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表現の根幹は、沈黙である。

3か月くらいウォーキングをさぼっていた。買い物などの地元での移動は主に車や原付で。あとは通院と家の中の行き来で歩くくらいしか動いていなかったので、足の筋肉がものすごい衰えているということは自覚していた。

抗がん剤の副作用で筋力が低下するのかどうかはわからないけれど、家のそばにある坂道は途中で休まないと登れない。いよいよまずいなあと思ったのは、階段を下りるときだ。膝小僧の上の部分の筋肉に力が入らなくて、膝がかくんとなりそうになる。どうやら「大腿四頭筋」の筋力が相当低下しているらしい。

スポーツジムでバイトをしている長男に相談したら、「はいっ、今すぐジムに申し込んでください」と営業された(笑)ジムに行くのはせめて髪の毛が生えてきてからだ。それまではせっせと歩こう、できるだけ高低差のある道を、と決めた。

ということで、昨日、今日と散歩に出たわけなのだけど、歩きながらAudibleでこの吉本隆明氏の講演を聞いた。


どこかのnoteに書いたが、以前NHKの放送で見たものだ。Audibleでは吉本氏の2~3時間の講演音源が350~500円で買える。検索すると183本もヒットする。ものすごい数だ。音質が悪いものもあるけれど、文章を読むのではなくて、吉本氏本人の声を聴くことで、何か言葉の奥にあるものが受けとれるんじゃないかという期待を持って、Bluetoothのイヤホンから聞こえてくる声に耳を傾けた。

この講演の際は、かなりお年を重ねられていて、たしかNHKで放送されたとき、車いすでステージにあがっていて、何かを言おうとするたびに、言葉が出てこなくて、えー、あのー、あー、えへん、など、間投詞というのか、そういう言葉を発する時間がかなり多い。

歩きながら聞いていると、どうしても途中で他のこと考えたりしちゃうのだけど、それでも必ずふっと耳が引き戻されるときがある。

興味のある言葉が耳に飛び込んできたというよりは、おそらく語り手の本当に言いたいことが、言葉にのって顕れたときに、そうなるのではないかと思っている。

今回、特に耳に届いてきたのは、吉本氏が提唱している言語芸術論に関するところだ。

かなり私の解釈によった書き方になるけれど、覚え書きと思ったことを箇条書きにすると……

・言葉というのは、世界を理解するためのものである。

・表現・表出とは、自然と相互に交わること。人が何かを発することで、自然が変わる。自然が変わることで、人も変わるということ。
(※ここでいう自然は、世界や社会と同じ意味。これは、西田幾多郎の「創造的世界の創造的要素」に通じるものがあるのではないか?)

・表現の根幹は沈黙=自己表出。表現の枝葉は他者とコミュニケーションするためのもの=指示表出。

・沈黙というのは、外から見れば沈黙だけれど、沈黙という一つの表現である。そのとき内面では、自己とつながって、自己と言葉を交わしている。

・大事なのは根や幹にあたる部分の自己表出であって、それができていれば他者とのコミュニケーションはさして問題ではない。

(※関連して思ったこと。遠藤周作の『沈黙』では、ロドリゴはずっと神に「なぜ黙っておられるのだ」と問いかける。だが、神は沈黙していたのではなかった。一緒に苦しんでいたのだった。これは自己表出にあたるのではないか?)

・文学においては、指示表出よりも自己表出されたものの方が「価値」が高い。自己表出された文学とは、その人そのものがにじみ出ていること。伝えようと思って書かれたものは指示表出。自己表出によって書いている作家は、太宰治。誰かに伝えようというのではなく、その人が出てくる作品になっている。横光利一は自己表出でありながら指示表出もできている日本で唯一の作家(※ここはまだよく理解できていないのであとで確認しよう)。

以前は、沈黙=自己表出というものを、「存在」、「Being」として理解していたけれど、自己と自分が言葉を介して世界をわかろうとしている状態で存在していることなのだと理解した。

さらに、吉本氏の説を借りれば、コミュニケーションがうまくいかないこと、例えばnoteでいえば書いた文章が他者に上手く伝わらないのは、実は自分のなかで自分に上手く伝わっていないから、自己と自分の対話ができていないから、ということなのではないかという気がしている。

これは、昨日書いた「なぜ書くのか?」の2つの要素「自分のなかの何かにかたちを与えること」、「自分を客体化すること」と関連している。というか、同じことかもしれない。


昨日今日書いていることは、まだ言葉が自分のなかに溶けこんでいないので、もう少し寝かせて、発酵させて、「!!!」と自分が思うときを待とうと思う。

ところで、今日この記事を書こうとして検索をしていたら、ほぼ日で、吉本氏の183講演がすべて、無期限無料(投げ銭制)で公開されているアーカイブを見つけた。書き起こしたテキストまであるではないか。なんとなんと、全然知らなかった。

ほぼ日さま、ありがとうございます!
今日聞いた講演の書き起こしのテキスト、後で読み直そう。

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