見出し画像

#11(podcast クリップ) フローリストの「教育者を養成」と、世代のギャップを埋めて一つの方向へ向かうための努力。

今回のポッドキャスト・クリップは、「The Flower Podcast(ザ・フラワー・ポッドキャスト)」 から。
フローリストで、エデュケーターの、日系カナダ人、ヒトミ・ギリアム (Hitomi Gilliam)さん  (AIFD:American Institute of Floral Designers)  (日本のサイト:AIFD Japan) がゲスト。
フローリスト、フローリスト業界、を教育していくことの大切さについて、スコット・シェファードさんの司会で聴いたものを、コンパクトにまとめてお届けします。
「私の知っていること、経験したこと全てを、包み隠さずシェアしたいです」、というヒトミさんの熱意を感じてみてください。

ヒトミさんの仕事は、主にアメリカ、カナダですので、日本のフローリスト事情とは異なった状況にあるかもしれませんが、国民のテイストやビジネス・スタイルを比較しながら、何かインスピレーションが得られれば幸いです。

では、早速聴いてみることにしましょう。

1. ヒトミ・ギリアムさんが感じている3つの使命

現在、ヒトミさんが、自分の使命として力を入れているのが、「フローリストの養成者を教育すること」。先生のための集まりも主催します。

そして、「教育者の教育」以外にも数多くのワークショップやレクチャー、コンファレンス(集会)、コンペティション(コンテスト)を開催して、初心者から経験者、従来のフローリスト、若くて新しいスタイルのフローリストをはじめ、様々なレベルの人たちと交流し、違ったレベルに合う、フローリストの指導と教育。

また、フローリスト、卸売業者、生産者の間のコミュニケーションを潤滑にする努力。
「フローリストの現場の声を生産者と卸売業者にも届けて、お互いにプラスになるようにしたいんです」。

画像3

(カリフォルニアの恒例行事、ローズ・パレードでジャッジを務めたヒトミさん。ヒトミさんのインスタグラム @hitomigilliam  より)

2. ヒトミさんの経歴:DIYのフラワー・ファーマーから現在に至る

ヒトミさんのキャリアは、1970年代に植物を育てることに始まって、ガーデンセンターのような花壇用、ハンギングバスケット用の植物をメインに小売店をオープン(中でもフューシャ・Fuchsiaは、350種類も育てるスペシャリストだったそうです)。
お客さんの要望で少しずつカットフラワーを育てたり、仕入れて売るようになり、ご近所のリタイアしたフローリストに教えてもらって、アレンジメントも手がけるまでになりました。

大きな飛躍のチャンスが訪れたのは、1987年、ラスベガスで開かれたグレート・アメリカン・デザイン・コンペティションで優勝したこと。
それからは、南・北アメリカ、日本を含むアジア、南半球、ヨーロッパと各国を周り、フラワーアレンジメントを教えてきました。

コンペティション(コンテスト)は、ご自分が優勝した経験からも、フローリストにとって、「自分のことを世の中の人に知ってもらう、よい機会」なので推奨しているそうです。

現在は、上記の使命のように、世代の違うフローリスト、業界の縦と横のつながりをひとつに結んで、フローリスト業界の教育と情報発信を中心に、活躍されています。

3. 新旧のフローリストの間にある、世代ギャップを埋める

ヒトミさんは、最近の若いフローリスト世代とご自分の世代のギャップを冷静に分析し、さらにこの2つの世代の間にある(少しブランク的な)もう1世代分のギャップをつなぐことが大切だと考えています。
「ある意味、私はフラワー・ファーマーの先駆けかもしれません。1970年代ね。だから、今、若い人が同じことをやってるのを見ていると、昔の記憶が蘇って、若返った気分になります。いろんな経験をしたから、アドバイスしてあげたくなるんです」

きちんと基礎を教わって、様々なマテリアル、スタイルを使った、経験が豊富な一昔前の世代と、ソーシャルメディアを使ってマーケティングに長けた新しいセンスを持つ、若い世代。どちらもとても大切で、お互いがうまく交流できれば、フローリスト業界全体が、もっと強くなっていくと考えています。

最近のフラワー・デザインの傾向については、この10年の間に、北アメリカが、火付け役となっているトレンドが、世界に広がっている、ということに言及しています。
「ウェディング用フラワーへの関心と重要度が増し、ウェディング・フラワー・ビジネスという一つの分野を確立させたこと、また、ファーマー・フローリストの登場で、栽培からアレンジまでが直接つながることが当たり前になる、なんて、15年前には、誰が想像したでしょう」。

