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アーツ・アンド・クラフツ運動と作業療法


19世紀にイギリスのウィリアム・モリス (William Morris) が主導した「アーツ・アンド・クラフツ運動(Arts and Crafts Movement)」は、作業療法の発展に大きく影響を与えたと言われています。

今回はルーツを振り返りながら、今後の作業療法におけるデジタルも活用した「ものづくり・道具づくり」の発展の道筋を探っていきたいと思います。

アーツ・アンド・クラフツ運動とは

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モリス商会の壁紙

産業革命の時代、イギリス人画家で社会活動家でもあるジョン・ラスキン(John Ruskin)は、工場で機械を扱う「作業」は、人々に真の幸福をもたらさないと主張していました。彼は、中世の「ゴシック建築」の、宗教観など人々の「価値観」がデザインにかなり活かされ、暮らしに取り込まれていたという側面に着目し、様々な著書にもその考えを残しています。建築に従事する<作業>そのものが、その人にとっての信念や価値観の実現であり、つくることで、それぞれの’Core'をつくる。そんな時代がそこにはありました。

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一方、巷には産業革命により、(モリス曰く)安価でつまらない大量生産の商品が溢れていました。ウィリアム・モリスはこういった状況を批判して、中世の手仕事に戻り、生活と芸術を統一することを主張する、アーツ・アンド・クラフツ運動の実践を始めました。

その後、アーツ・アンド・クラフツ運動は、南北戦争後のアメリカを巻き込んで世界に広がっていきました。それは、'quality of design' のみならず、'quality of life' を目指す動きでした。

アーツ・アンド・クラフツ運動と医療のパラダイムシフト

その頃(20世紀初め)アメリカの医療は、科学的な根拠や診断を主体とする方向へ変化した時代でした。医療の専門家は、包括的な「その人」を診るのではなく、臓器や組織で人を診ることに関心が高まっていった時代です。「こころ」と「からだ」の統合は見過ごされ、高度に生成された薬剤による治療が盛んになって行きました。

産業革命によるストレスの高い暮らしは、当時、アメリカの中間層を中心に、多くの不安神経症などの精神病患者の増加をもたらしていたようです。そんな中で、薬剤による治療だけで解決することに疑問を持つ医師や専門家もおり、医師のハーバート・ジェームス・ホール (Herbert James Hall) もその一人でした。

彼の開発した 'work cure' は、'Bed rest' という従来の処方に取って代わっていきました。そしてそれは、アーツ・アンド・クラフツ運動の活動家たちに支持され、メイヤー女史 (Mrs. Meyer) によって、'therapeutic prescription of activities' という形で継承され1)、作業療法(Occupational Therapy)の源流となっていきました。

ホールに続いて、ウィリアム・モリスと親交があり、アーツ・アンド・クラフツ運動を共にしていた建築家のジョージ・バートン (George Barton) が、「治療的なアーツ・アンド・クラフツ」を自身も含めた障害者に活用し、広める事業をニューヨークで推進していきました。

バートンは「Occupational Therapy」という名称をつくり、1915年の著書の中で発表しています。彼らの尽力により、「National Society for the Promotion of Occupational Therapy(後のAOTA)」が組織されました。

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http://www.otcentennial.org/the-100-people/barton

アーツ・アンド・クラフツ運動のその後

ウィリアム・モリスが思想を基に立ち上げた「モリス商会」の製品自体は、高価なものになってしまい、裕福な階層にしか使えなかったという批判もあります。しかし、アーツ・アンド・クラフツ運動は、各国の美術運動に影響を与えました。日本では民藝運動(日用品の中に、「用」の美を見出す)に影響を与えたと言われています。

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まとめと考察

以上、かなり割愛した部分もありますが、アーツ・アンド・クラフツ運動と作業療法の起源についてまとめてみました。

中世は、時代の価値観が街並みに反映され、その実現そのものが、市民にとって意味のある作業体験だったんですね。現代の街並みはどうでしょう。今、「街並みづくり」は作り手にとっての「’Core'づくり」につながっているんでしょうか。
つながっていて欲しいですね。

一人一人が街づくりに参加することはハードルが高いかもしれませんが、デジタルファブリケーションを活用すれば、自分自身や身近な人が使う物をつくることが、年齢、性別、障害の有無を問わずできるようになってきています。アーツ・アンド・クラフツ運動が実現したかった、「つくる」と「暮らす」が溶け合った豊かな生活は、今なら裕福な階層の人々だけではなく、全ての人が手に入れることができる可能性があります。それぞれの「価値観」を普段使いの道具に込める。そんな道具を自分たちで「つくる」自律分散型<作業>の積み重ねが、みんなの「健康」に繋がっていく。作業療法の源流を見ながら、そんな未来をつくっていきたいと思いました。

作業療法の源流になっている他の哲学や、その後のパラダイム変化に関しては、また次回以降にまとめていきたいと思います。そしてそこに、デジタルものづくりがもたらす未来の<作業>の考察を重ねてみたいと思っています。

参考文献

1) Ruth Ellen Levine,The Influence of the Arts-and-Crafts Movement on the Professional Status of Occupational Therapy,The American Journal of Occupational Therapy,April 1987, Vol. 41, 248-254. https://doi.org/10.5014/ajot.41.4.248

2) Estelle Breines,Barton Responsible for the Term Occupational Therapy,The American Journal of Occupational Therapy, July 1987, Vol. 41, 471. https://doi.org/10.5014/ajot.41.7.471a

3) 小川真寛,藤本一博,京極真,作業療法理論の教科書,メジカルビュー社,2020



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FabLab(ファブラボ)は、3Dプリンタやレーザー加工機などの、インターネットにつなげることのできるデジタル工作機械を備えた市民に開かれた工房です。東京都中延駅前にあるFabLabShinagawaは、作業療法士のいるファブラボとして、ユニバーサルなものづくりを行っています。
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