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PoSを前提としたコミュニティを維持するために、今考えるべきこと

こんにちは。Fintertechストラテジーグループの川浪です。

前回はユーザーインタビューの情報を元に、ステーキングビジネスの今後を考察してまいりました。(ありがたいことにCoinPost様にも掲載頂きました

今回は、人気が高まりつつあるPoS系コインに対して、少し危機感を感じていることについて書かせていただきます。

1.課題意識

仮想通貨ビジネスの世界はグローバルです。というより、そもそも、世界中の個人同士で価値をやり取りするために作られたビットコインからスタートしているため、産まれた時からグローバルなプロダクトです。そして、各国の規制の足並みが揃っているとはまだ言えず、世界中のユーザーが国籍を超えて1つの市場(実際に使っているサービスは複数ですが、イメージ的にはどの国の人も1つの市場に参加しているイメージ)に集まっています。新しいサービスが出てくると、隆盛を極めたと思われた取引所からも、ユーザーは一気に流れます。ユーザーたちは情報収集の猛者なので、新しく有利なサービスに貪欲です。当然、サービス競争は熾烈です。
現状、仮想通貨取引所に対する規制が明確になされていない地域もあることから、世界の仮想通貨取引所はユーザーを引き付けるべく、日々ユーザーフォーカスなサービスをすさまじいスピードで開発しています。
今回私が書かせてもらうのは、その中で、仮想通貨エコシステムのバランスを崩す可能性がある仮想通貨先物についてです。

2.仮想通貨先物とPoSについて

2-1.仮想通貨先物について
ご存知の通り、日本では仮想通貨FXと言われる先物のほうが現物仮想通貨取引量よりもはるかに多い状態が常になっています。流動性が乏しく、まだ知名度の方が先行している仮想通貨においては、先物は非常に重用されてきました。
取引所からすると、現物仮想通貨の売りものを用意しなくても、ある程度ユーザー数が増えればSwapポイントで現物価格との乖離をある程度コントロールできる便利さがあります。投資という面だけを考えるとレバレッジが掛けやすく、流動性が高い先物はユーザーに高いエンターテーメント性を提供していると思います。
小生が元々いた株式の世界と比較してみます。株式の世界でも先物のトレードは盛んです。人気の理由はレバレッジが可能なことと、高い流動性です。ここは仮想通貨の世界と一緒です。ただ、大きく異なるのは、株の世界の先物とは指数先物(日経平均先物、SP500先物等)だということです。個別株先物というものも存在しますが、一般的ではなく、取引量もありません。株式の世界では、上場する時点で新株が発行され、広く一般投資家に対して募集が行われます。世にいうIPO申し込みというやつです。これにより取引所で取引がスタートする前に個人投資家も相当数株式を保持している状態となっています。この募集により、投資家の買いニーズはある程度満たされており、投資家構成もバランスが取れている個別株先物にはそこまでのニーズがないのです。
個別株をロングしていて、価格変動を相殺したい場合には指数先物でヘッジ取引を行うのが通例です。例を書くと、大和証券株を10億円分保持している機関投資家が夏休みに入る前には日経平均先物を10億円分売ります。これにより、個別株のアルファ部分はヘッジできておらず完璧に価格変動を相殺できているわけではありませんが、ある程度価格変動をヘッジする効果があります。
※ちなみに、米国では2000年12月末に商品先物近代化法により解禁されるまで、個別株先物は禁止されていました。

2-2.PoSシステムの大前提
現在、Ethereum をはじめ、コンセンサスアルゴリズムがPoWからPoSに移行していくことが大きなトレンドとなっています。言うまでもなく、PoSにおいては、沢山コインを持っている人はネットワーク全体に対して誠実であるということが基本的信念です。つまり、ネットワークに問題があった時に大損する人は変なことしないはずということが大前提です。
※ここではPoSを抽象的にとらえるために、AgeやSlashingといった部分は割愛させてもらいます。
そして、この大前提の上にネットワークを維持することで得られる報酬が存在しています。言い換えると中央集権的になりがちなPoSシステムにおいて、大きなロングポジションを抱えるリスクがあるからこそ、リワード報酬が認められていると言えると思います。

2-3.個別コイン先物はPoSシステムの大前提を壊す可能性がある
仮に、保有・ロックしている仮想通貨の価格変動をヘッジすることが安価にできた場合は、先物を大量にショートすることでほぼ完璧にデルタヘッジが可能になります。もっと言うと、バリデーターとして現物のコインを大量保持しながら、現物保有量を上回る金額を先物ショートポジションで積み上げることも理論的には可能です。
こうなるとバリデーターというネットワークに影響を持つ立場でありながら、ネットワークが止まることにより、利益を得ることできる立場となります。ネットワークを危機的な状況に陥れるかどうかは個々の仮想通貨ネットワークによる部分が大きいのでここでは触れませんが、ネットワークを維持することが、バリデーターの利益につながるというPoSの基本ルールから相容れないものです。
さらにはオンチェーンガバナンスが進展していく可能性がある現在において、提案しているバリデーターがどれくらい先物をショートしているか計り知れないというのはネットワーク全体に対して信頼度の低下につながる可能性もあります。
こうした可能性が考えられる状況において、仮想通貨先物に対しては、例えば大口のショートポジションを構築したエンティティの名前を公表する、バリデーターとして登録した時点で先物をショートしない宣言を義務付けるといった、ネットワークを維持するための規制やルールが必要になってくると考えます。

3.まとめ

仮想通貨業界において、海外の取引所やDEXなどのDeFi系のサービスはこれまでの金融業では実現できないスピードで様々なビジネス的試みがなされてきました。これ自体は素晴らしいことであり、ユーザーが主体となった金融業の再構築には、個人的にも尽力したいと考えています。ただ、ユーザーのニーズを追求することが、ネットワークにとってマイナスの効果を産みうることは認識すべきでしょう。
過剰なサービス競争の結果、ユーザーの欲望を叶えるために根本的なルールを無視した商品組成を続けることは決して業界のためにはならないと考えています。IEOをはじめ、仮想通貨の世界で非常に大きな影響力を持っている取引所は、業界全体を考えた商品組成をすべき時期に差し掛かっているのではないでしょうか(偉そうな言い方ですいません)。
個人的には、しっかりした自主規制団体での規制などを待つのではなく、コミュニティ内での活発な議論を経てバランスを取る美しい姿を期待しています。