4. 長年の経験からヒトミさんが考えること、思うこと

長年、フローリスト、フラワーアレンジメントの業界をみてきて、ヒトミさんが思うことを たくさんあげてくれました。
「今は、現場のフローリストの現状を、少し遠くから、指導者側の目で見ることができます」。
私のモットーは、「私(教師)がやることを見てて」ではなく、「自分自身、何ができるかをよく見て」です。


(1)フローリストは、お金のことに触れたがらない人が多い

「どうも、フローリストには、お金のことに関して消極的な人が多いようです。
花が好き、アートが好き。でも売らなければ、ビジネスにはならない。
ビジネスが苦手、だけでは済まされないことです。
ビジネス50%、アート50%で続けられれば理想です」


(2)フローリストには、同業者の交流の機会が少ない

「フローリストの世界では、あまり横のつながりがありません。
だから、同業者との意見交換の機会も少ないんです。
一人で全てをこなすことに精一杯、周りで何が起こっているかまで、知る余裕がないケースもありがちです。これでは続かないかもしれません」

(3)適正な販売価格 & 適正なお給料の支払い

絶対、他のフローリストの経営についても、知るべきです。
同業者のコミュニケーションが少ないこともあるでしょうが、販売価格を、とても低く設定している人が多いです。
ということは経営者側からみると、支払うお給料も少ないわけです。
自分の家の掃除のためにハウスキーパーに時給25ドル払っているのに、どうして、自分の社員には、最低賃金になるんでしょうね?
配管工やエンジニアだって、時給100ドルを請求しているんですよ。
フローリストだって、プロなんですから、もっと請求してもいいんじゃないでしょうか。
正当なお給料を払わないと、働いてくれる人、特に若い人、が確保できませんよ」


(4)適正な販売価格のためのアドバイス

「ちゃんと稼ぐためにも、量販店と価格競争しないこと。
同じ数の花をブーケにして同じ値段で売る、なんて無理でしょう。
相手は、安い輸入の植物を多く使っている場合だってあります。
もっと自信を持って、ハイエンドの顧客に目を向けてみるんです。
最低50ドルから、と設定して、少ないお客さん、一人一人に丁寧に対応する方が、良いかもしれません。
量販店で働く人は、『そんな高い予算でお花をアレンジできるなんていいわね』って言ってましたよ」

(5)もっと質の高いフローリストが必要

「質の高いフローリストが減っていることも気になります。
雇われるフローリストもいいけれど、質の高いフリーランスのフローリストになることも、いいのではないでしょうか。年収10万ドル (=1000万円)だって夢じゃないんですよ」

(6)SNS(特にインスタグラム)で自分のビジネスを発信

「時間がないから、と言って自分のビジネスを発信しなかったら、誰もあなたの存在を知らないままでしょう。
最近の顧客は、フローリストを『グーグルして(探して)』いるんじゃなくて、フラワーを『グーグル』しています。
少しの時間をとってでも、インスタグラムを活用しましょう。

フェイスブックで、他のフローリストが何をやっているか気にするよりも、自分の仕事を発信していくことです。
時間がないって、言うけれど、私の時代、イエロー・ページに広告を出すと1ヶ月に10万円でした。10万円の広告費のことを思えば、それくらいの時間を使ってもいいんじゃないでしょうか」


(7)フローリストの心身の健康を保つ必要性

「身体を大切にしないフローリストが多いのも心配です。
朝早くから、週末も、長時間働いて体を酷使しているでしょう。
若いうちは、大丈夫、なんて言っているけれど、長く続けていくためには、プロとしての意識を持って、精神的にも肉体的にも自分を管理していくことが大切。
そういう精神面、肉体面での自己管理も教えています」


(8)花の名前を勉強して、臨機応変に使いこなす

「花の名前を上手に使いこなすこともとても役立ちます。
花材の数は、毎年、どんどん増え続けています。昔みたいに、かすみ草とバラ、じゃあ、すまされませんよね。

できれば、学名を知っておくこと。同じグループに属する花をどうやって管理したら良いか、細かい花材の仕入れ、など学名の知識を使うことで、広く応用でき、役に立ちます。
でも、卸売業者には、『マーケット・ネーム』を使いましょう。例えば、レモンの葉は、レモン・リーフ、というふうに。学名ばかり使うと、『そんなわけのわからないことを言う人には売らない』、ってなりますから(笑)」


