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ピラニア 獲物に食らいつくピラニア

獲物に食いつくピラニア

男達は補給基地に戻ると酒を手に次々と詰所に入っていく。皆近くの村を襲ってきた帰りだ。女は一人残らず犯し、男は皆殺し、子供は拐った。この辺り一帯のジャングルはコロンビアで勢力を拡大してきた武装勢力のリーダー、カルロスの支配下にある。男達はボスの力を傘に来てやりたい放題だった。カルロス将軍に対する忠誠心は高いが、末端の兵士になると統率はとれなくなっており何をしでかすかわからない連中が揃っていた。要するにゴロツキだった。

「あの娘の体が忘れられねぇぜ。キツキツでたまらず出ちまう」

下品な笑みを浮かべて男が言う。

「いや、俺はあの娘より母親が良かったね。ガキを孕んだせいかゆるゆる具合がたまらねぇ」

「わかってねぇな!女なんてもんはオッパイだよ。涙を流して命乞いしてたあの女、でかかったな~」

口々に猥談を飛ばす。
男達は村を襲ったときに犯した女達の話で酒が進み益々饒舌になる。

「それにしてもよ、娼婦には飽き足りねぇが、若い女は山ほどいる。金も酒も手に入り放題!麻薬だってあるぜ。これも将軍のお陰だぜ。カルロス様には感謝しねぇとな。」

知性的な顔の男が言った。

「俺は一生付いていくぜ!女とヤれるし、最高だぜ!」

「最近も敵ゲリラをブッ潰して支配地手にしたって話だぜ。てことはよ」

アサルトライフルの手入れをしていた男がイヤらしい笑みを浮かべて仲間を見る。

「「「「「新しい女を抱ける!!!!!」」」」」

考えていることは皆同じだった。女さえいれば良い。金と酒と女。これがここの全てだ。

「へへへ、待ちきれねぇぜ」

「俺もだが今は任務が終わってからにしろ。大事な総攻撃が控えてんだ。俺たちがアメリカに勝利すれば誰も逆らうやつらはいねぇ。カルロス様の天下よ」

「アメリカなんか怖くねぇ」

「お前、ブルってるくせにか?」

「武者震いだよ」

「カルロス様が付いてるぜ!怖いものなしさ。例えアメリカだろうとな。」

「俺はアメリカの女とヤりたくてブルってるぜ!」

「お前ほんとそればっかりだな」

「金髪女最高!」

異様に興奮した男が奇声をあげた。

「ポルノビデオで見た金髪女共は下品な声で喘いでいたぜ!」

「長年の夢ってやつよ」

「どうする?また手頃な村を襲ってから部隊に合流するか?」

「そうしようぜ」

男達は目をギラギラさせて唸り声をあげた。

「しっかり飲んで行かねぇとなぁ」

「良い酒があるぜ」

「マヌエラ様は美しいお方だよな。俺達が従うにふさわしい。」

「あの人のためなら地獄にだって行けるぜ!」

「俺たちの女神様だ」


「ゲリラ部隊もアメリカと渡り合えるくらいに成長させたし凄いよな」

「マヌエラ様万歳!」

ハイテンションになった男達が新たな酒を開けようとした時、突然壁から音が聞こえた。

「コン!コン!コン!」

「何だ?見てみろ!」

「叩いたのか!?」

「チクショウ!何なんだ?」

男達は驚いた様子で外に出た。アサルトライフルを構える。一人目の男がまず踏み出し様子を探る。二人目の男が後に続き一歩後ろに待機する。しかし、何も変化はない。そこで二人は倉庫の裏手に回ってみた。動物ではない。あの音は人の手によるものだ。しかし、誰もいない。前の男が近くの草むらを掻き分けた。何も痕跡はない。足跡もない。一体何だったんだ?必ず付近に何かがいるはずだ。探し出さなければ。すぐに向こう側に回って仲間に知らせよう。その時男は見逃した。自分の背後で異変が起きたことを。後ろにいた男は音もなく屋根に引き上げられ鋭利なナイフで喉を一突きにされた。一瞬の出来事だった。あまりの早さに対処できない。前の男が返事をしない仲間を不審に思い振り替えると首にロープが巻き付けられた。あっという間に首がしまる。早業だ。ロープが回転し男の首は血だらけになりながら鈍く音をたてて曲がったのだった。

