをベースにしたトラッキングですと、おそらく僕が30代の男性であって、車についての記事を読んでいて、ブラウザーが英語で設定されているが故に英語が話せるなどといった情報が揃っているはずです。それを踏まえて、MintMobileの広告が出てきたわけです。1st party cookieにBehavioral dataおよびContextual dataを集めた場合は、僕がどんな車についてのどういった内容の記事なのかコンテキストを理解し、どういう内容の記事の方が滞在時間が長いかなどをターゲティングに使うことができます。

Custom contextual targeting(コンテキスト+行動データに基づくターゲティング)を駆使することによって、記事のコンテキストを踏まえて極めてユーザーにとって関連性が高い広告の訴求が可能になるとのことです。例えば、以下は僕が作成したイメージ図ですが、記事の内容がエレクトリックカーのヒートポンプ問題についての記事であることを認識し、BMWがこの情報を使って「BMWのエレクトリックカーならヒートポンプ問題は発生しません」を訴求する文言を使った広告を出稿できるようになります。

もう一例ですが、「交通事故」というキーワードが引っかかる記事には車のブランドは広告を出したくない傾向がありますが、「交通事故を防ぐことに成功した〇〇社のテクノロジー」のような記事の場合、記事に出てくる会社の競合にとっては自社のセーフティテクノロジーについて広告出稿する良い機会かもしれません。

実は、1st party dataとして行動データ、コンテキストデータをマネタイズしているのは媒体社に限りません。ウェブで顧客と接点を持つたくさんの事業者は広告事業を立ち上げています。米国の有名な企業でいうとWalmart(大型スーパー兼家電量販店でネット注文も多い)、ebay(ヤフーオークションのような事業)、Lowe's(ホームセンターチェーン)など、自社のネットストアで行動データ、コンテキストデータ、購買データを貯めながら広告という事業でマネタイズに成功しています。

媒体社の成長戦略

ポストcookie対策から少し視野を広げた、媒体社の成長戦略と言うテーマでのプレゼンもありました。かなり簡潔に、今までとこれからの成長戦略についてまとめていたので皆様の参考にもなればと思いシェアします。

まずはこれまでの成長戦略ですが、大きく言って5つの要素が取り上げられていました。

  1. アドユニットのリフレッシュ:日本でも最近採用が増えてきた広告枠のリフレッシュですが、米国では業界団体が明確な基準を設けて、米国中の媒体社はその基準に沿ってリフレッシュを展開しています。僕自身米国のメディアを閲覧することが多いのですが、やはりリフレッシュしている広告枠は多いです。

  2. ビデオ広告枠:InstreamとOutstreamがありますが、多くの米国のウェブサイトはどちらかを取り入れていることが多いです。

  3. レコメンドウィジェット:Outbrain社などで有名なレコメンドです。

  4. 高単価広告枠:通常のバナー広告に加えて、インタースティシャル広告やページ離脱時の全画面広告など、視認性も広告サイズも大きい広告枠の採用は積極的にされています。

  5. bid stuffing:ユーザーがページを開いた際に、通常の場合は3rd party cookieなどに付録されている情報をBid streamに添付するものですが、ここに1st party情報をさらに加えることでCPMを上げる、と言う施策です。Liveramp IDがこの手法を使った事業で最も成功しているのではないでしょうか。

米国ではこれらは今で言うと誰もがやっているような施策として紹介されたわけですが、日本ではこれから普及していくものもあるかと思います。FLUXでは1、2、5は既にプロダクトとして提供しており、3、4については提供を検討していますので、媒体社の方でこのような施策を試したい方はぜひ弊社の営業にご相談ください。

米国の媒体社が今後の成長戦略として考えているものは、次の3つの施策が含まれます。

  1. フロアプライス最適化:手動のフロアプライス調整を行っている媒体社は、AIなどによる自動調節を採用することにより、数%のCPM改善が期待できると思います。

  2. オーディエンス・セグメントの商品化:これが前述の1st party dataを使った広告商品の開発です。行動データやコンテキストデータを用いてオーディエンスを設計し、広告主に販売することが含まれます。

  3. 技術基盤への投資:これについては具体的な話は特にありませんでした。最終的に自社のテクノロジーの改善策を立案できるのはエンジニアであることを踏まえて、より多くの優秀なエンジニアを採用することにより自社のウェブサイトの最適化をさらに加速できるでしょう、と言うニュアンスでした。