(9)エコ活動でフローリストができることは、まず、「減らす」こと

「最近のエコ活動について、フローリストの間でよく言われるのは、フォーム(オアシス)の使用の問題です。
最近は、ガラスなどの容器に水を入れて使うアレンジも増えてきました。
でも全く使わない、というのはまだ無理だと思います。
食生活と同じで、明日から急にビーガンになるって無理があるでしょう。
お葬式用の花のアレンジは、ほとんどフォーム(オアシス)が使われていますし。

でも、『Reduce, Reuse, Recycle (減らす、再利用、リサイクル)』という3つのサイクルの中で、Reduce (減らすこと)はできると思います。
例えば、全てのフローリストが、フォーム(オアシス)の使用を半分にするだけで違ってくるでしょう。費用の節約にもなります。
包装紙の中には、使用が禁止のものも出てきましたよ。
フラワー業界でも、他のエコロジー活動と同じ方向に向かっていると思います。」


画像4

(ヒトミさんのアレンジメント。ヒトミさんのインスタグラムより)

5. ヒトミさんからのメッセージ

1.  常に学び続けることです。
過去から学ぶこともあります。
今だって、テクノロジー、デザインはどんどん変わっています。
学びながら、新しいことに応用させていきましょう。

2.  アレンジメントの基本、基礎知識をきちんとマスターしましょう。
それが自信に繋がって、ビジネスにも大きく影響していきます。

3.  アートについてのボキャブラリーを知っておきましょう。
色、テクスチャー(質感)などを表現する言葉。
特に、先生になる人に教える場合。
生徒、もしくは人に説明する場面でもきっと役に立ちます。

4.  今のデザインのスタイルを知ることです。
トライアングル、グローブ、などの系統だった形もいいけれど、今、顧客がどんなものを欲しがっているか、わかっていないと売れません。

5.  全世代のフローリストが、互いに自分の持つ技術、知識を共有することで、フラワー業界の強さとなっていきます。
昔の人が基礎から学んだ知識、技術と経験、若い世代のSNS(ソーシャルメディア)を使う新しい集客、ビジネス展開、全て大切な要素です。
一人でなく、みんなで力を合わせれば、大きなことができます。フラワーデザインの辞書を一人で作るのは時間がかかるけれど、100人で作れば早く実現できるように。

6.  今のトレンドが自分に合わないなら、自分の道を進みましょう
もしかしたら、それが次のトレンドになるかもしれません。

7.  自然の中に身をおいて、自然からインスピレーションを得ましょう。

8.  七転び八起きの精神で、きちんと勉強すれば、大きな自信となります。その自信を持って前に進みましょう。

画像1

(ブルックリンのお花屋さん。高いのですが、お客さんが絶えません)

6. まとめ

ヒトミ・ギリアムさんは、教育、そしてフローリスト業界のレベルを高めることの大切さを、ご自分の40年以上にわたる経験からお話されました。

横のつながりが薄い、と言われているこの業界で、ヒトミさんは、情報を交換する機会だったり、切磋琢磨する機会だったり、そういう交流の場を提供する努力をしています。

世代による経験、技術、デザイン、ビジネスの仕方の違いを全て集結して、同じコンセプトを共有すればフローリスト業界の強さとなり、エコロジーの面でも同じ方向に歩むことができると言っています。

以上、いかがでしたでしょうか。

私個人は、フローリストではないので、ヒトミさんのお話に付け加えることはありませんが、
「これだけお花屋さんがあって、競争が大変なんじゃないか」
「どれだけのお花が売れ残るんだろう」
かと思えば、「こんな高い値段なのに 売り切れになるお花屋さんもあるんだ」
と、日頃から思うことがたくさんあります。

私は、年齢はヒトミさんに近いのですが、最近のフローリストの側を見ることの方が多いので、きちんと基礎を勉強された方から見ると技術的な部分は気になるところかもしれません。

スタイルもかなりトレンドに集中、傾いていると思います。
それはそれで良いのですが、この次どうなっていくかも考えていかなければならないと思いました。

フローリストの皆さん、そしてフローリストを養成される教師、インストラクターの皆さん、これからも心身を健康に保って、頑張ってくださいね。
応援しています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

画像2


サポートありがとうございます。