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小鬼と駆ける者

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村を襲うゴブリンとそれを狩る男の戦い。強き者、力を持った者、それぞれの覚悟の話。【完結済】
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小鬼と駆ける者【縦書き版】

小鬼と駆ける者【縦書き版】

こんにちはギーの代筆者ナマケモノです。

さっそくですが、かねてよりベラゴアルドクロニクルの「縦書き版」を制作していまして、今後は整い次第、各物語をリリースしていきたいとおもいます。

とはいえ、縦書きをnoteさんで公開するのは不可能みたいなので、ファイルのアップロードという形になります。こちらとしても、はたしてちゃんとアップできているのだろうかという不安もありますし、ダウンロードという敷居の高

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小鬼と駆ける者 −その1

小鬼と駆ける者 −その1

 レムグレイド王国の北東、ドライド諸島の島々のひとつにコルカナと呼ばれている島がある。

 コルカナは比較的に温暖で、はやり病も少なく、人が暮らすには危険が少ない島であり、大型の獣はおろか、致死性の毒をもつ虫やヘビの類いすら、ほとんど見かけることもない。

 とはいえ、小鬼や幽鬼などの被害が全く無いというわけではなく、行商のロバや家畜が消えたりすることも、数年に一度か二度あるにはあった。しかし、国

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小鬼と駆ける者 −その2

小鬼と駆ける者 −その2

 長は困惑していた。この話の結末が見えない。いやそもそも我々が望む結末なんてもう無いのだ。今日はひとまず解散にしようではないか。急激な疲労感が重くのしかかる。

「あんた、いったい何者なんだ」そんな長の様子に構わず、ブウムウが不安げに訊ねる。

 男は少しだけ間を空けて、ブウルの父親だけを真っ直ぐに見つめ、こう答える。

「駆ける者」そう呼ばれている。

 一瞬の沈黙。それから大人たちはざわめき出

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小鬼と駆ける者 −その3

小鬼と駆ける者 −その3

 ソレルは無口ではあったが、道すがら小鬼に関する知識をブウルに教えてくれた。小鬼は一匹ならば取るに足らないが群れを成すとタチが悪いこと。闇に紛れて家畜や農具を盗むこと。時として武器や道具も使い、火も使うこと。小鬼除けの旅の守りや咒具さえあれば、襲われることは滅多に無いということ。

 代わりにブウルは、村の人々が小鬼にさらわれた経緯を、知りうる限りソレルに伝えるのだった。鶏小屋や食料貯蔵庫が被害に

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小鬼と駆ける者 −その4

小鬼と駆ける者 −その4

 日没は迫り、あたりは薄い紫色に染まっている。ブウムは森を眺め、背筋を冷やす。今にも小鬼たちが真っ暗な森から群れを成して押し寄せてきそうだったからだ。

 彼は慌てて灰色の戦士の、広いの背中を追う。

 ソレルは村を巡り、ある程度の間隔をあけて、咒印を施していく。ブウルにはその印が、文字なのか何かの図形なのかさえ判然としなかったのだが、どういうわけか、どこかで見覚えのある形だったような気もしている

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小鬼と駆ける者 −その5

小鬼と駆ける者 −その5

 森の入り口でソレルは脇道に逸れ、ひときわ大きな古木の元で腰を落とす。三人が不思議そうに見ていると、彼は枯葉の中から、布に包まれた長細い物を取り出す。

「ダンナ、そいつは?」 髭づらの男が訊ねてくる。ソレルと同じくらい背の高い男だ。この男はゴゴルと名乗った。

 包んでいたボロ切れを解く。使い込んだ革の鞘に収められた長剣が現れる。抜いてみせると一同は感嘆の声をあげる。銀色に輝く両刃の剣。よく見る

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小鬼と駆ける者 −その6

小鬼と駆ける者 −その6

「どうするんです。おれたちゃどうなるんです」マスケスが取り乱す。

「警戒は怠るな。やつら今は目くらましを使って気配を消しているが、まだすぐそこにいる」ソレルは緩んだ弓弦を張り直す。

「でも、ここにいて、夜になっちまったら」ゴゴルも冷静さを失っている。

 まずいことはまずいぞ。ソレルは考える。皆すっかり怖じけずいている。小鬼どもめ。そういう意味ではあの雄叫びは充分に効果があったといえる。

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小鬼と駆ける者 −その7

小鬼と駆ける者 −その7

 三人がお互いの背後を守り合うという陣形は、小鬼対策、いや、戦いにおいては非常に有効な基本中の基本の手段であった。小鬼の最も恐ろしいところは、その小さな身体を活かして、集団で死角から襲いかかることだ。広い場所で、背後を気にせずに戦うとなれば、そう恐れる魔物でもない。よほど統制の取れている集団でも一度に襲いかかってくるのは三匹程度で、知能は子どもよりも弱く、眼に付いた者に向かい、短絡的に襲ってくるの

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小鬼と駆ける者 −その8

小鬼と駆ける者 −その8

 ウォー・オルグが継ぎはぎの玉座から立ち上がる。片手には丸太の先を尖らせた太い槍を持っている。腰にも二振りの手斧が見える。そいつが短い雄叫びを上げると、両脇に隠れていた手下どもが現れる。

 ゴブリンどもが手に持った武器を投げつけてくる。手斧、鋤、ナタ、割れたビンに投石。あらゆる物をソレルはかわす。

 「これでも戦術、というところか」彼は低く構え直す。

 が、姿勢を整える前にウォー・オルグの投

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小鬼と駆ける者 −その9

小鬼と駆ける者 −その9

 若者たちがゴブリンたちの大量の足跡を追うと、森は途切れ、薄暗い洞窟が姿を現した。しかし、そこに入る度胸は彼らにはなかった。洞窟からは、不気味な声が響いていた。

 若者たちが遠巻きに眺めていると、不意に何かが飛び出してくる。

 彼らはのけぞりさらに距離を開けるが、その現れた影が人間だということに気がつくと、ほっとして、その男に近づいていく。

「なんだ、マスケスのおっさんじゃねえか」

「ひと

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小鬼と駆ける者 −その10−終話

小鬼と駆ける者 −その10−終話

 長たちが到着した時には、若者たちの大半が腰を抜かすか、意気消沈して座り込んでいた。

 もちろん後から来た長たちには、全ての事情を掌握できるはずもなかった。しかし、それは若者たちも似たようなものだった。生まれて初めて目の当たりにした魔法の奇蹟とその影響、正に常識では理解できないその体験に、ただ放心するばかりだったのだ。

 それでも、この異常な出来事の全ての要因に、そこに座り込む手負いのストライ

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