フロアプライスの最適化に関してはGoogle Ad Managerが最近提供を始めました。今後FLUXは市場の動向を見極めながら、オーディエンスとセグメントの商品化に役立つプロダクト・サービスを開発していきますので、ご期待いただければと思います。

ケーススタディ:某米国新聞社N社の成長戦略

最後に、ケーススタディを紹介したいと思います。N社は米国の老舗の新聞社で、元々は一般的な新聞社に近い事業展開で、昔からある新聞紙に加えてオンラインでニュースの展開をしていました。数年前からいくつか大胆な成長施策を実行し、現在は多岐にわたるコンテンツ事業を展開し、大きな成長を遂げました。施策は「広告体験の最適化」と「顧客体験の多様化」に大分類できると思います。

広告体験の最適化

  • ネイティブ枠の強化:ABテストなどを通して、通常のディスプレイ枠の設置よりもネイティブ枠の方が収益面でも顧客体験の面でも優秀であることがわかったそうです。その結果に合わせて、ネイティブ枠を増やし、通常のディスプレイ枠を減らしたとのことです。

  • Googleアカウントとの連携:下記スクリーンショットを見ていただければ一目で分かりますが、N社のホームページにアクセスした際に、ブラウザがGoogleアカウントに繋がっている場合はGoogleアカウントを使ってN社のアカウントにログインすることを促すポップアップが表示されます。わざわざ新しいアカウントを作るのが面倒と思っていた人でも、ワンクリックでできてしまうGoogleアカウント連携は積極的に行ってもらえた結果、N社が保有するメールアドレスの数がかなり増えたそうです。

  • ユーザーアンケートの実施:一般的には広告は「邪魔」なものとして扱われますが、N社は「良い広告であれば、読者に良い情報が提供できたりと良い顧客体験に繋がるもの」として考えているそうです。読者がどんな広告を求めているかを知るためにユーザーアンケートを実施し、ユーザーの好みを聞いたそうです。これらの情報をユーザーの1st party cookieやログイン情報に紐づけることによって、ユーザーごとに最適な顧客体験を提供されています。

顧客体験の多様化

  • 料理特化のサブスク:N社の読者(特に購読者)に富裕層が多いことを活かし、パンデミック中に流行となった自宅での料理に特化したコンテンツをサブスクで展開しました。老舗新聞社のブランド力を活かして有名なシェフによるビデオレッスンなどと、プレミアムなコンテンツの提供でサブスクライバー数が増え、現在は堅実な収益源となっている状況です。

  • ゲーム:米国の新聞は昔からコミックやクロスワードパズル(記載のヒントから正しい言葉を当てるパズルゲーム)が入っていたりしますが、オンライン版のニュースではなかなか見られません。N社のゲームサブスクは一貫して知的なものを提供することによって他のゲームのサブスクと差別化を測っています。最近はアプリで大ヒットしたワードゲームを100万ドル(約1.3億円)で買収してゲームのサブスクに組み込むなど、大胆にゲーム事業に投資しています。

  • Podcast:保有している大量なニュースコンテンツを別の形でマネタイズする施策として、Podcastを始めました。その日の重要なニュースを短くまとめるPodcastだったり著名人や有識者を集めて最近のニュースについて議論するなど、さまざまな音声コンテンツを用意しています。これらのコンテンツをベースに、Podcast内の音声広告や、タイアップコンテンツの開発を通してマネタイズされています。

これらの施策により、サブスクリプション数が4桁万円、登録ユーザー数1億以上など、大きな成長を果たされました。

まとめ

Programmatic I/Oでは本当にたくさんのコンテンツがありましたが、今の日本の媒体社にとって一番有益に感じた情報をこの記事にまとめました。ここで紹介した施策について、自社でどのように取り組めば良いかなどのご相談は、ぜひ弊社のアカウントエグゼクティブまたは営業担当にご連絡ください。

追伸:イベント参加者の声

実はFLUXはこの記事の内容やその他、Programmatic I/Oでの学びを共有するオンラインイベントを、先月開催しました。そのイベントには、50社以上から約75名が参加してくださいました。上記のようなコンテンツの発表に加えてQ&Aを実施し、参加者アンケートに回答いただいた方は全員「満足」または「とても満足」と回答いただきました。「自社プロダクトではなく、業界全体の潮流を説明した」や「日本にローカライズして「どうすべきか」まで落とし込んでくれて分かりやすかった」というコメントもいただきました。今後もこういったイベントを実施しますので、ぜひご参加いただければと思います。

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