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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 6/26号」

欧州利上げラッシュ、米利下げ期待遠のく
 22日、英中銀は政策金利を4.5%から5.0%に引き上げた。市場予想は0.25%利上げだったので、市場にやや戸惑い感が出た。0.5%利上げは2月以来、5%乗せは08年以来。前日発表の5月CPI(消費者物価指数)が前年同月比+8.7%と(4月も同じ)とインフレ高止まりとなっていること(コアCPIは同+7.1%で4月+5.8%から加速)、14日のECB8会合連続利上げなどを受けた流れのようだ。

 ノルウェー中銀も0.5%利上げの3.75%、8月利上げも示唆し今秋の金利水準は4.25%と予想。スイス中銀は0.25%利上げの1.75%。追加利上げに含みを持たせ、インフレ率が目標の0-2%となるのは26年とした。これに対し据え置いたのは、フィリピン(6.25%)、インドネシア(5.75%)、ブラジル(13.75%)、メキシコ(11.25%)。混乱するトルコは大統領選後に任命された中銀新総裁が6.50%利上げし政策金利15.0%とした。

 パウエルFRB議長の2日連続の議会証言は「利下げ、当面ない」だった。FOMCで示された内容に変更はないが、市場が期待した曖昧路線からはタカ派的。結果、足元の「利下げ期待シナリオ」は後退、7月に発表される6月統計、4-6月期統計での仕切り直しとなった格好。足元は機関投資家中心のリバランス相場(リバランスの意味は後述)だが、下期のポートフォリオ構築はなかなか難しい局面と考えられる。

 一方、日本の中央銀行はどうか。日本経済は順調。インフレは少し高めだが、欧米よりは断然マシであり、景気自体も悪くない。そのためか、黒田東彦前総裁が10年間にわたって行った、緊急避難的な危機対応の異次元緩和を維持し続けている。そして「副作用がもっと大きくなるまでは、現状の緩和を続ける」構えを見せている。要は、まったく動く気配がないといってもよい。経済がこれだけ長期にわたって平時を取り戻したのであれば、普通の金融緩和は継続しても、緊急避難的なトリッキーな手法は即時撤廃すべきだ。何もしない日銀を見て、円安がほとんどの通貨に対して進行している。

 すなわち、黒田日銀が採った政策である、ETF(上場投資信託)の購入やYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)といった、世界の中央銀行の歴史において前代未聞、まさに古今東西類を見ない非常事態政策を継続していることを植田日銀は放置している。 

 なぜか、誰も「不作為の罪」(なすべき立場にありながら、なすべきことをしなかった罪のこと)だと攻撃しない。株式市場はこうしたリスクを見ていないようだが、世界的な利上げ競争の中で、日本のリスクが浮彫りになってくる可能性は十分考えられる。日経平均が過去最高値を更新して4万円に達するには、黒田日銀が残していった金融政策の正常化が進むことが条件。

インド活況、中国失望で明暗
 インド株が連日のように最高値更新が伝えられる一方、中国株はブリンケン訪中期待が剥落。サリバン米大統領補佐官が述べていたように、対中関係改善より、モディ印首相訪米によるIPEF(インド太平洋経済枠組み)推進期待が強まる方向と考えられる。20日テスラのイーロン・マスク氏も訪印し、大規模投資構想を表明した。ちなみに、同氏は今月5日に中国を訪問、中印「両にらみ」でしたたかさを見せている。

 バイデン米大統領が習主席を「独裁者」と呼んだことが波紋を広げている。ブリンケン国務長官訪中を「皇帝にひれ伏す外国使節団」のようにあしらったことを皮肉った発言だが、米国内でも”(ブリンケン氏に対し)腰抜け”批判が出ている様だ。中国の方向転換期待が遠のく一方、国営メディアや政府系エコノミストなどから景気刺激策を求める声が強まっていると報じられた。

 中国人民銀行は20日に0.1%利下げを行ったが、小手先感が強く、従来から捜査が進められていた元副総裁が収賄容疑で逮捕されたことの方が衝撃になったと見られる。一般的に、中央銀行は国際会合が多く、欧米人脈を持つとされる。

