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哲学対話「役に立つ」の開催レポート

毎月第4土曜日にオンライン哲学対話を実施しています。5月28日(土)に開催した際の様子をレポートします。

哲学対話の概要

哲学対話とは「普段はあらためて考えない疑問」、「すぐには答えが見つからなそうな疑問」について、みんなで語りあって思考を深めていく場です。

過去のテーマはこれまで「対話」、「時間」、「夢」、「言葉」、「弱さ」、「笑い」、「つながり」、「学ぶ」、「遊び」、「信じる」、「読む」、「書く」、「聴く」、「楽しさ」、「無駄」、「不安」、「記憶」、「努力」、「考える」、「協調」、「変化」、「労働」、「プレゼント」、「味わう」、「ハマる」、「共感」、「旅」など。
28回目となる今回のテーマは「役に立つ」で、参加者は14名でした。

※以下、当日出た意見を、個人が特定されない範囲で紹介します。個人の具体的な体験などは省略した他、進行役の解釈・編集が入っていますのでご了承ください。

チェックイン

音声確認の意味も含め、①ニックネーム、②今の気分、を一人ずつ話していただきました。テーマに関することを軽く話していただくことも多いのですが、今回は人数がいつもより多かったので簡単なチェックインで始めました。

前半(フリートーク)

前半は、「役に立つ」というテーマに関して思うことを出し合いました。以前は最初に問いを立てる時間をとっていましたが、最近はテーマについて思うことを自由に話してから問いを立て、後半にその問いについて話すというやり方で進めています。今回は、下記のような観点が出されました。

・役に立つというのは、何かができていることなのか?例えば赤ちゃんは何もできなくても笑ってくれるだけで周りの人が幸せな気持ちになる。何かができること以外でも、役に立つということもあるんじゃないか?

・仕事では役に立つことが前提だけど、プライベートまで「役に立たないといけない」と思っている人が多いのではないか。

・ある時期に役に立っても、時間が経つとそうでなくなるものもある。そもそも役に立たないといけないのか?

・私たちが強迫観念のように役に立たなければと思うのは、自分の無力感に直面するのが怖いからではないか。人と協力して取り組むのがよいと思われている社会において、世間のお荷物と思われたり置いてきぼりになることの怖さがあるのではないか。

・役に立つというためには、何らかの目的や目標がある。目的に反することはマイナスだけれど、役に立つと役に立たないの間には、役に立っても立たなくてもいいというような、どちらでもない状態がある。

・会社だったら、株主の利益に貢献するのが役に立つととらえられる。数字に落とし込まなければいけないから、どうしても基準があって相対的な見方や評価になる。家庭になると愛情表現のために役に立ちたいと思ったりもする。

・他者に対してだけではなく、自分の未来に対して役に立つという視点もある。

・例えば何かについての知識だったら、ある人にとっては役に立つけど、他の人には役に立たないこともある。使う側がどう評価するか。

・使われる側も、今の職場ではあまり役に立っていないとみなされても、別の職場(状況)では力が発揮できることもある。使われる側の視点もある。

・役に立つというのは、目的に照らしたときの手段に対して言う。それを人に対していうともやもやする。

・役に立つことと、その人の人格は結びついているのか?

・使われる立場としては、自分が道具として評価されるところに行きたい。自分がイキイキできるところで自分を活かしたい。

・自分が評価されるという点について、うれしいやありがとうと言われるだけでもうれしい。さらに、誰かの生活にプラスになることができると元気になってくる。小さい子のお母さんだと、常に助けてもらう側だったりするけど、こんな自分でも誰かの力になれると思うと元気が出てくる。

・保険の金額で、自分が存在していることの価値を認めてもらえたような経験がある。

・役に立つというのは、愛着や思い入れがあるものにも言うんじゃないか。だとすると、自分にとって大切なものが役に立たないと言われるのは悲しい。

問い出し

前半のフリートークを受けて、2分程、各自で問いを考える時間を取りました。その後、以下のような問いが出されました。

1.評価する(される)、承認する(される)、役に経つは、どのように違うのか?
2.どんな場面で、「この人の役に立ちたい!」と強く感じますか?
3.雑談っぽい哲学対話は役に立つというべきか?
4.そもそも何をもって「役に立つ」というのだろうか?
5.どんな人でも、誰かしらの役に立つのだろうか?(役に立たない人はいないのか?)
6.お役に立つ、(無形なもの、気持ち的、感情的)なもの、状況ってどんなのがあるのか?
7.役に立たなければならないという思いは、人生の中でどのように形成されていくのか?
8.「~が無駄」という口癖があるのはどこからか?
9.役に立たないものの存在価値はあるのか?
10.使われるのを待つ状態は、役に立ってる状態だとすれば、全てが役に立つということか?
11.たとえ危害であっても、それが糧となった、というように、なんらかの関係性があれば、役に立つ、といいうるのでは?逆に言うと、関係性の否定=役に立たない、ということ?
12.役にたたないけれど大切なものは?

