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『野良猫と彼女』 上演台本

はじめに(この作品について)

演劇企画 どうにもならない毎日に光を。vol.2
『野良猫と彼女』

2020年のvol.1に引き続き、当企画の台本を書かせていただきました。
基本的に自分の劇団以外で何かご依頼をいただけるようなことはまだまだ無い(技量不足・営業不足っ……)ので本当にありがたいお話です。

当企画では、かるがも団地ではなかなかできない恋愛ものに真っ向からトライする機会を頂いてます。vol.1が関係性がごろごろと崩れていくお話だったので、今回は逆に出来上がっていくまでを、というオーダーをいただいてました。相当に難産でプロットも二転三転してしまい、演出のいち。さんにかなりのご心配をおかけしてしまいましたが、なんとか完成にこぎつけることができました。

小さなスーパーを舞台にした一冬のお話です。
少々くせの強いキャラクターたちも登場しますが、素敵なキャストの皆さんにコミカルに演じていただき、また生かしていただきました。

世の中で多様性万歳な動きが加速する中で(それ自体は素晴らしいことと思いつつ)、私は皆が皆「人それぞれ」であるということ、皆が皆独りであるということに一抹の寂しさを感じます。

「あいつの痛みはあいつのもの 分けて貰う手段がわからない」とか「境界線みたいな体が邪魔だね」とか、言葉を変えて様々な歌にも歌われていて。
誰しもがふと思う事なのかもしれません。

それぞれ違う心を持った独りとして生きていくこと、それでも別の誰かと交わり繋がろうとすること、そんなことをぐるぐると考えながら拵えました。

ご依頼いただいた演出のいち。さん、少しでも良いものに磨きあげようと最後までご意見をくださったキャスト・スタッフの皆様、ご来場いただいたお客様、急な頼みで実際にスーパーを巡りながら仕事内容や現場の実情を教えてくれた秋元陽来、そしてこの拙作を購入いただいた皆様、本当にありがとうございました。

よろしければどこかで感想を聞かせてもらえると嬉しいです。

藤田恭輔


『野良猫と彼女』上演台本

作:藤田恭輔

【登場人物】
芳賀峻祐(はがしゅんすけ・23)…… 就活浪人。軽いひきこもり。
樋山明日実(ひやまあすみ・23)…… (株)飯島社員。スーパーイイジマ店長。芳賀の高校の同級生。
打越茉侑(うちこしまゆ・25)…… スーパーイイジマアルバイト。
箭内凜々花(やないりりか・17)…… スーパーイイジマアルバイト。
新堂輝樹(しんどうてるき・28)……(株)飯島社員。立川本社勤務。
仁科かずさ(にしなかずさ・23)…… 会社員。峻祐の元彼女。
寺門芽依(てらかどめい・25)…… バーを一人で営む。
ほか

第1幕

 ゲームをプレイしている音が聞こえてくる。
 舞台中央、芳賀峻祐(23)に照明が当たる。
 自宅アパートに引きこもり、携帯のゲームをしている。

峻祐 冬は嫌いです。寒さは人を惨めにします。寒さは痛々しい人間を余計に痛々しくします。いつかの、そんな嫌いな季節の話です。このまま人生逃げ切れないかなって、そんなことを考えていた頃の話です

 芳賀が選考を受けた企業からのメールが読み上げられる。
 4以降は読み上げる声が重なってもよい。

 芳賀峻祐様
 お世話になっております。人事部の△△です
 ××採用担当の△△でございます
 この度は、弊社の採用選考をお受け頂き、まことにありがとうございました
 先般は、弊社の新卒採用にエントリーして下さり―
 先日は、3次面接にお越しいただき―
 面接内容や応募書類を精査した結果、弊社では芳賀様が活躍できる場所をご用意することができないという結論に至り―
 チームで慎重に検討した結果、ご希望に添いかねることと―
 大変残念ですが芳賀様とはご縁を結べないという結論に―
10 せっかくご足労して頂いたのにも関わらず、申し訳ございません
11 大変恐縮ですが、どうかご理解頂きますよう―
12 なにとぞご了承いただけるようにお願いいたします
13 末筆ではありますが
14 芳賀様のより一層のご活躍をお祈り申し上げます

峻祐 これっぽっちも祈ってないくせに。僕は、人生で二度目の大きな壁にぶつかっていました

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23,684字

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