「あいつらはどこいったんだ?」

戻ってこない仲間二人のことを考えて不安になる。

「俺が見てくる、たく、あのマヌケめ」

悪態を突きながら男が裏側に向かう。正面付近には見当たらない。いるとしたらここだろう。男は角を曲がると声をかけた。

「おい、お前ら何時まで…!?」

男はそこまで話して沈黙した。仲間の死体が転がっていたからだった。あわてて駆け寄る。
「これは一体?見たこともないやり方だぞ」
男は奇妙な首の絞め跡を見て警戒した。これは手ではない。ロープを使った絞殺なのか?
その時男の背後に人が立った。早い動きは見事なものだ。ゆっくりとナイフを振り上げ狙いを定めると脳天を串刺しにした。

「ガアッ」

男は声にならない声をだし倒れこんだ。
その人の気配はゆっくりと音も出さずに詰所のドアに近づいた。

「くそったれが!何だってんだ一体!」

男はパニックになった。仲間が突然消えたのだ。裏に回ってから帰ってこない。

「まさか、裏に何かいやがるのか!」

「敵か!」

「俺がぶっ殺してやる!」

男は銃を持ち勢い良くドアから出た。しかし、その時には首は付いていなかった。首と体が分離して泥だらけの地面に落ちる。ナイフの一太刀で体を切り取ったのだ。屋根から首を切った女が降りてきた。血塗れのナイフを持った女がドアから建物に入ってくる。鬼のような女だ。

「待て!待ってくれ!お前は誰だ!」

一人になった男が懸命に問いかける。この仲間をあっという間に殺した女は何なんだ。恐怖で体が震える。人の目ではない。人を大勢殺めてきた目だ。

「名乗るほどの者ではない」

女はそう言うと驚くほどの早さで男の首を掻ききった。男は甲高い声をあげて床に倒れた。断面からは血の川が出来てきた。
女は屋根から全員を殺していったのだ。

「女の逆襲には気を付けろ。」

クロエは女を蹂躙してきた男達に警告を言い放った。

「こんなものか。案外簡単だったな。」

クロエはアサルトライフルを肩に掛けると書類が散乱している奥のテーブルに近づいた。そこには一枚の写真があった。貫禄がある男性の写真だ。そしてもう一枚若い女の写真もあった。更にゲリラ部隊が計画しているアメリカ軍部隊への大攻勢の文書までもがあった。

「カルロス・サンタクルス。ゲリラ部隊の指揮官。そしてマヌエラ。ゲリラ兵のリーダーか。物凄い規模の部隊だな。これほどまでの規模を揃えるとは指揮官の能力は相当な物のようだ。」

クロエは武装勢力のリーダーの写真と近々行われるアメリカ軍への大攻勢を知った。そして反撃に参加する大部隊が集まる基地も。捨て身の攻撃もするかもしれない。物凄い攻撃だ。

「数にして一万以上か…凄い数だな。これは未然に食い止めなければ。」

クロエはその規模の大きさに戦慄した。

「ここに行く必要があるな」

ここから遠いが必ず行かなければならない。何が待ち構えているのか想像もつかない。それでもクロエは先に進む。これほどの大部隊が大攻勢をかければアメリカ軍も手こずるだろう。更に書類と地図にマーキングされたルートは部隊が展開すると死角になる位置に仕組まれている。工作部隊がトラップを仕掛ければ更に厄介だ。彼らにスポンサーがいる限りもっと大きいことをしてくるだろう。何とかしなければならない。まずは倉庫群を爆破してから向かう。クロエは汲まなく爆薬をセットしていく。火薬が積載された倉庫をメインにした。必要なものは全部回収した。後は爆薬が火薬に引火して大爆発を起こすだろう。

「当分の補給は大丈夫だな。大部隊が集まるのは南西方面か。ここから行くとなると川越になるな。」

目的地に行くには大きな川を越える必要がある。

「マーキングは消しておくか。破壊は完了。次は川だ。」

クロエは装備を整えると倉庫群を後にした。ゲリラ部隊が多くなるのはここからだ。クロエは爆薬のスイッチを去り際に押した。雷鳴と閃光と共に背後で倉庫が大爆発を起こす。ピラニアの牙にかかった獲物と無機質な建造物は炎と豪雨に消えていった。目指すのは遥か南西だ。その間に何があるのか。クロエは心にあることを思っていた。

etc.....

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