ここでいったん休憩をはさみ、休憩中に問いを眺めてどんな問いを深めていきたいか、思いをめぐらせていただきました。

後半(対話)

後半の投票で選ばれたのは「そもそも何をもって「役に立つ」というのだろうか?」という問い。この問いを入り口に対話をスタートしました。

・役に立つということが、人から承認されたときに決まるとして、赤ちゃんは何もできないとしても、誰かを幸せな気持ちにしたという「気持ち」の面で役に立っているといえるのではないか。

・自分と関係のないものは役に立たないものと判断し、自分と何かしら関係あるものは役に立つものと言えるのでは?

・固定的な役に立つという基準があるのではなく、感じている主体としての自分の思考や概念、時間の軸、空間的な立ち位置によって役に立つかどうかの判断は揺れ動くのではないか。

・たしかに、50年後の地球と今の自分が関係あると思えば、省エネをしようという考えになる。自分との関係というとき、広さや長さをどれくらいとるかによって変わってくる。

・プラスチックの入れ物は、買って家に持って帰るときには役に立っているけれど、中身を入れかえるともう役に立つものではなくなっている。役に立つかどうかは変化する。

・友達に話を聞いてほしいとか、一緒に登山をしたいとか思って声をかけるので、結果的にその友達が役に立ってくれたと言えるかもしれないけど、役に立つから友達でいるわけではない。

・自分がここだったら役に立てるという感覚があるとき、役立てるかどうかは相手次第。自分が変わっていなくても相手が変われば役に立てるか立てないかは変わる。

・偶然や奇跡、運命のような出来事に対しては、役に立ったという表現は言えるかもしれないが使いたくない。

・人が人に対して役に立つ/立たないというのは、ちょっと怖い。役に立たないと存在価値がないのかという話になってしまう。一定のコミュニティにいていいのかどうかくらいだったら理解できるが、世界に存在してはいけないとなると飛躍する。そもそもその存在価値は誰にとってなのか?私にとって存在価値があると言い出すと、そうでないものを排除する考えも生まれてくる。

・友人に対して役に立つという表現を使いたくないのは、人を道具として、もしくは効率面で見ており、自分の利益を考えているように見えてしまうからではないか。

・人はそもそも認められたいという欲求を持っているわけだから、存在価値という表現は人には使いたくない。

・存在価値は、時間の経過の中で変わるから、そのときどきで判定すべき。可能性を考慮して話すと何でも言えてしまう。

・役に立つとか存在価値ということに対して、未分化の領域があるのではないか。中間層の捉え方がバラエティがあるということではないか。

・例えば、寝たきりの人は病院で働く人の雇用を生んでいるし、ニートの人は食べ物やゲームの消費をしている。犯罪者であっても、刑務所職員などの雇用が発生している。消費や雇用を生むという面で、生産活動の役に立っていると言えるのではないか。

2時間の対話を終えて

「役に立つ」ということを考える上で、いろいろな軸、見方が出され、放課後も引き続き対話が続きました。

特に
・私たちが「役に立たなければ」と思っているのは、どこから来たのか?
・役に立つことと存在価値との関係はどうなっているのか?

というところに多くの人の興味が向かっていたようです。
個人的には子どもの頃にやっていたスポーツで、自分が役に立ったかどうかがわかりやすい経験としてあり、そこで「役に立ちたい、役に立たなければ」という思考が植え付けられたような気がします(本当はもっと小さいときに親との関係で発生しているのかもしれませんが)。

また、「存在価値」という言葉も、広く多様な意味を包含する言葉なので、もう少しじっくり時間をかけて話し合いたいなという、時間が足りない感覚がありました。「役に立つ」をつきつめていくと、人の尊厳や尊重というテーマにつながっていそうです。あらためて時間をとって掘り下げたいなあと思いました。

6月の開催予定

■6月18日(土)14:00~17:00
みみ哲#7 「7つ道具de哲学対話」


■6月25日(土)10:00~12:00
オンライン哲学対話#29:テーマ「自尊感情」


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