 21日中国では新エネルギー車の税優遇措置を27年まで延長すると伝えられたが、市場反応は限定的だった。むしろ、上海当局がスターバックスなど3社を「過剰な個人情報収集」で呼び出し(顧客名簿を作っただけで呼び出される恐れがある)、地方政府の命綱となっている融資平台(LGFV)の民間資金調達ルートが遮断されようとしている(9.5兆ドル規模とされる地方債務抑制の一環だが、景気刺激策は地方政府に依存しており、景気対策が容易に打てない状況を作り出している)。不正資金調達ルートとされる恐れがある高利回り債専門の民間企業ファンドは約270社、問題視される可能性のある資金調達規模は70億ドル程度とされるが、融資平台問題のトリガーとなる恐れがある。(22-23日の2日間中国市場はドラゴンボート祝日で休場)

 21日付ロイターは在中欧州商工会議所の調査として、「地政学リスクより景気減速懸念」と報じた。中国事業の減収企業が3倍に増え、利益構成比も2年連続低下中で、対中投資意欲が低下していると伝えた。
 日本でも同様の傾向が考えられ、大雑把なイメージだが、対中比率の高そうな、そして海外比率の高い(50-60%超のイメージ)企業より、海外比率の低い(30%未満のイメージ)企業がIPEF注力で成長余地が高いように思われる。21日は、KDDIがカナダでデータセンター事業に参入するための新会社設立を発表。中長期戦略として取り組む企業が増えそうだ。インフラ関連、素材・部品企業の進出、サービス産業の展開など、やや海外展開に出遅れていたとされる企業のインド太平洋戦略が注目される。

2023年6月24日日経新聞スクランブル

機関投資家のリバランス圧力か
 6月末は半期、四半期、月間のポートフォリオ見直しの局面。今年は予想以上の株高で歪さが増し、6月末を通過せずに見直しの動きが出ている様だ。先々週末、JPモルガンは「今後、数週間に世界の運用者は1500億ドル(約21兆円)の株式売却を行う可能性がある」との見解を示した。試算では、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が370億ドル相当、ノルウェー政府ファンド180億ドル、スイス中銀110億ドル相当など。資産配分目標に合わせるため、「債券に再び傾斜する見通し」としている。世界の株式相場は最大5%下落する可能性があるとした。

 一方では、14日までのBofA(バンカメ)週間調査で、キャッシュファンド(379億ドル流出)から株式ファンド(223億ドル流入)への資金シフトが報告された。過去3週間では株式ファンドへの流入は380億ドル、うちハイテクファンドが190億ドルと半分の規模。BofAは「株価は泡立ち始めたとし、9月初旬のレーバーデーまでに、S&P500指数は、最大100-150ポイントの上昇余地、300ポイントの下落余地がある」との見解。

 16日付ロイターは「多くの投資家は数ヵ月前には株式へのエクスポージャーが大き過ぎることを恐れていたが、今や十分ではないのではないかと心配している」と、オプション市場のコール(買う権利)人気を伝えた。機関投資家の売りには、キャッシュポジションからの買い向かいの可能性がある。
日本株を見ていると、「崩れていたESG投資の立て直し」の側面が考えられる。広島サミットなどを受け、水素関連、トヨタの全固体電池への期待などが広がってきている。米市場でのAIブームも新しいテーマを模索していたなかで起こっていると考えられる。先行過大評価の恐れもなくもないが、技術革新的な動きは早い。当面は高値揉み合い、材料動向に反応した動きで、1ヵ月先の4-6月決算ラリーに移行して行く展開が想定される。

 前述したように、足元は機関投資家の「リバランス相場」だろう。「リバランス」とは、現在保有ポートフォリオが相場変動などの影響を受け、大きく価格変動が生じた場合にその資産配分割合を見直す仕組みのことをさす。ポートフォリオではこの資産配分(アセットアロケーション)が最も重要。具体的には、値上がりした資産を売り値下がりしている資産を購入することで、ポートフォリオの資産配分割合を開始時点と同様の比率に持っていくことを目指すことだ。したがって5月以降の日本株の上昇は資産配分の調整が絶対必要になっており、23日の日経平均483円安はリバランス圧力による売りと考えていい。おそらく今週いっぱいは続くかもしれない。

 なお、24日付け日経新聞の証券欄のコラム「スクランブル」で「リバランス」についてわずかだが述べているので、興味のある方はご覧になってください。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

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